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プレステ・エミュレータでソニーが怖れるもの


1999年2月9日

でもエミュレータって、ほとんど何でもある

 サンフランシスコ連邦地裁は2月5日、ソニーによるConnectixのMacintosh用PlayStationエミュレータ「Virtual Game Station」の出荷停止の仮処分申請を退けた。この決定はソニーの提訴(Virtual Game Stationの恒久的な販売差止め)そのものを棄却するものではないが、最初のポイントをあげたのがConnectix側であるとは言えるかもしれない。

 この種のゲーム専用機のエミュレータは、何もVirtual Game Stationに限ったことではない。PCの世界でも、一通りのゲーム専用機のエミュレータはほとんど揃う。しかも、これは決して最近の話ではない。ただ、Connectixのように、おおっぴらに「商品」として販売するものがいなかっただけの話である。裁判に至らなくても、メーカーからの警告で削除されたエミュレータの話は少なくない。最近も、あるNintendo 64のエミュレータが任天堂からの警告によりダウンロードサイトから取り除かれたことがニュースになった。

 筆者は、これらエミュレータの合法性を論じられる立場にはない。ただ漠然と、クリーンルーム方式で開発されたものであれば、問題はないのではあるまいか、と考えるのみだ。だが、ゲーム専用機のベンダが、必死に守る理由は十分理解できる。

 ゲーム専用機本体の価格は、度重なる値下げで、ほとんど儲からない、あるいは極めて利幅の薄い商売だと言われている。ハードウェアに代わり大きな収入源となるのは、サードパーティ製ソフトウェアの販売に伴うライセンス料(あからさまなものでなく、ソフトの製造受託費に含まれるようなこともある)である。

 そのプラットフォームでヒット作が出れば、それがハードウェアベンダの自社制作であろうと、そうでなかろうと、ハードウェアベンダは確実に儲かる仕組みになっている(もちろん、これが通じるにはプラットフォーム自体が普及していなければならない)。

 自社のプラットフォームを持たないコナミやコーエーが、クロスプラットフォームに積極的なのに対し、任天堂が自社以外のプラットフォームにタイトルを提供しないのは、自社のプラットフォームを盛りたてる必要があるからと考えれば納得がいく。自社でプラットフォームを持っているにもかかわらず、唯一他社製のプラットフォーム(Windows)にタイトルを提供するのが、シェア争いで最も苦しい立場にあるセガであるのも偶然ではないだろう。

ソニー・コンピュータエンターテインメントが怖れるもの

 そういう意味では、本体の売上に直接影響しそうなエミュレータがリリースされても、大きなダメージはないように思える。むしろエミュレータが普及することで、ゲームの売上本数が増え、かえってハードウェアベンダのライセンス料収入が増える可能性さえある(これはエミュレータベンダの主張でもある)。

 ハードウェアベンダが恐れるのは、エミュレータを認めてしまうと、次に登場するのはハードウェアベンダにライセンス料を支払わず、あるいはハードウェアベンダに生産を委託せず、独自に開発・製造されたタイトルが登場する可能性が高い、ということだろう。

 これが登場すると、ライセンス料収入という「うまみ」が消え、プラットフォームはハードウェアベンダのコントロールが効かない状態になってしまう。これでは、儲からないハードウェアの製造を行わなければならない分だけ、ハードウェアベンダが損するということになってしまうかもしれない。そのような事態を認めるわけがない。

 さて、こうしたゲーム専用機の仕組みを考えると、たとえば任天堂やソニーコンピュータエンターテインメントといった、プラットフォームを持つ(ライセンス料収入のある)ハードウェアベンダと、ライセンス料を支払う立場にあるISV(独立系ソフトウェア・ベンダ)が、同じ市場で戦うのは、ちょっとフェアでないような気もしてくる(もちろん、ハードウェアベンダは、プラットフォームの開発と、それを普及させるために努力した成功報酬であり、当然のものだと主張するだろうが)。

 たとえば、「ゼルダの伝説64」は良くできたタイトルだと思うが、おそらくその開発には数年の歳月が費やされているハズだ。ライセンス料収入のないISVでは、同じだけの開発費や開発時間をかけることは、よほどの大手でもない限り、かなり難しいだろう。

Microsoftが儲かるのは“ゲーム機ビジネス”と同じだから(?)

 実は、プラットフォームベンダ兼ゲームソフトベンダに数えられる会社は、これまで触れた会社以外にもう1社ある。言うまでもない、Microsoftだ。

 ゲーム専用機のプラットフォームベンダと異なり、Microsoftには売れるゲーム1本ごとにライセンス料が入ってくるわけではないが、ある意味でWindows 9xの売上そのものがライセンス料収入のようなものである。仮にこれがライセンス料ではないとしても、他のISVよりは有利であることは間違いない。

 にもかかわらず、どうもMicrosoftのゲームは、イマイチ面白くない。はっきり言えば生真面目な印象が強く、エンターテインメント性に欠けるものが多いように思う。おそらく、会社の体質がエンターテインメント向きではないのだと思うのだが、意外とそれは創業者にしてCEOであるビル・ゲイツその人の体質ではなかろうか。

元麻布春男氏プロフィール

 “DOS/V”登場以前からIBM PCクローンを個人輸入。Intelアーキテクチャーをはじめデジタルシーンにもっとも詳しい日本人アナリストのひとり。航空機にも造詣が深く、フライトシミュレーターのヘビープレイヤーでもある。


(元麻布春男)


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