コラム / 元麻布春男のソリッド・ステート・サバイバー 第41回
プレステ2の挑戦
1999年3月11日
プレステはすでにハードウェア解析が完了したゲーム機
さる3月2日,ソニーから新しい家庭用情報機器についての発表があった。一般には,現在家庭用ゲーム機の事実上のデファクトスタンダードであるプレイステーションの後継と目され,「プレイステーション2」,あるいは「プレステ2」と呼ばれるこの新製品は,まだ技術仕様の概要が発表されたに過ぎない。おそらくそれについては,ここASCII24でも取り上げられているハズであり,ここで繰り返すつもりはない。ただ,スペックとして立派なもの,次世代と呼ぶに相応しいものであることだけは間違いないところだろう。
このプレステ2が本当に必要なのか,ということに関しては一部に否定的な見方もあるようだ。実際,筆者もゲームの楽しさはハードウェアスペックだけでは決まらない,という立場である。変なたとえだが,プレイステーションの「Final Fantasy VIII」より,ワンダースワンの「Gunpey」の方が面白い(もちろん,逆もまた真であろうが),という評価をする人がいてもおかしくないのがこの世界だ。
それでも,できないよりはできた方が良い,というのは絶対に間違いない。また,このところ秋葉原で“プレイステーション改造チップ”(国外のタイトルを再生可能にしたり,CD-Rにコピーしたタイトルの再生を可能にするもの)がおおっぴらに出まわったり,PowerMac用にプレイステーションエミュレータが登場したりするという事実は,プレイステーションというプラットフォームの市場における解析が事実上完了した,ということを意味しているかもしれない。これは,プラットフォームとしての寿命が尽きつつあることとも読み取れる。そろそろ後継機を出すタイミングだろう。
家庭マーケットでPC業界と家電業界が激突
今回のプレステ2の事実上の発表で,筆者が一番注目したのは,ソニー首脳による「ウィンテルに挑戦」という刺激的な言葉だ。実際に発表会に行っていない(呼ばれていない)筆者は,これがどのような文脈から出てきた発言なのか,本当にこの発言があったのかは分からない。だが,多くの内外新聞等が同じような報道をしていることから,文脈はともかく,このような発言があったのだと理解している。
問題は,この発言の真意である。ウィンテルに挑戦するというが,プレステ2がWindowsを搭載したPCに本気で「挑戦」するとは考えられない。なぜか。理由は簡単だ。PCの本丸は,誰が何と言おうとオフィスである。
オフィスで表計算ソフトやワープロを使うというのが,(残念ながら)今もPCの主流だ。いくらプレステ2の性能が高かろうと,オフィスに浸透するアプリケーションをすぐに揃えられるハズがない。
プレステ2がウィンテルPCとぶつかるとしたら,それはおそらく家庭市場だ。現行プレイステーションの出荷台数が全世界で5000万台に達する一方で,PCの普及率がアメリカで5割を超えたという市場調査が発表されている。だが,どちらかといえば,この市場での争いは,家庭市場への浸透を狙うPC業界(米国企業)に対し,それを迎え撃つ家電業界(のゲーム専用機,ほとんどが日本を含めたアジア企業)といった構図と理解した方がシックリとくる。
オフィスアプリケーションを武器に,残業マシンとして,あるいは将来社会に出た時の準備用としてまず家庭(ただし個人の部屋)に浸透し,それを足がかりにリビングルームにも進出し,家庭のエンターテインメントセンターの座を狙う,というのがPC業界のシナリオだ。
IEEE 1394に見切りをつけたIntel
現在家庭のエンターテインメントセンターの座を握っているのは,間違いなく家電製品,特にTVを中心にしたAV機器と,ゲーム専用機に違いない。ここにPCの侵入を許せば,おそらくゲーム専用機(PCはゲームもできる),VTR(Pentium IIIのキラーアプリケーションの1つに考えられているのが『PC-VCR』と呼ばれるハードディスクレコーダーソフトである),DVDプレイヤー(PCへのDVD-ROMドライブ装着率は着実に上がっている)といった家電製品は,次々に駆逐されていくかもしれない。もちろん,家電メーカーがPCを手がけても良いのだが,今より競争が激しくなることは避けられない。
PC業界の特徴の1つは,IP(Intellectual Property:知的財産)の2社(MicrosoftおよびIntel)集中と,徹底した自由化/グローバル化にある。このビジネスモデルでは,「おいしい」部分は2社に持っていかれる上,自社の独自技術採用による差別化や,国や地域によって価格設定を変えるといった,セットメーカーの裁量権がほとんど奪われてしまう。セットメーカーは,儲からない箱屋になってしまいかねない。これは,家電メーカーにとって最悪のシナリオだ。是が非でも阻止しなければなるまい。
先日開催されたIDF(Intel Developer Forum)で,Intelは事実上IEEE 1394に見切りをつけた。ちっとも市場が立ちあがらない上,互換性問題についてもサッパリ進展が見られないからだ(おそらくライセンス問題は直接の引きがねであろうが,これが理由のすべてではない)。
たとえば,現在唯一のIEEE 1394アプリケーションであるDVカメラにしても,制御コマンドはメーカーごとにマチマチであり,万能のキャプチャカードは存在しない(データそのものは互換のようだが)。
これは,PC業界にとっては大問題だが,おそらく家電業界にとってはたいした問題ではない。たとえばソニーは,自社のIEEE 1394準拠製品の互換性について,PC業界が望むような広い互換性を保証しないのではないかと思う。彼らが動作保証するのは,「iLink」互換の製品間のみなのではないだろうか(ただし,相性問題など,エンドユーザーに分かりにくい問題を回避できるという面で,こうしたクローズド路線が一概に悪いとは言えない。企業と違って家庭には,問題を解決するIT部門は存在しない)。
ウィンテル独占とソニー独占と、どちらがいい?
ソニーはプレステ2を発表することで,プレステ2を家庭の中核に据え,家庭市場を死守する意思を表明したとも受けとめられる。だが,これはユーザーにとってどうなのだろうか。
エミュレータに対し,訴訟も辞さない態度をとることから考えて,ソニーがプレステ2のIPを他社にライセンスするとは到底考えられない。HAVIやJiniといったレベルでの他社製品との接続性や互換性はあるかもしれないが,エンドユーザーレベルでの互換性は,DVカメラと同じ程度になるだろう(もちろん,自社製品のみによる完全な互換性の保証というメリットはあるが)。
もし,プレステ2が,ゲーム機という枠組みを超えて家庭に普及したら,ハードはソニー,ソフトもソニー(ここでは他社へのライセンスを認めるがライセンス料を徴収する)なのは当然として,下手をするとソフトの製造や流通までソニーになるかもしれない(製造や流通をプラットフォームベンダがコントロールすることは,ゲーム専用機の世界では珍しくない)。
これだけの1社独占は,ウィンテルPCにすらないものである。これを阻止するには,ウィンテルPCが家庭に浸透する以外に,今ゲーム専用機を手がけている任天堂やセガが,プレステ2と同様なコンセプトの後継機を出すか,他の家電メーカーが参入するしかない。
しかし,ゲーム専用機の歴史を振り返っても明らかなように,互換性のない複数のプラットフォームが生き残ることは難しい。また,ソニーが独自で行くなら,他の家電メーカーはむしろ積極的にウィンテルへの合流という道を選ぶ可能性だってある。もしソニーが1社で,その他すべてを敵に回して戦う,という決意なのであるとしたら,これは確かに「挑戦」と呼べるかもしれない。
元麻布春男氏プロフィール
“DOS/V”登場以前からIBM PCクローンを個人輸入。Intelアーキテクチャーをはじめデジタルシーンにもっとも詳しい日本人アナリストのひとり。航空機にも造詣が深く、フライトシミュレーターのヘビープレイヤーでもある。
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(元麻布春男)
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