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特別企画 米アップルコンピュータ社共同設立者 Steve Wozniak氏インタビュー Part1


1998年2月21日

「僕がApple ][を設計していた頃は、ハードとソフトはほとんど同じ物のように感じられたよ」

インタビュアー:柴田文彦

 ASCII24は、MACWORLD Expoでの講演のために来日した米アップルコンピュータ社共同設立者Steve Wozniak(スティーブ・ウォズニアック)氏へのインタビューに成功した。最近はボランティアで子供たちにコンピューターの基礎を教えるなどのコミュニティー活動をしているというWoz氏だが、話を伺うと生粋のスーパー・エンジニアという素顔は昔のままのようだ。Apple ][設計時の興味深いインサイド・ストーリー、最近の技術的動向に対する彼の見方など中身の濃い話が盛りだくさんなので、ASCII24ではPart 1、Part 2の2部に分けて掲載することにした。まずはPart 1をお楽しみいただきたい。(報道局 河村康文)

まえがき

 Steve Wozniak(以下Woz)は、言うまでもなく世界最初の本格的パーソナルコンピュータApple ][をほとんど一人で設計した天才エンジニアである。もちろんApple社をSteve Jobs(以下Jobs)と二人で興した創立者でもあるのだが、Wozは経営者とは成り得ない、圧倒的にエンジニアとしての資質が勝っている人間である。

 Apple ][以後のApple社とは、つかず離れずといった関係を保ちつつも、比較的早い時期からどちらかというとやや距離を置いた活動を続けてきた。そんなWozがMACWORLD Expoでの講演のために来日した機をとらえ、ASCII24として単独インタビューすることができた。

 このところ、Wozに対して現在のApple社の経営方針や人事問題などについて質問を試みた記事を見かけることがある。しかし、それが彼にとってまったくふさわしくない質問であることは、火を見るよりも明らかだ。そんなことは、シリコンバレーの批評家に聞けば良いのである。また、彼が小学生に対してコンピュータの基礎を教えるクラスを持ったり、そのような教育活動を支援したりする活動を展開していることから、彼に学校教育について語らせようという試みもある。現に今回のExpoでの講演のタイトルも「Macintoshおよびインターネットを活用したUSとUKの最先端の教育事例と、理想の教育像」というものであった。このような趣向にも、少々誤解が含まれているように思えてならない。Wozは、自分の小学生時代に、幸運にも良い教師に恵まれ、将来のエンジニアとしての資質の芽となる基礎的な教育が受けられたことを重視し、それと同じことをできるだけ多くの子供に与えようとしているだけのように見える。

 私事で恐縮だが、今回のインタビュアーである私は、20年近く前に勝手にWozを師と仰ぎ、パーソナルコンピュータの基礎をApple ][からすべて独学で学んだ者である。この分野では、Woz以外に私が師と考えられるような人間はいない。そして、このような人間は、私一人ではないはずだ。Apple ][以後のあらゆるエレクトロニクス製品に、Apple ][の、つまりWozの影響を見て取れる物が数多く存在する。この意味で、Wozはこの分野における世界で最も影響力の大きい教師でもあることは疑いようのない事実である。

 今回のインタビューは、かなり異例のことかも知れないが、私のWozに対する「信仰告白」から始めさせていただいた。(柴田)

表記について……本稿では“Apple ][”と表記しているが、これはマシンのトップパネルに刻印された表記に習ったものである

Apple ][のマニュアルにある手書きの図はWoz自身が描いたものだった!

----まずインタビューの記録用にソニーのNT-1(デジタルマイクロテープレコーダーScoopman)を取り出すと、こちらの質問が始まる前に、Wozの方から口を開いた。

[Woz] おっ、NT-1だね。僕も使っているよ。実際、NT-1を持たずに旅に出ることはないくらいだよ。テープがかさばらないから、好きな音楽を何本も持って歩くことができるからね。ただ、アメリカではNT-1はほとんど知られていないんだ。けっこう高いしね

----インタビュアーであることをしばし忘れて、私はWozのサインをもらうために、まず持参した自分のApple ][スタンダードモデルのトップパネルと、通称“レッドブック”と呼ばれるApple ][のリファレンスマニュアルを取り出しながら切り出した。

[柴田] 実は、このインタビューの話があったときに、ほとんど無条件でインタビュアーを引き受けたのには理由があります。それは、あなたが私にとって英雄のような存在だったからです。私はある意味であなたの生徒だったんです。実はここにApple ][スタンダードモデルのトップパネルを持ってきたんですが、まずこれにサインしてもらえないでしょうか

[Woz] おお、これはなつかしい。喜んでサインするよ。表と裏とどっちにしよう

[柴田] じゃあ、その裏の方に

[Woz] 裏にしたんじゃ、サインがあることが君本人にしか分からないけど、いいだろう。そこにサインがあるってことが重要なんだ。そういえば、最初のMacintoshにも、ケースの裏に開発者のサインがあったしね


柴田氏が持参したApple ][のトップパネルの裏面にサインするWozniak氏。

[柴田] そのMacは私も持っています。実は、もうひとつあるんです。このリファレンスマニュアルなんですが

[Woz] おお、レッドブックだね

[柴田] この手書きの図の部分なんですが、これはあなた自身が書かれたんですか

[Woz] もちろん、そうだよ。最初は、このマニュアル自体、僕が全部手書きで書いたんだ。それを、Mike Scotteがリタイプしたのさ。絵の部分は、うーん、間違いない。これは僕が書いたものだ

[柴田] それじゃあ、ここにもサインしてもらえますか

[Woz] いいよ。そうそう、最初は、このアセンブラの部分も手書きで書いたんだったよ。誰でも最初にコンピュータを買ったときには、何か手本となるようなプログラムが必要なんだ。だから、それをここに入れたかったんだよ


初代Apple ][のマニュアルには手書きの部分がある。この図はまさにWoz自身が描いたものだった!

今のプログラムは全然なってない!

[柴田] 私はまさに、そうして勉強をしたんです。あなたの書いたコードを丹念に調べて、研究しました。あなたのプログラムは非常に優れた手本です。なにしろ、1バイトたりとも、無駄なコードはありませんから

[Woz] そうなんだよ。同じところを何週間も考え抜いて、どんどん短くしていったんだ。それで、トリッキーになってしまうこともある。そうなると、後で思い出すのに苦労したりもするんだけどね

[柴田] それに、Apple ][のハードウェアも、無駄がまったく無いですね。1つのゲートも遊んでいない。非常に美しいです

[Woz] そうなんだ。例えば君のように、僕のコードを見て勉強してくれた人がいるということは、僕にとっても嬉しいことだよ。目標にできるような例を示せたということがさ。
今のプログラムをみてごらんよ。呼ばれもしないライブラリや、まったく使われていないデータなんかを抱き込んで、ものすごく大きくなっている。そんなの全然納得できないよね

[柴田] まったくです

[Woz] MITの最初のハッカー達の書いたプログラムは、その言語なんか関係なく、とにかく完全で、美しいものだったんだ。努力に努力を重ねて完璋なものに仕上げたのさ。誰が見ても、それ以上改善する余地はまったくないほどにね

[柴田] ただ、あまりにも短く最適化してしまうと、人がそれを見たときに理解しにくいという難点がありますよね

[Woz] それはそうだよ。でも、それを理解しようとする努力は、必ず報われるんだよ。努力して理解できるようになったときに、何かを学ぶことができるんだ。だから、コインには2つの面があるということさ

[柴田] おっしゃるとおりです。私も、そうしてあなたのコードを学びました。あなたのたった2KBしかないシステムモニターには、非常に多くの機能が詰め込まれています。逆アセンブラさえも入っていますよね。それに、6K BASICには、ミニアセンブラも含まれている。この2つのプログラムが、Apple ][上で私が最も頻繁に使ったプログラムなんです

[Woz] うん、実際にそうしていた人がいたことを知るのは、非常に嬉しいことだよ

Apple Iは最初6800で設計していた

----ここで私は、以前に自分で設計して作ったApple ][用の6809CPUカードを取りだした。Apple ][でWozはモステクノロジー社の6502という非常に特徴的なCPUを使ったが、一般的にはモトローラ社の6800や、その後継の6809の方がポピュラーだった。このカードは実験的な物で、6502に代わって6809でApple ][を動かしてみるためのものだった。


自作の6809CPUカードを取り出す柴田氏。基板はApple純正。

[柴田] これは一種の「信仰告白」のようなものなんですが、私はApple ][のハードウェアも、ここまでいじっていました。あなたの好きなCPUじゃないかもしれませんが、これは、Apple ][用の6809カードなんです

[Woz] いや、実はApple Iは、6502でも6800でも、どっちでも動くように設計してあったんだよ。いくつかの部品を足して、ジャンパーを付ければ、6800で動いたんだ。というよりは、最初は6800で設計していたんだよ。でも、その後で6502が出てきた。それを見たとき、これならもっと部品を減らせることに気付いたのさ。
6809が出てきたときは、それも考慮したよ。なかなか良いチップだよね。CMOSだし。
このカードは、僕らが使っていたのと同じだね。そうそう、こうやって部品を入れてハンダづけするんだ。僕は、配線が最短距離になるようにいつも注意していたよ。
ところで、このカードは何をするものだって?

[柴田] いや、ただのプロセッサカードです。ROMも乗っていないので、Apple ][のメモリから6809のコードを読み出して動作するんです

[Woz] そうか。じゃあ、DMAピンかなんかを使って6502を止めるんだね

[柴田] そうです。実は6502と6809を同時に動作させようともしていました。ある程度動くようになったんですが、安定しませんでした

[Woz] ふーん、なかなかおもしろいね。日本でこんなことをしている奴がいるなんて知らなかった。びっくりしたよ

きわめてトリッキーなApple ][のカラーグラフィックス

[柴田] 僕はApple ][のハッカーでしたから。でも、結局理解できなかった部分があります。それはビデオまわりの回路なんですが

[Woz] うん、そうだろう。特にカラーはトリッキーだからね。いいかい、あるビットをカラーの基準信号に合わせて上下させるんだ。つまり3.58MHzのカラーリファレンス(※1)だよ。簡単に言えばそれだけなんだけど、それで色が付くんだよ。ここに秘密があるんだけどね

[柴田] この単純な回路で、カラーグラフィックスができるなんて今でも信じられません。これで6色出るんですよね

[Woz] 高解像度モードでね。低解像度モードでは、きれいな16色が出るんだよ。でも、高解像度モードは最初は4色だけだったんだ。白と黒と緑と紫さ。その後ハイビット(ビデオメモリの各バイトの最上位ビットのこと。このビットは表示されない)を使ってあと2色を追加する方法を思いついた

[柴田] そしてモノクロモニタをつないだ時は、ハイビットによってドットが半分だけシフトするんですよね。それで、斜めの線もスムーズに描ける

[Woz] そうなんだよ。実はそれも偶然の産物なんだけどね。最初は、みんなが高解像度モードを欲しがるかどうか確信が無かった。それでJobsに相談してみたんだ。チップを2つを足せば、高解像度モードができるんだけど、どうしようかと。彼の答えはもちろんイエス。それで決まりさ。  でも最初は16色の美しい低解像度グラフィックスで満足していたんだ。ブレークアウト(ブロック崩し)をプログラムしてね


Apple ][に高解像度モードを付けるかどうかについてはJobsに相談したなど、設計時のエピソードを語るWozniak氏。

[柴田] そのプログラムのカセットテープを持っていますよ

[Woz] 僕はクパチーノのアパートで、そのプログラムを書いたんだ。パドル(アナログゲームコントローラの一種)の入力をBASICで書き、サウンドもBASICで書いた。そうするために、まずBASICのインタープリタを書いたんだ。  それ以前には、ハードウェアでブレークアウトを作ったこともあった。でも、それにはものすごく時間がかかるんだよ。BASICを使ってソフトウェアで作れば、ほんの30分とか1時間でできるのにね。それに、パドルの色を変えてみたりするのもソフトウェアならすごく簡単だしね。それがハードウェアだと、ちょっとした変更に数カ月かかるなんてことも無いわけじゃなかった

ハードウェアとソフトウェア

[柴田] あなたにとって、ソフトウェアは、ハードウェアの延長、あるいはハードウェアを拡張するようなものだったんでしょうか

[Woz] 僕がApple ][を設計していた頃は、それらはほとんど同じ物のように感じられたよ。ソフトウェアを書いていて思いついたトリックは、そのままハードウェアの設計でも使えるようなことがあった。例えば、ソフトウェアのある1ビットに偶然に重要な意味を持たせることができたとしたら、同じことがハードウェアの1つのピンでも実現できたのさ

[柴田] 私は、Apple ][の設計はバッハの音楽に匹敵するものだとさえ思っています

[Woz] そうなんだよ。僕もそう考えている

[柴田] あなたのコードやハードウェアにまったく無駄がないように、バッハの音楽にも無駄な音符はありません。必要なものがすべて必要な場所にあるだけなんです。必要でないものは、どこにもない。ほんとうに、Apple ][は優れた音楽とまったく同じです。 (Part 1終わり)


Apple ][のトップパネル裏面に描かれたWozniakのサイン。氏のサインは書くたびに微妙に違っている。

1998年2月21日、MACWORLD Expo/Tokyo 1998会場幕張メッセコンベンションセンターにて収録

インタビュー:柴田文彦
企画・構成:報道局 河村康文

※1 「カラーリファレンス」・……Apple ][のマスタークロックは14.318MHz。それを分周して作られる3.580MHzのカラー発生用基準クロック。ビデオ回路は、このクロックを基準にしてNTSC規格のカラーバースト信号を生成し、スクリーン上のドットに色を付ける。

Part 2の予告

  • Apple ][の設計で苦労した部分
  •  
  • Apple ][で特に特徴的な部分のひとつ、不連続なビデオメモリ
  • Bill Budge について
  • Bill Atkinson について
  • 昔のパソコンと今のパソコン 
  • Lisaはなぜカラーじゃなかったのか? それは誰のせい? 
  • Apple ][は、真のプラグアンドプレイだった
  • Apple ][は2スロットにしようとJobsは言った
  • Apple IIIの話
  • コンピュータは進歩してないのではないか
  • 未来のコンピュータはどうあるべきか
  • GUIの限界を感じているか
  • 個人での開発はもうできない
  • Appleのゲームマシンを作りたかったが、任天堂にやられた
  • GameBoyに凝って、ハイスコアを出して雑誌に投稿した

……などなど、初期Apple社の興味深いインサイド・ストーリー、最近の技術的動向に対する彼の見方、意外なようでよく考えるといかにも彼らしいエピソード、示唆に富んだ話がいっぱい。Part 2は近日公開予定。乞うご期待(3月18日発売の月刊アスキー4月号でも読めます)。

Steve Wozniak氏略歴
 

1950年8月11日生まれ。
  6歳でアマチュア無線のライセンス取得。
  数学、科学、エレクトロニクスの受賞歴あり。
  1972年、コロラド州立大学入学、カリフォルニア大学バークレー校で学ぶ。
1976年、Hewlett Packard社で電卓の設計。
1979年、初期のApple Computer社製品を設計。
1980年、Alice Robertsonと結婚。子供無し。後、円満離婚。
1984年、コンピュータ関係の会合で精力的に講演。
1980年、慈善団体Lodge Campbellの終身会員となる。
1987年、Candice Clark Wozniakと結婚。子供3人。
1990年、San Jose Cleveland Ballet, Tech Museum のスポンサーとなる。Children's Discovery Museumの運営に関わる。
1987年、米ソ共同ロックコンサート(1990年11月にモスクワで開催)のスポンサー。ソ連の学校にコンピュータを送る米ソプロジェクトのスポンサー。生活困窮者団体、学生への寄付。テクノロジー関係、地域活動への受賞多数。  現在の妻Suzanne Mulkern Wozniakと結婚、子供3人。
1996年、Los Gatosの11の研究機関、コンピュータ研究所、校内LAN、学区内WANのサポートをする(現在も続く)。コンピュータ基礎、ネットワーク、コンピュータのメンテナンス、ネットワークについて教える(年間200時間)、5年生から8年生にグラフィックス、写真、ビデオチサウンド、ネットワーク、プログラミングを教える。
  生徒に数百台のラップトップマシンを提供。数百のAmerica Onlineのアカウントを生徒と元生徒に提供。生徒と教師にサーバーとインターネットへのアクセスを提供。ハード、ソフトの問題解決を地域全体で毎日手伝う。


柴田文彦氏略歴
 

Apple ][でコンピュータに開眼、Steve Wozniak氏を師と仰ぐエンジニア。某有名事務機メーカーに勤務する傍ら、テクニカル・ライターとしてPhotoshopの解説書などを執筆。



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