コラム / 柴田文彦のMostly BeOS
特別企画 米アップルコンピュータ社共同設立者 Steve Wozniak氏インタビュー Part2
1998年2月21日
「Jobsは、Apple ][の拡張スロットは2本でいいと言った。初めて言い争った」
インタビュアー:柴田文彦
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MACWORLD Expoで講演するSteve Wozniak氏。講演タイトルは「Macintoshおよびインターネットを活用したUSとUKの最先端の教育事例と、理想の教育像」だったが、中身はいかに氏が思慮深い両親とすぐれた教師に恵まれ、コンピュータ・エンジニアとなったかが中心で、Macintosh登場までたどり着く前に時間切れとなって終わってしまった! |
ビデオメモリが不連続なのには理由がある
[柴田] Apple ][の設計で苦労した部分について、もう少し教えてください。ソフトウェアとハードウェアが密接に関わっているような設計をされたと思うのですが
[Woz] Apple ][で特に変わっている部分の1つに、ビデオメモリの並びが不連続だということがある。それはもちろん、チップの数を減らすためにそうしたんだ。ちょっと考えると、アドレス計算が面倒になるから、テーブルを参照して、画面上の座標をビデオメモリのアドレスに変換した方がいいように思うだろう? でも違うんだ。実際には、計算した方が速いんだよ。
しかもビデオメモリが連続しているよりも速い。連続している場合のアドレス計算は、縦の位置を40倍(Apple ][の画面の一行を表すバイト数)して、横の位置を加えれば良いんだけど、不連続の場合の方が、実はアドレス計算が速い。それは、チップの数が少なくて済むのと同じ理由で、論理演算の数も少なくて済むからなんだ
[柴田] そうでしたね。当時Apple ][のビデオメモリのアドレスが不連続だと文句を言う人がいましたが、それは今おっしゃったことをまったく理解していない人の言うことなんです
[Woz] そう。でも、見方によっては汚い設計のように思えるかもしれない。減らしたチップを元に戻して連続したアドレスにすることもできたんだけど、わざわざ部品を増やして遅くすることもない
[柴田] そのあたりのビデオメモリの扱いに関するトリックについては、Bill Budge(※1)が何かに書いていた記事を読んだ記憶があります。Bill Budgeにつて、少し語ってもらえませんか
[Woz] 彼はApple社で働くようになる前から、Apple ][で仕事をしていたんだ。彼はたくさんの優れたソフトウェアを書いたけど、本格的なピンボールを初めてソフトウェアで実現したことが特に印象深いね。彼は、これまでで最も優れたコンピュータ上のゲームのトリックをいくつも生み出したんだ。そしてそれを芸術の域にまで高めた。非常に優秀な男だよ。Apple ][グラフィックスに関しては彼の右に出る物はいないね。たぶん僕よりもよく分かっているだろう。
僕らは親しい友達だし、なんと誕生日が同じ日なんだよ!
[柴田] そうだったんですか。とにかく彼のゲームはすごいですよね。彼もApple ][の魔法使いの一人ですよね
[Woz] そう、特にグラフィックスに関してはすごいね。ほとんど例外的だよ。彼はBill Atkinson(※2)と同じように、スプライト、フレーム、ビューポートといった高レベルのグラフィックスまでマスターしていたからね。僕自身は、グラフィックスに関しては極めたというレベルまでは到達していない。高レベルのグラフィックスは学ばなかったから
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Bill Badgeの「ピンボール・コンストラクション・セット」は単なるピンボール・ゲームではなく、ユーザーが自由にピンボール台をデザインできた。バンパーやフリッパーなどのピースをジョイスティックで画面上に配置(ズーム機能もあり)してオリジナル台が作れる。SimCityの作者ウィル・ライトも影響を受けたことを認めている。 |
JobsはBill Atkinsonのトリックに引っかかった(?)
[柴田] ところで、そのBill Atkinsonは、Apple ][に関して何か仕事をしたんですか
[Woz] したよ。しかもJobsに良い方に誤解されるような仕事をね。つまり、こういうことがあったんだ。僕は、スクリーンに直線を描くアルゴリズムを考えていた。それは整数演算だけを使って高速に直線を描く美しいルーチンだったんだ。浮動小数点は使っていない。不動小数点の演算を繰り返すと、誤差が蓄積されてしまうからね。
そこに、Bill Atkinsonがやってきて直線描画ルーチンを書いた。彼は、僕らがやっていたような整数演算のトリックは理解しないで、浮動小数点演算を使ったんだ。当然、それは遅いはずだった。ところが彼は、直線を1ドットおきにしか描いていなかったんだ。それで彼のプログラムは速く動いたんだよ。
それを見たJobsは満足して、彼を高く評価したというわけさ。僕のところになんか何も聞きにも来ないでね。実は、僕のプログラムは2行削ると、彼のプログラムのように1ドットおきに描くようになって、しかも彼のよりも2倍も速く動いたんだよ。Jobsは、そんなことにはまったく気付かなかったよ。
僕のプログラムは美しいけれど複雑すぎて、理解するのが難しかった。それは、じっくり研究しないと理解できないんだ。純粋な物の美しさを理解するには、研究することが必要なんだ。結局Appleの人間は、誰もそれを理解できなかった。まあ、最後には僕の直線描画ルーチンも、よく憶えていないけど、Pascalだったかに組み込まれたけどね
[Woz] 話は違うけど、Apple社というのは、6色のリンゴのロゴを見ても分かるようにカラーの会社なんだ。ところがLisaは、なんと白黒のマシンだ。初期のMacintoshもそうだったね。それにHyperCardもそうだった。それらに共通するものは何だろう。そう、みんなBill Atkinsonの仕事なんだ。きっと、当時の彼は世界がモノクロでしか見えなかったのかもしれないね。今は違うようだけど。まあ、これは冗談だけどね。当時から彼に色が知覚できていたら、我々の会社はもっと違ったものになっていたかもしれないと思うよ
アルゴリズムの基礎はHPの電卓で学んだ
[柴田] おもしろい話です。いくつか質問を用意してきていたんですが、そんなものよりも、ずっとおもしろい話でした
[Woz] もうずいぶん色々と話したじゃないか。上出来だよ。
ところで、そういったアルゴリズムの考え方の基礎になっていたのがヒューレット・パッカードの電卓だったかもしれない。逆ポーランド方式のね
[柴田] それなら僕も使っていますよ
[Woz] 当然だよ。技術者はみんなその方が好きなんだ。それに、コンピュータサイエンスの学生なら知っているように、逆ポーランド方式は、コンパイラの中で使われている演算方式だからね。最初のパラメータ、次のパラメータ、そしてそれに対する演算子の順に並んでいるやつだよ。
当時の僕らには、世界で最も優れた電卓を使っているという自負があったんだ。ところがあるとき、誰かがテキサスインスツルメント社が開発した新しい電卓を持ってきた。計算式を数式通りに入力するタイプのやつだね。みんなは、そんなのはおもちゃだと言って笑い飛ばしたのさ。
そして誰かが、ものすごく複雑な計算式を取り出してきて、これがヒューレット・パッカードの電卓で計算できるかと聞くのさ。僕は、さっそくトライして、3回目で正しい答えを出すことができた。そうしたら、次はテキサスインスツルメントの電卓でできるかな、とまた誰かが言った。それはほとんど不可能なことに思えたね。でも、僕がやってみることになった。それは平方根や指数や分数を含んだ複雑な式だった。
その電卓を手にとって計算を始めようとしても、逆ポーランド式の考え方に慣れている頭には、どこから先に計算すれば良いのか全然分からないんだ。そこで、10秒ほどじっくり考えてみた。それで分かったのが、その電卓では式をただ左から右に、何も考えないでひたすら打ち込んでいけば良いってことだったんだ。そしたら、一発で正しい答えが出たよ
[Woz] つまり頭を使う必要がないわけだよ。でも、逆ポーランド式では、計算するために頭を使わなければならない。そういった能力では、僕は誰よりも優れていたと思うよ。それに、普段から頭を使って複雑な計算をすることに慣れていれば、もっと複雑な物が現れても、それに対処できると思うね
昔のパーソナルコンピュータは「教材」でもあった
[柴田] そうですね。ところで、これは少し漠然とした質問なんですが、あなたにとって「パーソナルコンピュータ」とは何なんですか
[Woz] まず、パーソナルコンピュータという言葉の意味からすれば、自分で所有しているという実感が得られるだけ、十分小さくなければならない。もう少し詳しく言うと、それは箱から出したらすぐに使えなければだめなんだ。電源をつないでスイッチを入れればね。プログラムをインストールしたり、いろんなケーブルををつないだりする必要のないことが望ましいね
[柴田] 周知の通りApple ][は世界最初のパーソナルコンピュータでしたね
[Woz] その通り。それ以前のコンピュータは、キットとしてしか売られていなかった。製品としては醜いものだったね。買ってきても自分で組み立てなければ使えなかったんだ。だから、技術者とかホビイストだけが対象だったしね
[柴田] 考えようによっては、今日のPCも、真のパーソナルコンピュータとは言えないんじゃないでしょうか。インストールとか、接続とかが必要ですし
[Woz] そんなこともないんじゃないかな。ラップトップを買えば良いんだよ。箱から出してすぐに使えるようになってるじゃないか。でも、何かを付け加えようとしたら、運を天にまかせるしかないけどね。トラブルが起こる可能性が高いから
[柴田] でも、少なくともパーソナルコンピュータの役割というものは、Apple ][が登場した当時と今とで大きく変わっていますよね。当時は、コンピュータのユーザーといえば、ほとんどがプログラマでした。そして、その当時のパーソナルコンピュータは、コンピュータ技術を学ぶ教材としても使えたわけです。
[Woz] それは確かにそうだね。僕が最初に考えたのは、コンピュータというものは、必ず何らかのプログラミング言語と、ちょっとしたマニュアルを備えていなければならないということだよ。そのマニュアルで、コンピュータとプログラミング言語の使い方も説明するんだ。それを使って学んでいくことによって、コンピュータに問題を解かせるためのスキルを得ることができるはずだ。
でも、もう今はそうじゃない。もう、プログラミング言語はついていないんだ。用途の決まったプログラム、例えばスプレッドシートとかデータベースのプログラムは付いていてもね。
僕にとっては、プログラミングは人生そのものだったね。特にパズルを解くのが好きだった。単語のゲームとか、数字のゲームを解くんだ。そういうプログラムは、今でも書いているけどね。
子供たちのうち20人に1人は代数の才能がある
[柴田] 当時の最新のコンピュータは、同時に最良の教材でもあったわけですよね。でも、今はもうそうじゃないですね。
ところで、あなたは小学生などに教えているということですが、それはコンピュータサイエンスなのですか
[Woz] いや、5年生ぐらいだと、そこまではいかないね。まず2進法の数のしくみを教えるんだ。それから、簡単な2進数の計算だね。もう少し進んでくれば、コンピュータのメモリにビットがどうやって蓄えられるのかとか、基本的なコンピュータの仕組みに入っていく。メモリに蓄えられるのは数字そのものじゃなて、ビットだということとかもね。そして、ディスクからどうやってデータがメモリに入ってきて、どうやって出ていったりするかもね。それと、コンピュータの中の信号の流れの概要についても教える。それによってどういうメッセージが伝わるのか、それが重要だからさ。だいたいそういったところかな
[柴田] 子供達には、数学や論理学も教えるんですか
[Woz] いや、それはあんまりないね。10才に数学は早すぎるんじゃないかな。何しろ彼らは、例えばスプレッドシートのC3というセルを見たときに、それに象徴的な意味を見いだすことができないんだ。ただ、そこにある枠としてしか見ることができない。間接的に理解するのは難しいから。でも、ごくわずかながら、それが理解できる子供もいるよ。20人に1人くらいかな。そういう子供には、代数の才能があるんだね。
でも、11才とか12才になると、だんだん分かるようになってくる。そうなると、プログラミングも教えられるようになる。そうして、そのころになると、ようやく数字というものの意味が分かってくるんだ。
例えばソートのルーチンを学ぶには、まず紙の上に、いくつかの数字を書いてみる。そして、やはり紙の上に手順を書きこむ。その後で初めて実際にプログラムしてみる。
もう少し上級になってくると、例えばスプレッドシートを使って、文を分析してみたりもする。打ち込んだ文の中に、「a」という文字、「b」という文字、「c」という文字が、それぞれいくつあるかとかを表示させたりするんだ。少しだけど、数学的な処理だと言えるんじゃないかな
[柴田] あなたは主に5年生の教育に力を入れているようですが。それには、何か特別な意味があるんですか
[Woz] 5年生の教育は、非常に重要だよ。彼らは学ぶのが速いし、コンピュータにも興味を抱いている。それに熱心なんだ。もちろん、それよりも歳の大きい子供にも教えるよ。各学年の優秀なクラスの子供に教えるんだ
子供用に「HyperCardマシン」というのは良いアイデアかもしれない
[柴田] あなたは、教育にコンピュータを使いますが、何か専用のコンピュータが必要なんですか
[Woz] うん、僕はいつも彼らにPowerBookを与えることにしている。というのも、それによって十分な動機を与えて、コンピュータについて学びたいという意欲を抱いて欲しいからさ。それに、PowerBookは、小さな子供でもバックパックに入れて、家に持ち帰ることもできる。どこにでも持っていける。そういう愛着を持てば、自然にもっと学びたいと思うようになるものだよ
[柴田] PowerBookには、何かプログラミング言語を入れてあるんですか
[Woz] 5年生にプログラミングは早すぎるけど、いちおうプログラムはできるようになっている
[柴田] HyperCardですか?
[Woz] そう、今は削られてしまったけど、2、3年前までHyperCardにはプログラミング機能が組み込まれていたからね。だから、上の学年の生徒にはHyperCardを使って、プログラムのしかたを教えているんだ。
そして、毎年、生徒たちのPowerBookと、自分のPowerBookがまったく同じ環境になるように注意している。彼らに何かをやらせてみるときに、自分のと結果が違うものになることを防ぐためだよ。そして年度のはじめには、彼らの使うチュートリアルプログラムを注意深くセットアップするんだ。違った結果を出してしまって、彼らが混乱することがないようにしなければならないから。これには、細心の注意を払っているんだ
[柴田] あなたは子供の教育用に、あなた自身で新しいコンピュータを設計してみようとは思ったことはありませんか
[Woz] うーん、何度か考えたことはあるんだけど、これまでは実際に設計する前に止めてしまっていたんだ。でも、ハードウェアの設計じゃなくても、何かプログラミング言語でも良いかもしれない。それとも、HyperCardマシンも良いかな。そうやって考えていけば良いアイディアが浮かびそうな気がするよ。そういうのは面白そうだよね。良いことを思い出させてくれたね。これまでは、あんまり時間が無くてできなかったけど
Apple ][は、真の“Plug and Play”を実現していた
[柴田] さっきお見せしたApple ][の拡張カードのように、小さなハードウェアをいじるのは、非常に面白いことです。当時、私はものすごく楽しかったですよ。でも、今日の子供達には、あんまりそういった楽しみがないですよね
[Woz] そうだよね。特にApple ][では、そういったことがとても簡単にできるんだ。シリアルインターフェースであれ何であれ、思いついたものをすぐに実現できる。でも、もうそういった面白さも、能力も失われてしまったね。
そうだよ。例えばApple ][のプリンタ拡張カードを見てみればわかる。そのカードにはROMが乗っていて、カードをApple ][本体に差すだけで、ROMの中のプログラムが起動して、使えるようになるんだ
[柴田] そうでしたね。Apple ][は、真のPlug and Playでしたからね
[Woz] そうだよ、Plug and Playだよ。今のマシンなんか、Plug and Install and Playじゃないか。そうしてみると、Apple ][の方がずっと優れていたわけだ。
それに、例えばLaserWriterのようなプリンタは、本当はそれをコントロールするコンピュータ用のドライバを内蔵しているべきだったんだ。EEPROMとかフラッシュメモリといった形でね。そうして、プリンタケーブルをつなぐと、そのドライバを自動的にコンピュータにロードして、プリンタのセレクタを勝手に開いて設定する。それならソフトウェアのアップグレードにだって対応できるしね。でも、そういうことに余分なソフトウェアや操作が必要なようではダメなんだ。
それよりも前にApple ][は、正しいやり方を示していた。周辺機器のインタフェースカードに、そのドライバが組み込まれているんだから。カード毎に使えるプログラムは、普通は256Bしかないけど、トリックを使って2KBも使えるようになっていたよね
[柴田] そうでしたね。それぞれの拡張スロットには、固有のメモリ空間というものがありましたし……
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初代Apple ][ |
Jobsは「拡張スロットは2つでいい」と言った
[Woz] あ、それで思い出したんだけど、最初Jobsは、Apple ][には2つしか拡張スロットはいらないって言ったんだよ。どうせみんなプリンタとモデムしか使わないんだから、2つで十分だってね。
でも僕は言ったんだ。おいおい、ちょっと待ってくれよ。コンピュータにはもっといろんな可能性があるんだとね。もしどうしても2つにしたいなら、どこかから別のコンピュータを探してきて売ってくれってね。言い争ったのは、それくらいだったかな。でも、彼はできるだけシンプルなものを作りたがっていたから、なかなかあきらめ切れなかったようだよ
[柴田] ああ、それで初代のMacintoshのインタフェースポートには、モデムとプリンタの2つしかなかったんですね
[Woz] そうだそうだ。彼はそれでかたきを取ったのかもしれないね。それに最新のG3タワーだってRAMスロットが3つしかないし、PCIスロットの数も限られている
[柴田] そう言われれば、彼は制限のある物が好きなようですね
[Woz] 彼は、完成度が高くて理解しやすい物を作るには、制限があって、クローズドなものじゃなければダメだと考えているんだよ。
それに対してApple ][は非常にオープンだった。メモリの拡張性にも優れ、拡張スロットも十分にあった。だから寿命が長かったんだよ。実はMacintoshを開発していた人間も、そういうものを作りたがっていた。スロットを付けたかった。でも、Jobsがそれを許さなかったんだ
[柴田] 特にApple ][のメモリの拡張性はすばらしかったですね。最初から色々な容量のチップが使えるように、ジャンパーブロックを用意していましたからね
[Woz] うん、それをプラグイン方式にするのはちょっと難しかったんだけどね。ちゃんと動いてたよね
[柴田] 当時は、64KBというのは広大な空間でしたね。何に使っていいのか分からなかった
[Woz] Apple ][の上限は48KBだよ
[柴田] いや、ランゲージカードを使った場合の話です
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Apple ][の拡張スロット |
“Apple III”でAppleはマーケティングの会社になった
[Woz] ああ、それなら64KBだ。そのうち128KBにもなったけど。
それで思い出したけど、そのころ、つまり1980年から83年くらいのことだけど、まだまだApple ][が世界で一番売れているコンピュータだったころだよ。その時にApple IIIが出てきた。それはJobsのように、その業界を造りだし、それを知り尽くしたはずの人が作ったものだったんだ。それに、その3年間にAppleが出した広告は、すべてApple IIIのものだったんだ。最も売れているのがApple ][なのに、それは変じゃないか。多くのサードパーティも、Apple ][用の製品を作って、売っていたんだから。でも、Apple IIIをやっていた連中は、自分たちが正しいことを証明しようとしていたんだ。
それにApple IIIは、マーケティングで会社を動かそうとしてた連中のプロジェクトだったんだ。それは、僕がAppleという会社を作ったときの考え方とはまったく違うやり方だった。僕は、エンジニアリングの会社を作ったんだ。
Apple IIIにはスイッチがあって、それを使うとApple ][としてブートすることもできた。つまり2種類のコンピュータとして使うことができたんだ。でも、僕らのエンジニアリング部門は、マーケティング部門から、そのApple ][の機能を制限するように言われた。Apple ][が128KBの拡張メモリや、80桁のスクリーンにアクセスできないようにしろというわけだ。しかもそうするには余分なチップが必要だった。まったくバカげているだろう?チップを増やして、機能を減らすんだからね。彼らは、Apple ][には機能の制約があると思わせておきたかったんだ
[柴田] あなたは、Apple IIIの開発にはまったくタッチしていないのですか
[Woz] いや、関わってない。僕はエンジニアリング部門にいたから、僕らが作った、という言い方もするけど、実際には別のエンジニア達がやっていた
この日は午後からずっと取材、しかも昨夜はあまり寝ていないというWoz氏だが、Apple ][開発当時のことになると話が止まらない。
未来のパーソナルコンピュータに求めるもの
[柴田] ところで、Apple ][の美しさは、なによりもシンプルであることの中にあったわけですが、今日のPCはそれとはかけ離れたものになってしまいました。メモリやディスクは大量に消費するし、非常に複雑です。そういったコンピュータをどう思いますか
[Woz] それはメモリの容量が大きくなって、価格も下がっているから、ある意味で当然のことだよ。僕はあんまり気にしていない。ただし、例えば同じMacintoshのプログラムでも、たいして大きなコード量じゃないのに、非常に多くの機能を持ったプログラムもある。そうかと思えば、ものすごく大きいのに、たいした機能をもっていないものもある。つまり、プログラミングのスタイルが違うわけで、そういったことの方が重要だと思うよ。
いずれにしても、昔のように自分一人ですべてを書くのではなく、あらかじめ用意されたたくさんのルーチンを使って書くようになってから、プログラミングはだんだん難しくなってきたんじゃないかな
[柴田] 色々考えてみると、今のPCは、Apple ][のころから、ほとんど進歩していないような気もするのですが
[Woz] うーん、僕は進歩したと言っても良いんじゃないかと思う。Apple ][に比べて、ずっと簡単にできるようになった仕事も多いからね。でも、単純に比較することはできないだろう。操作の形態もまったく違うわけだから
[柴田] それでは、未来のコンピュータはこうあるべきだ、といったようなビジョンをお持ちですか。未来のコンピュータに求めることは何かありますか
[Woz] そう、未来のコンピュータには、もっとシンプルになってもらいたい。例えば、Macintoshは、ユーザーに、数が限られたシンプルなコンセプトを提示した。メニューをプルダウンして選ぶとか、アイコンをダブルクリックするとフォルダが開くとかいうことを。それによって、それほど勉強しなくても、コンピュータを使えるようになった。これは大きなステップだったよ。
でも、今ではプログラムの操作はずっと複雑になってしまった。例えばプリファレンスを開いて、自分の好みに合うように設定し直したりするのは、とても煩雑で、感じの良いものではない。少ないオプション、少ないコマンドで多くのことをこなすのが良いんだよ。
数年前のAppleには、PowerTalkという製品があった。これは、Macintoshの世界では、あまり受け入れられなかった。みんな独自のやり方をする方を選んだからさ。でも、PowerTalkを使えば、たった1つのメニューで、電子メール関連のことを、すべてこなすことができるんだ。それが、ローカルネットワークでつながったマシンでも、インターネット上のコンピュータでも関係なくね。例えば、あるフォルダを作っておいて、そこにファイルをドラッグ&ドロップすれば、先生が複数の生徒に同時にファイルを送るといったようなことも簡単に実現できるんだ。
それにクラリスワークスのように、PowerTalkに対応しているプログラムでは、PowerTalkのメニューがプログラムに組み込まれてくるのさ。僕はほとんどの電子メールをクラリスワークスから見たり、書いたりしているんだ。
とにかくPowerTalkは、他のどんな電子メールプログラムよりも簡単で、操作もシンプルそのものなんだ。それでいて、より多くのことを実現できる。もう開発が中止されたし、戻ってくることはないだろうけどね。僕は今でも使っているよ
[柴田] ところで、グラフィカルユーザーインタフェース(GUI)というものには、限界があると考えていますか?
[Woz] そんなことはあんまり考えたことがなかったな。昔に比べると、使いにくくなってきた面も確かにある。でも、僕らは同時にいくつものことをやろうとし過ぎてしまうんだね。ただ、あんまり選択肢が増えるのも問題だと思うよ。できるだけシンプルにして、同じような機能が何通りもできないようにしたほうが分かりやすいだろう。
例えば、スペルチェッカーだけど、個々のプログラムが、それぞれ異なるものを用意するのは問題だろう。僕は、いつもNewer Technology社のSpellToolという製品を使っている。これなら、どのプログラムからでも、一貫したフローティングパレットの操作で、同じスペルチェッカーを使うことができるんだ。スペルチェックの速度が、一分間に何ワードかとかいうことは問題にならない。いつも同じ操作で使えるということが大切なんだ
[柴田] つまり、ユーザーインターフェースには、一貫性が重要なんですね
[Woz] そう、一貫性と、ある意味でのシンプルさだね。つまり、少ないコマンドで多くのことを実行するということさ
Apple社でゲーム機を作りたかったが、任天堂にやられた
[柴田] 話は元に戻りますが、あなたはほとんど一人でApple ][を設計されたわけですよね
[Woz] うん、ケースとか電源を別にすれば、後はAlan Baumにシステムモニタを手伝ってもらったくらいかな。後は全部自分でやった
[柴田] そのように一人で全部できる人はもういないでしょうし、そういう能力も育たないのではないでしょうか。今では、コンピュータを構成する部品が、ほとんどすべてチップセット化されていますから、それを組み合わせれば、コンピュータになってしまう。例えば、自分でアドレスデコーダを設計しようとする人はいないし、そういう必要はまったくないわけですから
[Woz] そうだね。ある分野の技術が衰退してしまうということは、避けられないだろうね。例えば、真空管だよ。もう、真空管を作る技術は、ほとんど必要ないわけだし
[柴田] ですから、将来、コンピュータを設計する技術が失われてしまうというようなこともあるのではないでしょうか
[Woz] 子供達を見ているとそう思うよ。ロジックゲートを組み合わせてコンピュータを作るような作業に興味を持たせるのは、もはや難しいことなんだ。なぜなら、何もしなくても、そこにコンピュータがあるんだから
[柴田] ですから、私も教育は非常に重要だと思うわけです
[Woz] そうだね、例えばマイクロプロセッサのクラスなんかは重要だろうね。今では、プロセッサはインテルが一人で作っているようなものだしね
[柴田] それにしても、あなたは、昔からこの分野では文句無く最も影響力のある教師なんですよ。Apple ][の影響を受けた製品は数多くあります。例えば、任天堂のファミコンのCPUは6502ですし、スーパーファミコンは、あなたがApple // GSに使った65816を使っています
[Woz] そうだね。6502は、Apple ][のおかげでポピュラーになったんだと思うよ。その後6502をコアに使ったチップも色々出たしね。
実はAppleでもゲームマシンを作るように言ったんだよ。でも実現しなかった。そのうち任天堂にやられてしまったんだ
[柴田] 最近のゲームマシンはどう思いますか。何か興味をお持ちの機種がありますか
[Woz] 子供と家で遊んだりはするけどね。もう子供の方が上手いんだよ。
でも、ゲームボーイなら負けないよ。昔はよくハイスコアを出して、『Nintendoo Power』誌のハイスコアのページに何度も載ったりしたよ。それに、ゲームボーイに磁石を付けると、動作が遅くなるのを発見して、難しいゲームを攻略したりもしたな。でも、ハイスコアを出したときは、磁石は使ってないけど。
どんなゲームでもやるってわけじゃないんだ。プレイするのは非常に限られているけど、やるからにはものすごく上手くなる。それが僕の流儀なんだよ
[柴田] そういったゲームは、教育の役に立つこともあるんでしょうか
[Woz] それはないね。単なるエンタテイメントだよ。楽しむことも必要なんだよ。アメリカでは、今3つのFが重要だと言われているんだ。FunとFamilyとFriendsだよ
[柴田] もう時間になったようです。どうも今日はありがとうございました
[Woz] 日本に来て、Apple ][のことを良く知っている人間に会えて楽しかったよ
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Apple ][のCPU、モステクノロジー社の6502 |
1998年2月21日、MACWORLD Expo/Tokyo 1998会場幕張メッセコンベンションセンターにて収録
インタビュー:柴田文彦
企画・構成:報道局 河村康文
※1 「Bill Budge」……16歳でIBM1401を使ってアセンブラを学ぶ。カリフォルニア大学バークレー校入学後、Apple ][と出会う。以後、Apple ][のハイレゾ・モードを使った動作速度の速い、美しいグラフィックスをフィーチャーしたゲームソフトのスタープログラマとして多数の作品を生み出す。代表作に「ラスター・ブラスター」、「ピンボール・コンストラクション・セット」などがある。
※2 「Bill Atkinson」……MacPaint、HyperCardなどのアプリケーション、QuickDrawなどの内部ルーチンの開発に携わる。アップルフェロー。アンディ・ハーツフェルドらと共にGeneral Magicを社設立。
Steve Wozniak氏略歴
1950年8月11日生まれ。
6歳でアマチュア無線のライセンス取得。
数学、科学、エレクトロニクスの受賞歴あり。
1972年、コロラド州立大学入学、カリフォルニア大学バークレー校で学ぶ。
1976年、Hewlett Packard社で電卓の設計。
1979年、初期のApple Computer社製品を設計。
1980年、Alice Robertsonと結婚。子供無し。後、円満離婚。
1984年、コンピュータ関係の会合で精力的に講演。
1980年、慈善団体Lodge Campbellの終身会員となる。
1987年、Candice Clark Wozniakと結婚。子供3人。
1990年、San Jose Cleveland Ballet, Tech Museum のスポンサーとなる。Children's Discovery Museumの運営に関わる。
1987年、米ソ共同ロックコンサート(1990年11月にモスクワで開催)のスポンサー。ソ連の学校にコンピュータを送る米ソプロジェクトのスポンサー。生活困窮者団体、学生への寄付。テクノロジー関係、地域活動への受賞多数。
現在の妻Suzanne Mulkern Wozniakと結婚、子供3人。
1996年、Los Gatosの11の研究機関、コンピュータ研究所、校内LAN、学区内WANのサポートをする(現在も続く)。コンピュータ基礎、ネットワーク、コンピュータのメンテナンス、ネットワークについて教える(年間200時間)、5年生から8年生にグラフィックス、写真、ビデオチサウンド、ネットワーク、プログラミングを教える。
生徒に数百台のラップトップマシンを提供。数百のAmerica Onlineのアカウントを生徒と元生徒に提供。生徒と教師にサーバーとインターネットへのアクセスを提供。ハード、ソフトの問題解決を地域全体で毎日手伝う。
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柴田文彦氏略歴
Apple ][でコンピュータに開眼、Steve Wozniak氏を師と仰ぐエンジニア。某有名事務機メーカーに勤務する傍ら、テクニカル・ライターとしてPhotoshopの解説書などを執筆。
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