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Printable Version コラム / 柴田文彦のMostly BeOS 第27回

Beの提唱するアプライアンス3態


2000年2月28日

 前回は、BeOSの次期バージョンが非営利の目的の個人ユーザーに対しては無償で公開されるという衝撃的発表の内容を紹介し、その意味について少し考えてみた。その1つの背景として、Be社は今後アプライアンスに注力すると宣言したことは、OSの無償化よりも重要なことだったかもしれない。その後、これからBe社が生業としていくアプライアンスがどんなものなのかが少しずつ分かってきた。今回は、その内容に迫ってみよう。

デスクトップにはBeOS、アプライアンスにはBeIA

 前回の話題としても登場したが、Be社がアプライアンス用に用意しているソフトウェアプラットフォーム、平たく言えばアプライアンス用のOSは、『Stinger』と呼ばれていた。それが開発コード名であることは、以前から知らされていたが、いよいよその正式名称が『BeIA』であることが発表された。

 名前が付いたからといって、特に中身が変わるということもなく、Be社の方針もそのままだろう。これではっきりしたのは、デスクトップPC用のOSは、これまで通り『BeOS』という名前でリリースされ、アプライアンス用には『BeIA』を推進するということである。言い方を変えれば、“OS”という言葉を使いたくなかったために、“IA”という語を生み出したと考えられる。

 となると、なぜOSではいけないか、ということと、IAとは何なのかという疑問が浮かび上がってくるだろう。これらに対する答えは、どちらについてもBe社から正式な表明があったわけではないので、憶測の域を出ないが、おおよそ以下のようなことだと考えられる。
前者については、デスクトップ用のOSと、アプライアンス用のOSに相当するソフトウェアの性格の違いに由来していると思われる。そしてこの性格とは、内部のアーキテクチャーというよりも、主に対外的なものだろう。

 今、一般の人にOSについて聞けば、ほとんどの人がWindowsを思い浮かべるであろうほど、PC市場でのWindowsのシェアは高い。その一方でOSはPCと一体ではなく、独立したものである。そして、ゴマンとあるPCのメーカーにはブランド的な価値を持っているものはごく少なく、むしろWindowsというOSのブランド感覚が浸透しているのである。

 それに対してアプライアンスの世界では、ハードウェアとソフトウェアの一体感は、PCよりもずっと高い。またそうでなければ、アプライアンスたり得ないとも言える。そのデバイスに対する専門知識などはいっさい不要で、だれでも最高の機能を発揮できるように使いこなせなければならないからだ。そこで使われるOSは、PC用のOSよりも組み込み用のOSに近く、ユーザーが選択するべきものでもないし、ブランド感覚を発揮するようなものでもないのだ。

 そこで、このような違いを意識したうえで、すでにOSという言葉に染み込んでいるブランド感覚を廃し、ハードウェアとソフトウェアが密接に統合されたアプライアンス環境で使われる基本ソフトウェアを、BeではBeIAと呼ぶことにしたのだろう。

 不思議なことにこのBeIAのIAが何を意味するかは、どこにも書かれていない。インターネットアプライアンス用のソフトウェア環境であるから、そのまま“Internet Appliance”なのかもしれないが、それではソフトウェアの名前にはならないような気もする。意味的に考えれば“Be Integrated Architecture”あたりが正解かもしれない。

情報アプライアンスと娯楽アプライアンス

 アプライアンス(Appliance)という語の元々の意味は、“応用したもの”といったことで、もう少し平たく言えば“器具”、最近の使われた方では“家電品(家庭用電化製品)”というのが近いだろうか。余談だが、これは日本語では“応用ソフトウェア”と訳される“Application”とも同じ語源を持つ言葉だ。日本語式に縮めて言えば、どちらも“アプリ”となり、OSとIAとの関係と対比させて考えると、なにやら示唆的ですらある。

 一般にアプライアンスと付く言葉には、すでに“ウェブ・アプライアンス”、“インターネット・アプライアンス”などがあるが、Be社では、BeIAが使われるアプライアンスとして、“Information Appliance(情報アプライアンス)”と“Entertainment Appliance(娯楽アプライアンス)”の2種類があるとしている。

 前者は、ウェブブラウジング、電子メールの送受信、オンライン取引などのように、主にコミュニケーションのツールとして使うためのものである。この分類ではデバイスの形状は問わないから、ネットワークに直接接続されていたりいなかったり、あるいは無線ネットワーク機能を持っていたり、タッチスクリーンだったりキーボード付きだったり、様々な形態に当てはまるようだ。

 後者は、BeOSのメディアOS的な機能をアプライアンスに対応させたようなものと考えればよいだろう。デジタルビデオやオーディオの編集や鑑賞、ゲームのように、ある程度のCPUパワーを必要とし、大量のリアルタイムデータを扱うような用途を考えたものである。

 いずれも用途としては今のPCと大して変わるものではなく、PCならば両方に使えるわけだが、これらのアプライアンスのポイントは、安定した確実な動作と、専門知識がなくても使える操作性の良さということになるだろう。

分類別にした“インターネット・アプライアンス”の形態アプライアンス

 またBe社ではこの分類とは別に、“インターネット・アプライアンス”には3つの形態があるとしている。このあたり、やや用語が混乱ぎみで紛らわしいが、要するにこちらの分類は用途よりもデバイスの形状で分けたものである。それによると、“All-in-One LCD Device(一体型液晶デバイス)”、“WebPAD(ウェブパッド)”そして“Low-Cost PC(低価格PC)”の3種がある。

 “All-in-One LCD Device”は、800×600ドットで10インチのカラー液晶ディスプレー、ワイヤレスのキーボードとポインティングデバイスを持っている。ハードディスクの代わりにフラッシュメモリーを使用するので静かで信頼性が高い。Be社ではCompaq社との協力のもとに開発中だというこのタイプのデバイスのイメージ図を公開している(図1)。この種のデバイスはキッチンなどで使うことを想定しているというが、別のイメージ図は、確かにキッチンに似合いそうなデザインである(図2)。

図1:Be社がCompaqと協力して開発中だというAll-in-Oneタイプのアプライアンスのイメージ図
図2:キッチンに置くことを想定したAll-in-Oneタイプのアプライアンスのイメージ図

 “WebPAD”は、タッチスクリーン式で10インチの液晶ディスプレーを内蔵するタブレット状のデバイスで、ワイヤレスのネットワーク機能を持つ。以前に紹介したナショナル・セミコンダクター社のWebPADは、この種のデバイスの具体例というか、そのものである。Be社が公開したイメージ図では、BeIAのトップ画面と思われる画像も表示している(図3)。ただし、この画面は上のAll-in-Oneタイプと同じである。

図3:タッチスクリーンと無線ネットワークを備えたWebPADタイプのアプライアンスのイメージ図

 “Low-Cost PC”は、より低価格化を追求して、液晶ディスプレーの代わりにCRTを使用したオールインワンタイプである。Be社では特にイメージ図を公開していないが、基本的にはiMacのようなものを想像すればよいのだろう。

 これら3種類のデバイスのCPUパワーやメモリー容量などは、必ずしもその形態によって規定されてしまうものとも思えないので、先に挙げた情報と娯楽、2種類のアプライアンスのいずれにも利用できるはずだ。

 ただし、使い方を考えてみれば、情報アプライアンスには、All-in-One LCDとWebPADタイプが、娯楽アプラインスには、All-in-One LCDとLow-Cost PCタイプが適しているということになるだろう。このようなデバイスは、Be社が作るわけではなく、Be社からBeIAのライセンスを受けたハードウェアメーカーが製造して販売することになる。様々なメーカーが独自の機能を盛り込んだものを色々と出してくれるようになると面白い。

 いずれにせよ、このようなアプライアンスは、今のPCが果たしている用途の少なくともいくらかを、考えようによっては新規PCユーザーが想定している用途の大部分をカバーすることになるだろう。Be社ではたとえ数パーセントでも、現状のPC用OSのシェアを取ることを狙うのではなく、BeIAを採用したアプライアンスによって、PCそのものを置き換えるという、より壮大なビジネスモデルを選択したことになるのではないだろうか。

柴田文彦氏プロフィール

 Be社がBeBoxを発表した直後から同社の動きに着目し、1996年春頃からこれまで、BeOS関連の記事を各種雑誌などに精力的に寄稿する。その間、BeBoxとBeOSを扱った世界初の書籍『BeBox GuideBook(BNN)』の執筆、アプリケーション開発者のバイブル的な存在である『Be Developer's Guide』日本語版(O'REILLEY)の監訳をこなす。某複写機メーカーエンジニアの職を辞し、現在は自称エンジニアリング・ライター。


(柴田文彦)


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