コラム / 塩田紳二のMicrosoft Espresso 第43回
“独占企業”のレッテルが貼られたMS
1999年11月19日
事実認定で“独占認定”
マイクロソフト対DOJ(米司法省)の裁判で、11月5日、“事実認定”が出された。アメリカの裁判では、裁判所が最初に示すのが、事実認定である。つまり、訴訟に関して、事実がどうなのかを先に判断し、そのあとで、それにどう法律を適用するのかを判断する2段構えになっているのである。
陪審員制度を持つアメリカでは、まず、事実を確定したのちに、陪審員による判断があり、次に法律の専門家である裁判官が、どのような法律を適用するのかを決めるわけだ。そのため、今回の事実認定は、“判決”ではなく、この段階では、マイクロソフトが独禁法に違反しているのかどうかは判断されていない。ただ、マイクロソフトがインテル互換パソコンOS市場で独占状態にあることだけが“事実認定”されただけである。ただし、この事実認定の文書を読むと、OS市場で独占状態にあることと、それによりマイクロソフトが、競争的な市場があった場合よりも高い価格をWindowsに付ける可能性があったことや、独占による恩恵をマイクロソフトが受けていたと指摘している。
この段階では、事実認定とはいえ、内容からすると、マイクロソフトに有利なところはなにひとつない。すでに裁判官の心証としては、マイクロソフトは独占状態を是正すべきということになっているのではないかと思われる。
それでどうなるマイクロソフト
このあと、考えられるシナリオとしては、判決が出る前にマイクロソフトが司法省と和解し、司法省の要求を受け入れるか、あるいは判決が出たのち、控訴で引き続き裁判を行なうかである。
おそらく、マイクロソフトとしては、不利な判決が出た後に、控訴するという手を取るのではないかと思われる(司法省の和解案次第だが……)。
なお、よくアメリカの裁判物のドラマ(ペリーメイスンとかありましたな)では、裁判後半に、突然、新たな証拠が出てどんでん返しなんてストーリーをよく見かけるが、少なくとも事実認定までの段階で、お互いが持つ証拠や承認について調査することができるため、普通はこうしたどんでん返しは起きないのだとか。というわけで、判決については、おそらくマイクロソフトに対して何らかの是正措置がとられると思われる。
ただし、この独占状態を是正するために具体的に何が行なわれるかは、ちょっと不明だ。世間でよく言われる“分割”という話も、過去のAT&TやIBMなどの裁判からの類推でしかなく、はたして“インテル互換パソコンOS市場での独占状態”を崩せるのかというのは疑問である(マイクロソフトを東と西に分けるとか?)。
たしかにアプリケーション部門とOS部門を分割して、どちらかを他社に売却させるなどは、考えられるが、それで、PC市場全体に対する支配力は弱まるものの、マイクロソフトによるOS支配については、依然変わらないのである。また、裁判当初、司法省が言っていたようにWindowsにNetscape Navigatorをバンドルさせるなんてことも、いまやまったく無意味に近い。
ハードウェアメーカーは大喜び?
こうした反面、今回の裁判により、マイクロソフトの実質的なメーカー支配力が弱まったことも確か。IBMやコンパックなどのハードメーカーが、マイクロソフトの独占力行使を裏付ける証言を行なうなど、すでにマイクロソフトとの関係は以前のようなものではなくなっている。マイクロソフトも、従来のような強引なビジネスは、別の訴訟を招く可能性もあるし、控訴した場合に、さらに不利な証言となる恐れもある。それゆえ、メーカーが自らの権利と思われる分野(たとえば、プレインストールマシンの起動画面やバンドルソフトなど)については、独自な展開を行なうメーカーが増えてくると思われる。
また、これで他のOSがタナボタ式にシェアが増えることもないと思われるが、シェアを拡大するためのチャンスになることは間違いない。少なくとも、メーカーは、他のOSを採用することでマイクロソフトのご機嫌を伺う必要はなくなるからだ。
さてマイクロソフトの反応だが
この事実認定に対して、マイクロソフト(およびビル・ゲイツ)は、一応反論しているようだが、これはおそらく裁判にはなんの影響もないだろう。
振り返ってみると、今回の裁判では、マイクロソフトの不手際が目立つ。だいたい、ビル・ゲイツの父親は、弁護士ではないか? それなのに裁判に弱すぎる感じがする(マイクロソフトの裁判に関するリリースは勇ましいが……)。マイクロソフトほど金があるのなら、一流の弁護士を雇えるはずである。
有力な弁護士さえいれば、O・J・シンプソンが無罪になる国である。テレビで、O・J・シンプソンの裁判に関する番組を見たが、証拠を精査して、刑事によるでっち上げなどを持ち出すあたり、一流弁護士の手並みの良さを見るようである。だから、マイクロソフトの裁判での不手際(たとえば、提出したビデオにごまかしがあったなど)は、理解できないところである。裁判費用をケチっているとは思われるないが、実際のところどうなのであろうか。
その件で気になるのが、マイクロソフト社の法律担当役員のビル・ニューコム氏である。この人物、ビル・ゲイツの父親の法律事務所である“シドラー・マックブルーム・ゲイツ・アンド・ルーカス法律事務所”のパートナーの1人だった人物。その意味では、おそらくビル・ゲイツに信頼されている人物なのだろう。しかし、今回の不手際は、この人の責任でもある。もっとも、このニューコム氏は、マイクロソフトが株式公開をするために入社した人(株式公開を行なう前には、法律顧問を雇うのが普通だと言われている)だと思われるので、こういう訴訟は不得手なのかも。
塩田紳二氏プロフィール
某“家電の巨人”メーカーでパソコンの開発に携わった後、フリーライターとして独立。ハード、ソフト両面での知識と経験と人間漫才のような企画力で雑誌、単行本、Web Zineで活躍中。
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(塩田紳二)
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