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HPがコンパック買収で欲しかったのはコンパックではなかった?


2001年10月22日

企業は大きければ大きいほどいいのか?

先月初め、米コンパックコンピュータを米ヒューレット・パッカード(HP)が買収するという発表があった。ただ、この手の買収はFTC(連邦取引委員会)の承認が必要となるので、まだ確定ではない。しかし、これがPC業界の大きな話題であり、かつ、これまでのこの業界の企業買収と比較しても大型のものであることは間違いない。

過去には、(今回の当事者でもある)コンパックが米ディジタル イクイップメント(DEC)を買収したし、成立はしなかったが、全盛期の米ロータス社と米ノベルの合併という話もあった(ロータスはその後、米IBMに買収された)。

さて、この合併について考えてみることにしよう。まず、この合併は、簡単にいうと、HPによるコンパックの吸収合併である。ただし、これは米国のベンチャーによくある、創業者の売り逃げパターンではない。すでにコンパックは、オーナーのワンマン企業という域を脱しており、世界中に広がる巨大企業になっているからである。

新聞報道などによるとコンパックは、HPだけでなく、日本のメーカーなどにも買収を持ちかけていたという。だとすると、経営的にかなり苦しい状況だったのではないか? こうした場合、コンパックほどのブランドがあれば、日産自動車のように独立した会社のまま、資金を投入して“子会社化”するという手もあるのだが、それが行なわれなかったというのは、結局、買収交渉がHP主導のもとで行なわれたということだろう。つまり、コンパックには、もう独立した会社として残るような余裕はなかったのであろう。

コンパックは、なぜDECを買ったのか? それは、ハードウェア販売中心のハードウェアメーカーから、サービスビジネスを行なう総合的なIT企業に移行するためだった。簡単にいうとIBMのようなタイプの企業になるべく、DECを買ったのである。DECは、かつてはIBMについで世界第2位のコンピューターメーカーだった。IBMに対抗すべく、サービス体制や営業組織、教育や研究開発といった組織を持っていた。コンパックはDECを買ったのはいいが、その結果、企業が大きくなり、そのサイズに見合った経営ができなかったということだろう。

企業が大きくなるほど、間接的なコスト(例えば、間接部門の人件費や建物にかかる費用など)が大きくなる。すると、同じ製品であってもコストが上がってしまう。となればより高く売るか、より多く売るかしなければいけなくなる。しかし、高価格のAlphaワークステーション事業には力が入らず、結局Alphaプロセッサーの開発チームを6月には米インテルに渡してしまった。PCのほうは、低価格化が進み、利益が減ってしまう状況で、さらに景気後退もあり、数が伸びない状態になっている。コンパックは今でも、PCのマザーボードを自社設計しているというが、そうすると、自社設計のマザーボードはコスト面でかなり不利である。ここは、台湾メーカーなどからボードを買うしかない局面だったのではないか? “IBM PC/AT”以後、標準PCともいわれたコンパックブランドだが、その看板ゆえに苦しい状態に陥ったともいえるだろう。

なぜコンパックとHPという組み合わせだったのか

では、なぜHPはコンパックを“買った”のだろうか? 現在の世界シェアを見るとコンパックは、パソコン出荷台数では、米デルコンピュータに次ぐ2位(11.2%)、PCサーバーでは1位(26.7%)と悪くない位置にいる。かつて“世界最大のコンピュータメーカー”というコマーシャルを見た記憶があるのだが、実際にそういうポジションにあるわけだ。

これに対してHPは、デスクトップPCでは6.8%で4位、サーバーでも4位(10.6%)と台数シェアとしてはコンパックよりも後ろにいた。HPは、本業ともいえる測定器分野を別会社(米アジレント・テクノロジー)にし、純粋なコンピューターメーカーとなった。あの時点で、それぞれの分野に特化した企業となり、スリムな体制でビジネスをするというのは悪い判断ではなかったが、結局、PCハードウェアビジネスは、デルのような、低コストで製品が提供できる直販メーカーが支配する領域となりつつあった。それに景気後退という局面が来ると、単純なハードウェア販売では、どうしようもなくなる。

そこで目をつけたのがコンパックと同じく、顧客にハードウェアだけでなく、ITシステム全体や、それらに関連するさまざまなサービスも含めたソリューションを売るビジネスである。しかし、それには、ある程度の人員がいる。企業がPCを大量導入するとき、システムの更新が伴う。そのときには、単にハードを売って、インストールして、ネットワークをつないでおしまいというわけではない。さまざまなサーバーやクライアントソフトウェアの組合せ、ソフトウェア開発といったことが必要だ。それにはどうしても人員をそろえ、それなりの体制を持たねばならない。しかし、こういった体制はすぐにできるわけではない。

そのとき、旧DECの資産を抱えたコンパックが売り込みに来たわけだ。これを買って“IBMのようになる”というのが、HPの狙いだろう。つまり、HPはコンパックの中に残っているDECの資産しか見ていないのではないか。その中には、Pocket PCやノートPCなど、旧DECの研究開発が産んだ製品もあるだろうが、一番欲しいのは、DECが持っていた組織や体制であろう。

巨大になるべくDECを飲み込んだコンパックが結局HPに飲み込まれる。なんだか食物連鎖を見るようだが、これが米国企業のやり方なのだ。苦しいときに、昼休みに会社中の蛍光灯を消して回るような日本企業とは考え方が違う。

大規模買収はこれで終わりではないはず

というわけで、大きな話題となっている合併(買収)だが、はたして、どうなることか? FTCの調査には半年ほどかかるし、こういう規模の買収なので、まだ、結論が出たわけではない。発表後、両者の株価は下がり、アナリストの中には合併を中止すべきだという意見もあるようだ。さらに、米国の景気はテロの影響もあって、合併発表時よりもさらに悪化している。

これに対して、日本のコンピュータメーカーはどうだろうか? 自動車業界は、マツダが米フォード・モーターの、日産が仏ルノーの傘下になったように、世界的な再編成のまえに国内メーカーも無事ではなかった。このIT不況ともいえる状態で、日本のメーカーは大丈夫なのだろうか。コンパックなどに比べると、日本のコンピュータメーカーは総合電気メーカーだったりして、企業規模が違うことは確か。しかし、悪い方向に傾き出すと、大きいが故に大変なことになる。次の大型買収のニュースは、日本のメーカーでなければよいが……。

塩田紳二氏プロフィール
某“家電の巨人”メーカーでパソコンの開発に関わった後、フリーライターとして独立。ハード、ソフト両面での知識と経験と人間漫才のような企画力で雑誌、単行本、Web Zineで活躍中。

(Text by 塩田紳二)


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