デジタルハリウッド(株)は、10月16日と17日の2日間、学園祭“DH98 in Yokohama”を開催した。
左から、杉山氏、日比野氏、平野氏 |
同学園祭にて、アーティストの日比野克彦氏、メディアクリエイターの平野友康氏、およびデジタルハリウッド校長の杉山知之氏を交えて、“Inter-communicate”をテーマに“クリエイターズトーク'98
SPECIAL Part1”が行なわれた。
----日比野氏、平野氏にとっての、Inter-Communicateとは。
日比野
「わたしの創作活動は自分を知るためです。まず、自分があって、それから他人がいます。自分を知るには、他人とコミュニケート(communicate)しないと分かりません。そういった意味では、Inter-Communicateは自分と他人をつなぐものですね。作品を世にだして、反応がなかったら出す意味がないですよね。絵は手段でしかなくて、絵にこだわっているわけではありません。自分の表現手段の1つにしか過ぎない。そして、その目的は人に会うため。作品は一人歩きしますけど、創作した本人は実際に出向かないと反応が分かりません。だから、こうして講演とかに出向くわけです」
平野
「おもしろいことに、最近、インターネットを介してコミュニケート(communicate)するソフトを作ったんです。これは、フリーウェアで、名称は『ネットバーガー・ミーツ!』といいます。3人で作ったソフトですが、東京、京都、札幌と開発拠点がばらばらだったんですよ。ソフト完成まで、2回ぐらいしか会っていないですね。ですから、ほとんどの開発はインターネットと電子メールを介して進めました。9月14日に公開して、まだ1ヵ月しか経っていないのですが、毎日1000人ぐらいのユーザーがいます。
ソフトの内容を簡単に説明すると、ユーザー1人1人が自分の情報やメッセージを書き込むことができるカードを持っていて、『ネットバーガー・ミーツ!』コミュニティー内で、コミュニケート(communicate)するソフトです。
『ネットバーガー・ミーツ!』の画面 |
わたしは、毎週土曜日深夜3時からのニッポン放送のラジオ番組「オールナイトニッポン」のパーソナリティーを努めさせていただいているのですが、同番組では『ネットバーガー・ミーツ!』を介したメッセージしか受け取らない仕組みになっています」
日比野
「このソフトのいいところは恐らく、ただ“お友達をつくろう”というだけでなくて、ラジオとリンクしているところですね。自分の送ったメッセージがラジオを介して、音になって反応が返ってくる。これが魅力ですね。要するに、ライブ感ですよね。自分の投げたものが返ってくる。これは創作者にとっても言えることで、やはりライブ感が伝わってくると、やりがいがでてくる。楽しい。
絵の場合、ライブ感は伝わりにくいですね。絵の具には時間という尺度はないですから」
----デジタルをどう思いますか
日比野
「デジタルだから、やらないと言うのはないですね。80年代は、表現手段として余りにも貧弱だったため利用しなかっただけで、今はものすごく進化してますよね。実際、(株)デジタローグからCD-ROM『INTERACTIVE EXHIBITION(完全版)』、『同(HYBRID版』を出しました。私の場合、平面だけにとどまらず、立体、パフォーマンスなどの作品もあるので、紙にうまく収録できませんでした。これら2000点余りの作品を収録できる“魔法の箱”がCD-ROMだったわけです。そのほか、デジタル技術を活用した作品も制作しています。
コンピューターが出てきて、創作そのものはは変わっていないと思います。ただ、考え方はデジタルの影響は受けていると思います。キーボードで入力して文章を書くのと、手で書くのとは違いますからね。それが、いい意味で作品に影響を与えているといいですね。
コンピューターは悪く言うと、“みんなが似てきてしまう”というデメリットがあります。よく言うと、“みんながあるレベルまで容易に到達することができる”と言えます。
創作をしている立場から言うと、“人といかに違うものを作れるかが重要”なわけですから、人とのずれが必要とされます。そういった意味ではデジタルはまだまだ発展途上の段階ですね。1人1人が違うものを作れる環境には、まだ到達できていないと思います。
平野
「わたしがパソコンをはじめたのは、19歳のときで、比較的遅い。それまでは、非パソコン派でして、絵を描くにしても、「絶対に手で紙の上で」と思っていました。ただ、人が集まるサロンみたいなものを作りたいと思っていまして、パソコンではやる気があればこの『ネットバーガー・ミーツ!』のように、1台のパソコンがあれば、数千万年の開発資金がなくても、数人が集まれば“できる”わけです。新しいものをつくろうと思えば“できる”、やろうと思えば“できる”というのは大きいですね。デジタルは、そういう魅力があります」
----21世紀はどうなると思いますか
日比野
「21世紀といっても、1つの時代にしか過ぎないですね。でも、人は数字に弱い。カウントダウンと聞くとどきどきします。恐らく、人はいずれ死ぬということと関連しているのでしょう。21世紀に話を戻しますと、ある出来事が起きてから、人の意識の変化が表面化するのは、その出来事から10年から15年後です。歴史的に見てもそうで、20世紀初頭のダダ、バウハウスは世紀末から10年~15年後に始まった動きです。
20世紀美術は、1917年、マルセル・デュシャンが自ら委員を務める展覧会に「R.MUTT 1917」とサインしただけの既製品(レディメイド)の便器を『泉』という題名で出品したときが起源と言われています。これは、これまでの美術観念を覆す作品でした。既製品の便器を出展、これを“アート”だといったわけですから。このような作品が2010年~2015年ごろに登場するかも知れないですね」
平野
「私は、21世紀というよりも、この2、3年で変わると思います。何でもないようなものでも、参加してみることが重要だと考えます。振り返れば、大きな出会いだったということも有り得ます」日比野氏は落ち着いて語られる口調が、平野氏は若さ溢れるパワーが印象に残るトークだった。