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【INTERVIEW】「専門家以外にもMathematicaを」米Wolfram Research社のConrad Wolfram氏

1998年10月30日 00時00分更新

文● 上田敬司、増田尚美(以上、月刊アスキー)、浅野広明(報道局)

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 米Wolfram Research社は、'87年、科学者のStephen Wolfram(スティーブン・ウルフラム)氏によって創立された。Stephenはその翌年、5人程度の技術者とともに開発した『Mathematica』をリリース。以来、今年で10周年を迎えるこのソフトは、全世界で100万人、日本で20万人のユーザーを獲得してきたという。

 Mathematicaは、ひとことでは語り尽くせない多彩な機能を持ったソフトである。数値計算、数式処理、グラフィック処理、独自言語によるソフトウェア開発などの機能を統合したパッケージで、各機能を強化するアドオンソフトも多々発売されている。

 同社は'97年、Mathematica 3.0をリリースした。同シリーズの中核である計算能力の強化、あるいは操作性を向上させるためのGUIの大幅な改良を図ったほか、“Notebook”と呼ばれる独自の文書形式をHTMLで保存できるようにするなど、インターネットを意識した作りをとっている。

 今回、登場していただくのは、Conrad Wolfram(コンラッド・ウルフラム)氏。同社ビジネスの世界戦略を統括している。創立者Stephen Wolfram氏の実の弟でもある。このConrad氏に、同社の変貌してゆくビジネスモデルや、来年リリース予定という新製品などについてお伺いした。

●Mathematicaの機能を絞ったスタンドアローン製品も出す

Conrad Wolfram氏。戦略および国際開発担当ディレクター。約250人の従業員を抱えるWolfram Research社において、兄のStephenが技術面を、弟の彼がビジネス面を統括しているのだという。「私は、Stephenのアップグレードモデルです(笑)」
Conrad Wolfram氏。戦略および国際開発担当ディレクター。約250人の従業員を抱えるWolfram Research社において、兄のStephenが技術面を、弟の彼がビジネス面を統括しているのだという。「私は、Stephenのアップグレードモデルです(笑)」



---- Mathematicaについて簡単にご紹介くださいますか。

「Mathematicaの重要なコンセプトは、テクニカルワークをするすべての人を支援するということです。科学者、エンジニア、経済アナリスト、教師などさまざまな人がターゲットに含まれます。Mathematica 1.0を発売して10年が経ちますが、マーケットは確実に広がっており、最近では生物学、医学の分野でも多く利用されています」

「ただ、これまで、Mathematicaユーザーのほとんどは各分野の専門家でしたが、われわれは今後、技術レベルの低い人たちにもMathematicaを積極的に展開したいと考えています」

----詳しく説明していただけますか。

「Mathematicaは複雑な機能を持っていますが、ユーザーの多くはそのうちの一部の機能にしか興味を持っていません。それで、われわれはMathematicaのエンジンをカスタマイズして、機能を特化した新しいスタンドアローン製品を作る計画を立てています。これはWolfram Research社のビジネスにおいて革命的なアプローチです」

----これらの製品はMathematica本体がなくても稼動するのでしょうか。

「そうです。Mathematicaはわれわれにとって重要な製品ですが、それとともにMathematicaエンジンを使ったスタンドアローン製品もメインのビジネスになるものと捉えています。各分野に特化するだけでなく、家庭であるいは趣味的に利用できるようなローエンド向けの商品を提供したいと考えています。これらスタンドアローン製品は、'99年から随時出していきます」

----機能を絞ることで、価格も抑えられる。

「はい。また、機能を特化したMathematicaエンジンを他社へOEM供給することも可能です。アメリカではMathematicaエンジンを搭載した電子ブックの開発プロジェクトなども進んでいます。来年にはわれわれのテクノロジーを使った他社の新製品もいくつかお目にかけられると思います」

----Web関連ビジネスについてはどうお考えですか。

「たとえば、“The Integrator”(http://www.integrals.com/)というWebサイトがあります。このサイトはWolfram ResearchのMathematicaサーバーにリンクを張っていて、ユーザーが記入した計算式をMathematicaエンジンに処理させ、その計算結果をサイトに戻し、表示してくれます。金融機関にエンジンを売り、同様の仕組みを構築することも検討しています」

「また、WebではHTMLがスタンダードになっていますが、HTMLで数学記号を扱うことは困難です。そこでわれわれは、HTMLに数式処理の機能を追加した“MathML”を、W3Cコンソーシアムに提唱しています。現在、MathematicaのNotebookはHTMLに変換できますが、将来、MathMLへの変換も実現できるでしょう」

●Mathematica 3.0日本語版、Mathematica 4.0も来年リリース

開発中のMathematica 3.0日本語版画面ショット。なお、Mathematica 3.0英語版は、Windows 95/98/NT3.51/NT4.0、Macintosh、UNIX(Linux、HP、IBM、DEC、SGI)に対応し、価格は学生対象のStudent Versionで3万円、一般研究者対象のCommercialで32万8000円など。「確かに複雑なソフトウェアだが、コストパフォーマンスは非常に優れている」とConrad氏
開発中のMathematica 3.0日本語版画面ショット。なお、Mathematica 3.0英語版は、Windows 95/98/NT3.51/NT4.0、Macintosh、UNIX(Linux、HP、IBM、DEC、SGI)に対応し、価格は学生対象のStudent Versionで3万円、一般研究者対象のCommercialで32万8000円など。「確かに複雑なソフトウェアだが、コストパフォーマンスは非常に優れている」とConrad氏



----ところで、Mathematicaを日本語化する予定はありますか。

「来年の早い時期に、Mathematica 3.0の日本語版をリリースする予定です。現在、Windows版、Macintosh版をβテストしています。また、既存の英語版ユーザーに対しても、日本語版へアップグレードできるJapanese Language Kitを発売します」

----Webサイトの日本語化については。

「1万ページもありますので、全ページというわけにはいきませんが、部分的には日本語にしたいと考えています」

----バージョン4.0についても当然開発を進められていると思いますが。

「来年バージョンアップの予定です。最も大きな変化は、計算速度が向上することでしょう。ただ、Mathematica 4.0という製品名にするかはまだ未定です。その日本語版は半年後には出したいですね」

「われわれは50から60人の開発者を抱えています。Mathematicaの開発で最も難しいのは古いバージョンとの互換性を保ちつつ、新しい機能を追加すること。しかし、これは大切なことで、Mathematicaはバージョン1.0と3.0で完全互換となっています」

----Stephen氏は、現在も開発に関わっていらっしゃるのでしょうか。

「深く携わっています。新機能のデザインも手がけていますし、3.0に関するマニュアルも、彼がソフトの機能を確認しながら自分で書いたほどです」

----最後に、日本におけるその他の活動についてお伺いできればと思います。

「Mathematicaは複雑なソフトウェアです。説明には困難を伴います。そのため、われわれは来年、日本でセミナーやコンファレンスの開催したいと考えています。これまでも、定期的に開催してきましたが、もっと各分野にフォーカスした形でやりたいですね」

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