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【INTERVIEW】マウスの誕生から30年、ダグラス・エンゲルバート博士に聞く


1998年12月8日

 30年前の'68年12月9日、米サンフランシスコで開催されたコンピューター・カンファレンスにて、ダグラス・エンゲルバート博士による歴史的プレゼンテーションが行なわれた。そのプレゼンテーションでは、マウス、マルチウィンドーシステム、ハイパーメディアといった、今では当たり前となっている数々のアイデアが紹介された。

 それから30年後の本日12月9日、米シリコンバレーのスタンフォード大学で、“エンゲルバート、未完の革命”と題したイベントが開催される。そのイベントを前に来日したエンゲルバート博士に、アスキー24ではインタビューを実施した。その模様を前後編2回に分けてお届けする。聞き手は林信行氏。

 なお、このインタビューは月刊アスキー1月号(12月18日発売)、同2月号に完全版が収録されている。併せてご覧いただきたい。

ダグラス・エンゲルバート(Douglas C. Engelbart)博士略歴

'25年1月30日、米オレゴン州ポートランド市生まれ、73歳。オレゴン州立大学を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校にて電子工学の博士号を取得。
米海軍、NACA(現NASA)エイムス研究所、USバークレー校准教授、スタンフォード大学研究員を経て、'59年からオーグメンテーション・リサーチ・センター(SRI)のディレクターを務める。同センター在籍時に、マウスやNLS(oNLine System)をはじめとする数々の基礎技術を発表。
その後、Tymeshare社、McDonnell Douglas社を経て、'90年からBootstrap Allianceの創始者兼理事を務め、現在に至る。
'98年5月には、コンピュータサイエンス分野でのノーベル賞と言われるチューリング賞を受賞。9月には全米発明協会の名誉殿堂入りを果たした。ちなみに、同氏の功績でもっとも知られているマウスの発明に関しては、政府の資金で運営されていたプロジェクトの一環だったため特許料を受けていない。

----'68年のプレゼンテーションから30年が経ちましたが、この間のコンピューターの歴史において、予想していなかったことはありましたか?

「進化のスピードが思ったより遅かったのは予想外でした。その妨げとなったのは、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)とWYSIWYGにあると思います」

「GUIは初心者には向いていますが、あくまで簡単で自然なインターフェースが優れているのならば、人は大人になっても三輪車に乗っているはずでしょう」

「WYSIWYGは、コンピューター革命以前の書類体裁を模倣したものです。ですが、これからの時代において、印刷するということがどれだけ重要な意味を持つというのでしょうか」

マウスの生みの親、ダグラス・エンゲルバート博士
マウスの生みの親、ダグラス・エンゲルバート博士



----マウスのアイデアを考え付いたときのことを教えてください。

「その当時、コンピューターグラフィック(CG)を作成しようという話があったのですが、CGを描くために使う入力ツールに適したものがありませんでした」

「そのとき、学生のときに教授から見せてもらった、複雑な図形の面積を求めるのに使う機械のことを思い出したんです。それには回転盤が装着してあり、回転盤についたアームの先端で図形をなぞると、回転盤に刻まれた数字が変化するという仕組みでした。その数字を掛け合わせることで、図形の面積を計算できたのです」

「その回転盤は、アームが特定方向に動いたときだけ、その移動距離を記録するという仕組みでした。そこで、この回転盤が、CGの入力ツールに応用できると考えたのです」

「その2〜3年後、さまざまなCG用入力ツールを検証する実験が行なわれました。その実験において、マウスはほかのあらゆる入力ツールより優れていることが証明されました。そのときから私の周りの人々はマウスを使うようになったのです」

----マウスという名前は誰が考えたのですか?

「いつのまにかそう呼ばれるようになったので、誰が名付けたのかは覚えていません。こんなに普及するのだったら、もっと威厳のある名称を誰かが付けてくれればいいのにと思いましたけどね」

この手が生み出したマウスが、世界中の机の上を変えた
この手が生み出したマウスが、世界中の机の上を変えた



エンゲルバート氏の手による、世界初のマウス。木製で、底面にはボールではなく直角に置かれた2つの車輪が備えられていた。
エンゲルバート氏の手による、世界初のマウス。木製で、底面にはボールではなく直角に置かれた2つの車輪が備えられていた。



----マウスを世に紹介したプレゼンテーションにおいて、もう1つ重要なものが“知の共有”でしたが、これはいつごろから始められたものなのでしょうか?

「'67年の春に、ミシガン大学でコンピューターのネットワーク化を実験するという話が持ち上がりました。私は大変興味を抱いたのですが、システムが複雑化することを恐れる研究員も多く、実験に対する抵抗感が広まっていったのです」

「そこで私は、ネットワーク上に全ユーザーの知識が集結したコミュニティーを作り出そうと提案したんです。どんなリソースをどう使うかという情報を交換できる場としてね。研究員たちは皆、賛成してくれましたよ。これが、ネットワークを使った“知の共有”を実践する始まりとなりました」

「今では何百万台というコンピューターがインターネットに接続されていますが、この提案のおかげで、私のコンピューターはインターネットに接続された2つめのノードとなったのです。言い換えれば、私のコンピューターを接続したことで、初めてインターネットが登場したとも言うことができます」

----いま力を注いでいる“Bootstrap Alliance”(注1)の役割について教えてください

「Bootstrap Allianceは、たくさんのNetwork Improvement Community(NIC:注2)を横断的に組織し、NICのNICを形成するというものです」

Bootstrap Alliance Japanの発足発表会で講演する博士
Bootstrap Alliance Japanの発足発表会で講演する博士



「これからの15年、20年の間に、ほとんどの組織が“知”をデジタル化して共有することになるでしょう。私たちは、これら“知のデジタル化”を推し進めて、“Collective IQ(集合的知力)”という考え方を紹介していきます。」

「そのうえで、自らの組織を良くするにはどうしたらいいかということを、組織の参加者たちの考えを加えた集合的知識で探求し、お互いに進化していくことが重要なのです」

「組織が未来に向かって発展する上で、やりたいことすべてに手を回すことは不可能です。そこで、とりあえず組織をよりよい方向に導いてくれることから手をつけるといいでしょう。それがNICへの参加です。そうやって段階を踏めば、より高い目標を達成できることになるはずです」

※注1
Bootstrap Alliance:'97年にエンゲルバート氏の提唱で組織された、NIC構想を機能させる枠組みを提供するための組織。'98年11月には、日本国内の学者や研究機関が集まり、Bootstrap Alliance Japanが結成されている。

※注2
Network Improvement Community(NIC):エンゲルバート氏が提唱する、コミュニティー(組織)のあるべき形。損得などの垣根を越えて知識を共有し、デジタル機器を利用しながら組織の改善を行なっていくというもの。

収録:'98年11月19日

(インタビュー:林信行、構成:報道局 鹿毛正之)


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