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【INTERVIEW】「もの作りによる人作りが楽しい」-ロボコン生みの親 森教授に聞く

1998年12月11日 00時00分更新

文● 報道局 原武士

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 '81年、第1回ロボットコンテストが開催された。その、第1回ロボコンから10年が過ぎた今年の12月14日、オーム社より『ロボコンマガジン』が創刊される。今回ASCII24では、ロボコンマガジンを監修する、東京工業大学名誉教授の森政弘教授にインタビューした。教授はロボコンの生みの親であり、ロボコン高専部門審査委員長である。

ロボコンの生みの親、森教授
ロボコンの生みの親、森教授



「“命の琴線に触れる”雑誌になれば」

----ロボコンマガジン創刊の経緯について教えてください。

「今年の5月に、オーム社から、僕にコンタクトがありました。しばらくぶりに会いたいというのであってみたら、『ロボコンの雑誌を出すんだけどどうですか?』と言われて。オーム社としては僕に会うまではこういった雑誌を出そうといった決心はなかったみたいだけど、高専や中学校でのロボコンの話をしてるうちに、話が盛り上がって、よし! 出そう! と」

----ロボコンマガジンの内容はどうなるのですか?

「ロボコンに関わることはみんな網羅するつもり。他にもロボコンとは関係なくても、創造性を開発できるようなものや読んで楽しいもの。僕はそういった物を連載で書いて行こうと思います」

----どういった世代をターゲットに?

「これは難しいところで、あらゆる世代に読んで欲しい。だけど、技術的に言えば中学生でも解るようになるかな。やさしい表現だけど大学生が読んでも手応えがあるようなもの。中学生なりの力量の範囲で中学生でも読めるものを目指したい」

----雑誌としていけるという手応えはありますか?

「ロボコンというものは、僕が仕掛けただけではこんなに流行らなかったよ。人が、求めているんだよね。“命の琴線”に触れるところがロボコンにあるらしい。僕はただの言い出しっぺ。オーム社は直感的に何か思い当たるところがあったようで大変な力の入れようだよ」

ロボコンは広い意味でのロボット

----ロボコンは現代のロボット工学の中ではどのような位置付けにあるのですか

「ロボコンで使うロボットというものは、いわゆるロボット工学で考えているところでのロボットではないのです」

「世の中には、“非常に広義でとらえたロボット”、“広い意味のロボット”、“中くらいの意味のロボット”、“狭い意味のロボット”というのがあると思う」

「例えば、デジタルカメラなどは非常に広義でとらえたロボット。ロボットというよりは自動機械ですね。産業ロボットのように自立制御の物は中くらいの意味のロボット。ソニーの2足歩行ロボットは、狭い意味でのロボット、すなわちヒューマノイド(人間型)ロボットの入り口。ロボコンで取り扱うロボットというのは広い意味でのロボットだよ。何しろ、自立制御でなくて、人間によるリモコンですからね。ロボット工学でのロボットの定義にこだわるなら、ロボコンで扱っているものはロボットではないね」

----ロボコンの目的とは?

「ロボコンは“狭い意味でのロボット”を作るための練習台ではない。人間の将来に必要な“創造性”を養うためにあるんだ。人間教育を行なうためのもの。こういう場面では、ロボットが広い意味か狭い意味かこだわっても意味は薄いよね。創造性とは無から有を作るもので、今の教育がやっているようなパズル解きとは違う。パズルを解いているだけでは、技術が進化するとか芸術が進むとかはありえないのではないかな」

全中学校の1割にロボコンが浸透

----ロボコンの歴史について教えてください。

「ロボコンにもいろいろあってね、僕が関わっているのはNHKの“アイデア対決ロボットコンテスト”。大学のものと高専のものがあって、さらに大学には国際大会と国内大会とがある。大学の国際大会が今年で9回目、国内大会が今年で8回目かな」

ロボコンの歴史をボードに書いて説明する森教授
ロボコンの歴史をボードに書いて説明する森教授



----他にロボコンと呼ばれているものは?

「ロボリンピックという科学技術省の推進するものがあって、それの資料によると、全世界で50くらいのコンテストがあるようですね」

 森教授の関わっているロボコンは、'81年に、森教授の発案と東工大制御工学科の学科を挙げての協力で始まったもの。単1電池2個のエネルギーだけで人間が乗って走る車の競技というのがきっかけ。この競技は、'88年の第1回高専部門のロボコン開催まで毎年続けられた。

----現在ロボコンの認知度はどれくらいでしょうか

「全国1万2000校くらいある中学校のうち、1割の1000校くらいが学校内の授業としてロボコンを取り入れている。最近では工業高校でも授業にロボコンを取り入れているところもあるね」

「始めた当初はロボコンに理解のない人が多かったよ。遊んでないで研究しろっていう感じでね。最近になってやっとロボコンのエデュケーションの部分が認められてきました。エンターテインメントの部分だけを見てた人々は反対したね」

眼力が思考の飛躍をもたらす

----最近のロボコンでは、過去に比べてロボットの技術力が上がってますか

「ロボットの技術力というよりはロボットを作る技術力がアップしてきたというべきかな。それは、メカニカルな部分もあるし、機械の信頼性が上がってたこともある。伝統の積み重ねというのが力になっているね」

----ホンダの2足歩行ロボットについてはどう思われますか?

「あれはまったくのブラックボックスだね。一般には動くビデオしか見せないし、技術が洩れるといけないといって、多くの部分は公開してないんだ」

「ロボコンの大切なところは、オープンなところだよ。技術に限らず、いろんなものがブラックボックス化して行く世の中で、技術を裸にするという、ブラックボックスと逆の意味をもっている」

----ホンダの2足歩行ロボットというのはいきなり出現したすごい技術なのですか?

「いや、いきなり出てきたわけではない。重心移動などの制御理論はできている。でも、それを実現させるにはコストが掛かりすぎるんです。もちろん、ただ真面目に研究しているだけでは不可能だよ。ああいう物を開発するには眼力が必要。ロボコンにはそういった眼力を養成する力がある。思考の飛躍、つまりアナログ的に延長線上にあるのではなく、思考が別のところに跳んで行く必要があるんだ。これこそが創造ですよ」

握手で人の手をつぶさないのは結構難しい

----ソニーのペットロボットなどはどうですか?

「ペットロボットという発想は、昔からあったよ。こんなの連れて歩いたら面白いなぁって感じでね。そのころはCPUとかなくて、歯車でうごいてるものだったけど、“メカニマル”って名前もあったんですよ。ヘビもあるし、ムカデもある」

ヘビ型のメカニマルを取り出して見せてくれた
ヘビ型のメカニマルを取り出して見せてくれた



----ロボットは将来、人の生活に入ってくるでしょうか?

「入ってくるでしょうね。まずは、ペットロボットという形で入ってくると思うよ」

----福祉は難しいですか?

「福祉は難しいね。今のロボットにとって非常に難しい点は、相手を動かす時に、ロボットの動きに従えてしまうということ。たとえば、人と握手をする時に、人間の動きに合わせて動いてくれない。今の技術ではロボットの動きに人間が合わせるしかできないんです。ロボットっていうのはいいかげんな動作ができない。まぁ、できないことはないが、金が掛ってしまうんだ」

直立しているだけでヘタる

----現在のロボット研究でネックとなってる部分とは?

「ロボットで一番難しいのはエネルギー源。ホンダのロボットだって、30分くらいしか動けない。人間がずっと立ってると疲れるように、ロボットも立ってるだけでバッテリーを使うわけだ。立ち続けるために、常にどっかの歯車が回ってなければいけない。これがロボットと、ただの機械の違うところですね」

----人間が100パーセントとすると、今のロボットは何パーセントくらいですか?

「3パーセント、いやもっと低いかもしれない。でも、ロボットにはロボットにしかできないことがあって、人間には人間にしかできないことがある。その重なってるところが3パーセントっていうだけですよ。これはロボットに限らなくて人工の機械には全部いえることだね。人間にはとうてい出せない力を出すパワーシャベルとかね」

ソフトは有限、ハードは無限

----教授にとってのロボコンとはどんなものですか?

「ロボコンは、やればやるほど生き物のすごさが解ってくる。むしろ生き物のすごさを本当に実感できるものだね」

「特に、中学校のロボコンが一番手応えがあって面白いね。ロボコンの授業の時は、子供たちの目の輝きが違う。いかにも不良のような子供もロボコンの時は進んで授業に参加してくる。ほんとに面白いね。モノ作りによる人作りというのがロボコンの信念ですよ」

----“モノを作ることで人を作ることができる”ですか?

「そう、モノっていうのは、いわばハードウェア。ハードウェアと、ソフトウェアとは大きく違う。ハードウェアというのは、いろんな材料とか資源のこと。これは、神様の創ったもの。ソフトウェアは人間が作ったもの。人間の創造は無限っていうのは間違いで、人間が作ったものは有限なんですよ。作った人のレベルを超えることができない。ところが神が創ってくれたものは、いくらでも、その人のレベルに応じていろいろなことを教えてくれる。ハードウェアには人を育てる力があるんだ」

「こういう唄がある--“盛り立てて、眠れる才能呼びさまし、我を忘れて苦労と快楽(けらく)”--これが大事だよ。これがモノ作りの極意」

これが“モノ作りの極意”これが“モノ作りの極意”



「我を忘れると人間が育つ。ロボコンは、子供たちに我を忘れさせることと、苦労と快楽を同時に組み合わせて与えるんだ。ロボコンは教育的に言うと、苦労のデザインに成功したんだね。いろんな苦労があるけど、ロボコンは、脅迫してしごくような苦労は与えない。自ら進んで欲する苦労を与えるんだよ」

「例えば、コンテストの前の日なんか、いつもは寝坊をするような生徒でも、朝早くから学校にやってきて目の色を変えてロボットを作っている。動かないロボットを一生懸命動くように苦労している」

「技術だけにとどまらず、人間育成まで成し遂げてしまうのがロボコンだね。みんな実に良い顔をしている。目が輝いてくる。子供たちの反応のよさっていうものを味わったらもう止められないね」

森教授は目を輝かせながら語ってくれた。ロボコンは子供たちにとってだけでなく、森教授自身にも常にいろいろなことを発見させてくれているようだ。ロボコンを語るときの森教授の笑顔は実に素晴らしいものだった。

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