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【INTERVIEW】『世界大百科事典第二版』は編集者とエンジニアの一大コラボレーション---日立デジタル平凡社取締役、藤井泰文氏に聞く

1998年12月28日 00時00分更新

文● 報道局 伊藤咲子

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 日立デジタル平凡社は、百科事典で知られる平凡社と日立製作所の共同出資で、平成8年に設立された。代表的な製品は、'98年3月に発売された『世界大百科事典』。'98年10月に早くも第二版が発売され、同社の発表では合計で5万本が出荷されているという。

 今回は、日立デジタル平凡社取締役、藤井泰文氏に第二版での改良点などについてインタビューを行なった。

日立デジタル平凡社取締役、藤井泰文氏。小さい頃から平凡社の事典を愛用していたとか
日立デジタル平凡社取締役、藤井泰文氏。小さい頃から平凡社の事典を愛用していたとか



マルチウインドー方式を採用した理由

---御社の『世界大百科事典』とマイクロソフトの『ENCARTA』に加え、小学館からも『日本大百科全書+国語大辞典』が出版されますね

「多くの会社がCD-ROM大辞典の分野に参入することは、市場の活性化にもなりますから賛成です。1項目あたりのコンテンツ分量からいうと、『世界大百科事典』と『日本大百科全書+国語大辞典』は大項目のCD-ROM事典、『ENCARTA』は中項目の事典と分けられます」

「『世界大百科事典』は2枚のCD-ROMに分かれていますが、各項目のコンテンツはそれぞれのCD-ROM内に全て収録されています。テキストと画像を別々のCD-ROMに分けたりはしていません。この一枚主義が大きな特徴です。もちろん、本当はDVDバージョンのように一枚で収めるのが理想です。CD-ROM版では、それぞれのCD-ROMに1.2MBくらいずつしか残り容量がなかったんですよ」

「我々は『世界大百科事典』のインターフェースを“百科事典デスクトップ”と呼んでいます。本の事典で調べ物をする場合、本文・地図・統計データなどを、机の上に並べて見比べますよね。これと同じことをできるように、マルチウインドー方式を採用しました。これに対し、『日本大百科全書+国語大辞典』と『ENCARTA』は、基本的にシングルウインドー方式ですから、いちいち切り替えなければなりません」

「CD-ROMも同様です。いちいち円盤を入れ替えたり、ウィンドウをひっくり返していては、事典としての醍醐味が薄れるのではないでしょうか」

“探索”ディスクと“検索”ディスク

---『世界大百科事典』では“検索”ディスクと“探索”ディスクという2種類のディスクが用意されていますが、これらはどう違うのですか

「それぞれ『世界大百科事典』全35巻に収録されているが収録されていますが、“検索”ディスクは調べたい項目が最初から分かっているとき、1点に絞り込んでいく構成になっています。索引検索、全文検索、項目グループ名検索が可能です」

「一方、“探索”ディスクは、興味を持ったテーマから、事典の内容を自由に散策する構成になっています。何の気なしに事典をパラパラとめくる感覚ですね。ビジュアル検索のほか、“道”“光”といったキーワードからの例示検索などが可能です」

---小学館の『日本大百科全書+国語大辞典』は“自然科学”“社会・文化”といったカテゴリー分類を採用していますね

「小項目ならともかく、大項目の事典の場合、カテゴリー分類はあまり良い方法とは言えないと思います。例えば“牛”という項目を引いた場合、大項目の事典には、動物としての“牛”の情報だけでなく、宗教的話題、歴史的話題など多数のカテゴリーに渡った内容になっていてほしいでしょう。カテゴリー分類を行なうことで、テーマの持つ話題の連鎖が消えてしまいます」

「また、大項目の事典をジャンル別に引くというのも現実的ではありません。逆にちょっとした疑問は、マルチメディア百科事典『マイペディア』のような小項目の事典で引けば良いのです。こうしたことが理由で、大項目事典の分類法は“あいうえお順”の索引しか方法がないと思います」

『世界大百科事典』には、マルチメディア百科事典『マイペディア98』がセットで付属。プロフェッショナル版では、『世界大百科』と『マイペディア98』が1枚に収録されたDVD-ROMが付属している『世界大百科事典』には、マルチメディア百科事典『マイペディア98』がセットで付属。プロフェッショナル版では、『世界大百科』と『マイペディア98』が1枚に収録されたDVD-ROMが付属している



日立と平凡社のコラボレーションでデータベースを作成

---コンテンツを収めるデータベースのシステムは、日立製作所が担当したのですか

「いいえ、日立製作所出身の日立デジタル平凡社社員が行ないました。彼らの持つノウハウは、ビューアーとデータベースシステムの設計に生かされています」

「逆に平凡社出身の社員のノウハウは、編集作業です。『世界大百科事典』の制作にあたり7000人から成る編集委員会を組織したのですが、どういう人を組織化するか、項目の選別、記述量、トピックスの追加などは、すべて編集者の力量に左右されます」

---データベースのシステムを詳しく教えてください

「“編集支援システム”というシステムを構築しました。これは事典を制作する目的で作ったデータベースの一種です」

「この“編集支援システム”内にコンテンツを蓄積していくことで、どのジャンルに項目がどのくらい蓄積されているか、更新はいつ誰が行なったか、最後のイメージがどうなっているかなどが確認できます。コンテンツのデジタル化とは関係なく、編集者のなかには事典完成形の青焼きがあるわけです。URLのリンクが張られているか、画像は入っているかといったことはもちろん、全体の構成を確認できることが編集者にとっては一番重要なのです」

---CD-ROMの雛型が入っていると思えばよいのでしょうか

「任意の時点で最新の『世界大百科事典』が編集支援システムのなかにデータとして存在しています。ですから、いつでも締めて製品にすることが可能です。最終的なメディアはCD-ROMでもDVD-ROMでも、何でもいいんです。このデータベースが日立デジタル平凡社そのものと言っていいでしょう」

「編集者の仕事を支援するシステムは、メーカー単独では制作できません。編集者と技術者の両方を抱えた日立デジタル平凡社だからこそなせる業です」

インターネット上ににデータベースを解放

---メディアの1つとしてインターネット上の展開は考えていますか

「'99年春に、ユーザー会員サービスの“ネットで百科”を開始する予定です。構成は最近の動向、読書案内、デュアル検索システムなどを企画しています」

デュアル連想システムを紹介する藤井氏。開発中のため検索画面は現在未公開
デュアル連想システムを紹介する藤井氏。開発中のため検索画面は現在未公開



---デュアル検索システムとは、どのようなものでしょうか

「例えば“古典派”という語句を調べるとしましょう。画面に“古典派”と入力すると、右に経済学、左に音楽の“古典派”から連想される項目がツリー状に並びます」
 連想された単語が線で結ばれ、ツリーを構成する。例えば右の経済学の場合、“経済学”という単語を中心に“リカード”“ケインズ”などに分かれ、さらに“リカード”が“労働価値説”、“ケインズ”が“マクロ経済学”といった項目に細分化していく。また、and検索を利用した短い文章からの連想も可能だ。

「これらの単語は、連想の線引きをつけたまま、検索者の思考に沿って自由に移動することができます。ここで知りたい単語そのものが見つかったら、そのコンテンツを表示させることもできます。さらに連想を深めたい場合には、例えば“ケインズ”を選択すると、“ケインズ”を頂点とした新たなツリーが作成されます。内容を細分化、深化するとともに、新たな連想のツリーを作り上げるのです」

---入力する単語はユーザーの任意ですか

「連想の中心となる単語の設定はユーザーの自由です。草木の名称でも、伝統芸能の名称でも、何にでも対応します」

---“YAHOO!”や“Goo”といった検索サイトのようにポータルサイトとして使用できる可能性が十分にあると思うのですが

「ホームページ検索サイトは、あくまでも“情報”の検索にしかなりません。情報とは個人の独断も含みます。我々が目指すのは“知のポータルサイト”。普遍的な知識を検索するデータベースです。一般にマルチメディアというと、動画や音声の収録ばかりとりあげられますが、日立デジタル平凡社では、検索システム自体がマルチメディアだととらえています」

 自らも『世界大百科事典』のヘビーユーザーであるという藤井氏。紙、CD-ROM、Webとメディアは変わろうとも、編集者の能力が製品の出来を左右すると、力強く語った。デジタル百科事典のスタンダードがどの製品になるか、戦いは始まったばかりだ。

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