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【INTERVIEW】『ホーホケキョ となりの山田くん』はこうして制作された! スタジオジブリ高橋望氏に聞く−−前編:ジブリ流デジタルアニメとは?


1999年7月2日

一昨年、『もののけ姫』が驚異的な大ヒットをおさめ、ディズニーとの提携も果たし、名実ともに世界的なアニメーション・スタジオとなった(株)徳間書店のスタジオジブリ(以下ジブリ)。そのジブリの最新作にして、日本の名匠、高畑勲監督作品『ホーホケキョ となりの山田くん』(以下、山田くん)が7月17日(土)より全国の松竹・東急洋画系映画館でロードショー公開される。

ジブリは、本作品から制作に本格的にコンピューターを導入した。彩色工程より手作業を一掃し、セルを一切使わないフルデジタルペイントへ移行させた。制作も最終段階に入った慌ただしい中、映像企画制作部の部長の高橋望氏にその興味深いデジタルペイントの世界について伺った。

彩色作業は100パーセントデジタル

高橋望氏。この日はノートパソコンを持参
高橋望氏。この日はノートパソコンを持参



『となりのトトロ』に続く“となり”シリーズ第2弾として制作された『山田くん』は、朝日新聞朝刊に連載中のいしいひさいち氏原作による4コママンガ“となりのやまだ君”(現在は“ののちゃん”に改題)をアニメ化した作品だ。

この4コママンガ特有のテンポ、リズムを生かしつつ長編映画に仕立てた。キャラクターも今までのジブリ作品とは大きく異なり、原作にきわめて近い、非常に単純化されたキャラクターを生み出している。

もう1つ、本作品では画面全体に水彩画を思わせる彩色技術である“淡彩”の手法を用いているのが、大きな特徴だ。この彩色作業にコンピューターを大量に投入したという。

なぜ、コンピューター導入に踏み切ったのか、そこでは一体どのように作業が行なわれているのか、ジブリにおける映像製作の責任者である映像企画制作部の部長の高橋望氏にお話をうかがった。

山田くんイメージカット(c)1999 いしいひさいち・畑事務所・TGNHB
山田くんイメージカット(c)1999 いしいひさいち・畑事務所・TGNHB



−−今回の『山田くん』では、水彩のタッチで描かれ、不思議な暖かさと懐かしさが、手作りの感触で表現されています。セルアニメであのタッチを出すのは難しいと思うのですが。

「通常のセルアニメのベタッとした感じに対し、ジブリでは『山田くん』の彩色手法を“淡彩”と呼んでいます。淡彩の表現は、NHKの“みんなのうた”の一作品に見ることができるように、アニメーターが画用紙に手書きで彩色するといった方法があります。もちろんこうしたやり方でも、淡彩を表現することはできます」

「しかし、動画数17万枚強という映画に使う技法としては、このやり方は現実的ではありません。そこでコンピューターを使った“デジタルペイント”を前提とすれば、映画でも淡彩を採用できるのではないかと高畑(監督)は考えたのです」

−−あのタッチをコンピューターが生み出しているというのは、驚きです。前作『もののけ姫』でもCGが使用されていましたが、『山田くん』と前作では制作環境にどのような変化がありましたか?

「『もののけ姫』では一部にCGを使用していましたが、『山田くん』は彩色の過程全般にコンピューターを導入しています。今回彩色部分に関しては、手作業を一切行なっていないのです」

「制作環境の変化ということでは、『山田くん』の全体の制作期間を『もののけ姫』よりも短かくすることができそうです。ちなみに『山田くん』の作画数17万枚強は、『もののけ姫』のそれを超えるものです。それがコンピューターの恩恵なのか、作品の内容や性格によるものなのか、制作が終了していない現段階で、単純に異なる作品を比べ、評価を下すことはできません」

「ただし、彩色作業に関して言えば、絵の具を乾かす手間がなくなったのは、コンピューターへ移行したことによる1つの利便といえますね。もっとも、その逆にネットワークのメンテナンスなどコンピューターならではの手間が増えてしまったんですが(笑)」

「コンピューターの使用については、『もののけ姫』の制作末期から、次回作の彩色に関しては、コンピューターを導入する、という方針が決まっていました。というのは、セル画制作には欠かせないセル絵の具やセルの供給が心許なくなったことにも起因しているんです」

−−国内の他のスタジオは、現在でもセルを用いているところが大半ですよね。その供給が心許ないとは?

「アニメーションの彩色作業はマテリアル(この場合は画材)に制御されます。通常は、アニメーターが絵を描き、トレースマシーンでカーボンを使ってアセテートの透明板セルに転写し、そしてそのセルにセル絵の具で彩色しています。カーボンもセルもセル絵の具も特殊なマテリアルで、アニメーション以外の用途がありません」

「それが、『もののけ姫』制作の最中にそれらの供給が危うくなる状況が表面化してきました。セル絵の具を作る工場が閉鎖されたり、アニメーション用のセルの製造がストップしたりと、具体的にはそんな理由です。代わりにヨーロッパの会社からマテリアルを供給するという話もあったのですが、ジブリが求める品質には届かない。デジタルペイントへの移行では、実はこの理由がいちばん大きかったと思います」

 スタジオジブリの玄関。トトロと山田くんのオブジェが
スタジオジブリの玄関。トトロと山田くんのオブジェが



−−コンピューターの導入で現場の作業工程に変化はありましたか?

「彩色の現場は、やりがいがあるが厳しい仕事で、労働集約型の作業なんです。他のアニメスタジオの場合、彩色は外注するところも多いのですが、ジブリは、そうではありません。アウトソーシングするよりも、すべての工程を1つの社屋でやっていくという方針がありますから、基本的に内部で行なっています」

「作業工程から見ると、彩色は下流の工程になります。シナリオ、コンテ、原画、レイアウト、背景、動画、これらはすべて従来どおり紙と鉛筆で描いています。そうした意味においては、アニメーション制作の流れ自体は従来と変わっていません」

「その後の動画をスキャナーでとってデジタルペイントし、手書きの背景をデジタルカメラで撮影、これらを合成して完成します。ちなみに背景はサイズが大きいので、フラットベッドスキャナーではなく、デジタルカメラのほうがハンドリングがしやすいです」

アニメの彩色現場が、コンピューター導入で一体どのように変わったのか。後編ではいよいよ制作現場に潜入する。後編へ続く。

(千葉英寿/編集部 伊藤咲子)


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