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【INTERVIEW】外国の仲間が作った音源データを売ってました−−クリプトン・フューチャー・メディアの伊藤代表に聞く


1999年7月9日

作曲素材としての音楽データを扱っている会社が札幌にある。'95年に伊藤博之氏が設立したクリプトン・フューチャー・メディア(株)は、世界中に取引先を抱え、カナダにもオフィスを構えるという国際派のベンチャー企業だ。

海外にも友人が多いという伊藤氏は、副業として行なっていた音源データ販売が、いつのまにか本職になったという。データそのものを主力商品とする同社について、話を聞いた。


取り扱っている音源データはCD2000枚分!
−−クリプトン・フューチャー・メディアの業務内容について教えてください

「クリプトンフューチャーメディアは“音”を扱う会社、人々に対して“音の素材”を売る会社です。提供する音源のジャンルは大きく2つに分かれていて、1つはテレビドラマや映画などで使う効果音で、売り先はテレビ局など映像制作会社、ゲームメーカーなどです」

「もうひとつは音楽をコンポーズ(作曲)するための“素材音”。いわゆるサンプリングミュージックと呼ばれる分野で、最近はこちらが非常に重要になってきています」

クリプトン・フューチャー・メディアの伊藤代表
クリプトン・フューチャー・メディアの伊藤代表



−−“音源”提供会社としてのクリプトンの特徴は?

「効果音などの音を売る会社は当社だけではありませんが、当社の特徴は、ユーザーが音を構成している各パーツを、たとえば楽器ごとに分解して使えるように、サンプリングデータとして提供している点です。つまり、好きなパーツを選んでパソコン上で切り張りするだけで新しい曲をコンポーズできるわけで、そのコンポーズのための素材を提供するのが我々の仕事です」

「当社が提供している音源は自分たちで作っているわけではなく、販売ライセンスを結んだ海外のデベロッパーが制作した音源を、CD形式で仕入れて国内にディストリビューションしています。扱っている素材の量はCDに換算すると約2000枚程度。音の数で言えば100万件を超えています」

「個人的に趣味でやっていた頃から数えるともう10年近くこうしたことを続けているので、世界のどこでどんな人がどんな音素材を作っているかおおよそわかっていて、その中のかなりの部分を押さえていると思います」

サンプリングは、ヒップホップ文化が生みだした
−−最近のサンプリングミュージックの動向について教えてください

「デジタルミュージックはMIDIからPCMの時代に移行したと言ってよいと思います。つまり、オーディオ情報そのものを直接的にソフトウェアでハンドリングしてコンポーズする手法が普及して、より誰でも簡単に作曲できる時代になりつつあるわけです」

「音楽的素養ではなくて、音楽的センスが求められる音楽ジャンルが生まれていて、ケミカルブラザーズなどがその代表例ですね。特に最近は、パソコンでシンセサイザーをエミュレートする“ソフトシンセ”と呼ばれるものが流行っています」

ソフトシンセ:ソフトウェアシンセサイザー
シンセサイザーの機能を備えたパソコンソフト。ローランド(株)の『VSC-88H』や、ヤマハ(株)の『S-YXG』シリーズなどが代表的。

ノートパソコンにインストールされたDTMソフトのデモを実演する伊藤代表
ノートパソコンにインストールされたDTMソフトのデモを実演する伊藤代表



「私は70年代後半以降のヒップホップ文化がサンプリングミュージックの文化を生み出してきたと認識しているんですが、最近では一般の音楽シーンにまで、そのサンプリング文化が広まって来ているように思います。もちろん、提供される音源データの量的拡大、品質の向上、それからコンポーズするためのソフトウェアの充実、関連メーカーのバックアップが主な要因になっていますが、もっと深い部分で“流れ”みたいなものを感じますね」

「もう少し具体的に言えば、最近の音楽トレンドとしてサンプリングが主流を占める“ダンスミュージック”の動向に注目しています。例えばドイツのラブパレードに代表される大規模なダンスイベントに数十万単位の人が集まったり、趣向は全く違いますが、札幌でも“よさこいソーランまつり”が年々華々しくなっていて、なにか“音楽、踊り、野外、大規模な参加”というトレンドが存在しているように感じます」

「おかげさまでこうした状況を背景にして当社の“音ネタ”に対するニーズも高まっています」

インターネット的広がりを持つ個人広告に強い衝撃
−−それでは、音源提供ビジネスを始めた経緯について教えてください

「きっかけは10年ほど前にアメリカのメジャーな雑誌の末尾についているクラシファイド(個人が出す三行広告)を見つけたことです。どういうことかと言うと、個人がメジャーなメディアに自分の主張を掲載したり、発表する文化に対して、そのときすごく愕然としたんですよ。クラシファイドは雑誌という“場”を使って個人と個人が直接結びついていくという、よく考えるととてもインターネット的な文化だと思うのですが、そこに何か強く惹かれるものがありました」

クラシファイド:Classified
クラシファイド欄は、米国のほとんどの新聞・雑誌に掲載されており、特に新聞では8〜16ページほどの別冊になっていることも多い。いわゆる“売ります・買います”が中心で、その他にメンバー募集の告知なども見られる。情報の掲載は有料で、米国の地方紙では広告収入の多くをクラシファイド欄から得ているケースが多い。



「それで自分も何か情報発信したいと思って、もともと学生の頃からDTM(デスクトップミュージック)を趣味でやっていたので、試しに自分で作ったMIDIの音楽データをクラシファイドで売ってみることにしました。英語はできないし、当時はまだFAXもインターネットも普及していなかったので、郵便通販で始めてみたら、なんと注文が来るわけですよ。びっくりしました」

「それから同時に、外国で自分と同じようなことをやっている人たちとフロッピーベースで音楽データを交換しあいながら、共同作曲をするようなことも始めました」

外国の仲間が作った音源データの販売がキッカケ
「そんなことをしばらく楽しんでいたのですが、'92年に円高が起こって、続かなくなりました。つまり、雑誌に広告を出せば出すほど円高のせいで赤字になってしまうわけで、もともと趣味の範囲だったので残念でしたがやめることにしました」

「そうしたら、今度は共同作曲していた外国の仲間たちが本格的に音源の制作・販売をビジネスとして始めるようになり、日本国内の販売を自分がお手伝いするようになったのです」

「それが今の仕事の形態の実質的なスタートと言えますが、その頃はCDを予め預かっておいて、国内で売れた分だけその都度海外に送金するという出来高方式でやっていました。昼間は堅い職業に就きながら、今でいうSOHOスタイルで手伝ってたんですが、だんだん片手間でやるボリュームを超えてしまって、'95年に会社を設立しました」

「何か、成り行きで会社を作ったみたいな感じですが、サンプリングミュージック自体、世界的に見てもそうした草の根的な立ち上がり方をしてきた分野の音楽だと思います」

素材を求めて集まってくる場所をネットに形成する
−−これからチャレンジしたいことなど教えてください

「インターネットが国内でも使えるようになった頃から、音源をネットワークで提供することについて考えていましたが、ようやくその機が熟してきたところではないかと思います」

「ビジネスとして考えると、ある程度のボリュームを単位としてCDで販売してきたものが、コマ売り、あるいはコピー可能になるネットビジネスは慎重にならざるを得ない部分があります。しかし、今までやってきたこととビジネスのモデルを変えて、例えば音楽が好きな人たちが素材を求めて集まる“場”をネットに形成するようなことができると非常に面白いと思います」

「ダンスダンスレボリューションやビートマニアなど“音ゲー”ブームに象徴されるように、“音”は人間にとって根源的な存在だなーと、最近痛感しています。普通の人々がいろいろな音楽素材を基に、いろいろな音楽を更に作り、そしてそれがネットワークを介して更に別の形態へと発展していくような文化、あるいは“場”といったものがこれから形成されていくだろうし、とても興味があります」

(聞き手:尽田万策/構成:編集部)


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