このページの本文へ

【INTERVIEW】ウェブにフォーカスしてきたPhotoshopの現在と未来--米アドビシステムズ社Kevin Connor氏に聞く

1999年08月18日 00時00分更新

文● 聞き手:千葉英寿/編集部

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

米国において現地時間の7月19日、『Adobe Photoshop 5.5』(英語版)の販売が開始された。イメージ編集ソフト分野における王者、Photoshopの最新バージョンとなる同5.5は、同社のウェブアプリケーションである『Adobe ImageReady』を統合した形で提供されている。

この統合化の動きは、プロフェッショナルイメージングやプリントの市場で揺るがぬ地位を築いてきたPhotoshopが、その方向性をウェブに大きく転換してきた、ということを意味する。

その真意はどこにあるのか。Photoshop 5.5にはどのような秘密が隠されており、今後どのような展開が待っているのか。米アドビシステムズ社のAdobe Photoshop担当プロダクトマネージャーであるKevin Connor(ケヴィン・コナー)氏にお話を伺った。

米アドビシステムズ社のケヴィン・コナー氏
米アドビシステムズ社のケヴィン・コナー氏



GoLiveの買収でインターネット戦略に拍車

--アドビは、今年に入って、急にインターネットにフォーカスした戦略を打ち出しているように感じていますが、それはなぜでしょうか?

アドビのインターネット戦略は、すでにある程度の時間が経過しており、特に今年からということはないと思いますが、それが進化して、現在さらに強化されているとは思います。そのひとつの理由は、GoLive社の買収です。アドビ製品が、『Adobe GoLive』のようなプロレベルのオーサリングツールと総合的に連携していくのは重要な点だといえます。

--ライバルのマクロメディア社は早くからウェブにフォーカスした戦略を強く打ち出していましたが?

アドビはプリント分野でその地位を確立してきました。それに対し、マクロメディアはプリント分野において同じような強みを持ってはいないと思います。『FreeHand』というソフトは例外ですが。

プリント分野では、多くのユーザーがアドビ製品に依存しています。既存の製品をウェブに展開していくというのは、大変チャレンジングな目標ですが、最終的にはユーザーにとって非常に価値の高い結果を得られるのではないかと考えています。ですから、プリント分野でPhotoshopが持つイメージと同じ質のものを、ウェブで展開できるということになると思います。

--これまでのアドビはウェブを軽視していたと思うのですが、いつからこうした方向に変換されてきたのでしょうか?

Photoshopの場合は、明らかにウェブを軽視してきたといえますが、これまでのひとつの伝統として、フルカラーのイメージの質を大切にしてきたのです。ところがウェブのほうは、インデックスカラーイメージという、画質としてあまり優れていないものが主流でしたので、カラーイメージとして劣る物を抱え込むのはイヤだという気持ちが働いていたのではないかと思います。

ImageReadyはPhotoshopとは別の製品としてウェブにフォーカスを当てており、イメージの最適化という面では、かなり画期的なものになってきていると考えています。例えば、カラーに関しても最高の品質のものができるようになったわけです。

ここ1年の間、『Adobe ImageReady 2.0』になってからは、ImageReadyを切り離すのをやめて、Photoshopの一部として提供していくという大きな変化があったわけです。特にイメージの最適化を目的に、外観や見た目をよくすることに焦点を当ててきました。そういう意味で、Photoshopはかなり進化したといえます。これからはユーザーからのフィードバックに耳を傾けて、ふたつのアプリケーションの間でさまざまなフィーチャーを片方だけに搭載するのか、それともまた別のところに載せるのかといったことを、調整していくことになると思います。

『Photoshop LE』を99ドルで市場に投入!

--インターネットユーザーはソフトにお金を使わない傾向にあるので、彼らはPhotoshopを買わないのではないでしょうか?

まず、プロが制作するウェブサイトの90パーセント以上において、Photoshopが使われています。ウェブにおけるスタンダードツールとなっているわけです。また、個人でもプロと同じツールを使いたいという人が多く、実際に使われていることが弊社のリサーチから判明しています。そうしたことから、ウェブに利用されている画像の大半が、Photoshopを通っている、ということになっています。

確かにインターネットユーザーはお金をかけない傾向にありますが、それは価格競争が進んで安いことが期待されているからだと思います。Photoshopは確かに値段の高い製品ですが、対価を支払うに値する製品として評価されていると認識しています。

ですが、価格に敏感なユーザーに対する対応も考えています。そのひとつとして、スキャナー製品などにバンドルされている『Adobe Photoshop Limited Edition』(Photoshop LE)を、米国においてリテール市場に出すことを発表しています。価格は99ドル(約1万1500円)の予定です。インターネットフィーチャーはPhotoshop 5.5で出して、Photoshop LEはインターネット価格で出す、ということですね(笑)。

インタビュー収録時点では未発売だったPhotoshop LEだが、8月18日現在、米Adobeのサイトで正式に販売がアナウンスされている。日本語版など英語版以外についても、近日中の発売を予定しているというインタビュー収録時点では未発売だったPhotoshop LEだが、8月18日現在、米Adobeのサイトで正式に販売がアナウンスされている。日本語版など英語版以外についても、近日中の発売を予定しているという



Photoshop LEにはウェブ向けのハイエンドなフィーチャーは盛り込まれていませんが、今後は盛り込んでいくことになります。また、Photoshopのバージョンが上がれば、Photoshop LEもそれに合わせていくことになると思います。日本市場に関しては未発表ですが、市場の動向を継続して調査中です。

--インターネットの市場でアドビはうまく利益を上げることができるとお考えでしょうか?

儲かるはずだと考えています。実際に利益が上がっていますし、うまく進んでいると思います。インターネット分野の企業としても、黒字の出せる企業になりたいと考えています(笑)。

--インターネットは大変制約のある分野ですが、その制約をどのように乗り越えていこうと考えていますか?

ウェブ用のグラフィックスを改善するという点では、SVG(Scalable Vector Graphics)に取り組んでいます。アドビは、W3Cで進められているSVGのワーキンググループにも参加しているんですよ。

PostScriptやPDFを同質のものとするSVGでの目標は、結局、ベクターフォーマットでHTMLやラスターフォーマットを統合していくことになるではないかと思っています。この統合が果たせればデータサイズを小さくでき、より速いダウンロードが可能になります。Photoshop単体での展開では、インターネットには確かに限界がありますが、これらの分野で最適化を図っていくつもりです。

新しい画像圧縮技術“Lossy GIF”を導入

--米国ではすでにPhotoshop 5.5が販売開始されていますが、日本語版もまもなく発表されると聞き及んでいます。英語版と日本語版に違いはあるのでしょうか?

アドビの開発戦略では、できる限りそうした違いが出ないようにしています。ですので、Photoshop 5.5についても、英語版と日本語版ではコードにもほとんど差がありません。例えば、5.0では日本市場を意識してテキストツールに“縦組み”を取り入れましたが、この機能は英語版にも盛り込んであります。

--Photoshop 5.5におけるインターネット向けのフィーチャーは何でしょうか?

ウェブ用のイメージを生成するために必要とされるもの、それらすべてが揃っているということです。例えば、スタティックイメージに関しても画像の最適化ができますし、カラーパレットやサイズでも最適化が図れます。フィーチャーの深さを考えると、これらの機能は最高のものではないかと思います。

また、今回初めて“Lossy GIF”という新しい画像圧縮のテクノロジーを導入しました。これはGIFファイルのサイズを従来の約50パーセントにまで縮小するもので、それでいて画質が落ちないという画期的なテクノロジーです。ウェブ制作においては、より速いダウンロードができるように、イメージのサイズをできるだけ小さくすることが重要です。ですから、Lossy GIFの導入は大きな改善点ではないかと思います。

一方、Adobe ImageReadyの方ですが、こちらはJava Scriptのロールオーバーやスライス、アニメーションといった機能を、これ一つですべて行なえます。

ImageReadyはPhotoshopに統合

--最終的にはImageReadyはPhotoshopに統合されていくのでしょうか?

PhotoshopとImageReadyの統合を継続していくことについては保証できます。かなりの可能性で、ひとつのアプリケーションにまとまっていくことになると思うのですが、果たしてそれがベストな方向なのかについては確信の持てる段階ではありません。

と言うのは、ウェブ自体がどんどん進化している状況において、アプリケーションが単一のものであることが、使い勝手という意味で疑問となるわけです。今後のウェブの方向をにらみつつ、PhotoshopとImageReadyにユーザーがソフトを使っていくうえで、その方向性が決まっていくのではと思います。いずれにせよ、私たちの目指しているのはできるだけシンプルなワークフローなのです。

Photoshopはプリント分野ではある深みに達していると思いますが、ウェブのアウトプットではまだまだといえると思います。そういう意味では、プリントでのノウハウをウェブのほうに活かしていけると考えています。例えば、カラーセパレーションは実現していきたいと思います。もっとも、ページレイアウトのような機能を盛り込むことはないと思います。いずれにせよ、ウェブではイメージ中心のアプローチになっていくと思います。

--これまで主流とは言い難かったImageReadyをPhotoshopに組み込んでいくというのは、Photoshopのメインユーザーの質がこの1年で変わってきたということなのでしょうか?

米国においては、この1年でユーザーが変わったというよりも、数年かけて進化してきたと思います。同時にアドビも変わってきたと思います。必要な部品がすべてまとまってきたということです。今後も改善していくわけですが、いまはベストなポジションなのではないかと思います。付け加えれば、こういったところでGoLiveの買収が有効になってくるのではないかと思います。

--プリントを中心とするユーザーにとっては、ある意味でAdobe ImageReadyのフィーチャーは余計なものになるのではないでしょうか?

ImageReadyのフィーチャーがPhotoshopに搭載されることが、必ずしもマイナスだとは考えていません。実は、1年前にユーザーを対象とした調査を行ないました。その中で“Photoshopのフィーチャーを何パーセントぐらい使っていますか?”という質問をしたところ、“大体10パーセントぐらい”という回答がかえってきたのです。

そこで、次に“その10パーセントだけを盛り込んだ製品を低価格で提供した場合、その製品を買いますか?”と聞いたところ、今度は“それなら買わない”という回答がほとんどを占めました。その理由としては、“いまは使わないとしても、そういう機能があったほうがいい”そうなのです。現在使っていないフィーチャーでも、それを必要とする仕事をする時がくるかもしれないから、ということもあるようです。また、プロのパッケージに揃っているものは、やはり全部揃っていた方がいいという要望も強いようです。

--しかし、いろいろな機能を詰め込んでいけば、ソフトウェア自体が肥大化してしまわないでしょうか?

これは大きな課題であり、チャレンジでもあります。そうしたことにならないように確実に進めていこうと考えています。どのフィーチャーを盛り込んで、どのフィーチャーを盛り込まないのかを慎重に決めていきたいと思います。先ほどもお話しましたように、ImageReadyのフィーチャーを統合するべきか、それとも切り離したほうがいいのかは、ユーザーが決めていくことになると思います。

--ソフトの肥大化を防ぐために、たとえば『Photoshop for Print』や『Photoshop for Web』をリリースするといった展開はありえますか?

アドビの調査では、プリントだけのユーザー、ウェブだけのユーザー、それと両方を扱うユーザーの3者では、両方を扱うユーザーの割合が最も多くなってきています。そうした意味で、現状では別々のバージョンを出すことはないと考えています。

将来、PhotoshopとGoLiveが統合される!?

--今回Photoshop 5.5に盛り込まれた機能として、マスキングが大変優れていると思います。この次に盛り込みたいと考えている機能は何かありますか?

大変デリケートな質問です(笑)。具体的に何がということは公表できないのですが、ユーザ-からの声としては、さらにウェブのフィーチャーに取り組んで欲しいというリクエストがあります。そうしたことから、PhotoshopとGoLiveとの連携について努力をしています。次のPhotoshopとGoLiveについては、“統合”という観点からかなりの大きな変化が期待できるのではないかと思います。

時には笑みをたたえながらにこやかに談笑するコナー氏。カメラを向けると照れを見せるシャイな人物である
時には笑みをたたえながらにこやかに談笑するコナー氏。カメラを向けると照れを見せるシャイな人物である



他には、カラーマネージメントも重要と考えていますので、Photoshop、Illustrator、InDesignといったアプリケーション間で、同じことができるようにしたいと考えています。純粋なフィーチャーとしては、Photoshopのベクターを統合して欲しいということで、IllustratorのファイルをPhotoshopに取り込んでいくというもの、また、Photoshopのベクターツールということも考えられます。こういったことがあくまで概念として、アイディアとしてあります。

--サードパーティーからは優れたプラグインが出ていますが、サードパーティーからの取得も含めてプラグイン開発をどのようにお考えですか?

プラグインでフィーチャーを追加するほうが、アプリケーションの一部として機能を統合するのに比べて、開発期間を短縮できます。ですから、機能の追加に関しては、なるべくプラグインで対応していきたいと考えています。しかし、プラグインのアーキテクチャーには限界があって、高度なフィーチャーを追加することはできないのです。そういった高度なフィーチャーについては、アプリケーションの一部に統合していくものと考えています。

これらのプラグインをサードパーティーから入手することはないと思いますが、ユーザーからの“このプラグインは重要だ”という要望があれば、可能性がないとは言えません。ですが、プラグインのベンダーに対しては基本的に、情報提供などの協力や開発に関する提言で対応したいと考えています。

--Photoshopは幅広い年齢層に使われていると思いますが、何かユニークな事例はありますか?

定年退職された方に意外と多く使っていただいています。趣味の写真に使いたいという人が多いのです。こうした方は、アドビがもともと考えているターゲットユーザーではないのですが、実際にはよく使っていただいています。また、年齢とは関係のない話なのですが、大卒者を対象としたコンピュータースキルのリサーチで、“どんなソフトを使えるか?”というものがありました。そのトップテンに、マイクロソフト以外の製品として唯一、Photoshopがランクインしていたそうです。

Linuxへの対応には慎重な姿勢

--最後にLinuxへの対応について教えてください

Linuxについては、市場の動向を見守っています。実際に参入するかどうかは微妙で、慎重に考えています。どういうことかと言いますと、仮にLinux版を出すとしたら、長期に渡ってキチンとしたカスタマーサポートを提供したいと考えているからです。

以前、米サンの要請でSolaris版のPhotoshopを発売しましたが、そのバージョンアップは3.0で止まっています。マーケットが育っていないことが理由です。Linuxでは、そうしたことがないようにしなければなりません。いずれにせよ、カスタマーからの要望があれば、ということになると思います。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン