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【安田浩教授&松武秀樹氏 対談vol.1】権利処理機関はJASRACだけでいいのか?−−仲介業務法改正編


1999年10月26日

今年の年末商戦における目玉の1つは、MP3プレーヤーだという。最近、MP3を初めとするデジタル音楽圧縮方式やそれを取り巻く著作権問題について、何かとマスコミでは話題になっている。

今回ascii24では、著作権保護に関わる2つの団体に対談をお願いした。1つは、デジタルコンテンツに対する著作権保護システムを考える産学共同プロジェクトのコンテンツIDフォーラム(CIDF)。もう1つは、コンテンツクリエーター自身が運営する著作権保護団体のメディアアーティスト協会(MAA)である。そして、CIDF事務局長で東京大学の教授を務める安田浩氏と、MAA事務局長で作曲家・サウンドプログラマーの松武秀樹氏の対談が実現した。

両氏はこれが初顔合わせ。それぞれの団体の活動趣旨や、個人的な理念を含め、著作権をめぐる諸問題について忌憚のない意見を伺った。業界の第一人者が語る、デジタルコンテンツの将来像を取り巻く諸問題について、意見の相違点に注目したい。

【安田浩教授&松武秀樹氏 対談】は、全3回でお送りする予定。第1回目の今回は、仲介業務法の改正をめぐる問題にスポットを当てている。

なお、CIDFについての詳細はこちら、MAAについてはこちらを参照されたい。

安田浩東京大学教授。'72年、電電公社(現NTT)に入社、デジタル画像の符号化・圧縮方式の研究に従事。その後、国際標準化機構(ISO)においてJPEG、MPEGの標準制定に携わり、画像や動画圧縮技術の規格標準化で第50回米国エミー賞(技術開発部門)を受賞した。'97年にNTTを退社、東京大学教授に着任し、現在に至る
安田浩東京大学教授。'72年、電電公社(現NTT)に入社、デジタル画像の符号化・圧縮方式の研究に従事。その後、国際標準化機構(ISO)においてJPEG、MPEGの標準制定に携わり、画像や動画圧縮技術の規格標準化で第50回米国エミー賞(技術開発部門)を受賞した。'97年にNTTを退社、東京大学教授に着任し、現在に至る



松武秀樹氏。シンセサイザーのプログラマー・ミキシングから、編曲、プロデュースまでを手がける。'78年〜'82年はYMO(Yellow Magic Orchestra)にサウンドプログラマーとして参加。現在、日本シンセサイザー・プログラマー協会の副会長
松武秀樹氏。シンセサイザーのプログラマー・ミキシングから、編曲、プロデュースまでを手がける。'78年〜'82年はYMO(Yellow Magic Orchestra)にサウンドプログラマーとして参加。現在、日本シンセサイザー・プログラマー協会の副会長



工学的センスの限界
−−安田教授にお伺いします。違法コピーを防止するためにIDを埋め込むという発想がなぜ出てきたのか、教えてください。

安田「違法コピー防止のためのシステムを確立するためには、2つの側面からアプローチをしなければなりません。1つは著作権を保護するために何をすればいいか、もう1つはどのような技術を開発/採用すればいいかという話です」

「現在、電子透かし技術の革新は目覚しいものがありますし、それ以外の著作権保護技術も出てくるでしょう。どの技術を採用するにしても、著作権を保護するためにどんな情報を入れるのかがポイントになります」

「以前、電子現金に関するプロジェクトに参加したことがありました。電子現金の一番大きな問題点は、“いかに偽札を作らせないか”という点です。これをクリアするためには、唯一無二の紙幣番号を採用しました」

「コンテンツIDについても、ユニークなIDを付与すればいいと、ここまでは発想としては簡単にくるわけです。ところが何にIDを振ればいいかというのは現実にはわからない」

「例えば、パロディー目的で、あるコンテンツを部分的に使用したいという需要があります。そうすると、コンテンツの部分部分にIDが入っていなければなりません。音楽だったら、4秒ごとに振れとか何とか、非常に細かい配慮が必要でしょう」

「結果として電子的なメディア、あるいはコンテンツに対して番号を振ればいいということだけは工学的なセンスからわかります。しかし、どういう単位でコンテンツにIDを付与すればいいかということになると見当がつかない。どういうIDを付けたらクリエーターに満足してもらえるのか、実際にコンテンツを作っている方々に話を伺い、議論したいと思っています。たまたまこういうチャンスがあったという(笑)」

CIDF事務局長 岸上「仲介業務を行なう団体やエージェンシーのような団体とは、コンタクトを始めつつあります。CIDFに参加している会社は30社前後ですが、数が一番大きいのは電機メーカーです。また、文化庁、通産省、郵政省からも非常に高い関心をいただいています。レコード系はまだ加盟していません」

−−コンテンツIDは、付与するIDには、他団体が定める規格/IDも反映させるとのことでした。最近SDMI(Secure Digital Music Initiative)*がデファクトスタンダードになるのではという話も聞きますが。

安田「SDMIが本当に仕様を決めればね。ただ、まだSDMIは何らかの番号を用いる形で著作権保護のためのコードを決めたいという用意はあっても、まだそこまでは到達していないようです。そこはいずれ整合が取れるでしょう。いずれにしてもSDMIはその対象をオーディオに限っていますから、それがユニバーサルになると、なかなか難しいところがあります」

*レコード会社や電機メーカーなど100社以上で構成される、デジタル音楽の著作権保護に関する標準化団体。今年7月に、携帯型音楽プレーヤーに関する仕様の策定を発表した。この時発表されたのは携帯型プレーヤーに搭載する再生ソフトについてのみで、コンテンツに付与する電子透かしなどについては2000年春に発表するとしている

仲介業務法の改正後もJASRACによる一元管理を望む?
−−SDMIの名前が出てきたところで。松武さん、今のMAAが抱えている問題を教えてください。

松武「MAAは、去年の秋に準備会が立ち上がりました。ちょうどMP3などもちょっと騒がれてきた頃で、アーティストも著作権を勉強する時代ということで。それに付随して坂本龍一にも声をかけ、仲間に入れました。彼は彼で、いま個人的な活動もやっていて、朝日新聞とかに書いているのは御承知の通りかと思います」

安田「そうですね、今年は一生懸命やっていますね」

松武「今MAAで一番ホットな話題は、やはり来年度に改正される仲介業務法についてです。たぶん先ほど出ていたSDMIとか、そういう動向も含め、それからJASRAC(日本音楽著作権協会)の一元管理から何がいったい始まるのかと。これを踏まえて、MAAとしての意見をまとめておきたいと考えています」

「JASRACは今、“DAWN 2001”という新しい楽曲の管理システムを考えています。今までの楽曲、それからこれから生まれてくる楽曲、管理する対象は何百万楽曲とあるわけです。今までのものをまた切り替えるというのは、ものすごい努力が必要な作業だと思います」

「音楽に関して、既に楽曲を管理する方法はそれなりに存在しています。例えば、ISRCコード*では楽曲と作詞作曲者、レコード会社、国情報といった情報が管理されていました。ところが、デジタルコンテンツを管理するとなると、送信可能化権など新たな問題をはらんできますから、それに付随している人間も全部管理していかなければいけないことになります」

*音源コードの国際標準

「例えば音楽で言えば実演家の部分、著作隣接権の部分までもきちんと管理する必要がある。芸団協(日本芸能実演家団体協議会)もそれなりに努力していたんですが、やはりすべてを網羅できていないんです。ぼくは芸団協の運営委員をやっていましたが、やっぱり管理しきれていないようでした。ですから、デジタルで管理する以上、 100パーセントきちんと管理できないとやる意味がないと思っています。ISRCと実演家のコードをくっつけてもいいのですが、無限までいかないまでも、対象がものすごい数に多分なってしまう」

「だから、ぼくは仲介業務法の改正*でJASRAC、“第2 JASRAC”、“第3 JASRAC”的な企業・団体がたくさん出現すると思いますが、理想論をいえば、JASRACが一元管理したほうがいいと思っているんですよ。JASRACは今、体制を中で入れ替えていますが、昔の殿様商売的な体制は1回捨て、新しい意味での一元管理ができる体制を作っていただいてですね。JASRACは“DAWN 2001”に関して、さまざまな実験を計画していますが、MAAも補完関係で一緒に協力したいし、やっぱり自分の作ったもの楽曲はきちんと守ってほしいという要求もあります」

*仲介業務法は'39年(昭和14年)の制定以来基本的に改正されていないため、見直しが求められている。著作権審議会が7月5日に発表した中間まとめは、以下の3点が柱となっている。(1)仲介業務法で定める集中管理業務への新規参入を認めるため、原則として登録制にする。(2)使用料の決定に市場原理を導入するため、料金表を原則として届出制にする。(3)使用料に関する紛争を、簡易に、迅速に解決するため、使用料審判所の設立のような紛争処理システムを形成する−−。

「JASRACに関して巷では、管理費を取り過ぎているとか、不明金を仲間うちで配っているのではとか、いらん噂がたくさん立っています。ですから、そういうのを1回オープンにして、そうじゃなかったと、たしかにそういう不透明な部分はたくさんあったかもしれないけれど、そうじゃないんだと証明してほしい。そして、アーティストに対して、きちんとした分配と、徴収、課金分配ができる体制を見せるべきだと思います」




一元管理のメリットとデメリット
松武「安田先生にお聞きしたかったんですが、こうした仲介業務を行なう団体はたくさんできたほうが、逆にいいんでしょうか? 」

安田「難しい問題ですね」

松武「ぼくは、デジタルコンテンツの情報を管理する、音楽だったらJASRACの管理部のような、デジタルコンテンツ管理部のような組織があって、そこに行けばすべてのデータがそろっているというのが理想だと思います。例えば、インターネットはこっち、放送二次使用料はこっち、貸レコードはこっちとなっているとバラバラで、全然一元管理ができないじゃないですか。ぼくは1つのところに、それはJASRACじゃなくてもいいと思いますけど、1つのところに行けば、すべての情報がそろっているのがいいと思うのですが」

安田「難しい問題ですね。“一元管理”ということと、“一元”になっているということと、“管理”ということは若干違うような気がします。例えば国会図書館がすべての本を持っているよということと、出版社がなくなるかということは違うわけですよね」

「クリエーターの立場から考えるとしたら、もし不満があったら、どこかよその管理団体に行けるという自由度がないと、結局コントロールされちゃうわけですよね。今のJASRACでは、ぼくは端的にそれが出てきている気がするんです。だからJASRACが気に入らないなら別の管理団体があるという選択の余地があれば、お互いにいい方向に行く」

松武「そうですね、たしかにアメリカにもBMIとASCAP(アスキャップ)があるのと同じように、日本もやっぱりそういう時代にやっと突入するのかなと」

安田「ただ、そうした団体ごとの管理方法がまったくバラバラでいい議論ではないという気がする。団体はいくつあってもかまわないけれど、やっていることは、ある程度統一性があるという状態をうまく作り出したいというのがポイントかな」


権利処理機関のサービスにも、選択の余地がある必要がある
松武「たとえばレコ協(日本レコード協会)1つ取ってもそうなんですけど、日本のレコード業界はやっぱり非常に閉鎖的じゃないですか。要するにメジャーじゃないと会員になれない。インディーズレーベルにとっては入会金が高い上、“ヘッ”ていう感じで敷居が高いんです。アメリカを見ると、インディーズも“いらっしゃい”と、“みんなで話し合ってやっていこうじゃないかと”いう感じなのですが。ああいうかたちを絶対に……」

安田「やらなきゃいけないと思うんですよ」

松武「と思うんですよ」

安田「もちろん、エスタブリッシュメント(メジャー)と、そうでない部分といった区分けはあるでしょう。これは音楽に限らず、どんな場合も存在するからいいんです。エスタブリッシュメントのクラブがあってかまわない。ただ、そうでないクラブが存在していいはずでしょう。それがうまくできる仕組みを作っていきたいというのが、コンテンツIDの1つのポイントです」

松武「そうですね」

安田「そこで、1つのID番号管理、ID番号のフォーマット化で、それが何とかなるよという議論に持っていきたい。クリエーターの皆さんが、権利処理機関は1ヵ所でなきゃうまくいかないよという議論に凝り固まっちゃうと、そっちの方に行きますからね。私は、何か手段があれば、自由度が確保できればという気がします」


音楽を作る側と消費者が、互いに著作権の知識を持って接していかないとダメ
松武「電子透かしとか、そういう著作権保護の技術が年々向上していますが、音楽を作る側と、それを“使う”側がお互いに著作権の知識を持って接していかないとダメではないでしょうか」

安田「そのとおりだと思います。原理原則まで、すべて理解しなければいけないことはありません。しかし、守るべき権利が守られた上で、創作物が“使える”状態になっているシステムを作る必要がある。しかも、権利処理機関のサービスにも競争原理が働いていて、選択の余地がある必要がある。1つの機関では、結局コントロールされちゃうわけです。やっぱりそこの場をうまく作らないといけない」

松武「ぼくはユーザーにとって、“電子透かしが入っているから何かやったら捕まるぞ”みたいな脅し的なことは前面に出さず、本当はあんなものはわからないようにして入れておくべきだと思います」

安田「まさにそのとおりです」

松武「本当に何か、犯罪者みたいな扱いではなくて、そうした制限機能を意識しないでコンテンツを利用できるような環境にするべきだと思います。ぼくは、シンセサイザーで音楽を作っていまして、MIDIという技術を利用しています。MIDIでも、いろんな問題が今起こってます。例えば、坂本龍一が自分で弾いたピアノのデータがありますよね。そのデータを、自動ピアノに入れると、そのとおり弾いてくれちゃう。まあ、音色は坂本が弾いたときの音とは違いますが、でも、弾いた中身は同じなんです。その時に、坂本の著作権は果たして保護されているといえるのか」

安田「確かにそうです。それは大きな問題です」

松武「大きな問題なんですよ。例えばヤマハの場合、坂本のものも含めて、売っているMIDIデータには電子透かしが入っている。買った人が、どこで聴こうが何回聴こうが、個人で楽しむ分で自由です。ヤマハは、買ったMIDIデータをネットに上げて他人に売ったり、他人に聴かせたりすることはいかんということは警告しています。しかし、それを守っている人が何人いるかというのは、全然わからない」

安田「そこがポイントですね」

松武「ですから、聴きたい人は必ず権利センターへ行って、然るべき手続きをして、然るべきお金を払って、そこから引きずり出して、聴いて、そこから先の段階はもういかないというシステムになれば一番いいんですけれど」

安田「そこまで実現するように、本当はしなければいけない。技術の限界から言うと、できないはずがない。あとは時期的な問題と、その仕組みを誰がどのように運用するかという問題だと思います。我々CIDFは、まさにその点を最終目標としていています」

「消費者がコンテンツの創作者に対し、感謝を表現するような形でお金を払うような仕組みを採用するのが、ぼくはいいと思う。そういう仕組みが構築されれば、いい作品にお金を払おうと、みんな思うでしょう。悪いのは仲介業者に……(笑)」

(この項終わり)

対談vol.2では、MP3を含むデジタル時代の私的コピーの問題を中心に掲載する予定。

(編集部 伊藤咲子)


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