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教育現場の声を反映させた製品を提供したい−−“情報教育の明日を語る企業の会”会長候補、松本孝利氏


1999年12月17日

情報教育事業をサポートする企業団体“情報教育の明日を語る企業の会”の準備が、2000年2月の正式設立に向け、進んでいる。会長を務める予定になっているのが、日本シスコシステムズ(株)の会長を務める松本孝利氏である。松本氏に、この会の意図や活動内容について伺った。

教育現場と企業とで、同じ課題を分かち合いたい
−−“情報教育の明日を考える企業の会”の設立意図について、教えてください。

「2002年から実施される新しい教育指導要領を前に、現在、学校のインフラ整備が進められています。各メーカーによって、情報教育に必要なはずのハードウェアやソフトウェアが納入されています。しかし現場の先生に話を聞いてみると、本当に必要ではないものであっても、他に選択肢もなく、仕方なく導入するような状況になっている。こうした問題を解決するため、我々関連企業が一致団結して、教育現場のニーズを反映させた製品を提供し、教育現場をサポートするべく、会を設立することにしました」

編集部注:2002年に中学で、技術家庭の時間を使って“情報教育”が、2003年に高校で、“情報”という新しい教科で“情報教育”が、それぞれ始まる。この“情報教育”は、必ずしもコンピューター操作教育を意味しない。それから、既存の学科の教育に、情報機器を活用することも、同じころから重要視されるようになる。


−−“情報教育の明日を考える企業の会”(以下、“企業の会”)の会長を引き受けられた理由を、教えてください。

「5年ほど前に日本インターネット協会の副会長を務めていたころ、インターネット教育部会の部会長になり、“100校プロジェクト”を企画しました。これは、21世紀の情報化社会に向けて、全国の小中学校100校にインターネットを接続し、情報教育を導入しようというもので、通産省に予算を申請して実現したプロジェクトです。これの成功により、情報教育インフォメーションデスクの機能を持つ団体、JERIC(Japan Educational resource Information Center)を設立し、教育の情報化に向けて現場の教員をサポートするという活動を行なうことになりました」

「“100校プロジェクト”が、教育分野に首を突っ込んだきっかけ」と松本会長
「“100校プロジェクト”が、教育分野に首を突っ込んだきっかけ」と松本会長



「私自身、情報教育への興味はずっともっていましたので、こうした経験を生かせる場として、“企業の会”でも会長を務めることになったわけです。これからJERIC、教員団体などと連携して、情報教育を進めていこうとしています」

企業で廃棄しているパソコンでも教育現場なら十分な性能
−−“企業の会”はどのような形で始められる予定ですか?

「最初は30社から40社くらいの参加でスタートする予定です。具体的な活動としては、学校側にβ版製品を試用してもらうなど、小・中・高校の先生方とコミュニケーションを取り、現場の意見を製品に反映させながら製品開発を行ないたいですね。また、シンポジウムやセミナーを開くなど、国内・国際交流を推進していきたいと思っています。それから、まだ個人的に考えているだけですが、企業内での中古パソコンを教育現場に寄付できないだろうか、というアイデアなどもあります」

−−パソコンのリサイクル運動ということですね。

「情報産業界の会社では、だいたい1年半から2年ほどで、社内のパソコンを新しいものに交換し、古いものは破棄処分します。これは非常にもったいない話です。企業で不要になったものでも、教育用であれば十分利用できる機能を備えているわけですから」

「シスコ自身、“e-Learning”というキーワードを掲げている教育分野の先進企業です」
「シスコ自身、“e-Learning”というキーワードを掲げている教育分野の先進企業です」



「以前、沖縄で地域のNPOによる学校へのインフラ整備運動を見学し、話を伺ったことがありますが、ハードウェア不足の問題は深刻です。教育現場に企業の余剰中古パソコンを寄付できれば、どちら側にとってもよい結果となります。こうしたアイデアについても、今後は具体的に考えていきたいですね」

“他の誰もやらないからやる”対“皆もやっていないからやらない”
−−情報教育の普及活動には、アメリカをお手本とするところも多いと思いますが、米国と日本の相違点についてはどのようにお考えですか。

「やはり情報教育に対する意識の違いが大きいと思います。アメリカでは“皆がやらないことをやってみよう、いいものは積極的に取り入れて行こう”という考え方をするのに対し、日本では“誰もやっていないならやらない”という、右へ習えの風習が抜けない。またインターネットは、子供が悪いものを見てしまうからダメだ、と決めつけてしまう」

−−日本の教育界は、リスクに対して非常に慎重ですね。

「私にも高校生の息子に数年前からインターネットを与えていますが、最初はいわゆる“悪いページ”を見ていたようです。しかし、すぐに飽きてしまったようですね。見ちゃダメ、と必死に規制すると、逆に好奇心を刺激してしまうということもありますよ」

「それよりも、親子で交換する電子メールの効用のほうが大きいですね。例えば、息子をひどく叱りとばした後で少し後悔しても、顔を合わせると気まずくて声をかけられない。しかしメールでなら、さらっと謝りの言葉が書けたりする。我が家ではメールによって親子のコミュニケーションが活発になりました」

「米国の滞在先の研究者が、屋根裏部屋の“ARPANET”の端末から出した電子メールで、遠くの人とのアポイントをあっという間にとり付けてくれたのです」
「米国の滞在先の研究者が、屋根裏部屋の“ARPANET”の端末から出した電子メールで、遠くの人とのアポイントをあっという間にとり付けてくれたのです」



「私が初めて電子メールというものに接したのは'80年代前半、アメリカでのことでした。コミュニケーションの取りやすさ、便利さに驚いたものです。今後は教育において、コミュニケーションの重要性はますます高まっていきます。日本の教育界にも、リスクを如何に排除していくかを考えながら、いいものを取り込んでいこうという積極性が必要です」

「中央官庁や学校予算編成者の意識まで変えていきたい」
−−日本の教育界での、インターネットに対する認識はどのようなものなのでしょうか。

「日本の小中高校では、偉い先生ほど情報教育に対する理解が遅れていて、いまだにその効用を把握できていない。自分で利用していない先生が多いこともあって、やはり意識が保守的ですね。しかし、それでは今後の国際情報化社会を乗り切る教育はできないと思います」

「教育界の上層部が今のままだと、国際情報化社会で生きていけない」
「教育界の上層部が今のままだと、国際情報化社会で生きていけない」



「アメリカでは、21世紀にはインターネットが世界のインフラになると予測し、インターネットが利用できない人は、生活全般において何もなしえなくなるとまで考えています。世界にアクセスして自分で情報を取り込み、コミュニケートする能力を育てていかなくては、国際情報社会において日本は取り残されてしまうでしょう」

「現場の先生方はこうした情報教育に大変熱心で、セミナーなどにも多数参加していただいているのですが、教育界は上意下達ですから、上の方の意識が変わらないと、なかなか実質的には変化できません。“企業の会”も努力して、その辺りの意識を変えていきたいですね」

−−教育関係者の意識改革まで視野に入れての活動となるのでしょうか?

「そうですね。先生からの生の声を反映させ、本当に情報教育で必要なものを開発し、教員をサポートしていくという活動によって、教育現場からのリスペクトを得たいと思っています。そうなれば、自然と中央官庁や学校予算編成者などの意識改革にもつながる。結果的にそういう力を“企業の会”が持てるよう、努力していきたいと考えています」

(聞き手:編集部 中野潔、文:船木万里)


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