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【触覚連画対談 後編】『幸せを運ぶクモ』をなぞる光島氏の手


2000年3月27日

コラボレーションアート“連画(linked image)”は、CG作品をネットワークで送りあい、相手の作品を引用したり直接手を加えることによって新しい作品を生み出し、組作品を成長させる創作システムである。連画のシステムを発案したのは、CGを中心とした創作活動に携わるアーティストの安斎利洋氏と、中村理恵子氏。'92年第1回目の連画セッション『気楽な日曜日』より数々の作品を発表し、その作品は“SIGGRAPH”など国際的な展示会で注目を集めてきた。

そして'98年、連画の2人は、このコラボレーションに全盲の造形作家の光島貴之氏を迎えた。光島氏は平面絵画として、製図用のレトラライン(粘着テープ)や粘着シートを用いた凹凸感のある“触覚絵画”の製作を行なってきた。

前半はコラボレーションの技術的解説を中心に紹介したが、後半では、触覚連画の醍醐味、いちアーティストとして触覚表現の難しさを中心に報告する。

左から、中村理恵子氏、安斎利洋氏、光島貴之氏。触覚連画プロジェクトでは、これまで発表した絵画作品を公式ホームページで紹介している。URLは後述
左から、中村理恵子氏、安斎利洋氏、光島貴之氏。触覚連画プロジェクトでは、これまで発表した絵画作品を公式ホームページで紹介している。URLは後述



“視覚障害者に対する配慮が足りないんじゃないか”というクレームも
−−光島氏の参加について、視覚障害者の創作活動ということと、いちアーティストとしての創作活動ということの、2つの方向があると思います。このことについて、健常者であるお2人はどう思いますか?

中村「触覚連画はこれまで、雑誌やテレビで何回か取り上げられていますが、“目の不自由な光島さんが健常者とのアートセッションにチャレンジしていて、すごい”という視点で記事になることが多く、“何か勘違いされてる”と、もどかしさを感じることがあります」

「物を触って感じ、そして表現するということに関して、光島さんは私たちより感覚が鋭い。“形の認識の仕方がまったく違って面白い”という話が安斎さんからありましたが*、触覚連画において、アーティストとして新しい発見をして、むしろ“得”をしているのは我々です。光島さんに遠慮したような創作は行ないません」

*対談前半を参照してほしい

−−逆に“遠慮しない”ということについて、光島さん自身はどう思いますか?

光島「あるテレビ番組で、触覚連画の様子が紹介された時のことです。“あんな絵では触っても分かりにくいだろう。視覚障害者に対する配慮が足りないんじゃないか”というクレームが、視聴者から多く寄せられました」

「確かに、特に中村さんの作品は、分かりにくいこともあります」

中村「私の描く絵は、抽象絵画ではないのですが、文章で言うと“煮え切らない”というか、“カキッ”としていない表現を採っています」

光島「でも、ハードルを低くすることを一番に考えて絵を描いてもらっては、僕にとっても面白くない。むしろ、“何やろ、これ”と悩むのが触覚絵画の醍醐味の1つですし、2人とコミュニケーションしながら理解していくプロセスが楽しいと思っています」

「また、視覚障害者という立場から触覚連画を見るということですが、“障害は個性”という人もいるけれど、僕は、異文化論的なものだと思います」

「大学時代、障害者運動などに係わっていた時期がありました。見える人との間に存在する壁を何とかして壊したいと思って、同じことをやりたいとか、いっしょに何かしたいとか、むやみにもがいていたことを思い出します。触覚連画を始めるようになって、“違いをいっしょに楽しみたい”、“違っているのが面白い”という気持ちが生まれました。これは、僕にとって大発見です」

中村氏の作品『幸せを運ぶクモ』をなぞる光島氏の手
中村氏の作品『幸せを運ぶクモ』をなぞる光島氏の手



平面絵画を触覚化する難しさ
−−作品の創作を第1に、触覚表現化を第2に、ということだと思いますが、平面作品を立体化することに抵抗はありませんか?

中村   「触覚表現の問題は、作者として非常に悩ましいところです。私のいつもの表現手法は、触覚的に実現できないことなのか、また触覚表現にしたら作家として気持ちいいものなのか……」

安斎   「中村さんの絵で採られているようなあいまいな線を、データ変換して、カッティングシートに切り込み線として反映させるということは難しいです」

「また、僕らの絵を触覚化する際にもう1つ、色をどう触覚表現するかということがあります」

中村氏の作品『幸せを運ぶクモ』は、もともとカラーの部分が水玉模様になっている。そうすることで、白黒データに変換して熱処理を施すと、模様がボコボコに浮き上がる。ここをなぞることで、少なくとも、“他と違う表現が採られているゾーン”ということは分かる。

中村「作者として、水玉模様の手法も、ベストとは思えません。カラー表現を触覚化するために、まだまだ様々な素材で試してみる必要があります」

これまでの、触覚連画プロジェクトで発表された絵画を複製、立体印刷した見本誌を見る3人。紙質、立体化の手法、印刷コストなどまだまだハードルは高く、この見本誌が一般書店に並ぶまでは時間が掛かりそう
これまでの、触覚連画プロジェクトで発表された絵画を複製、立体印刷した見本誌を見る3人。紙質、立体化の手法、印刷コストなどまだまだハードルは高く、この見本誌が一般書店に並ぶまでは時間が掛かりそう



−−立体作品でコラボレーションを行なえば、これらの問題はいくつか解決すると思うのですが、デジタルにこだわる理由とは?

光島「自分もデジタルな絵画表現が可能になるのでは? という期待を込めて、デジタルなコラボレーションにこだわって欲しいと思います」

中村「触覚絵画の世界を、健常者の視点から、手抜きせずに実現したいですね」

−−今後のプロジェクトの企画について教えてください

安斎「作品をつくるプロセス自体が連画のいちばんいい部分、醍醐味でしょう。展示を行なうにしても、オーディエンスに囲まれてパフォーマンスを行なう、というのではつまらない。見ているみんなも巻き込んで、全体が相互作用しながら何かを作り出すというのが面白いと考えています。連画は、そういうライブ感のあるアートとして、今後もいろんな形で発展させていきたいと思います」

(編集部 伊藤咲子/船木万里)


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