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【特別対談“インターネットとNPO活動”Vol.1】進む“情報アパルトヘイト”、情報アクセスを万人に保証するための運動


2000年7月3日

米国サンフランシスコのNPO(非営利団体)、タイズ財団で会長を務めるドラモント・パイク氏が、6月8日から20日まで来日し、NPOの支援・育成に関する講演を行なった。タイズ財団は、“カネ、マネジメント、場所、情報”の4つの側面からNPOを支援するインキュベーターである。

今回のパイク氏の来日は、米国在住のジャーナリストである岡部一明氏をはじめ、神戸市の市民団体の神戸復興塾などの働きかけによって実現したものだ。米国では、NPO活動にインターネットが積極的に活用されている。しかし、日本ではインターネットがどうのようにNPO活動に関わってきているか見えない部分も多い。

本稿では、米国でNPO活動などを中心に取材活動を続けている岡部一明氏と、市民団体JCA-NETで常任理事を務めるジャーナリストの福冨忠和氏に、“インターネットと情報格差”をテーマに、日米間の状況の差異について語ってもらった。

最低限の情報へのアクセスを公共レベルで保証するという考え方
−−最近、収入の差などによりインターネットを使える人と使えない人が出るという“デジタルデバイド”(情報格差)の問題がクローズアップされてきています。日米の状況や考えかたの違いについてご紹介下さい

福冨「日本では、回線の接続料金が安くなってきて、'99年あたりから女性ユーザーが圧倒的に増えてきました」

岡部「NTTがIP接続サービスを安い固定料金で始めましたね。アメリカでは、普通電話の場合、インターネットの接続料金は1ヵ月15ドルです。私は'99年にADSLに入りました。これは通信速度が1Mbpsくらいで、月額39ドルで使い放題です」

福冨「アメリカでは、'93年にクリントン政権がゴア副大統領のイニシアチブで開始した“情報スーパーハイウェイ構想”のときから、インターネットによって情報格差が起きるという問題を指摘してましたよね」

岡部「そうです。当時から技術開発や産業振興は民間企業に任せて、政府は情報弱者をなくすための役割を果たす、と言ってました」

「アメリカは国内に第三世界があると言われるくらい、毎年約80万人の移民が第三世界から入ってくる。地域によっては乳児の死亡率が第三世界と同じくらいだったり、結核が流行ったりするわけです。移民だけでなく、黒人や先住民もいて、やはり収入や生活に格差がある。だからこそ、最低限の情報へのアクセスを公共レベルで保証するという考え方が強いのです」

岡部一明氏氏。米サンフランシスコ在住のフリージャーナリスト。'50年栃木県生まれ。'79年カリフォルニア大学自然資源保全課卒業。各種の市民団体勤務を経て独立。著書に『パソコン市民ネットワーク』(技術と人間)、『インターネット市民革命』(御茶の水書房)、『社会が育てる市民運動-アメリカのNPO制度』(社会新報ブックレット)、『多民族社会の到来』(御茶の水書房)、『日系アメリカ人:強制収容から戦後補償へ』(岩波ブックレット)などがある
岡部一明氏氏。米サンフランシスコ在住のフリージャーナリスト。'50年栃木県生まれ。'79年カリフォルニア大学自然資源保全課卒業。各種の市民団体勤務を経て独立。著書に『パソコン市民ネットワーク』(技術と人間)、『インターネット市民革命』(御茶の水書房)、『社会が育てる市民運動-アメリカのNPO制度』(社会新報ブックレット)、『多民族社会の到来』(御茶の水書房)、『日系アメリカ人:強制収容から戦後補償へ』(岩波ブックレット)などがある



アメリカの図書館では有料データベースを無料開放する動きも
−−公共レベルで万人に最低限のアクセスを保証するというアメリカの事例にはどのようなものがありますか?

岡部 「図書館での情報弱者へのフォローアップは印刷本の頃からありましたが、インターネット時代に入って、ますます力を入れてますね。私の知っている限りでは、アメリカではどんな町の図書館でも無料でインターネット端末が使えます。サンフランシスコの図書館では約300台の端末が使い放題です」

インターネット端末が並ぶサンフランシスコ中央図書館の風景
インターネット端末が並ぶサンフランシスコ中央図書館の風景



岡部 「それぐらいは当たり前で、今では雑誌や新聞など、有料の商業データベースを図書館で無料開放しようという動きがある。約3000の雑誌記事データベースのうち、600誌ぐらいは全文記事も参照できる。それを自分のメールアドレスに転送して、自宅でゆっくりと記事を読める。さらに自宅から図書館のウェブサイトにアクセスし、図書館カードの番号を暗証番号として商用データベースにログインできるんです。だから僕は図書館カードさえあれば、日本にいてもアメリカの商用データベースにログインできるわけです」

「サンフランシスコだけでなく、全米の半分以上の州でそれを実現しています。もう少しでアメリカの全国民が商用データベースを無料で使えるようになるでしょう」

福冨「日本の状況では、文部省の生涯審議会の図書館問題委員会が、コンピューターやインターネット、CD-ROMはいわゆる図書ではないので、図書館法での“対価を徴収してはならない”という範囲あたらず使用料金を徴収してもいい、ということを答申して議論になっています」

岡部「アメリカではちょっと信じられない議論ですね。“基礎的な情報”とは何か? というのは時代によって変わってきます。しかし、アメリカでは雑誌3000誌の記事を無料検索できたり、参照できるというあたりが、基礎的な情報になってきていると思います」

「ascii24もそうですが、インターネット時代では企業は無料で情報を提供するようになってきた。『THE WALL STREET JOURNAL』誌のウェブサイトでも、6000誌の概要に関するデータベースを無料で提供しています。メディア産業がそれだけやっているんだから、図書館が無料でサービスしなければ、図書館の意味がなくなってきますよね」

世界レベルの“情報アパルトヘイト”を解消するための運動
−−世界的レベルの動きとしても、やはり格差は広がってきているのでしょうか?

福冨「世界レベルの話で言うと、相変わらず情報インフラに相当な格差がありますね。ロドリーゴ・バッジオという若いコンピューターのベンチャー企業経営者が作った市民団体は、スラムにコンピューターの学校を作るという運動をしています。コンピューターの技術があれば、仕事を得やすく、収入格差の解消につながるという発想です」

「日本の市民団体でも、JCA-NETとピースネットのメンバーが協力して、中古パソコンを集めて第三世界に持っていくという運動をしている。これはいろいろな財団の助成を受けて、ピンポイントな運動として、うまくやっているようです」

「でも、全体的に見ると、そもそもモンゴルのように電話線が引かれていない地域があるわけだから、そういう意味ではバッジオが言うところの“情報アパルトヘイト”が広がっているという見方ができる」

岡部「サンフランシスコでは、“エコネット”、“ピースネット”といった市民団体が中心のIGC(世界グローバル通信研究所)、そしてAPC(進歩的コミュニケーション協会)という国際的な団体が、第三世界のNGOと対等に情報交流するためのインフラを作って、情報アパルトヘイトをなくすための活動をしています」

福冨「CDIという情報技術の民主化のための委員会が、コンピューター関連の支援などをしているんですが、アジア圏での活動を検討しているんですよ。アジア圏ではシンガポールがインフラ整備を進めているけど、それ以外の国は落差がすごい」

「例えば、ITU(国際電気通信連合)では、通信とネットワークの標準化について、郵政省とNTTみたいな感じで、政府と民間が共同で討議していたんです。しかし、中国やASEAN諸国はインフラを国家が握っているので、民間の参加はできないわけです」

福冨忠和氏。多数のコラムや書籍の執筆のほか、メディアの企画・制作から、大学講師、各種の委員、NGOメンバーまで、広範な活動を展開。その対象も、メディアコンテスト、デジタル技術、ネット規制問題、アート、ECまでに及ぶ。総じてデジタルとリアルワールドのつなぎ目が主な関心であり、ワークフィールドとなっている。NPO活動としては、市民団体JCA-NETで常任理事も務めている。ascii24ではコラム“電子麺 e-noodle”を連載中
福冨忠和氏。多数のコラムや書籍の執筆のほか、メディアの企画・制作から、大学講師、各種の委員、NGOメンバーまで、広範な活動を展開。その対象も、メディアコンテスト、デジタル技術、ネット規制問題、アート、ECまでに及ぶ。総じてデジタルとリアルワールドのつなぎ目が主な関心であり、ワークフィールドとなっている。NPO活動としては、市民団体JCA-NETで常任理事も務めている。ascii24ではコラム“電子麺 e-noodle”を連載中



体制の枠組みを揺さぶる側面と、国家的な規制を広げる側面をもつインターネット
福冨「またASEAN諸国では、風俗的なものや、宗教、ポルノ、反国家的な情報に対して規制を強化しようという議論がある。情報の流通の自由度が高まってると同時に、国家的な規制も強くなってきている」

岡部「インターネットの議論が浸透していって、そういう体制に影響を与えるといった、逆の側面はないのですか。これまでは国際間の取り決めは国際連合など国家間で調整していました。インターネットでは市民など新しい要素が入ってきて、市民を加えた形の新しい国際的な秩序ができつつある、というような動きはありませんか?」

福冨「インターネットの運営が今の仕組みになるまでは、米国国防総省のARPAnetと呼ばれていた時代から、大学などの研究機関を中心としたNSFnetに発展していって、いろいろな経緯を経て、ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)という非営利組織がIPアドレスやドメイン名を割り当てる役割を果たすようになった。どこまで実質的な影響力があるか分からないけれど、インターネットの技術レベルの調整をやっていきましょうっていう方向です。そして、その枠組みの中に国家が入ってくるようになってきた。でもこれは危うくて、中国のような国家主義的な国や、内容規制をしようとしている東南アジアや中近東の国をどうするかという問題がある」

岡部「インターネットの秩序が広がってくれば、中国など全体主義的な国家では悪い影響も広がるでしょうが、逆に全体的な枠組みが揺さぶられるという側面も期待したいですね」

福冨「両方とも平行的に進むでしょうね。でも、もし中国のインターネットの普及率が日本と同じになると、日本の人口を超えちゃうんです。そうなると情報経済の中で中国のナショナリズムの占める割合がすごく高くなる。中国ではインターネットを利用するのに警察への登録が必要ですが、1億何千万人という人が警察に登録してインターネットを使い始めたらどういう状態になるか、それを心配している人は多いです」

(構成/編集 若菜麻里、編集部 井上猛雄)


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