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まずは成功例を創出したい――特許取得を支援するコンサルティング型インキュベーター、パテントラボの久保浩三氏にきく

2000年07月07日 00時00分更新

文● ジャーナリスト/高松平藏

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7月13日に特許関連の施設が集積する関西特許情報センターで、ベンチャービジネス創出を図るインキュベーター(ふ化施設)、『パテントラボ』がオープンする。大阪府立特許情報センターで企画総括を担当する久保浩三氏にインキュベーターの運営方針をきいた。

旧夕陽丘図書館。現在、近畿通産局特許室、発明協会大阪支部、弁理士会近畿支部など特許関連の施設が集積している
旧夕陽丘図書館。現在、近畿通産局特許室、発明協会大阪支部、弁理士会近畿支部など特許関連の施設が集積している



特許取得支援、全国発

『パテントラボ』は特許取得を支援し、新たなビジネスを創出することが目的。府立特許センターではこれまで、特許に関する相談や情報提供を無料で行なってきた。現在でもこのサービスを提供している。「通常、相談業務は30分から1時間。しかしもう少し時間をかければいい事業になるというものがなかにはある」(久保氏)。こうした案件を支援しようというのが同ラボ立ち上げのきっかけだ。

「中小企業や個人では、特許をめぐる議論をできる相手もいない」と久保氏。徹底したコンサルティング型の支援をする予定だ
「中小企業や個人では、特許をめぐる議論をできる相手もいない」と久保氏。徹底したコンサルティング型の支援をする予定だ



支援設備は検索や課題解決のための専用ブースが3つ(1部屋6平方メートル)。ブース内にはパソコンが備えられているほか、同センターが所有する4000万件の特許紙資料の検索が可能だ。さらには、創造支援ソフト『Tech Optimizer』を活用できる。このソフトは特許に関する問題解決パターンをまとめたもので、'46年から250万件の特許を統計的に分析できる。ロシアで開発されたもので、もともと軍事秘密だったが、冷戦後アメリカにわたり、三菱総合研究所が日本語版を作成した。入居希望者の中にはこのソフトの活用を希望して申し込んだ人もいるという。



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技術者や企業が問題を記述し、新しい技術コンセプトの創造や、技術知識の管理を支援する知識ベース型イノベーションツール『Tech Optimizer』。プロダクト分析、プロセス分析、優れた特徴の抽出と転用、技術的問題点の解決など7つのモジュールから成る。写真は上がプロダクトの次の進化の傾向を予測するモジュール、下がWeb 上の関連情報や特許を検索するモジュール



同所の入居期間は1ヵ月から3ヵ月。法人でも個人でも入居は可能だ。ただし、ユニークな技術やアイデアで事業化を目指す意欲があることが条件。合法性や新規性のほか、市場性などの事業化に必要な条件を審査の上、入居者を決める。初回は約60件の応募があり、現在14人3期分までが決まっている。なかには奄美大島や四国などからの応募もあり、潜在的起業家の存在が伺える。「関西にアイデアマンは少なくない。ただし事業化の段階になると課題が多い」と同氏はいう。

6平方メートルのブース
6平方メートルのブース



ところで、特許はもともとモノを前提にした技術の権利化を意味していた。しかし最近はビジネスモデルそのものも特許として取得する動きが増えている。実際、同ラボの第一期入居者の3人もIT関連。「IT関連は初期投資が安く、面白いアイデアも多い。ただし、どこで儲けるかという視点が抜けているものが多い」と久保氏は苦言を呈す。

しかしながら、特許戦略がベンチャー企業にとって重要になってくる昨今、同ラボの役割は大きい。資金調達といった側面からみても、アイデアを特許化することは「投資を受けるためにも必要条件」(同氏)というわけだ。特許取得を念頭においたインキュベーターは全国でも例がなく、成果が出たら全国展開も考えたいという。

人材が支援事業のカギ

インキュベーターへの入居といえば、1年から3年という長さが主流だが、パテントラボの入居期間は1ヵ月から3ヵ月と短期間だ。それは特許を出願し、ビジネスプランの作成までが支援事業であるとしているためだ。そのあとも支援が必要とあれば、府立産業技術総合研究所など事業支援を行なうインキュベーターを紹介する。

この短期間のインキュベーション事業のカギは5人の人材だ。ライセンス交渉や電子部品などの技術に精通したスタッフがいる。久保氏自身も弁理士の資格をもち、中小企業やベンチャー企業の特許支援に精通している。また、特許の取得には類似のものがないかといった検索などが必要になるが、そのための検索方法を指導する専門家までいる。相談業務から発展させたラボだけに、コンサルティングが支援事業の核だ。「5人のスタッフで集中サポートをするのは3ブースが目一杯」(同氏)と適正規模を設定している。「少しずつ部屋とスタッフは増やしていきたいとは考えている」と久保氏はいう。

ところで、今回入居が決まった14人の中には学生が1人含まれている。3期目に入居する予定だが、それには理由がある。「面白いアイデアなのだが、本人のビジネス感覚が不十分」(同氏)だからだ。入居までのあいだに、参考になる本を紹介したり、ビジネスプランなどの書き方を指導するなど、普段の無料相談業務の範囲で“育成”していく。「ひとつの成功例にしたい」と久保さんは意欲的だ。家賃や設備を低くするだけの“賃貸型インキュベーター”が多い中、ユニークな試みだ。

ちなみにドイツ南部のバイエルン州に位置するインキュベーターIGZ(Inovations und Gruenderzentrum Erlangen-Nuernberg-Fuerth GmbH)も徹底したコンサルティングで成功していることで知られている。同インキュベーターのマネージングディレクター、ゲルト・アリンガー氏は「優秀な特許を持つ入居希望者に経営能力がないと判断すると、入居よりも売却を勧めることもある」という。アイデアや技術を事業に結びける社会的装置は重要だ。「技術は右から左へ流せるものではない。人が介在する必要がある」と久保氏は強調する。

ドイツ・バイエルン州のインキュベーター、IGZ(円内はゲルト・アリンガー氏)。
ドイツ・バイエルン州のインキュベーター、IGZ(円内はゲルト・アリンガー氏)。

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