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【INTERVIEW】携帯電話での文字入力を快適にする魔法の技術──米テジックコミュニケーションズ社クリッフ・クシラー副社長に聞く


2000年7月18日

“iモード”の爆発的な人気が示すように、携帯電話のメールサービスは、多くの人々にとって必要不可欠なツールとなりつつある。しかし、携帯電話には入力や画面表示など制約が多いのも確かだ。特に10キーを利用した現在の入力方法は、押さなければならないキーの回数が多く、煩雑に感じているユーザーも多いことだろう。米国ワシントン州のシアトルに本拠を置く、テジックコミュニケーションズ社は、この携帯電話を利用した入力メソッドに積極的に取り組んでいる企業だ。

同社の開発した“T9 Text Input”(注1)は、携帯電話でのキー入力を快適にする技術として欧米諸国や中国などですでに幅広く用いられている。今回、東京ビッグサイトで17日から開催されている“Wireless Japan 2000”に合わせて、T9 Text Inputの開発者で、同社の副社長を務めるクリッフ・クシラー(Cliff Kushler)氏が来日。日本市場への戦略やT9 Text Inputの魅力について語ってくれた。

クリッフ・クシラー氏
クリッフ・クシラー氏



T9 Text Inputは、障害者向けの入力技術から生まれた
──日本の読者にテジックコミュニケーションズ社とT9 Text Inputについて教えてください。

「テジックコミュニケーションズは'95年に、障害者のための入力技術を開発するため、私と友人の3人で始めたベンチャー企業です。手も使えず、口も利けないような重度の障害者でもコミュニケーションが取れるように、CEOのマーチン・キングは、視線の動きを捕捉するセンサーを開発しました。これは、縦/横/ななめの8方向に視線を動かして文字入力を行なうもので、この8つのキーでどうすれば効率よく文字を入力できるかが、T9開発の基本となったのです」

──携帯端末向けにはいつ乗り出したのですか。

「我々が携帯端末での文字入力に乗り出したのは、'97年の終わりです。この年に米テキサス・インスツルメンツから『AVIGO』(アビゴ)というPDAが発売されました。その入力方式にテジックコミュニケーションズの技術が用いられたのです」

「現在の社員数は95人で、シアトルの本社のほかヨーロッパ(U.K.)、香港、北京、日本に事務所を構えています。日本法人の社員数は6人です。アジア市場を重視しているのは、中国語圏の香港/北京に拠点を持っていることからもおわかりいただけるでしょう」(編注:デジックコミュニケーションは、'99年に米AOL社から出資を受け、グループ企業に加わっている)

T9の開発で最も苦労したのが日本語
──T9には英語版を始めとした各国版が存在していますが、日本語版を作る上で苦心されたのはどのあたりでしょうか。

「実は今まで作った16カ国語の中で、日本語版が最も難しかったんです(笑)。中国語も面倒でしたが、これは技術的な話ではなく、主に正しい漢字を正確にデータベース化するという作業量に対してです。一方、日本語は今までで一番曖昧性のある言語でした。たとえば、英語の場合、Cの次にDが来る単語はないなど、かなりの規則性があります。そのため、ABCに相当する「2」の後に、DEFに相当する「3」が押された場合、CDで始まる単語の可能性を除外できるわけです。しかし、日本語は英語に比べ、そういった規則性が乏しい。3つのキーを押したらほぼ120通り近い可能性を考えなければなりません」

「日本語版のT9ではその点を考慮し、単語単位ではなく文節単位の比較的長い範囲で絞り込むようにしました。入力した文字数が多くなれば、そのぶん文字の特定がしやすくなります。また、つづりや読み方の情報だけでなく、文法情報なども考慮して判断する仕組みも取り入れました。そのため、辞書は、英語の50KB/6万語程度に対し、1MB/6億5000万語とかなり大きくなりました」

──携帯電話の制約のある環境では、使用するメモリーなどの面で厳しいのではないですか。

「通常の携帯電話でも日本語辞書が必要で、500〜900KB程度のものが搭載されています。したがって、T9を使用するために、今までより大幅に高いスペックが必要になるわけではありません。また、携帯電話自体の技術も向上しており、処理速度やメモリー容量の面でも日々革新されています。ハード的な制約があってT9が導入できないということはないと思います」

便利なだけでなく、楽しく使えることがT9の特徴
──限られたキーで、効率的に日本語を入力する技術には、すでに富士通の“SH-Keys”(注2)やミサワホームの“CUTKey”(注3)などがありますが、これらの技術に対するT9のメリットはなんですか。

「一番の違いは“SH-Keys”や“CUTKey”が独自配列のキーボードを必要とする点です。これらのシステムはカナ入力を中心に開発されており、英字入力が途端にやりにくくなります。その点、T9は従来の携帯電話のテンキーをそのまま使用します。日本語で文章を書く際にも、英単語が混在する場合が多いですから、これは大きなメリットと言えるでしょう」

──使ってみてT9の便利さを感じましたが、すでに従来の方式に慣れた人は新しい方法を覚えるのに抵抗感を持つかもしれませんね。

「それは、メーカーさんからも指摘される部分です。このあたりは、多少の啓蒙活動が必要な部分かも知れません。しかし、T9には単に入力が楽というだけでなく、使っていく上での楽しさがあります。たとえば、意味のわからない言葉の羅列だった文字が、キーを打っているうちに突然意味を持つ単語に変わる。この醍醐味は他の入力ソフトでは味わえないものです。携帯電話をよく使う若い層では、これが言葉の遊びとして受け入れられるかも知れません」

カーナビやPDAにも用途は広がる
──携帯電話以外のデバイスへの応用は考えていますか。

「カーナビやリモコンでは携帯電話のようなキー配列を持っているのが一般的ですから、まずこれらのデバイス用の入力技術に利用することが考えられるでしょう。また、ソフトキーボードのキー数を減らすこともできるので、キーボードの占有面積を減らしてPDAの狭い画面を有効に活用したり、逆に個々のキートップを大きくしてより打ちやすくすることもできます」

──音声認識や先読み機能なども競合になると思いますが。

「音声認識に関しては、まだまだ認識率が低く実用には厳しいと思います。また、たとえ高性能な音声認識エンジンが開発されたとしてもキーボードがなくなることはないでしょう。理由は簡単で、文書入力には必ず編集作業が必要だからです。削除とかカーソル移動を音声操作で行なうのは困難です」

「ワードコンプリション(Word Completion)の発想は、押すキーの数を減らせるため、障害者向けの技術としてはよく使われています。ただし、キーを押したあとに確認する作業が入るので、入力スピードは逆に遅くなってしまいます。そのため一般ユーザーのメリットにはなりにくい。また、予測するための辞書が別に必要になってしまうというデメリットもあります。我々の障害者向けの製品では利用しているものもありますが、携帯電話向けの技術としては今のところ使用していません」

──日本市場向けの製品はいつごろ登場する予定ですか。

「興味を持ってくれている会社は多く、話は進んでいます。ただし、我々はOEM供給する立場なので、その詳細を申し上げることはできません。ただし、中国語やヨーロッパ向けの自社製品にT9を搭載してくれている国内メーカーはすでに何社もあります。こういったメーカーの新製品にT9が搭載される可能性は十分にあります」

──最後に日本市場に対する抱負を。

「T9ではヨーロッパ市場では、事実上のデファクトスタンダードとなっており、T9なしでは売らないというベンダーもあるほどです。日本でも標準を目指したいと思います。日本の携帯電話の台数は5800万台という統計も出ているようですが、携帯電話の市場はPC以上に可能性があります。もし、そこで標準を取れれば世界で最も使われているソフトになる。そのためにもがんばっていきたいと思います」

注1 “T9 Text Input”は、文字入力の際に、各文字が属する行だけを入力していく方式を採用している。たとえば「こんにちは」の場合、ユーザーは「カ行」の文字が割り当てられた携帯電話の「2」のボタン、「ワ行」が割り当てられた「0」、「ナ行」の「5」、「タ行」の「4」……と、順番にボタンを押していけばいい。T9 Text Inputは、自動的に内蔵辞書を参照して、「こんにち……」、「けんのと……」、「けんにて……」など複数の可能性の中から最適な単語/文節を絞り込んでいく。

入力は、基本的に文字と同じ数のキーを押すだけで済むので、現在一般的に用いられている携帯電話のように「カ行」の「2」を5回押して「こ」を表示させ、次に「ワ行」の「0」を3回、「ナ行」の「5」を2回……など、かなりの回数のキーを押す必要はない。キーを押す回数は入力する単語によっても異なるが、同社の調査では、英語入力を少なくとも半分以下に抑えることができるという。

T9 Text Inputは、すでに英語/フランス語/ドイツ語/中国語など16カ国語版が用意されており、フィンランドのノキア社の携帯電話など、ヨーロッパ向けの携帯電話ではかなりのシェアを誇っている。日本での採用例はまだないが、日本電気(株)、松下電器産業(株)、ソニー(株)など7社の日本メーカーが、海外市場向けの製品で採用しており、現在、国内向けの製品に関しても検討段階にあるという。




注2 富士通高見澤コンポーネント(株)、(株)富士通研究所、(株)しなの富士通の3社が共同で開発した片手入力用のキーボード配列。6列×3行のキーのうちはじの3つがシフト/変換などの機能キー、残りの15個に26文字分のアルファベットが割り当てられている。アルファベットは、使用頻度の高い「A」と「E」が単独である以外は、それぞれ2文字ずつ割り当てられている。入力は子音+母音のローマ字入力で行なう。たとえば「現在」と打つ場合には、「GT」「E」「PN」「ZK」「A」「HI」と順に入力する。ここで変換キーを押すと「現在」「展開」「限界」……など、考えられる単語の組み合わせが順番に現われてくる。SH-Keysの対応製品としては、Palm/WorkPad用の片手キーボードなどがある。

【詳細】富士通高見澤コンポーネント
http://www.fujitsu.co.jp/hypertext/ft/whats_new/sh-keys.html

注3 “CUT Key”はミサワホームが開発した文字入力方式で、12個のキーのうち5つのキーに「A」「I」「U」「E」「O」の母音一字ずつ、残りの7つのキーに子音3つずつ(「YWX」「KGF」「SZJ」「TDV」「NCQ」「HBP」「RML」)が割り当てられたキー配列。たとえば「どようび」なら、「TDV」を2回、「O」を1回、「YWX」を1回、「U」を1回……と入力していく。CUT Keyを採用したメール端末として、NTTドコモの『Pacty』があるほか、PS/2に対応したキーボードも販売されている。

【詳細】ミサワホームのウェブサイト
http://www.misawa.co.jp/CUTKEY/ 

(インタビュー・構成 編集部 小林久)


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