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月刊アスキー遠藤編集長が聞く――これがThinkPadの哲学だ!! そして次のThinkPad s30はどうなる?
2002年2月24日
ThinkPadはどこへ行く?
2月5日に日本アイ・ビー・エム(株)はノートパソコン“ThinkPad”の春モデルを発表した。同社のノートパソコンは『ThinkPad TransNote』やかつての『ThinkPad 701C(バタフライキーボード)』のような派手なギミックを搭載したものから質実剛健なものまで、多彩なラインアップを誇っており、ハイエンドユーザーの評価も高い。
しかし、パソコンに関するマーケティングの責任者である中林千晴氏は、今後ThinkPadについて「プロダクトにすごいファンクションを積み上げることはしない」「ソリューションにドライブしていく」と語る。ということは、今後IBMはThinkPad s30のようなとんがったハードは作らないのか?
“デスクトップ不要論”を唱え、ノートパソコン使用歴が10年を超える月刊アスキー遠藤編集長が1月30日、中林氏をはじめとする日本IBMのThinkPadの製品企画、マーケティング、開発陣に、神奈川県の日本IBM大和事業所にてThinkPadの気になる今後についてお話を伺った。
なお、インタビューには2名のThinkPadマニア、別冊ASCII No.4のクロスレビュー(5点満点厳守)でs30に10点をつけた別冊アスキー編集部吉川と、自称ThinkPad普及協会会長のPC Explorer編集部小林(右利き用TransNoteユーザー)が同行した。
新しい『ThinkPad X23』は?
[月刊アスキー遠藤編集長(以下遠藤)] ノートパソコン何使ってるかアンケート”っていうのを2001年の年末にとったらですね、ThinkPadがけっこう多かったんですよ。ホントに。ここを見てもわかりますけどね、僕だけ。(編集部中西、自分の『Evo Notebook N200』を机の下に隠す)あ、違うか……(笑)。
まあ、ここにも2人いるし(吉川は『ThinkPad i Series s30』、小林は『ThinkPad i Series 1620』を使用)。で、このインタビューでは、これからThinkPadがどっちに行くのかを伺えればいいかなと思うんですが。まず今回発表した最新機種の『ThinkPad X23』って、あまり変わっていないんですよね。
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『ThinkPad X23』 |
[BP&PC事業部 PC製品企画&マーケティング モービル製品企画 伊山円理さん(以下伊山さん)] 今回のThinkPad X23は、X22から大幅な変更はありません。見かけもX22と変わってませんが、CPUのクロックアップなどは行なっています。ラインアップ的には、無線LANモデルのほかにBluetooth搭載モデルを追加したのが大きな変更点ですね。
[ASCII24編集部(以下編集部)] つくべき機能は全部ついたということですか?
[伊山さん] そうですね。収まるべきところに収まっているという感じですね。
[遠藤] 『ThinkPad 600』以来の、黒い箱の下のカドを取ったデザインで、12インチ液晶がぴったりで、これ以外のデザインはない?
[伊山さん] これ以上のバランスは取りようがないというところに今、収まっているのではないかと思っています。基本的には、X20シリーズは“究極のデザイン”と考えていまして、大幅に今の形から変えるということはありません。
[PC Explorer編集部小林(以下小林)] 当初はけっこう絞り込んだインターフェースでしたよね。それが、IEEE1394とか、IrDAもなかったのがついたりとか、徐々に増えているというのはどういう理由なのでしょうか?
[伊山さん] もともと、1394は企業系のユーザーにはあまり用途がないと考えていたので、今はありませんがコンシューマー向けに特化したモデルの『ThinkPad i Series 1620』のみについていました。LANポートも、企業系にはついているけれど逆にi Seriesにはついていないという差があったのですけれども、2001年の10月くらいからそういう壁をとりはらって、すべてThinkPadというブランドで販売しています。そういう意味で、もともとこっちにはあって、こっちにはなかったよというものを全部入れて、ひとつのThinkPadとして作ってみましょうということです。
[遠藤] 1394つけても、100円とか、そういうコストですか(笑)?
[BP&PC事業部 PC製品企画&マーケティング マーケティング・マネージャー中林千晴氏(以下中林氏)] いわゆる1000個ロット時で……。
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BP&PC事業部 PC製品企画&マーケティング マーケティング・マネージャー中林千晴氏 |
[ポータブル・システムズ 企画・事業 課長 牧村博則氏(以下牧村氏)] 価格がだいたい、1000円くらい(チップ単体の価格であり、実装に要するコストではない)。
[遠藤] そんなにするんですか?
[牧村氏] はい。コントローラーのほうがけっこうします。
[中林氏] デスクトップ用の、PCIカードに載せた形でも、20ドル(約2660円)近く、一番安いので18ドル(約2400円)くらいですね。
[遠藤] 失礼しました。にもかかわらず、全部もういっしょくたに、ひとつにしちゃったと?
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ThinkPad X23の底面をのぞきこむ月刊アスキー遠藤編集長 |
[BP&PC事業部 PC製品企画&マーケティング モービル製品企画 横井秀彦氏(以下横井氏)] 当初、X20のプロジェクトがスタートしたとき、そのときは企業向けと(コンシューマー向けの)i Seriesとに分けてあったんですけど、その後高速インターフェースについて何がお客様にとって必要なのかと(i Seriesを廃止してブランドを)統一する前に、いろいろと考えたんですよ。残すべきかとるべきかを含めてですね。で、まだUSBは1.1が主流ですので、1394を搭載しようと。
[小林] インターフェースが増えてきているのはバランスやトレードオフの関係、技術的な革新、ユーザー層のニーズのとか、いろいろあると思うんですが?
[中林氏] ThinkPadの全部のシリーズで同じですけれど、基本的にはコアの部分がありますよね。キーボードとか、ゆずれない部分が。“ThinkPadフィロソフィ(哲学)”で串刺しにできるような部分があって、それ以外の部分は、基本的にはマーケティングをしている人間が、どんなI/Oがほしいかというのをリクワイメントして、ワールドワイドの開発のヘッドクォーターに突っ込むわけですよ。ヨーロッパのチームも、アメリカのチームも突っ込みますと。で、それぞれをマージナルに見て判断しています。
血の中に流れる“ThinkPadフィロソフィ”
[遠藤] ThinkPadフィロソフィって、紙に書いたものってあるんですか?
[中林氏] いや、そこで僕も非常に危惧はしているんですけれど、だれかの血の中に流れている……。
[遠藤] 血の中(笑)!!
[中林氏] そういう部分ってありますよね。だって、スペックで、あるいはクライテリア(Criteria:基準)で定義されているものはあるじゃないですか。あるけど、そうじゃないものってありますよね。デザインなんて多分そうだと思うし。文章に、きれいになっていないものも含まれているので、それがフィロソフィというものなのでしょうけど。
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ポータブル・システムズ 企画・開発推進担当 部長 小笠原明生氏 |
[ポータブル・システムズ 企画・開発推進担当 部長 小笠原明生氏(以下小笠原氏)] キーボードに関しては開発の中で虎の巻っていうのがあるんですよ。力の“ヒステリシスカーブ”っていうのがありまして、深さと力はこのカーブに従わないと、絶対に使いにくいというのが。すべてのThinkPadのキーボードは、そのヒステリシスに乗らないと使いにくいと。それは非常にこだわりを持っていますね。
[中林氏] クライテリアとして、数値化できてドキュメンタイズできるものは可能な限りやっているんですけれど、とは言え、虎の巻の中に「Enterキーの右横に未来永劫何もおいてはならぬ」とは書かれていないし、違うデバイスが出れば可能性としてはあるかもしれないですしね。でも、出てきていないところを見れば、ThinkPadとしてこれはふさわしくないという全体の合意で押さえられているような。
[牧村氏] たとえばThinkPadのAシリーズとか、Tシリーズとかありますけれども、全部同じクライテリアでやっているわけです。だから、これ(X23)が薄くて軽いからといって、これだけクオリティーのクライテリアを下げて出しているっていう訳ではなくて、全部同じクライテリアをミートしながら極限まで薄く、軽くするっていうところに挑戦している……。
[遠藤] え、じゃあThinkPadの場合はどれも同じ基準に合わせてつくっていると? どういう基準なんですか、それって?
[小笠原氏] クライテリアはいっぱいあるけれども……。
[遠藤] 何項目くらいあるんですか?
[小笠原氏] 数百項目ですね。
[遠藤] たとえばある高さから落とすと壊れるとか?
[小笠原氏] 落とす試験にもいろいろと種類がございましてね。自由に落とす場合とか、わざとカドから落として、一番ショックが強い状況での検査とか。
[牧村氏] 薄くなってくると液晶とかが割れやすいんですけれども、ここからこう落ちたときにこの強度はどうか、ですとか。そういうテストも全部、同じクライテリアでやっています。
[遠藤] これは橋本さん(橋本孝之取締役 BP&PC事業部事業部長)がおっしゃったんだけど、s30のユーザーのアンケートを取ったら、何に満足したかといったらキーボードがトップだったっていうのは、そうなんですか?
[伊山さん] ええ。キーボードが。
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別冊アスキー吉川愛用のs30のキーボード |
[遠藤] 小さいマシンだと、軽さとかバッテリーとかになりそうじゃないですか。でも、一番の満足点がキーボードだというのは、s30を象徴しているような……。
[中林氏] キーボードに関してはあんまり心配していないんですよ。多分社内的にもワールドワイド的にも、へんてこりんなキーボードを実装しようとする企画の人がもしいたら、途中で抹殺されていて(笑)ゴールしないから。
[吉川] どうしてキーボードの左端に「Fn」キーがあるのですか? これだけが何か……。
[中林氏] あ、1回決めたらずらさないというのが(笑)。
[遠藤] 要は、音量とか(ディスプレイ上端のライトがキーボードを照らす)キーボードライトとか、けっこうそういう操作をやりたいということでしょう?
[横井氏] 対角線上ですから、真っ暗なときでも(キーボードライトの位置が)わかりやすい。これは目をつぶっていても使える場所でないと。
[中林氏] (キーボードの手前左端のFnキーと)一番右端のキーでキーボードライトでしょ。そういうパターンを決めて、なるべくいじくらないと。操作体系を守るっていうのは重要なことで。
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こちらはThinkPad 701Cの“バタフライキーボード” |
[遠藤] 重要なことですよね。あと“TrackPoint”がThinkPadを離せないっていう人の理由のひとつかと思うんですけど。この“猫の舌”がつるつるにならないように、とかいう要求もあるんじゃないですか? これ黒色にしたら汚れないですよね?
[中林氏] (赤いのは)デザインポイントですからね。
[横井氏] これはまた別途販売しておりますので(笑)。
[遠藤] 本体にパカッと開けるとスペアが5個くらい入るようにするってどうですか(笑)?
[横井氏] どちらかって言うと消耗品という形なんで。
[遠藤] ソフトウェアで「そろそろつるつるになったでしょ」ってポップアップするとか、定期的に郵送してきてほしいな(笑)。ダスキンみたいに。
[中林氏] それいいアイデアですね(笑)。ビジネス的に。
薄型ノートパソコンは作らない?
[遠藤] そうすると、薄くしようが厚くしようが基準があって、もし御社がものすごく薄いのを作るとしたら、めちゃめちゃ高くなっちゃいますね。だって、妥協しないでつくるわけでしょ?
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ポータブル・システムズ 企画・事業 課長 牧村博則氏 |
[牧村氏] Xシリーズの薄さの関係で言うと、一番最初に来るのが多分、先ほどの妥協を許さないキーボード。ほかに、液晶が12インチの液晶であること、これがワールドワイド的には妥協できる1番小さいクラスではないかと。その液晶に関しても、明るさに関してはMAXで150cd/m2出ると。それを守りながらどこまで薄くできるかということなんですけれども。ワールドワイド的には1インチ(25.4mm)にバリアーがあって、1インチを下回るとみんな薄いと感じてくれる。で、1インチを切ったらその次に何がくるかというと、いかに拡張性があるかっていうところ、あとさっきの使い勝手というところにくる。なので、いつも1インチっていうのを意識しながらやっていますね。
[編集部] Xの場合のトレードオフっていうのは何ですか?
[牧村氏] 基本的には、バランスをいかに維持しながら拡張性を延ばせるか、っていことだと思います。ですから、CPUに一番速いものを積めるかというと、それは積めない。それが薄さから来るトレードオフと。
[中林氏] スクリーンサイズとか、CPUとか、ストレージとか。
[牧村氏] もうちょっと厚い筐体であれば、(HDDが)60GBまでサポートできるんですけれども、40GBまで。あと、バッテリーが前にあると。これはThinkPadの特徴だと思うんですけれど、これっていうのは開けるときのバランスとかを考えています。薄くなればなるほど、液晶側が重くなってくるんで、開けていくと持ち上がっちゃう。で、バッテリーが前にあることで、この重さのバランスを保っているわけです。そういうことも、最初のデザインのコンセプトとして考えています。
[遠藤] X23ってドッキングステーションもありますよね?
[横井氏] あります、はい。
[遠藤] じゃあ、『ThinkPad i Series 1157』とか、その世界の思想ってことになりますよね。『ThinkPad 570』ですね、そういう意味では。あれもかなり薄かったですよね。
[中林氏] あれも薄かったです(ThinkPad 570の厚さは約28mm)。ドッキングコンセプト自体が、けっこう古いと言えば古い。当時社内では“スライス”“スライサー”とか言っていました。薄切りハムみたいな。そういうイメージになったのは、あれが最初ですね。
[小笠原氏] まあ、前身に『ThinkPad 560』というのがありましたよね。あれでそういう市場を形成していって、570に行って、Xに受け継がれる。ブランディングの考え方として、500番台が“ウルトラポータブル”という色分けで、机に置いて使っていただくのが700番台。
[遠藤] お値段もいい値段で。
[小笠原氏] お値段はちょっと高かったですけれどね(笑)。とんでもない値段の時代もありましたけれども。300番台は普及型。お値段と機能がバランスしたという形で。
[牧村氏] 10インチが200番台でしたね。
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『ThinkPad 220』6本の単三乾電池で駆動することも可能 |
[小笠原氏] サブノートはそうでしたね。あれは日本でしか出していなかったシリーズで、ワールドワイドでは出していなかったんですけれども。
顧客は薄さを求めているのか?
[遠藤] なるほどね。薄型ノートパソコンって、今ブームだと思うんですけど、でも、なんで薄型ノートを作るんですかね(笑)?
[中林氏] 多分「できることを全部やっちゃいました」的な……。
[遠藤] できることを全部やると薄くなるんですかね?
[中林氏] 極限まで挑戦しちゃおうと。そこにお客さんのデマンドがあるかどうかはさておきと。とりあえず薄いってことだけでアピールポイントになる、「世界で一番薄い」と。で、いわゆる1点豪華主義的な1mm戦争が始まってますよね。A社さんが1mmくぐったんで、次はB社さんが0.5mmくぐるだろうとか。差別化をどうするかというディスカッションの上に生まれてきた製品と、ビジネスジャッジの上で生まれてきた製品との違い。欧米はビジネスですが、日本はとにかく他社との差別化を徹底的に狙うとか、独自性を出そうとかいうので、絶対日本しかできない限界への挑戦、なんか“プロジェクトX”風に、ギューッとチャレンジした(笑)……。
[小笠原氏] 日本のお客様は軽くて薄いというのを非常に好まれますんで、我々技術陣としてもチャレンジしてそういうものをどんどんお届けしたいんですけれども、アメリカとかヨーロッパに行きますとですね、あまり薄いものは壊れるんじゃないかと。ペラペラしていて、あまり長持ちしないんじゃないかということで、「あまり薄いものを作ってくれるな」という要求があるんですね。ThinkPad 570くらいの薄さが、アメリカとかヨーロッパで許容される……。
[遠藤] 限界なんですか?
[小笠原氏] 限界の薄さ。ですから、あまり薄いものっていうのは日本を出ますと評価されませんね。
[遠藤] 日本の企業ではスパーンと販売の店頭部門までみんな、「薄いの出すぞ」と言えば「それいいね」ってビビビっと処理するっていう文化があるというか……。
[中林氏] たぶん、開発・企画側がより強く主導権を持っている企業だとそういうものが生まれてきて、その一方、営業の強い企業だとお客様が「ほしい」ということだけをやることになります。
[遠藤] IBMさんはどの位置にあるんですか?
[中林氏] IBMさん、どちらかというと営業・マーケティングが主導権をもっています。
[遠藤] いいんですか、それで(笑)?
[中林氏] 我が社も200番台シリーズでやっていた当時、面白かったですよね。エンジニアのチームも、マーケティングも、そこに入れ込んで「極めよう」みたいな、ビジネスはさておきみたいな、でも実はあったりして、そういう感じが色濃く出てるような……。
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『ThinkPad 230Cs』カラー液晶ディスプレーを搭載。この機種も乾電池で駆動することができる |
[遠藤] 僕らは面白いですけれどね。
[中林氏] そう、面白いんですけど、これは本当にお客様のためのビジネスになっているのかという観点からすると、1mm薄くしてどんどん極限にチャレンジしていくと、トレードオフが発生しますよね。バッテリーを、すき間にもぐり込むような特殊なリチウムポリマーにすると、トレードオフとしてコストが上がるとか、何かが犠牲になる。その犠牲になったものがドーンと跳ね返りますよね。で、その1mm薄いノートパソコンを手に入れたお客さんの生産性が、はたして上がるかと。
[遠藤] う〜ん。
[中林氏] 遠藤株式会社で、社員が15人いますと。社員の1人がどうしても薄いのがほしいと言っていると。それを提供して……。
[遠藤] 自慢できるとかね(笑)。
[中林氏] そのくらいはサポートしたい気はあるんだけれど(笑)。とはいえ、1mm薄いのがほしいと言い張っていて、1万5000円高いというのだと、あんまり買ってあげたくないだろうと。で、それが自分のサイフだったら「俺の好きにさせてよ」というのがあるんで、極限まで薄いとか、世界最小とか最軽量というのは、もちろんコンシューマーセグメントの製品ですよね。
[遠藤] 薄型ノートって、別に作ろうと思えばどこの会社でもつくれるんですか。そんなことはないんですか?
[小笠原氏] たとえば、バッテリーを極限まで薄くしてくれって言われても、誰がやっても作れるわけではないですから。それは限定されたところでないと。
[牧村氏] 要素技術的にはあったとしても、それをバランスよく組み合わせて、ソフトウェアも含めてインテグレーションするというところが、誰でもできるというわけにはいかないですね。
常にIBMのHDDを使うわけではない
ドッキングポートはもっともいい位置に
[遠藤] Xシリーズとしては、一番苦労した点はどこなんですか? 涙なしでは語れない、みたいな。
[牧村氏] 基本的には、同じクオリティとクライテリアの中にいかにインテグレートするか、これが一番苦労しました。軽くなって、薄くなって、小さくなっていくほど強度や耐久性の面では不利になっていくんで、そういったところの苦労が。
[伊山さん] Xの場合、s30とは違ってドッキングのソリューションというのをすべて持っていまして、かつそれが真ん中に来てしまいますよね。まずドッキングのソリューションがあって、ほかのものを限られた場所にどういう風にバランスさせるかというところが、苦労していただいているところだと思うんですけれども。
[牧村氏] 今お話しているのはドッキングのコネクターの位置なんですけれども、これはドッキングステーションをs30が除いて全モデルでサポートするということで、ここの位置は必ず決まっているですよね。ここって非常にいい位置(笑)なんですよね。一番高さも取れる、一番いい場所にこのドッキングのコネクターが来ると、ほかのものをいかに配置するかという、場所の取り合いをするわけですよね。
[編集部] s30でドッキングポートは考えなかったのですか?
[伊山さん] それはトレードオフという形ですね。
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『Palm Top PC 110』重さ630gのマシン |
発熱は? 静粛性は?
[小笠原氏] それと、今エンジニアの使っている時間の半分くらいは放熱の技術で……。
[遠藤] もう何か、薄型作るの、今が最後じゃないかという説がありますよね(笑)。
[小笠原氏] そんなことはないですよ。そこはチャレンジになると思うんですよね。
[遠藤] 水冷にはいかないんですか?
[小笠原氏] 検討していますよ。
[編集部] Pentium 4についてはいかがですか? Xシリーズのサイズで?
[牧村氏] 今、Pentium 4ではないんですけれども、ノーマルボルテージ(のPetium III)はどうかとか、常に将来向けてのサーマルは大丈夫かとか、どこまでできるかというのはずっと研究しています。
[遠藤] あと、バッテリーですよね。燃料電池とかはどうですか?
[小笠原氏] やっています。
[遠藤] もうやっている。
[小笠原氏] 話題になるようなものは、ほとんどやっています。
[遠藤] みんなやりますよね。ほかに何が話題になってるんですか(笑)?
[小笠原氏] あとは、再使用エネルギー。たとえば太陽光発電、まだまだ基礎研究の段階ですけれどもね。実用化はかなり先になると思いますけれどもね。
[編集部] 静粛性などはいかがですか?
[別冊アスキー吉川(以下吉川)] 今回ノートパソコンの特集を掲載した別冊ASCIIという本を作ったんですが、そのときの測定では、s30のHDDはけっこう大きな音を出しますよね。今、s30は流体軸受けのHDDに換装するのがはやっていますし……。
[中林氏] 何dBという(社内の)基準はクリアしていますが、あと人間の感覚的なところまでは力及ばずという感じですかね。
[遠藤] 逆位相の音をソフトウェア的に流して打ち消しちゃうとか(笑)。
[中林氏] 流体軸受けは次ですね。
[編集部] 流体軸受けとボールベアリングと、どれくらいコストの差があるんですか?
[中林氏] コスト差? ドライブ単体で、いわゆる1000個ロットということになると……。
[遠藤] またそこに行く。
[中林氏] (笑)一般的に200ドルとか、そういう差でしょうか。
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1982年以降のIBMのHDD |
潤沢な供給が日本で開発している理由
[編集部] ThinkPadに搭載しているHDDはすべてIBM製なんでしょうか?
[中林氏] これがまた7不思議で、IBMのHDDが、必ずしもIBMのThinkPadに一番最初に使われるというわけではない。
[遠藤] 他社のドライブが載ることもあるんですか?
[牧村氏] あります。
[編集部] 選択されるときに、自社製ということでは選んでらっしゃらないんですか?
[小笠原氏] ええ。我々、プライマリーソース、セカンダリー、場合によってはサードソースも、数の確保をして安定供給したいという観点から、基本的に1社に限定することはないんですね。もちろん、すべて同一基準、スペックの製品であることが大前提ですが。たまたまHDDが弊社のものもございますし、他社のものであることも。バランスの取れた供給を確保しなければなりませんからね。それは、すべての電子部品に関して同じで、必ずセカンド、サードとございますので、“All Blue(IBMのニックネームは“Big Blue”)”ということはありえない。
[中林氏] 社内でもビジネスジャッジでやり取りしてます。
[牧村氏] コストとスペックと、クオリティーで決めていて、1社のみを選ばないということなんですけれども、それで競争してもらって、よりクオリティーとスペックの高い、よりコストが安いものを次に作ってもらうという、そういう考え方でやっていますから。
[中林氏] 義理人情でビジネスはできないですしね。うちのHDDのディビジョンも、いろんな他社さんとものすごいビジネスをしていますし。で、うちだけインターナルで安いなんてことはありえない。他社さんでもいっしょですよ。
[小笠原氏] 我々、グローバル プロキュアメントっていう考え方を取り入れてまして、ThinkPadは全世界に供給しないといけませんので、それができるかっていうのが、サプライヤーさんの重要な条件になります。
[遠藤] そうすると、限られてきちゃうと。
[小笠原氏] 結果として。その辺の理由が、私たち日本でThinkPadを10年間も開発させていただいている要因のひとつ、いくつかあるんですけれども、かなり上のほうに来る要因ですね。開発の、試作段階からサプライヤーさんと事前にいろいろお話して、こちらの要求も……。
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1982年当時のHDD『M/T 3380』容量は2.56GBで、直径はなんと14インチ(約36cm) |
[遠藤] サプライヤーは日本に多いからっていうことですか?
[小笠原氏] かなり多いですね。日本、それから韓国、台湾ですね。ほとんど同じタイムゾーンで開発できますので。数年前まではノースカロライナ州でもThinkPadを作っていたんですよ。最後は701だったかな、あのバタフライですね。並行開発をやっていた時期もあったんですけれども、それ以降はすべて日本で。技術、スキルの面、それから物の調達面、もうひとつは市場がですね、日本のお客様というのは、やはり厳しい評価をされますし。そういうところでもまれて、いいものが出てくるという土壌があったので、まあ十年間、IBMの中では非常に珍しいことですね。日本に全世界の開発があるということは。
[遠藤] 危機はなかったんですか?
[小笠原氏] いやー、もう、いろいろありましたよ。
[遠藤] 知ってて言ってるんですけれども(笑)。
[小笠原氏] でも、またそれを乗り越える人材もいたし、非常に私たちも、そういう意味では幸せでしたね。
コンシューマー向けはやめない
インターフェースもビジネスジャッジで
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バタフライキーボードの『ThinkPad 701C』ニューヨーク近代美術館(MOMA)に展示されている |
[遠藤] また話が横に(笑)。フィロソフィの上に、新しいI/Oをこういうものを入れたいというのが上がってくると?
[中林氏] 端的に言っちゃえば、おそらくよっぼど天変地異のようなことを言わなければ、何でも多分実装してくれると思うんですよ。
[遠藤] え!
[中林氏] 技術的なビューで、開発側は常に見ているから、たとえばUSB 2.0がどうしても要ると言ったら、サプライヤーさんからチップ買ってきて、どーんとつけて……。いずれにせよ、技術的に不可能なことはないですよね。バリアーを越えなきゃいけないようなことをいっぱい突っ込んだら難しいでしょうけど。さっきのIrDAとか1394とか。
[遠藤] インターフェースで、これがほしいというのが上がってくると、いろんなモデルを作るわけにはいかないから、全部入ってどーんとできちゃう?
[牧村氏] 各カントリーのユニークなリクワイメントが、日本から、アメリカから上がって、ヨーロッパから上がってきて、でリクワイメントが沢山あるわけですけれども、それにプライオリティをつけていって、まあ最後はどれか落とさなければいけないわけですよね、重さがこれだけ、コストはこれと決まっていて。そのプライオリティの順番付けをマーケティングしてもらって、ある部分まではやりますと。
[中林氏] 1394がまさにそれで、1394を実装しているカントリーはJapanと……。
[伊山さん] あとChina……。
[遠藤] それは世界共通というわけではないんですか?
[伊山さん] 1種類だけとは限らないんですよ。
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BP&PC事業部 PC製品企画&マーケティング モービル製品企画 横井秀彦氏 |
[横井氏] そこにもビジネスジャッジというのがありまして、それの台数とコミットしなければ(投資に見合った台数が販売できなければ)いけないわけですよ。たとえばこのXシリーズ、最初X20でスタートしたときに、日本のチームとワールドワイドのチームで、まず日本のほしいものを言えと(笑)。いっさいがっさい言って、でその中でできるのかどうかっていうのは、開発のチームにいろいろとアセスメントしてもらうわけですよね。当然私たちにもこれはゆずれないというのがあるんですけれどね。けっこう、このXシリーズについては、世界の中でも日本が一番大きな市場ですので。
[中林氏] 半分くらい?
[横井氏] 半分もあるかな(笑)? で、そういう意味で発言権の一票がかなり大きいんですよね。逆に大きなクラスになってくるとアメリカのほうが、Tシリーズなんかはアメリカのほうが大々的に売っていますから、もう私たちの発言権は(笑)。おっしゃる通りという感じで。ですから、機能的にXシリーズに関しては、多分90%くらいは私たちの意見が入っている。大きさに関しても、開発はここまでだと、でも私たちマーケティングは無理難題をいっぱい言いましたが。
[遠藤] たとえばどういうようなことを言ったんですか?
[横井氏] 厚みをもっと薄くしてくれとか……。
[遠藤] 結局そこにたどり着く(笑)。
[横井氏] そこで大事なのは……。
[遠藤] 差別化が必要だとか(笑)。
[横井氏] あの、お客様にはやっぱり長く使っていただかなければならない。世界一薄い、世界一ちっちゃいと言っても、3ヵ月後には破られるわけですよね、そういうのは。それよりも、世界一使いやすいほうがいいんじゃないかと。
コンシューマーはウェブ直販で
[遠藤] IBMさんは、どうしても法人と個人という話があって、2001年には「個人向けやめるんじゃないか」みたいな話があったんですが、橋本さんは「コンシューマー絶対にやめん」と。なぜならば、法人客は新しいものを使ってくれないと。OSのバージョンも変えてくれないし、周辺機器にしろ、DVD+RWとかが出てきても買わないですよね。だけど、やがては今の1394の話みたいに、最初は使わないと思っても、実際周辺機器が出てくると使うかもしれない。そういうことを考えると、新しいこととか、ユーザーが先に何を求めているかとか、別にテストマーケットっていう意味じゃないと思うんですけど、それを見る意味でもコンシューマーをやめるわけには絶対にいかんと、橋本さんが非常に力強くおっしゃっていて安心したんですけれども。
[横井氏] 新しいデバイスが企業になかなか入らないという話ですが、古い話だとCD-ROMですよね。当初、マルチメディアの筆頭のように……。
[遠藤] 『FMTOWNS』みたいな。
[横井氏] 企業の中で使われなかったですよね、まったく。でも、もう企業でも当たり前になった。まあ、そういった形がひとつのターゲットとしてのお客様、橋本が言っていた「コンシューマーやめない」。でもコンシューマーの中でもいろんな幅のお客様がいらっしゃいます。その中で、全体としてどのお客様にIBMの強さを提供させていただくかというのが、2001年の秋に発表させていただいた、ThinkPad(のブランド)を統合するということです。
[遠藤] 要するに、i Seriesがなくなったというよりは、全部一緒ですよという意味ですか。
[中林氏] 先ほどの、橋本の言っているコンシューマー、個人向けのビジネスの話は、従来はあまりにも個人向けのビジネスイコール店頭販売というポジショニングをとられていたんですけど、昨今直販ビジネスが上がってくると……。要は販売ルートなんですよね。製品を供給する側と、エンドユーザー、お客様がいて、それをどういうパスで運びますかと。
[遠藤] ふ〜ん。
[中林氏] 宅急便業者に直接運んでもらうのをダイレクトとか直販と言っていて、リテールさんとかチャネルさんに入ってもらって店頭でやってもらうのを小売り。具体的に縮小してしまっているのはこの小売りのビジネスで、むしろこちら(ダイレクト販売)は拡大しています。ThinkPadユーザーの数は、アスキーさんの調査とか他社さんの調査でも、コアなユーザーさんにやけに多い。そういうユーザーさんはもともとウェブ直販に対する抵抗感が少ない。
[遠藤] もともと店頭には、2〜3モデルしか流れていなかったですよね、“Aptiva”を入れても。
[中林氏] そうですね。比較的少ない。
[遠藤] それで、その販売店の数を絞ったということなんですか?
[中林氏] 従来、右肩上がりにコンシューマーマーケットが伸びていったときには、営業部としても多少の無理をしてきた。しかし、そのヘッドルームが、許容範囲がなくなってきたんですよね。これは各社さん共通だと思うんですけど。
そういうものを、どんどん変えるわけですよね。取引条件などを割と大胆に「じゃあこれでお願いします。だめだったらうちも潔くあきらめますよ」というような感じでやった結果、「この条件だったら、これじゃあもうやる気がしないな」と降りられたところもいらっしゃいますし、「むしろこのほうが差別化がしやすい」というところもあり、結果的に減ったんですね。でもその分、逆にダイレクトが増えたました。Xの場合は、もともと店頭でも出ていたんですけど、量は少なかったんですよ。
[遠藤] そうなんですか。
[中林氏] やっぱり、今のThinkPad Rシリーズとか、昔だったらi Seriesの1800、1200とかがやっぱり、ボリュームゾーンだったんですね。Xは少なくて、これはもうウェブに移そうと。ウェブに移したほうが台数が売れ、トータルのビジネスも増えました。ドッキングステーションをいっしょに買われるお客様とか。
[遠藤] ウェブだと増えるというのはよくわからないけど、ウェブならもって帰らなくてもいいから増えるんですかね?
[中林氏] というのもあるし、見つけやすいという要因もある。
[遠藤] あ〜、なるほどね。傘まで買っちゃうとか(笑)。
[中林氏] i Seriesの場合だと2500くらいの店舗で扱っていたけど、企業向けのXの場合は実は140店舗とか……。
[遠藤] あの、Xに関して、ウェブのほうが増えたってことですか?
[中林氏] そうです。
[遠藤] 全体でも増えたんですか?
[中林氏] いや、全体では減っています。やっぱりリテールって大きいですから。都会部のコアなユーザーは、生活圏で言うとXは全部カバーしてたんですよ。ところが、ちょっと地方に行くとXはもうないんですよね。たとえば地方の量販店ですとi Seriesのオールインワンとデスクトップのみで、Xはぜんぜんキャリーしない。Xは都市部でのカバレージはあったんですけど、ネーションワイドでのカバーはなかったんですよね。それが、ウェブに移ったんでネーションワイドでカバーして、結果的に増えたと。
[遠藤] 今回のX23について、特にこういうユーザーが多いとかありますか? 法人と個人でもいいですが。
[中林氏] 明らかに違うのは、いわゆるこういう層です(遠藤編集長らを指す)。モビリティがいる。いらなければうちで言えばRシリーズ。
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BP&PC事業部 PC製品企画&マーケティング モービル製品企画 伊山円理さん |
[遠藤] でも、下にs30もありますよね。
[中林氏] あ、だからs30とはやっぱり、純粋にバッテリーがより長い時間ほしいお客様。
[横井氏] 画面サイズで、自分がどっちが合っているのかってありますよね。自分は10.4インチのほうで、よりモビリティのほうを選びたいと、長時間バッテリーを選びたいというお客様か。もしくは、どっちかというと、机の上で使う時間もけっこうあるから、画面ちょっと大きめのほうがいいかなとか、そういった形の方はXを選ばれているようですね。
[遠藤] Xシリーズとs30では、日々の出荷台数ではどれくらいちがうんですか?
[中林氏] プロモーションを徹底的にs30でやったんで……。
[伊山さん] でも、企業のお客様も入れると、やはりXのほうが。
そしてThinkPad s30はどうなる?
[吉川] 唐突なんですが、今後s30はどうなるんですか?
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『ThinkPad s30』 |
[中林氏] s30がどうなるかっていうのは、またクリティカルな質問でもあるんですけど……。さっきあったように、まずひとつビジネスジャッジっていうのが絶対的にあります。調査会社などによるとパソコン単体のハードウェア的には、先行き不透明なところがあるようです。一方、企業の投資の部分は伸びていっている。何が伸びているかと言うと、ITインフラへの投資だったり、CRMだとかEコマースだとかですね。やっていかないと負けちゃうんで。ソリューション的なところを、今企業がもっとも投資しているし、必要としているので。社員に5g軽いパソコンを与えて生産性が上がるとは思えないけれど、新しい営業支援のソフトウェアとか生産管理のシステムを導入すれば生産性がガーンと上がる。そういうところには投資すると。そこに向けて、お客様が投資をするんだったら、うちもそこに合わせてやるというのが基本的なスタイル。その中で、小さいものが絶対に必要であれば作るし、なくてもこのビジネスが順調に運ぶというのであれば、逆にそれは作らない。
だけど、小さいものへのデマンドって必ずあるじゃないですか。特に日本にはかなり強く。そういう意味では、ThinkPadのグループとしてはXシリーズとs30を柔軟に考えていきたい。将来的には、いいところをマージナルしていって、そういうお客様に満足してもらいたいですね。ただ、全部(のニーズをカバーすること)は無理だと思うんですよ。s30も、たとえばソニーさんのバイオC1と比較して迷った方というのはそんなにいないわけで、バイオC1のエリアは、s30のお客様の層とは違うと見ています。そうしたエリアに向けた製品を作れるか作れないかという観点だったら、多分作れちゃうと思うんだけど、それをやって投資して、本当にビジネス的なリターンがあるか、ビジネスジャッジとしてあのエリアはやらない、と。
[編集部] 以前おっしゃっていたように、他社のミニノートをOEMしようとかですか?
[中林氏] それは冗談(笑)。でも、どうしてもそれがほしいんだったら。
[遠藤] 本当にそういうニーズがあったらってことですか?
[中林氏] たとえば、うちはコーポレートとしては許容しているわけですよね。SIビジネスをどんどん受けているじゃないですか。あの中で、お客さんがたとえば『ザウルス』が要ると……。
[遠藤] ほしいって言ったらね。
[中林氏] そう。デパートの受発注システムに特殊な装置を使いたくないと言われたら「じゃあザウルス使っちゃいましょうよ」って提案して、ザウルスにミドルウェアを大和で……。
[遠藤] (色を)黒くして?
[中林氏] (笑)そのまんま、やっちゃいますよ。そういうビジネスは存在しているから。
[編集部] 自社で作るレベルとしては、s30が一番小さいものですか?
[中林氏] 今見えている範囲はそういうことでしょうね。
[小笠原氏] ビジネスニーズに応じて。会社の仕組みがありますので、お客様の声があれば。まあ、IBMっていうのは単体でビジネスジャスティファイしないと(ビジネスとして成立しないと)、なかなか商売が成立しない会社なんですよね。3年間くらいは採算性を度外視した長期投資だという考え方もありますけれども、私どもはクォーター(4半期)ごとに判断をしますし、パソコンの事業も採算性を重視というふうになってきてますので。
[編集部] でも、御社はs30用に本体より高いと言われるとんでもないカバンを……。
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s30専用の『ThinkPad ケース』。万が一市販された場合は、s30本体より高価になるとうわさされている |
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中はこんな感じ |
[中林氏] リチャード・サッパー(Richard Sapper:工業デザイナーでIBMのデザイン顧問)の……。
[遠藤] ああ、あの革のカバン。あれ、出されないんですか?
[中林氏] ええ、もちろん出されないです(笑)。で、2年後にYahoo!オークションに(笑)。
[吉川] で、このかたちのもの(s30)は、けっこうこれ1台になる可能性が……?
[遠藤] また悲しい言い方するね(笑)。
[中林氏] s30は、まだ最終的なビジネスジャッジというか、(今後の展開を)外に公表する段階に至っていないんですが。でも、そこにビジネスセグメントがあるので、単純にs30をなくしちゃうとかいう話は……。お客様にとっての理想形としてはXシリーズとs30をマージナルできれば一番いいのではないかと考えています。1プラットフォームで、お客さんに満足していただける。そういう意味では、100点はないなと思うんですよ。つまり、さっきと同じ話ですね。多分日本でしか売れないセグメントで、多くの開発費をかけて開発して、で回収する間もなく3ヵ月に1回、何かを変えないと取材していただけないという(笑)心配をしながら、というビジネスモデルはうちにとってはあんまり……。
[編集部] s30は年に1回マイナーチェンジする“イヤーモデル”のような形に?
[中林氏] s30はちょっとロングライフになってほしいと思いますが。僕が個人的にイメージしているのはBMWとかね。
[遠藤] そういう質実剛健&頑固&……。
[中林氏] 高い(笑)。
[遠藤] それで、s40とX30とかってありえるんですか? 先ほどの話ではなさそうですが?
[中林氏] ハードウェア的に、ウルトラCは多分ないですね。キーボードが飛び出るとか、何かがパタパタ動くとか、すごいスロットがつくとか。
[遠藤] TransNote開発者の方(ジョン・カリダス―Dr.John Karidis:IBMフェロー、ThinkPad 701Cのバタフライキーボードの考案者)は何をやっているんですか? TransNoteの次は?
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『ThinkPad TransNote』ノートパソコンと紙のノートが融合してしまった。右利き用と左利き用の2モデルがある |
[中林氏] TransNoteの次、それはまた難しい質問ですね(笑)。カリダスはまた何かやってるんじゃないですかね。
[遠藤] じゃあ、ウルトラCはあるのじゃないですか?
[中林氏] カリダスのウルトラCはありです(笑)。
[遠藤] 話をもどして(笑)、Xとs30はマージすると?
[中林氏] それはわかりません(笑)。
中林氏らは繰り返し“ビジネスジャッジ”という言葉を使った。いかに注目を集め、技術的に面白い製品でも、ビジネスとして成立しなければ意味がないとIBMでは考えている。実際、販売状況のおもわしくなかったTransNoteは製造が中止されたと言われている。今後ThinkPadに、特にThinkPad s30およびThinkPad X23に、IBMはどのような裁定を下すのだろうか。
ThinkPad 701Cのバタフライキーボードにあこがれた世代としては、今後も派手なギミックを搭載したとんでもないノートパソコンを作ってほしいと思う。おそらく、中林氏らも実は同じ思いなのだろう。血の中に流れている“ThinkPadフィロソフィ”の話や「200番台は面白かった」という一言などから、ビジネスジャッジという言葉を多用しながらも「すごいノートパソコンを作りたい」という本音が聞こえたように感じられた。
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左は日本IBM箱崎事業所内で28日まで開催している“IBM Design from Japan”展、右は日本IBM大和事業所に展示されている歴代のThinkPad。記事中の製品の写真は、主にこの両所で撮影したもの |
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日本IBM初のA4ノートパソコン『PS/55 note 5523-S』にのしかかる皮製の犬。彼の名は『ThinkPad Dog』 |
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日本IBM大和事業所内の連絡通路を歩く一行 |
(編集部 中西祥智)
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