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【INTERVIEW】いつでもどこでも高速な通信ができる!? ライブドアが考えるD-Cubicの戦略とは


2005年6月29日

これまで“点”(スポット)の集合体でしかなかった公衆無線LANサービスが、この秋新しいステージに入る。

(株)ライブドアが提供を予定する広域無線LANサービス“D-Cubic”(ディーキュービック)は、広範囲の屋外を接続可能な範囲とした“広域”の公衆無線LANサービスである。“Cubic”(立方体)というサービス名称が示すように、点在していた無線LANスポットを“面”、さらには“空間”として構成して、有機的に結合させるサービスだ(関連記事)。特徴はサポートする範囲の広さだけではない。月額525円で利用できる料金の安さも魅力だ。また、インターネットを利用して無料で通話できるIP電話ソフト“Skype”を利用した音声通話などもサービスの視野に入っており、これまで高額な通話料金とパケット通信料金を支払っていた携帯電話がD-Cubicによって不要になるかもしれない。

このように、さまざまな期待感を抱かされる“D-Cubic”。その現状と将来に関して、ライブドアでD-Cubicを担当している執行役員上級副社長 ネットワーク事業本部の照井 知基(てるい ともき)氏と、ネットワーク事業本部 技術グループマネージャーの伊勢 幸一(いせ こういち)氏に聞いた。

D-Cubic
D-Cubicを担当しているライブドア執行役員上級副社長 ネットワーク事業本部の照井知基氏(左)と、ネットワーク事業本部技術グループマネージャーの伊勢 幸一氏(右)

大きな期待の裏に、一抹の不安も残る

これまでの公衆無線LANサービスの不満点を一気に解消した感のある“D-Cubic”。しかし、サービス開始の前には一抹の不安も残る。そのひとつが、ライブドアが用意する無線LANインフラのキャパシティーだ。ADSLが普及し始めた際には、開通までの遅さ、サポートの悪さなどがずいぶんと指摘された。サービス内容が魅力的なだけに、多くのユーザーが利用すると思われるが、不安はないのか。まずはそのあたりから聞いてみた。

[編集部] サービス開始時に山手線圏内80%のエリアをカバーすると発表していますが、この数字はどのように算出されたものでしょうか。

[照井] 無線LANアクセスポイントの半径100mを電波の届く範囲として、地図上にその円をプロットした結果を元に算出しています。これは東京が完全にフラットで大きな建物や障害物のないことが前提です。実際には大きな建物もありますし、障害物も出てきますから、そこは順次穴を埋めていく形になると思います。カバーエリアは建物の中や、ゆくゆくは地下鉄などにも広げていきたいと思います。

アクセスポイント
電柱に設置される予定のアクセスポイント

[編集部] 2.4GHz帯(IEEE802.11gと11b)でのサービス提供とされたのは、屋外では5GHz帯(IEEE802.11a)の利用が解禁されていない点が理由と想像していますが、2.4GHz帯では同時使用できるチャンネル数が3〜4チャンネルと非常に少なくなります。問題は生じないのでしょうか。

[照井] よく「干渉しないのですか」と聞かれるのですが、このあたりはユーザーのチョイスに任せたいと思います。Windows標準のツールなどでも電波の強さは分かるので、より強い電波が出ているアクセスポイントに接続してもらえればと思います。

チャンネル数に関しては、設置するアクセスポイントのすべてが11aのモジュールを差せるようになっています。総務省が802.11aの開放をしてくれれば、すぐに5GHz帯に移行できる準備ができています。ちなみに、ひとつのアクセスポイントでは30人程度の同時接続が可能で、バックボーン回線の容量も十分に確保しているため、回線集中の影響は特に問題はないと考えています。実際の試験は30人以上の人数で行なっていますし、駅前などアクセスが集中する場所は、アクセスポイントの数を増やす方向で対処していきます。

[編集部] D-Cubicの発表会後、アセロスコミュニケーションズ(株)が、D-Cubicに対して長距離無線LAN技術“eXtream Range”(XR)と高速化技術の“SuperG”を提供すると発表しました。これらを利用するには専用クライアントが必要ですが、D-Cubicの利用には無線LANカードや無線LAN機器の制限があるのでしょうか?

[伊勢] 接続自体は一般的な無線LANのため、802.11gや11bのアダプターを搭載しているものであれば、制限なく利用できます。100mの到達距離というのはXRを基準にした数字ですが、電波自体は150m程度まで届くことが実験によって分かっています。ただし、100mを超えると速度が1Mbpsを割ってしまうため、サービス計画としては100m以内で円を描いていくことにしました。

[照井] 接続できる機器に関しては、種類を問わず対応させる予定です。そもそも端末側をパソコンに限定していません。当面はパソコンからスタートすると思いますが、つなげる機器は何でもいいと思っています。例えば、Skypeが動くPDAを携帯電話にすることも可能性としてはあると思います。



自販機へのアクセスポイント設置も予定している

D-Cubicのポイントのひとつは、(株)パワードコムと協業し、電柱にアクセスポイントを設置した点が挙げられる。D-Cubicの発表会でライブドアの堀江社長は「電柱には電気が来ているし、光ファイバーも来ている。無線LANアクセスポイントを設置する場所としてはうってつけである」という主旨の発言を行なった。D-Cubicでは、パワードコムの持つダークファイバーをライブドアのデータセンターへのアクセスラインとして使用。ライブドアのバックボーンを経由してインターネットへと抜け出ていく。従来の公衆無線LANサービスは、アクセスポイントの設置場所にどうインターネット回線の引き込むかを考える必要があり、それが普及を妨げる理由のひとつになっていた。

[編集部] 無線LANアクセスポイントは電柱に設置するということですが、地区によっては電柱をまったく見かけない場所もあります。その場合はビルの外壁などに設置するのでしょうか。

[照井] 現段階で認識している電柱のない場所は、六本木ヒルズ周辺、それから汐留など新しく開発された場所などです。しかし、それ以外の場所は、まだまだ電柱が残っていますので、カバーできる範囲は広いのではないかと思います。ただ、そうは言っても、何年後かには電柱を取り払い地中に線を埋めていく地域が増えるでしょうから、いろいろな方法でそれをカバーする方法を考えています。自動販売機などへの設置などはその一例です。

[編集部] Yahoo! BB モバイル(ソフトバンクBB(株)の公衆無線LANサービス)は駐車場の“タイムズ”に無線LAN機器の設置を行なっているようですが。

[照井] われわれも駐車場を検討したんですが、駐車場の場合、非常に流動的な面があります。例えば、地主さんの意向などで駐車場がなくなり、急にビルが建ってしまうかもしれない。一方、自動販売機は駐車場に比べて長期にわたって設置されることが多いようなので、こちらから攻めてみることにしました。

[編集部] 発表会では、電力線ネットワークを利用するといった話も出ましたが。

[照井] これも総務省のほうで止まっている話なのですが、東京電力は以前から電力線ネットワークを前向きにやりたいと表明しています。パワードコムは東京電力系の事業者です。電力線ネットワークが利用できれば、コンセントに機器を差すだけでネットワークが利用できるようになるので、光ファイバーをそこまで引っ張ってくる必要がなくなります。コストも下がりますし、エリア拡大にも貢献するという点で、期待しています。

ロードマップ
エリア拡大のロードマップ

[編集部] 今後のエリア拡大に関して、お伺いしたいのですが。

[照井] まずは山手線圏内。その後は23区内に順次エリアを広げ、来年の年末までには関東(1都8県)にまでエリアを拡大します。これは東京電力が光ファイバーを引っ張れる範囲という意味で、彼らの言葉では「国道15号線の内側」となります。エリアは地方にも順次広げていきます。パワードコムが中心になっているPMJという組織に全面的に協力してもらっていて、すでに地方の電力会社系の事業者さんともご挨拶させていただいています。地方へのエリア拡大は1年半から2年ぐらいのスパンかなと思っています。

[編集部] (株)鷹山との業務提携も発表されていますが。

[照井] 鷹山はアステルのPHS事業を引き継いでいますが、現在その設備を少しずつ撤去する方向で進んでいます。そのリソースを提供してもらうという考え方です。アステルの基地局があった場所に無線LANのアクセスポイントが置けないかと、現在交渉を進めています。



山手線圏内の対応状況
試験サービスは7月から開始。当初は六本木周辺と新宿がサポートされ、山手線圏内全域に広げていく

[編集部] 全国をカバーするとなると、莫大な投資が必要になると思うのですが、人口が密集した都市部と、そうではない地方でも均等に設備を設置していくのでしょうか。

[照井] 均等にはしません。東京都内は人が多いのでWi-Fiを使おうと思いますが、地方で人口密度がもう少し低いところでは、もっと距離の出る別の技術の導入を検討しています。ただ、現状では完成度の高いものではないので、ここ半年から1年の間の技術の進歩をみて採用していこうと思っています。

[伊勢] Wi-Fiの無指向性のアクセスポイントを採用しているのは、あくまでも東京とか都市部での効率化がいいという理由です。過疎地や国道沿いの両脇にしか家が建っていない場所などは、例えば、電波が届く範囲が90度に限られるぶん距離が2km程度稼げる技術なども利用していこうと考えています。場所によって最適なアクセスポイントの技術を選択していく予定です。

[照井] 仮にWi-Fiの技術を用いるとしても、1年前に比べて機器のコストも下がっています。ものすごい投資をすることは考えていません。



実は効率のよいビジネスモデル

堀江氏
発表会で、D-Cubicを紹介したライブドアの堀江 貴文氏

D-Cubicの発表会で、堀江氏はYahoo! BBがブロードバンド普及の起爆剤になったことを例にとり、「孫さんが月額2000円台という低価格のADSL環境を実現したおかげでインターネット市場が広がった。D-cubicはそのモバイル版だ」とコメントした。この発言は多くのメディアに取り上げられ、一部Yahoo! BBのモデルの2匹目のどじょうを狙ったサービスという論調も見受けられた。無線LANを利用したビジネスに関して、ライブドアはどう考えているのだろうか。

[編集部] D-Cubicを提供することによる、ライブドアのメリットはどこにあると考えていますか?

[照井] 単純な月額使用料による収益のほかに、課金代行による手数料も視野に入れています。NTTドコモの“iモード”をイメージしてほしいのですが、公式コンテンツの課金代行をして手数料をもらっています。また、最近注目を浴びている“モバイルオフィス”などロケーションフリーのビジネスにも貢献できるのではないかと思います。法人向けのサービスとして、外部から社内へのアクセスをセキュアーにしてあげて、外出先から社内のデータベース等を参照できるようにする。そこがインフラ単体で考えた場合の収益です。

[編集部] 接続料金のみで、投資を回収できるとお考えですか。堀江氏は発表会で「会員数10〜20万人が損益分岐となる」と説明しましたが。

[照井] この目標人数は、サービスの利用料金だけでペイできることを前提に設定しています。実際のサービスでは、これにポータルとしての収入が加わります。D-Cubicでは、ライブドアポータルのコンテンツだけを見るなら無料。そこから外に出て行く場合には525円を払ってくださいという仕組みですが、その際には必ずライブドアのIDを取得してライブドアのポータルを経由することになります。つまり、ページビューが増加するため、ライブドアポータルの媒体価値を高めることができます。広告も獲得しやすくなるし、さまざまなトランザクションを通じた収益も見込めます。

[編集部] ライブドアのコンテンツ会員を増やすことで相乗効果を狙うというお話だと思います。モバイルを生かすコンテンツはどんなものがあると考えていますか。

[照井] とりあえずはECです。ライブドアデパートのようなオンラインショップやオークションなどがあります。また、ブログもモバイルでできるようになっており、“ライブドアブログプロ”という有償版のサービスもあります。これらの有料コンテンツの利用も活性化させたいと考えています。また、コンテンツフォルダーが、自社のコンテンツをライブドアのポータルに載せたいだけど、課金する方法がない……といった場合に課金代行することも収益になるでしょう。

いずれにしてもD-Cubicでポータルが本物の玄関になると思います。自宅パソコンではできないけれど、モバイルならできることはたくさんあり、いろいろな意見をパートナーからいただいています。例えば、携帯音楽プレーヤーの記録媒体にはメモリーやHDDが用いられていますが、無線が常時使えるなら、自宅のマシンに音楽データを保存してそれを外出先で聞くこともできるわけです。

[伊勢] データを保存する場所は自宅のマシンではなくポータルから好きなようにダウンロードするのでもいいでしょう。従来は線のきているところでインターネットを使うという制約があった。公衆無線LANも同様です。この場所の制約がなくなる。コンシューマーだけでなく、シアターなどエンターテインメント系のコンテンツを、劇場配信するといった使い方も考えられるでしょうね。無線LANがきていれば、劇場に線が来ているかどうかを確認する必要もなくなるわけです。



常時接続はモバイルが主流になるかもしれない

照井氏は「われわれはあくまでもインフラを提供するだけで、それをどう利用するかはパートナー各社やユーザーが考えていくことである」と強調した。

インタビューを終えた筆者の印象は、D-CubicとYahoo! BBの間には、低価格で広範囲な通信インフラを一気に普及させるという共通点があるものの、選択はより“クレバー”であるという点だ。インフラ事業は、高額な投資が必要というイメージがあるが、もともとある通信インフラと無線を利用したことでその投資は最小限に抑えられる。無線LANアクセスポイントさえ設置してしまえば、回線工事や終端装置を送るといった手間がない。無線LANカードのレンタルなども行なわず、あくまでもユーザー主導とする。普及のために孫氏が私費を投じてADSLモデムを購入し、街頭で無償配布したというYahoo! BBのエピソードとも対照的だ。

また、使いたいと思ったときにスグに利用できるのもポイントだ。これは外出先でのコンテンツ利用をさらに広げるだろう。開通やモデムの到着までに1週間〜10日間待つ必要もない。価格の安さから、外出先ではなく自宅の常時接続回線として利用したいと考えるユーザーもいるだろうが、照井氏は「それはむしろ歓迎したいところ」だと言う。

広域の公衆無線LANサービスは、ユーザーのインターネットの使い方を変える可能性を秘めている。もともと主力事業だったホスティングやデータセンターのビジネスのノウハウを活用しつつ、ポータルとしての価値向上も狙うライブドア。どこでも快適な通信が行なえるのかどうか、という不安は完全にぬぐえなかったのだが、これはサービス開始を待ちたい。多くのパートナーとの協力でその世界はどう変わっていくのか。今後の展開が楽しみだ。

(編集部 小林久)


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