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【INTERVIEW】なぜ日本にGoogleが生まれないか? 東大の坂村教授が指摘する日本企業に欠如したもの


2005年12月5日

分析情報学が必要と考えたわけ

東京大学の坂村健(さかむら けん)教授は、“TRONプロジェクト”の提唱者であり、現在では無線ICタグを利用して“現実空間の認識”を行なう“ユビキタスコンピューティング”を積極的に推進している。同氏が所属する東京大学大学院の情報学環には、来年から“総合分析情報学コース”が新設される。

「今の日本ではGoogleのような企業が生まれない」と語る、坂村氏が学生たちに伝えたいと考えていることは何か。そもそも今の日本に何が不足していると感じ、新しいコースを設立したのか。坂村氏が所長を務める、東京・品川区のYRPユビキタス・ネットワーキング研究所で、アスキー取締役の遠藤諭が聞いた。

インタビュー風景
東京大学の坂村健教授(右)とアスキーの遠藤諭(左)


日本には“情報分析”に基づいた
マネージメントという視点が足りない

坂村健氏
坂村健氏。1951年7月25日生まれ。東京大学大学院情報学環教授。国産OS“TRON”の提唱者。TRONは現在、携帯電話機で用いられる組み込みOS『ITRON』など、さまざまな機器で使用されている

[遠藤] 東京大学の大学院に“総合分析情報学コース”というコースが新設されると聞きました。今日は、それについて伺いにきたわけですが、そもそもこれはどういうコースなのか。始められたきっかけとか、どうして“いま必要だ”と考えられたのか、などについて教えてほしいのですが。

[坂村] そうですね。日本の社会の特徴として“オペレーション”の部分はうまいんだけど、“マネージメント”の部分が弱いというのを感じていました。つまり、1回決まってしまったプロセスをきっちりと運用していいモノを作っていくのは得意だけれど、“技術戦略”の部分、つまり、自分たちが持っているテクノロジーをどう有効利用して戦っていくかとか、そもそも自分たちがどういう力を持っているのかを分析したうえで、具体的なアクションを起すことには慣れていないんですね。だから、日本ではGoogleみたいな会社が生まれてこない。

[遠藤] ほう、それは何でですか。

[坂村] 何でって、Googleがやってるのは、まさに“情報分析”そのものじゃないですか。検索エンジンを駆使して大量の情報を分析する。最近では“テキスト”以外にも“画像”や“音楽”、“地図”(マップ)、“衛星写真”(アース)などさまざまなメディアに方向を広げ、相互に連携させている。そうすることで、Googleはさらに巨大な分析ツールに進化しているわけです。

[遠藤] なるほど!

[坂村] 米国はもともと国家安全保障の意識が強くて、情報の扱いに対するメリハリがハッキリしています。また、インターネットの例を見るまでもなく、軍事利用されていた技術が民間に下りてきたときの凄さは、みんな嫌というほど分かっている。インターネットもGoogleも、最終的には人が考えて作り出したシステムだけれど、日本国内では情報を収集して、それを解析し、戦略に結び付けていく取り組みはあまり行なわれていません。だから、根本的な教育からやる必要があるんじゃないかと考えたわけです。



現状に危機感を持っている
社会人こそぜひ参加してほしい

[遠藤] “情報分析”って言葉の響き自体は新しくないんで、ついつい科学者が研究室でクロマトグラフみたいな機械を使う姿なんかを想像しちゃうんですが、ここでいう“分析”は英語でいう“ANALYZE”とはちょっと違う意味合いですよね。

分析と認識
分析よりも現実世界の認識に意味が近いという

[坂村] どちらかというと“AWARE”ですね。認識するとか、意識するとか、そういう意味です。“総合分析情報学”という名前にしてますが、切り分けて細かくして理解する“分析”でなく、“総合分析”――状況を丸ごと理解するという感じです。“状況認識学”といったほうがよりしっくりくるかもしれない。あまりなじみがない用語なんで、そういう名前にはしていないですが。

[遠藤] 現状を認識して、自覚しようということですね。現状の認識がしっかりできて、初めてマネージメントという次のステップに進める。だから、そのための土台作りをするぞと。具体的には何を学ぶことになりそうですか?

[坂村] パンフレットにはいろいろ書いてありますけれど、大学のよさを生かし、まず基礎的な部分を固めようと考えていますね。“認識”するために必要ないくつかの基礎的な技術のうち、特にコンピューターサイエンスに関連した部分を学んでいこうというのが主旨です。

[遠藤] 基礎的というと?

[坂村] 例えば“検索エンジン”や“センサーネットワークをどうやって作るのかマルチメディアがらみの分析。つまりこの画像とこの画像が一緒かどうかを自動的に判断するアルゴリズムやシステムの設計、巨大ネットワークの解析、情報をあらゆる手法で分析し、検索できるようにするための基礎を学んでいきます。

ユビキタスコミュニケーター
ユビキタスコミュニケーターと呼ばれる情報端末と無線タグを利用して、視覚障害者の生活を助けようというデモ

[遠藤] ネットの世界ではデータマイニングとか、協調フィルタリングみたいなマーケティング情報を収集するための技術がありますけど、そういったものは範囲に含まれてくるんですか?

[坂村] そういうものも入ってきますけど、それは応用というかある種ミドルウェアだと思うんですよ。パーツとしては含まれてくるけど、まずはもっと基礎的な部分を、系統立てて教えていきたいと考えています。

[遠藤] 米国にはバーチャルユニバーシティーみたいに、ネット上で受講できる講座があるそうなんですが、日本にはなかなかないですよね。社会人にも門戸を広げているとのことですが、そこまで気楽に参加できるってものではないんでしょうね。

[坂村] もちろん勤めながら通ってもいいんですよ。社会人向けに夜間の講義を行なうという段階まではしませんが、大学院なので、社会に出て、問題意識を持っている人にもぜひ注目してもらいたいと考えています。入学試験もやらないわけにはいかないんですが、現役の大学生と社会に出てしばらくたった社会人では条件に差があるので、社会人ということを意識した選考枠もあります。

無線タグ
身の回りにある無線タグ
自販機への応用
自販機への応用
坂村氏が現在積極的に取り組んでいる“ユビキタスコンピューティング”の原点も“総合分析”であるという。無線タグを利用してある空間にどんなモノや人物が存在するかを把握すると同時に、光や音といった環境情報も入手することで、現実世界を認識しようというのが根本にある

[遠藤] 基礎を学ぶということでしたが、講義が中心になりますか。

[坂村] 実際に大学に足を運んでもらう理由のひとつは“実習”だと思いますね。分析情報という学問は、ひとりですべてをまかなえるものではないんです。災害対策みたいなものを例にとると、2年とか3年とか有限な期間内に多くの専門家を集めて問題を解決していかないといけない。災害はいつ来るか分からないから悠長なこと言ってられないのです。だから、協力しながら課題に答えるという作業を、実習を通じて“オン・ザ・ジョブ”で行なえる場を提供していきたいですね。

[遠藤] その意味では、学校で学ぶことは人のネットワークを作る作業なのかもしれませんね。


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