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ビジネスとクリエイティブの両面から日本市場を大いに刺激する!!――アドビ システムズ日本法人の新社長ギャレット・イルグ氏に迫る


2006年2月9日

今月7日、今年1月にアドビ システムズ(株)の代表取締役社長に就任したギャレット・イルグ(Garrett J.Ilg)氏による“事業戦略説明会”が行なわれたが、これに併せてASCII24では単独インタビューを敢行した。新生アドビ システムズ日本法人を率いる熱い人物に、国内における同社の行方について直撃した。

PDFとFlashの融合こそが、
他社からの脅威への最大の対抗策

ギャレット・イルグ氏
1月にアドビ システムズ日本法人の代表取締役社長に就任したギャレット・イルグ氏

[――] まずビジネス市場についてお話をうかがっていきたいと思います。“Adobe LiveCycle”(ドキュメント管理システム)のビジネスは、全世界で1件あたり5万ドル(約600万円)以上の契約を複数達成し、成長市場になっているとのことですが、日本における状況はいかがですか?

[イルグ氏] すでに事例も出てきており、日本においてもかなり大きな市場があります。さらなる導入を促進するには、ワークフローやインフラとして(Adobe LiveCycle Server製品群を)提供していく必要があると考えています。

[――] エンタープライズ向け製品は(旧マクロメディアのアプリケーションサーバーである)“Flex”と、どのように連携を取っていくのでしょうか? また、Flexの“リッチ・インターネット・アプリケーション(RIA)”としての企業利用についてはどのように考えていますか?

[イルグ氏] LiveCycleを始めとするエンタープライズ向け製品とは、大いにシナジー効果(相乗効果)が期待できると思います。リッチ・インターネット・アプリケーションとしては、Flexはサーバテクノロジーとして広告業界などが直面する問題を解決するでしょう。具体的には、情報があふれている今の状況を、整理して見やすく提供できるようになります。また、AcrobatとFlashの連携も重要です。Flashはこれまでクリエーションやアニメーションといった世界での話が中心でしたが、プリント(印刷業界)のAcrobatと、ウェブの世界のFlashの連携が、これからは重要になります。“マクロメディア発”の技術とアドビが融合することで、競合他社にはない製品が提供できます。

[――] アドビ システムズにとって大変重要なPDFとFlashという2つの技術に今、ライバルが現われようとしています。マイクロソフトはPDFに対して“XPS(XML Paper Specification)”をリリースする準備を進めていますが、これにはどんな対抗策をお持ちですか?



ギャレット・イルグ氏

[イルグ氏] マイクロソフトの動向を知ることは確かに重要ですが、逆に彼らが対抗製品を出してきたということは、私たちの製品を“脅威”だと認めているということです。すなわち、私たちの仕事がいかに重要な地位を占めているかを証明することにほかなりません。こうした対抗製品がいつ出てくるのかはわかりませんが、明確なのは、“彼らが今からスタートするのに対して、私たちのPDFはすでに実績がある”ということです。

[――] さらにマイクロソフトは、Flashにも対抗策として“WPF/E(Windows Presentation Foundation Everywhere)”を用意しています。

[イルグ氏] PDFやFlashを作るだけでは、エンドユーザーにとって価値がありません。これらを作る以上のことができるかどうかに意義があります。私たちはすでに、PDFとFlashを融合した製品として『Adobe Acrobat 3D』をリリースしました。彼らがその技術を融合させるかどうかは分かりませんが、まず、それぞれの技術/製品が単体として成功しなければ先には進めないと思います。





“アドビ ジャパン発”のアイデアを!

[――] 次にコンシューマー市場について、どのような展開をお考えですか? 特にPDFならびにAdobe Readerがさらに一般に広く浸透する――例えば駅に設置された市民サービス用の情報端末にAdobe Readerが導入されて容易に自治体のPDFファイルにアクセスできる、といった理想に至るにはどのような施策が必要だと思いますか?

[イルグ氏] これには3つのポイントがあると考えています。まず、第1に“標準”であること。どんなに優れた技術であっても、スタンダードでなければ普及は見込めません。PDFとFlashのいずれもが業界標準となるべく開発してきました。標準であれば多くの企業が参加して開発が進むわけです。
第2が“イノベーション(技術革新、変革)”です。実際に、駅で皆さんが情報端末にアクセスするというイノベーションがあって、初めて差別化ができるわけです。パソコンではウェブブラウザーにおいて(Flash Playerが標準装備されるようになったり)、携帯電話ではFlash Liteによって“iチャネル”というイノベーションが生まれました。
そして、第3は“リソース”です。機能拡張できる専任の人的/金銭的リソースがあるかどうかです。いかにすばらしい技術があったとしても、テクノロジーを展開し、導入していくリソース、さらに改良していくリソースがなかったために、成功しなかったという事例はこれまでにもたくさん見てきました。それだけリソースを投入し続けて、開発・改良を続けることが難しいということです。

[――] そうした既存のユーザーへの接し方は確かに重要なのですが、今は“Web 2.0”に代表される新しいビジネスモデル(※1)にも対応しなければならないと思います。最近は御社でも、“Adobe Labs”(旧マクロメディアの“Macromedia Labs”)を積極的に使った展開を見せています(関連記事)が、将来Adobe Labsをどのように生かしていこうとお考えですか?

※1 新しいビジネスモデル 例えば米グーグル(Google)社などが、新しい機能をβ版として広くユーザーに無料で提供してフィードバック(意見)を募りながら改良を進め、最終的には有償のビジネスに昇華させていくようなビジネス

ギャレット・イルグ氏
時に身振りを交えて熱く語るイルグ氏

[イルグ氏] Adobe Labsは2つの理由で重要だと考えています。まず、ユーザーの意見にきちんと耳を傾け、しっかり対応していくこと(ユーザーサポートとしての役割)。これがなくてはビジネスは成功しません。次にカスタマーケアとエンジニアリングを意識した改革を日本で始めています。ただ机に向かって技術を開発しているだけでは成功しないのです。
こうしたことを進めるために、“CTO(最高技術責任者)”のような役割を作りたいと考えています。日本でのパートナー企業、顧客企業との間にエコシステムを作って、製品開発に反映していくというわけです。

もうひとつは、日本の携帯電話やマルチメディアの状況、秋葉原を始めとした“3Dデベロップメントセンター”を見ても、日本は世界の先端を走っています。日本は恵まれた環境にあるわけですから、そこで得られるインプットをいちはやく製品開発に反映させる必要があります。製品に関する意見交換を行なう場としてのAdobe Labsを強化していくことが重要だと考えています。

[――] それはつまり、Adobe Labsが日本語化されると期待していてもいいのでしょうか? 実現されるとすれば、それはいつでしょうか?

[イルグ氏] 二通りの考え方があります。ワールドワイドでAdobe Labsそのものをマルチランゲージ対応にするか(多様な言語でのフィードバックを受け付ける)、翻訳機能を用意するかです。今すぐ明確にお答えできないのは心苦しいのですが、状況によってはすぐにでも構築できるかもしれないし、今年後半になるかもしれません。
しかし、私たちは以前から日本のコミュニティーに深くコミット(重要視)していますし、マーケットの意見に耳を傾けなければ成功しないことはよく理解しています。“Japan Labs発”のアイデアをアドビ ジャパンから出していけると考えています。



日本ならではの“Photoshop World”を!

[――] クリエイターからは、御社の方向性が“ビジネス寄り”になりつつある、という声を聞きます。冷静に見て、クリエイティブユーザーをないがしろにしているとは思えませんが、ビジネス市場により多くのリソースを割いているというイメージは否めません。あらためてクリエイティブ市場に対してどのように考えいるのか、お聞かせください。

[イルグ氏] アドビにとって、クリエイティブビジネスは大きな地位を占めるコアな事業であることは間違いはありません。これからもそのように捉えていきます。しかしご指摘の通り、企業としてエンタープライズにフォーカスを当てていることは事実です。だからと言って、“クリエイティブ・ビジネス”がなくなるということはありません。若い層、シニア層に関わらず、日本においてクリエイティブマーケットは大きく広がっています。

[――] マクロメディアとアドビの企業文化や企業イメージの違いを、どのように理解・吸収し、ユーザーに知らしめていくのでしょうか?

[イルグ氏] 両社には、製品やアクション、方法論などに違いがありました。この2社がワンチームになったことで、いかにカスタマーに対して焦点を絞り込んで仕事ができるかがポイントになると思います。

アドビは巨大企業であるがゆえに動きがゆっくりで、ソフトなイメージだったと思います。それに対して、マクロメディアは規模が小さい分だけ動きが早く、よりカッティングエッジなイメージをユーザーに与えていたのでしょう。アドビとマクロメディアが一緒になることで、マクロメディアユーザーにはバック(大きな資金力や人材を背景にした安心感)、サポート、成熟性を提供できると考えています。

ギャレット・イルグ氏

[――] クリエイティブの分野における重要なパートナーとして、アップルコンピュータがあります。昨今はこのアップルからも(クリエイティブ分野での)競合製品が出てきていますが、今後の関係はどうなっていくのでしょうか?

[イルグ氏] 日本に限らず、ワールドワイドでアップルが重要なパートナーであることには間違いはありません。私自身、個人的な趣味の範囲で1980年代に『Adobe Photoshop』を購入して、Macintoshで使っていたことがあります。日本の社長に就任してアップルとも会合を持ち、具体的な製品の相談も始めています。
確かに両社間で製品戦略的にオーバーラップするところはありますが、それ以上に協力できる部分が多くあります。最終的に選択するのはコンシューマーであり、競争関係にあることはコンシューマーにとっても結果的にいいことだと思います。

[――] クリエイティブの話題で気にかかるのは、昨年日本でも好評を博した“Photoshop World”というイベントの今後についてです。今年はいつ、どこで行なうのでしょうか?

[イルグ氏] ぜひ行ないたいと考えており、現在、時期や場所などを検討中です。特に今回はアドビジャパンとしての側面を強く押し出していきたいと考えています。例えば、携帯で写真を楽しむ、Flashベースで開発するといった日本ならではのアイデアをひとつ屋根の下でカスタマーと一緒に展開し、そこで多くの方に新生アドビを理解していただければと考えています。



(千葉英寿)


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