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【INTERVIEW】AFP BB News松岡編集長――“引き金”が引ければ日本でも市民記者制度は動き出す
2006年3月9日
世界3大通信社と提携したニュースコミュニティーサイト
2月3日、フランスのAFP(Agence France-Presse)通信社とソフトバンクグループが、ニュースコミュニティーサイト“AFP BB News”のサービスを開始した。AFP通信社は現在2000名を超えるジャーナリストを抱え、世界165ヵ国で取材活動を行なっている国際通信社。AFP BB Newsは会員登録を行なうと、AFP通信社や(株)時事通信社によるニュース記事が読めるほか、最大1024×1024ドットという高解像度の報道写真が見られる。また、AFP通信社や時事通信のプロの記者が書いた記事の下に“コメント”という形で感想や論評を加えて公開したり、専用のウェブログ“Actiblog(アクティブログ)”の開設権限が与えられ、AFP BB Newsで配信されている記事や報道写真を引用して日記を発信したりすることもできる。
AFP BB Newsのリリース後、インターネットの掲示板やブログで特に話題になっていたのは“プロの記者の記事が正式に引用できる”という点と、“将来的には提携する他社のブログサービスでも同様のことが行なえるようにしたい”という方針だ。また、2月にソフトバンク(株)と“市民記者”ビジネスで知られる韓国のオーマイニュース社との提携が発表されたが、AFP BB Newsでも、コメント機能を使って記事ページで議論したり、Actiblogで意見発信したりと市民記者ビジネス的なエッセンスを取り入れており、そうした点でも注目されている。
今回は、AFP BB Newsの編集長であるMOVIDA ENTERTAINMENT(モビーダ・エンターテインメント)(株)の松岡保昌氏に、編集方針やウェブサイトの設計方針、今後の目標などを伺った。松岡氏は、ソフトバンク ブランド戦略室 室長でもあり、ソフトバンク入社以前には(株)リクルートで編集人として『就職ジャーナル』『Works』の創刊、その後は(株)ファーストリテイリングで執行役員 マーケティング&コミュニケーション部長として“ユニクロ”の社外広告などを手がけた。
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AFP BB Newsのトップページ |
AFP BB Newsが考えるニュースコミュニティサイト像
日本人の視野が広がるチャンス!?
[編集部]
AFP BB Newsの発表では“ニュースコミュニティサイト”という言葉が使われていましたが、今、なぜコミュニケーションメディアなのでしょうか?
[松岡氏]
インターネットの利用環境を見ると、ブロードバンドユーザーが2000万人を突破し、多くの人が常時接続の状態で情報の受発信をスムーズに行なえるようになりました。そして、そのような環境の変化を受けてウェブログやSNSの利用が浸透しました。インターネットで自分の思いを発信して、それを気にしてくれる人がいて――というコミュニケーションが、一般に浸透しています。
ニュースという視点でいうと、やっぱり日本は、国際ニュースを読んでもらうのはハードルが高いと正直思っています。我々のサイトは、国際ニュースをAFP通信社から、国内ニュースを時事通信から提供いただいて、内外の情報を広く網羅しています。しかし日本は、海に囲まれているという地理的要因もあり、隣国と接している国と違って国際ニュースに対する関心が薄いですよね。
ところがここ数年の動きでいうと、韓流ブームをはじめ、中国、台湾など、芸能人の相互活躍を含め、他の国に対する関心が高まっている。この流れにうまく乗れば、他国の政治や経済、場合によっては軍事紛争などに対しても感心が高まり、日本人の視野が広くなっていく可能性がある時期に来ているのではないでしょうか。こういう時期に色んなニュースに触れていただきたい、もしくは発見してほしいという思いを持っています。
例えば海外で大規模な地震があったとします。日本では、地震が起こった直後には報道されますが、続報は少ない。AFP通信社の場合、例えば冬を目前に控えて凍えそうな被災者の写真であるとか、その後も定期的に情報が配信されます。そうしたニュースに触れることで、今までなかった感情、違う思いが、芽生えてくる可能性もあるでしょう。そういう機会を提供したいのです。
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AFP BB Newsより。AFP通信社や時事通信の記事が読めるだけではなく、記者が書いた記事の下に“コメント”という形で感想や論評を加えて公開できる |
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最大1024×1024ドットという、既存のニュースサイトではなかなか見られない解像度の報道写真を掲載する |
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これは「オーストラリア軍の東ティモールPKO活動に、新たな事実」という記事 |
[編集部]
AFP通信社は時事通信と提携していますが、一般にはあまりなじみがありません。まずは、AFP通信社が配信する情報の厚みやクオリティーを伝える必要がありますよね(※1)。
※1
AFP通信社が抱えるジャーナリストは2000人。参考としては、記者の人数を公開している(株)朝日新聞社の場合、国内が約800人、海外(特派員)が51人。
[松岡氏]
そうですね。日本はイギリスのロイター通信社が元々管轄していたので、AFP通信社はあまり知名度がないのかもしれません。そこも広げたいと思っています。
[編集部]
今回の企画は、ソフトバンクグループ、ネット系企画会社の(株)クリエイティヴ・リンク、時事通信社、AFP通信社と、多数の企業が参加していますが、そもそもどこから提案があったのでしょうか。
[松岡氏]
お互いのいろいろな思いが合致してスタートしていまして、ビジネスモデルが先にあって提携先を探していたわけではありません。AFP通信社と提携できなければこういうことをやろうと思わなかったでしょう。AFP通信社の持っている資源を十分使えるというところで着地したので、企画もたくさん出てきました。
[編集部]
韓国で最大級のポータルサイト“Daum”を運営しているDaum Communications社は、60以上のメディアと提携した市民記者制度、言い換えればニュースコミュニティサイトを運営しています。AFP BB Newsは、できるだけ多くのメディアと提携して記事の配信本数を増やして規模を大きくしたいのか、AFP通信社や時事通信との関係をより深堀りしていきたいのか、どのような方向性を考えていますか。
[松岡氏]
今の時点では何とも言えません。ライバルという認識で警戒しているメディアもあるし、提携できる相手が増えたと興味も持ってくれているメディアもあります。
[編集部]
提携したいメディアはありますか。
[松岡氏]
結論から言うとあります。明確にどことはいえません。一言で表わすなら、さまざまなところと共同して、エンドユーザーも含め“WIN-WIN-WIN”になれるのであれば取り組みたいですね。
Flashでフォトジャーナリズムのコンセプトを表現
サイトのデザインはAFP BB Newsの世界観が一目でわかるように
[編集部]
ウェブサイトの設計はどちらが担当したのですか。
[松岡氏]
クリエイティヴ・リンクとソフトバンクで、喧々諤々の議論を重ねながら行なっています。
[編集部]
AFP BB Newsにアクセスすると、報道写真のサムネイルが、Flashによるアニメーションで左右方向にぐるぐる回転しています。テキストと写真で構成された新聞社のニュースサイトと、デザインがまったく異なりますよね。
[松岡氏]
特にトップページはそうです。既存のニュースサイトはテキストが中心なので、そこを180度変えて、“フォトジャーナリズム”の世界観が一目で分かるように“ドラム形式(前述のFLAHによるアニメーション)”を採用しました。
[編集部]
“ドラム形式”を採用した狙いを教えてください。
[松岡氏]
多くの場合、ニュースサイトの記事は、テキストと報道写真で構成されています。テキストを中心にしたデザインは、“ニュースを端的に知りたい”という需要に応えられるでしょう。AFP BB Newsは、もう一方の要素である写真に力点を置いてデザインしています。
AFP BB Newsには、AFP通信社から1日2000枚近く写真が寄せらます。写真は1枚1枚が多くの情報量を持っていますから、それをいかに読者に伝えるか、さらに“世界には多様なニュースがある”ということをいかに直感的に伝えるか――。そうした課題を解決するインターフェースとして、現時点で最適だと思ったのがドラム形式なのです。
[編集部]
“ドラム形式”のトップページや、最大1024×1024ドットという高解像度の報道写真を拝見し、米Corbis社のようなフォトアーカイブビジネスを目指しているのかと思いました。
[松岡氏]
写真が蓄積されれば、アーカイブ的な需要も満たせると思います。ニュースを検索して使いこなす、データベースとしての特徴も今後は出していきたいですね。
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マリア・シャラポワ選手も高解像度で見られる |
ユーザー課金の可能性はサービスを付加していくなかで検討
[編集部]
私見ですが、現在の仕様だと、Flashの再生環境が必須であったり、Flashの読み込みに時間がかかったり、記事本文が読めるのはログイン後だったりと、“早くてしかも内容が端的に分かる”という通信社による記事のよさが生かされていないと思います。
[松岡氏]
その指摘は正しくて、今が完全版だとは思っていません。フォトジャーナリズムを追求するニュースサイトとして(テキストと写真の)主従を変えるつもりはありませんが、ニュースサイトとして最低限なくてはならないこと、読者が期待していることは付加していくつもりです。
それと、Flashの課題と、ログインの課題はまったく別物です。Flashを採用した第1の目的は、著作物を守るということです。写真には、電子透かしも入れています。
ただ、使い勝手の悪さは我々も認識しているので、将来的には変えて生きたいですね。例えば、これは未定ですが、記事は読むだけだったらログインは不要であるとか、ログインしていただくタイミングは今後検討したいです。
ユーザーインターフェースの部分は、現在が完成形だと思っていないので、利用者の皆様からもどんどん意見をお寄せいただければと思っています。
[編集部]
Actiblog部分の機能拡張の予定はありますか。また、記事の正規引用を含めた、他社のブログサービスとの提携はいかがでしょう。
[松岡氏]
Actiblogも、現在は本当にサービスを立ち上げたというだけで、カテゴリーの分類もまだできていませんし、自分と同じ興味がある人を探し出す機能もない。それらは、今後追加していきます。他社のサービスとの連携は、将来的に実現したいと思っていますが、まだ具体的にお話できるような段階ではありません。
[編集部]
AFP BB Newsの収入は現在広告に頼ったものですが、「当面は無料」というアナウンスの「当面」の部分が気になっている読者も多いようです。
[松岡氏]
課金するとしても、相当先の話です。今後サービスを付加していくなかで、そのような選択肢もあるということです。
[編集部]
課金できるサービスとは、どんなものがあり得るのでしょう。
[松岡氏]
例を挙げると、“Yahoo! JAPAN”は無料だけれども、“プレミアム”(月額294円の有料会員サービス)も成立するわけじゃないですか。しかし、課金サービスに関する決定事項が現時点であるかというと、そこは企画中であり、明確には言えない。様子や反応を見たいというのが、正直なところです。
果たして日本国内で需要があるのか
個人が自分の専門性に立脚して意見を述べられる場の形成を目指して
[編集部]
AFP BB Newsの編集部のスタッフの数を教えてください。
[松岡氏]
50〜60名です。ただし、すべてが会員の書き込みをチェックするためのスタッフじゃないですよ。AFP通信社の記事を翻訳して掲載するというのも、かなりの作業量ですから。
[編集部]
編集方針を教えてください。
[松岡氏]
最新の、世界中の情報を伝えていくというのが第一です。
また、一次情報と二次情報というのが仮にあるとすれば、一次情報が伝えた事件の背景や影響は何なのか、二次情報についていろいろなことを知っている当事者が発言していける場を作りたいと思っています。
こうお話しすると、既存のメディアを否定しているようにも聞こえるかもしれませんが、編集するという行為は、ある視点をもって情報をすくい上げることなので、それはそれで必要だと思います。
専門の記者が何らかの視点をもって取材をするというのも、これは必要だと思う。ただし、記者も100%あらゆる業界に詳しいわけでないので、本当に詳しい人が、情報のソースに近い人が直接配信したほうが、より正確に伝わることがあるでしょう。AFP BB Newsがコミュニティーメディアとしてそういう機会を作れたら、世の中の情報が厚みをましていくのではないでしょうか。
[編集部]
お話を伺うと、やはり韓国の市民記者制度と編集方針が近いと感じるのですがいかがでしょうか(※2)。プロが書いた記事を発信する一方で、情報が発信できる読者を育ててそれを発信すると(詳細は関連記事を参照)。
[松岡氏]
ウェイトの置き方が多少違うでしょう。AFP通信社の記事や報道写真を網羅的に配信するサービスはこれまでなかったので、AFP BB Newsではそれが大きな資産だと思っています。AFP通信社は企画記事も多数執筆していますので、それも将来的には配信したいと思っています。
※2
ビジネスモデルという意味では、オーマイニュースの場合は広告収入が柱。そのほか、市民記者の原稿料の“投げ銭(カンパ)”制度があって、その50%を手数料として徴収している(詳細は関連記事を参照)。AFP BB Newsの場合は、現在は広告収入のみで運営している
[編集部]
韓国の話題を続けますが、オーマイニュースの市民記者制度を支えているのは社会意識が高い世代(現在の30〜40代)だと聞きます。「日本のマスメディアの報道は一方的だ」という意見もありますが、独裁政権が長い間続いた韓国とは状況が異なるわけで、果たして需要があるのでしょうか。
[松岡氏]
日本のマスメディアは、バランスがとれていると思います。しかし、構造的にいうと、いろんな個人がもっと情報を出せると思うんですよ。
私はかつてリクルートの“就職ジャーナル”という編集部で編集者をやっていました。取材もたくさん受けましたし、記者の目を通してさまざまな情報が出て行くのも、いいことだと思います。しかし、“就職”であるとか他人の人生に大きな影響を与えるようなポイントでは、やはり当事者が書いたほうが詳しくなるし、読者に伝わると思う。
そういう専門性を持っている人はたくさんいるし、一人ひとりが自分の専門性に立脚していろんな意見を言える機会があれば、しかもある程度テーマを決めながら議論をすれば……。今時点で需要がないのかもしれないけれど、“引き金”が引ければ動き出すかもしれない。
[編集部]
“livedoor ニュース”の“パブリック・ジャーナリスト”であるとか、日本にも一種の市民記者制度を導入しているメディアはありますが、それらは“引き金”がうまく引けなかったと。
[松岡氏]
他社のサービスを批評できる立場にありませんが、やり方の丁寧さであるとか、まだまだやり方はあると思います。
[編集部]
では、引き金はどこにあるとお考えでしょうか。
[松岡氏]
まだブログしか提供できていないですけれども、今は企画中で、申し上げられません。
誰でも主役になれる!
[編集部]
編集長として就任なさったのはいつでしょうか。
[松岡氏]
昨年の12月です。当然、企画はそれ以前も動いていて、その存在も知っていたのですが、編集長として関わるようになったのは、年末ですね。
[編集部]
リクルート、ファーストリテイリング、そしてソフトバンクとさまざまな経験を積まれていますが、ニュースコミュニティーサイトの編集長は、どのような思いで引き受けたのでしょうか。
[松岡氏]
就職ジャーナル編集部に属していた時代に、自分が就職ジャーナルで発信したメッセージが多くの企業や個人に影響を与えて、多くの人が行動をとってくれるという経験をしています。ですから、もともとこういう企画が好きなんでしょうね。
[編集部]
テーマかもしれないと。
[松岡氏]
そうですね。世の中をどう変えていくか、というのが。“ユニクロ”も、何らかの形で日本を変えましたよね。「あのビジネスモデルを使って日本を変えたい」という思いがずっとあったんですよ。
[編集部]
では、日本を変えるまではこのAFP BB Newsも続けるぞと。
[松岡氏]
そうそう。
[編集部]
会員をどれだけ獲得できるか、エグゼクティブプロデューサーの孫 泰蔵氏は、「世論を作る」という文脈で数百万人とおっしゃっていましたが。
[松岡氏]
いや、いきますよ。日本の場合、道は険しいですけどね。やっぱりマスメディアもバランスがいいし、その中で始めていく難しさはあるけれども、逆に言えば、今現在、日本国内にありませんから。メディアを通して一方的に聞くのではなく、色んな人が参加して世論を形成する環境ができたら今ない価値が生まれますから。誰でも主役になれるんですよ。
(編集部 伊藤咲子)
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