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【INTERVIEW】“自デジ。”の名の下にパソコン市場へデビュー!! デジタル放送時代の“自作パソコン”を体現するピクセラの狙いとは?


2006年3月24日

ユーザーの欲求が生み出した“自デジ。”の潮流――その背景にあるものは!?

TVチューナーデバイスの開発・設計を手がけ、各社のTVパソコンにもOEM出荷する実績を持つ(株)ピクセラが、同社初のデジタル放送対応PC『PIX-DP010-PW0』を今月14日に発表。同社のオンラインストア『PIXELA ONLINE STORE』で販売予約を開始している。PIX-DP010-PW0はパーソナルユースを強く意識したミドルタワー型パソコンで、自室で個人的に地上デジタル放送を楽しむユーザー像を考慮して“自デジ。”というキャッチコピーを掲げている。

ピクセラ初のパソコン『PIX-DP010-PW0』(ディスプレーは別売)
14日に発表された、ピクセラ初のパソコン『PIX-DP010-PW0』(ディスプレーは別売)

ところで、ピクセラと言えば地上デジタル放送に関しては2005年春にOEM提供向けのデジタルTVチューナーカードを発表して話題を集め、以来富士通(株)やソニー(株)、シャープ(株)などのTVパソコンにOEM展開を続ける、いわば“影の主役”たる存在だったのに、ここにきてなぜ自社でパソコンを販売するに至ったのだろうか?

橋谷智孝氏
ピクセラの商品企画部第二企画グループの橋谷智孝氏
長野竜也氏
同じくソフトウェア開発本部の長野竜也氏

ここでは、PIX-DP010-PW0の企画・開発に携わったピクセラの商品企画部第二企画グループの橋谷智孝(はしたにともたか)氏とソフトウェア開発本部の長野竜也(ながのたつや)氏に、今回の開発・販売の背景にある狙いや開発秘話などを大阪・難波の本社で直撃した。

作っても売ることができないデジタルTVチューナーカード
ならば、「自分たちで受信機を作るしかない」

[――] PIX-DP010-PW0の開発プロジェクトは、いつ頃から動き出したのでしょうか?

[橋谷智孝氏] 昨年8月、社内に商品企画部という部署が新設されて、そこで“デジタル放送”というカテゴリーの新商品について色々模索していました。デジタル放送ではアナログ放送とは異なり、TVチューナーカードを自作ユーザー向けのアップグレードパーツとして単品販売することがARIB(アライブ、(社)電波産業会)における規定(※1)の関係で許されません。であるなら、ピクセラがデジタル放送を楽しむための商品をエンドユーザーの皆さんに直接提供するには、自分たちで“受信機を作るしかない”という結論に至り、実際にどのような受信機であればユーザーに喜ばれるか、という検討を9月に開始しました。その後今年の1月まで母体となるパソコンの調査に時間を費やし、それからこの企画を本格的にスタートさせています。つまり、PIX-DP010-PW0の開発プロジェクトが具体的なかたちで立ち上がったのは年が明けてからなんですよ。「ソレはいくらなんでも冗談でしょう?」なんてよく言われますけど、これは本当なんです(笑)。

※1 ARIB ここでいう“ARIBの規定”とは、ARIBが“デジタル放送受信機器”(デジタル放送を受信して視聴・録画などの機能を実現させる機器)の仕様について記した規定のこと。2004年4月にコンテンツ保護を目的としたコピーコントロールがデジタル放送に導入されたことにより、現在では“B-CAS(ビーキャス)カード”と呼ばれるICカードをセットしなければデジタル放送を視聴できないようになっている。そのためデジタル放送受信機器をメーカーが新たに発売するにはB-CASカードの入手が必須条件となるのだが、これには先に挙げたARIBの規定に沿って機器を設計し、ARIBに認められる必要がある。現在の規定では放送波の入力からスクリーンに対する出力まで徹底したデータの保護を要求しており、TVやビデオレコーダなどの完成したシステム(製品)以外のものは認められていない。したがって、現時点では自作パーツとしてのデジタルTVチューナーは販売ができないという状況にあるわけだ。

[――] デジタル放送対応パソコンと一口に言っても、液晶一体型や専用ケーブルで接続する液晶ディスプレーがセットになったものなど、様々なスタイルの製品があるわけですが、PIX-DP010-PW0が、ごくスタンダードなミドルタワー型パソコンという“スタイル”に至った理由はなんでしょうか?

橋谷氏

[橋谷氏] 弊社には、いわゆる自作パソコンのユーザーさんから「地デジのカードを売ってほしい」というリクエストが数多く寄せられるのですが、先の理由からあいにく現状ではその要望に直接応えることができません。そこで、新製品としての“デジタル放送受信機”を検討していくうえで、できるだけそうした人々のニーズに応えられるよう“自作パソコン”に近いイメージのものを考えました。自作パソコンのユーザーさんが購入しても違和感のないモノ。つまり、買ってきたらそのまま設置するだけで、その後の機能追加や拡張が難しいいわゆる“テレパソ”ではなくて、テレビも機能拡張(自作パーツの追加・交換)も楽しめる“パソコン”を目指したわけです。

[――] 企画するにあたって特に意識されたことは何ですか?

[橋谷氏] 自作ユーザーがパソコンを使用する場所は一体どこなのかと探っていくと、私も含めてなんですけれども、やはり“自室”なんですね。さらに各種アンケートデータなどを見ると、テレビを見る場所も“自室”という意見が多いようです。そこで今回ピクセラでは“自デジ。”というキャッチコピーを前面に出したのですが、家族みんなでシェアして使うリビングルームのパソコンや大画面TVではなく、まさに“パーソナル(個人使用)”なコンピュータであるということを強く意識して開発してきました。また、要望を寄せていただいた自作ユーザーの皆さんがご満足いただけるよう、ハードウェアのスペック、拡張性にもトコトンこだわっています。

[長野氏] このように自室でのパーソナルなデジタルテレビ――という形に持ってきたのは、「自分の部屋にテレビとパソコン(のディスプレー)を両方置きますか?」という疑問があったからです。同じように映像を表示するものなら、その2つを兼用できたらいいでしょう。まあ、あと私はほかのメーカーさんとやり取りすることが多いので、大手メーカー各社が目指しているAVパソコンの路線と、ウチ(ピクセラ)の路線がかぶってもマズイわけで(笑)。

[――] これまでのお話を総合すると、ターゲットユーザーはずばり自作パソコンのユーザーですね?

[橋谷氏] 一応、パソコンを使い始めて3年以上の中堅ユーザーを想定してはいますけれど、そこそこパソコンの中身に興味があって、自力で何か(機能強化や拡張を)やり遂げることのできる人をユーザー像に考えています。例えば「パソコンでテレビを見るぞ」と思い立ったら、とりあえずパーツショップに走って内蔵用TVチューナーカードを買って自分で追加してしまうような。そういったユーザーさんですね(笑)。

[――] 販売目標台数は?

[橋谷氏] 今考えているのは半年間で3000台です。もっと売りたい気持ちはあるのですが、当面は弊社のオンラインストアでの販売のみとするため、商流的にもその数字がギリギリではないかと。もちろん、反響によっては今後販売するチャネルの拡大も検討していきます。




土壇場ギリギリで決まったNVIDIA GeForce 6600GTの採用

橋谷氏

[――] ところで、先ほど挙げられたスペックと拡張性に対する“こだわり”について、もう少し詳しくお教えいただけないでしょうか?

[橋谷氏] まず拡張性を重視するということで、今回はパソコン本体にホワイトボックスメーカーの大手、(株)エムシージェイ(MCJ)さんを選択させていただいてます。ケースはミドルタワーで側面カバーを手で開けられるタイプ、マザーボードにはチップセットにインテル945G Expressを搭載したメジャーなメーカーのもの(台湾ASUSTeK社の『P5LD2-VM』)を組み込んで、購入後のCPU交換やメモリー、HDDの増設、マザーボードの設定変更によるRAIDシステムの構築など、パワーアップにも容易に対応できるようにしています。

ただし、PIX-DP010-PW0ではデジタル放送コンテンツ保護のためにマザーボードとチューナーカードでマッチングさせているので、ほかのパソコンにチューナーカードを持ち込んでも使えません。また、マザーボードメーカーが提供するBIOSのアップデートは行えないように手を加えてあります。ある程度バグフィックスされたインテル945G Expressチップセットを使用しているので、CPUの大幅なスペック向上でもない限り長期に渡って使い続けられるBIOSだと考えてはいるのですが、そうした部分での制限はあります。ビデオカードもHDCP(※2)出力に対応できる製品に限られますね。このように単なる自作パソコンと比較すると、パーツ交換・アップグレードの自由度が制限されるところも一部ありますが、全体としての拡張性の高さは大手メーカーが販売されているデジタル放送対応パソコンにはない大きなアドバンテージであると我々は考えています。

※2 HDCP HDCP(High-bandwidth Digital Content Protection System)は転送するデータを暗号化により保護する著作権保護技術。このHDCPを使うことで、映像信号を受信機器とディスプレーの間で安全にやりとりできるようになる。デジタル放送対応機器では、放送波の入力から映像を画面に表示するまでの“すべての段階”で適正なデータの保護が要求されるため、こうした映像表示の終端部分においてもしっかりとした形での対応がメーカーに求められている。このような著作権保護のための対応は、PIX-DP010-PW0本体についても同様で、デジタル放送の映像を録画する際にはTVチューナーとマザーボードの両者の情報を用いて暗号化(“ローカル暗号化”と呼ぶ)を行なっている。録画したデータの再生時にはこれらの情報を基に復号するため、録画時と同一の環境でなければ再生できない。もしマザーボードを交換したりチューナーカードを外した場合には、それまでに録画した映像は一切再生できなくなってしまうので注意しよう。



長野氏

[長野氏] 性能面でも余裕を持たせた作りにしています。CPUがPentium 4 630-3GHzで、メモリーは1GB。ホワイトボックスのパソコンを使うユーザーさんがどこを気にされるかと言ったら、やはりCPUとメモリーだと思うんですね。そこを意識しないお客さんはまずいない。さすがに今最高のスペックを選択すると価格が跳ね上がってしまいますので、そこまでいかなくても比較的スペックが高いもの、これから2年、3年と使えるものをということで選択しました。「コストダウンのためにメモリーを減らそう」という相談を受けたりもしたのですが、「それだけはやめてくれ」と抵抗しました(笑)。

[橋谷氏] ビデオカードは、HDCPで保護された信号をDVIポートから出力できるGeForce 6600GT搭載カードを採用しています。現行の3Dゲームが快適に遊べて、かつHDCPで出力できるものはこれのみでしょう。このビデオカードの採用が決定したのは時間ギリギリになってからで、それまではチップセット内蔵グラフィックスにする予定でした。



GeForce 6600GT搭載カード(HDCP対応)
ギリギリまでこだわって選択したというGeForce 6600GT搭載カード(HDCP対応)

[長野氏] でもチップセット内蔵のビデオシステムでは、ビデオメモリーもメインメモリーと共有しますからパフォーマンスに影響しますし、やはり3Dグラフィックスの部分が弱い。

[橋谷氏] 中級者以上をメインターゲットと設定している以上、それは避けたいと必死になっていました。米エヌビディア(NVIDIA)社とギリギリまで交渉した結果、土壇場で米国(NVIDIA)から連絡が入りまして、急遽採用決定と。なので今は評価用のビデオカードすら数が足りなくてバタバタしています(笑)。とはいえ、そんな努力をするだけの価値があるビデオカードだと思っています。

[――] HDMIという選択肢はなかったのですか?

[橋谷氏] HDMI端子搭載のビデオカードは確かにいくつか出ていますね。HDMIはTV画面を出力する分にはまったく問題ないのですが、DVIと比較するとパソコン画面を出力したときの見栄えが落ちてしまうんですね。選択肢としてはあったんですけれども、我々が今回売りたいのはTVではなくパソコンであるということで考慮から外しました。

[――] ビデオカードといえば、NVIDIAとカナダATIテクノロジーズ社にほぼ市場が二分されています。「なぜATIという選択肢がなかったの?」と思う読者もいると思うのですが。

[長野氏] ATIのビデオカードでは、残念ながらローカルバス上を暗号化したデータで流して処理する機能がサポートされていないんです。なので、デジタル放送を扱うパソコンのビデオカードとしては考慮に含めませんでした。我々としても選択肢は増やしたいので、そういったソリューションがATIさんから提供されるのであれば積極的に検討したいと思っています。

橋谷氏

[橋谷氏] また、今回のPIX-DP010-PW0では、性能面はもちろんデザインやマンマシンインターフェースにもこだわっています。PIX-DP010-PW0で選択したケースは、今回協力いただこうとしたホワイトボックスメーカーの中ではもっともシンプルです。結局これが一番受け入れられやすいんじゃないかと思い、決めました。私の基準なんですが、ゴテゴテとデコレーションしてるのは好きじゃないんで(笑)。このパソコン本体がカラー(前面のつやありブラック)も含めて決まったところで、組み合わせるキーボードとマウス、リモコンを探してきました。11月あたりに一度調査のために台湾行ってるんです。その際にリモコンを探したんですが……やっぱり台湾じゃないなと(笑)。いくつかのメーカーを巡ったんですけれども、色づかいが派手なんですよね。そこでリモコンについては、アナログ放送のチューナーカードで使用していたものをレイアウト変更し、配色も変えています。結局採用したリモコンも台湾製のものなのですが、一度採用して機能も分かっているので、これを使わない手はないなと決めました。

キーボードとマウスについては、2.4GHz帯無線によるワイヤレスのものを選択しました。自室で使うとなると、机に向かうだけじゃなくベッドに腰掛けてリラックスした姿勢で使うシーンも想定されます。そんなときでも、リモコンだけじゃなくキーボードとマウスは手元に欲しいですよね。そうなるとワイヤレスとなるのですが、実際にいくつか試してみると通常のワイヤレスキーボードやマウスでは距離2m程度が限界なんです。2mだと部屋のレイアウトを考えたときに、ギリギリのところで届かない。その点この2.4GHz無線接続方式であれば一般的な広さの部屋ならどこからでも使えますから、自由な姿勢でパソコンもTVも楽しんでいただけます。

[――] オプションで用意された液晶ディスプレーも、みな高解像度ですね。

[橋谷氏] ピクセラでは、日本サムスン(株)の『SyncMaster 242MP-R』をはじめとする液晶ディスプレー3モデルをPIX-DP010-PW0推奨モデルとしています。このインタビューでデモンストレーションに使用しているSyncMaster 242MP-Rは24インチワイドと自室に設置するにしてはやや大きいのですが、フルHDで解像度が高く、また、コントラストのバランスも優れています。これを直接お客さんに見せられないのがジレンマですね(笑)。なお、この液晶ディスプレイについては、設置スペースを気にされる人のためにスクリーンサイズが4:3の19インチモデルから用意しています。


実放送で初めて見つかった問題にはすぐアメリカへ飛び、東京と連携で対策!!

[――] ピクセラではデジタル放送をソフトウェアデコーダーで処理されていますね。あえてハードウェアデコーダーを使わないことにも、こだわりがあるということでしょうか。

橋谷氏

[橋谷氏] デジタル放送では“コピーワンス(※3)”など今後変わるかもしれない要素が多々ありますが、ソフトウェアソリューションであればそうした変更にも柔軟に対応できます。例えば、現在のデジタル放送のビデオフォーマットはMPEG-2ですが、将来H.264に切り替わったとしても我々はソフトウェアCODECを用意すれば対応できるわけです。ただ、ソフトウェアデコードゆえにデジタル放送を視聴している間はCPU負荷が高いというのがあるので、これは今後直していくべき課題だと認識しています。通常の放送番組は全く問題ないのですが、ベンチマークテスト代わりに使っているのがBSデジタルの103チャンネルですね。特にHDビデオは映像のビットレートが24Mbpsで、フレームサイズは1920×1080ドット。これは過酷ですね(笑)。

※3 コピーワンス コピーワンスはコピー制御方式のひとつで、簡単にいえば“映像を1回だけコピー可能”というもの。放送中の番組を録画することは可能だが、録画した番組をさらにコピー――つまりコピーした番組からコピーを作成することは許されない。メディア間を移動する“ムーブ”(コピー元を確実に削除)であれば、制限なく実行可能だ。地上デジタル・BSデジタルで放送される番組のすべてがこのコピーワンスにより提供されているのだが、最近になってコピーワンスに関する運用の見直しが検討されている。複数回のコピーを認めるなどの案もあるようだが、将来的にはコピー回数の制限にはよらない柔軟な運用に変わっていくだろう。

[――] 将来はソフトウェアダウンロードによる追加機能も提供されるということですか?

[橋谷氏] そうです。現在予定しているアップデートとしては、社内評価の関係で発売日に間に合わなかった、記録型DVDに映像をダウンコンバートして記録(移動)する“ムーブ”機能の提供があります。スケジュールはまだ確定ではないのですが、5月の大型連休前には提供したいと考えています。



長野氏

[長野氏] ムーブは最初から入れたかったのですが、まずは市場に製品投入することを優先しました。そこで、ムーブについてはアップデート提供という形になっています。

[――] サッカーのW杯には間に合いそうですね。

[橋谷氏] ええ。それまでには、ユーザーさんにHDDの拡張方法なども提案していきたいですね。今のスペックでは、内蔵HDD(約300GB)にHD放送を25時間(※4)しか記録できません。いまどきTV番組の録画が25時間だけというのはないですからね。そのあたりはソリューション(解決手段)として、ピクセラ推奨の方法を提案できればと思っています。もっとも自作ユーザーさんでしたら、おそらく勝手に追加・増強しているかも、とは思っていますが(笑)。

※4 録画可能時間の“25時間”は、BSデジタルのハイビジョン番組を録画した場合で算出。BSデジタルのハイビジョン番組のビットレートは24Mbps。

[――] ソフトウェアの作りこみでもっとも苦労された点は?

[長野氏] ソフトウェアデコーダーの映像品質ですね。これはOEM出荷している先での話ですが、かつて、ある家電量販店から店頭デモ機において「映像のガタつきがひどい」とクレームがありまして、そのお店に閉店後から伺って実際どういった現象かを確認したり、その場でデバッガーを開いたりもしました。そのときは、我々が開発中に確認した映像では何ら問題なかったんですが、実放送の信号を入力してみたらモーションベクター(画面内の動き)が激しい映像でガタつきが顕著になったんです。そこでデコーダー技術者がアメリカにあるグラフィックカードメーカーにすぐ飛びまして、我々もアメリカ時間に合わせて夜中出勤で、お互いに連絡を取り合いつつ開発・改良を行なったことがありました。データ放送のブラウザーの作りこみや規格書を見ながらの開発という苦労もあるのですが、やはりどれが一番大変だったかというと、デコーダー開発ですね。デコーダーの開発者には本当に感謝しています。

[――] アナログ放送のチューナーカードではかなりノウハウを持つ御社ですが、デジタル放送ならではの苦労もあったのではないでしょうか?

[長野氏] 音声のモノラル⇔ステレオ切り替えはアナログ放送でもあったのですが、デジタル放送では画角の変更、例えば16:9からCMに入った瞬間に4:3へ切り変わったり、また映像のビットレートが変わったりということが頻繁に発生します。それをソフトウェアで処理していますので、反応速度といった面ではまだ改善の余地があるだろうと考えています。

[――] 反応速度と言えば、チャンネル変更のレスポンスでユーザーからクレームがあったりするのでしょうか?



長野氏

[長野氏] そうですね。やはりアナログ放送のTVを使い続けていたお客様からは、「すぐに変わらないじゃないか」といった声が寄せられたことはあります。アナログテレビは1秒かからずにチャンネルが切り替わります。しかし、デジタル放送ではOFDM(直交波周波数分割多重)とよばれる変調方式でチャンネルの周波数をロックするんですが、そのCN比(搬送波と雑音成分の比率・受信感度)を安定させるまでに3〜4秒かかると言われているんです。事実、一般的な家電製品でも、デジタル放送ではチャンネルを切り替えてから映像と音声が出てくるまで3秒程度は要します。アナログ放送から比べてどうしても時間はかかってしまうんですけれども、デジタルTVチューナーについてもピクセラの関連会社で作っているので、将来的には改善していきたいと話し合っています。

[――] 具体的には何か速度面で何か改良・改善が行なわれているのでしょうか?

[長野氏] PIX-DP010-PW0には“第2世代”となる新型のデジタルTVチューナーカードを搭載しています。このカードではOFDM関連パーツを意識して選定しています。去年発表した第1世代のデジタルTVチューナーカードは、手探りで始めたので、実際に開発していく過程で見つかった課題がいくつかありました。例えば視聴・録画アプリケーションの仕様として何秒以内にチャンネル切り替えを完了する――といったことを規定しても、TVチューナーのOFDMレベルで実現できないということが往々にしてありました。今回はそのあたりを教訓に、選定基準から見直しを図っています。ハードウェアの選定から経験を積んだというのはありますね。

[――] ところで視聴・録画ソフトウェアを使ってみると、高解像度対応の液晶ディスプレーで使っていても、メニュー画面が中央に表示されてしまうのが少し気になるのですが。

[長野氏] ああ、センタリングですね。これは当初、解像度をある程度決めうちで作っていたからなんです。視聴・録画ソフトウェアの開発に初めて着手したのは2年前なのですが、その当時はフルHD対応パソコン用液晶ディスプレーが登場するとは想定していなかったんです。PIX-DP010-PW0の場合、組み合わせる液晶ディスプレーはユーザーさんのほうである程度選択できますから、解像度を決めうちという訳にはいかないのですが、現在のセンタリングした見せ方に関して、もう少し別の形にすれば違和感を打ち消せるかもしれないという反省もあります。ただ、今はメインの部分の開発に集中し、機能を取りこぼさない、ユーザーが求める機能を増やしていくことに注力していきたいと考えています。確かに、このセンタリングはちょっと見栄えが悪いんですけどね。


[――] 今年に入ってデジタル放送対応パソコンで録画番組のムーブなどができるようになりましたが、デジタル放送を楽しむにはまだまだ課題が多いように思えます。

[長野氏] デジタル放送のソリューション全般がそうなんですけども、ユーザーさんからすると、例えば「なんでムーブしかできないのか?」「液晶ディスプレーならすでに持ってるのに、なぜ手持ちのものが使えないの?」など、さまざまなところで不満があることは認識しています。それを伺う機会もあるのですが、我々としては「そうARIBが決めたんだから」としか回答のしようがないんですよね(笑)。確かに、ユーザーさんには最も納得のいかないところですね。



橋谷氏&長野氏

[――] 映像コンテンツを提供する側の権利を守るために、ある程度の規制が必要なことは多くの読者(利用者)も理解していると思うのですが、その規制によって利用者の利便性が大きく損なわれるのはいかがなものか、と編集部でも思っています。それでは最後に読者にメッセージをお願いします。

[橋谷氏] TVチューナーカードのOEM提供の実績があったからこそ、このパソコンが完成しました。これからはパソコンの販売に軸足を移すということではないですが、OEM提供とパソコンの両輪の相乗効果によって、デジタル放送対応パソコンの市場が大きくなり、さらに使いやすく製品を展開できればと考えています。

(聞き手・伊藤裕也)




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