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【INTERVIEW】USBデバイスを自動起動する特許を保有するベンチャー企業に聞く

2006年04月05日 21時59分更新

文● 編集部 小林久

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USBデバイスをパソコンに接続すると、アプリケーションが自動起動する。そんな仕組みを採用した周辺機器が増えてきた。その実現に必要な特許を保有している企業をご存じだろうか? 

実はこの特許を保有しているのは、20代の社長が率いるベンチャー企業、(株)サスライトである。同社は3月3日に“着脱式デバイス及びプログラムの起動方法”(特許第3767818号)と“着脱式デバイス”(特許第3766429号)に関する特許を取得したと発表した。2002年10月に出願したもので、同技術を応用した製品『SASTIK 0MB』は、昨年1月から店頭販売されている。現在ではSASTIKをトリガーにして、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ(株)のオンラインストレージサービス“cocoaギガストレージ”に接続するサービスも提供されている。

Windowsは“Autorun.inf”というファイルを使って、CD-ROM内のアプリケーションなどを自動起動する仕組みを持っているが、サスライトの特許は、これをリムーバブルディスクでも応用できるようにするものだ。サスライトは、USBデバイスを“メディアのないCD-ROMドライブ”としてWindowsに認識させ、メディアの挿入とトレイの閉まる信号をハード的にエミュレートすることで、常駐プログラムなどを使用せず、自動的にUSBデバイス内のプログラムを実行できる方法を考案した。

市場にはすでに自動起動に対応したUSBデバイスが多数登場しているが、同社では「その多くが特許内容と類似した原理で機能を実現している」と見ている。Windows XPではメモリーカードなどの挿入時にダイヤログが表示され、その中からユーザーの必要とする機能を選べるが、メディアの初回挿入時にアプリケーションの起動を全自動化するためにはハードウェア側の仕掛けが必要になる。

植松氏と高野氏
サスライト代表取締役社長の植松真司氏(左)と企画営業部の高野暁氏。高野氏が手にしているのがSASTIK-LIMOのロゴ

今回の特許の成立は、パソコン周辺機器市場に少なからぬインパクトを与えそうだ。ASCII24編集部では、サスライト代表取締役社長の植松真司(うえまつ しんじ)氏と企画営業部の高野暁(たかの あきら)氏を取材し、特許を中心としたライセンスビジネスと、今後の戦略に関して聞いた。



差せば使えるSASTIKをライセンス化

取材でまず最初に確認しておきたかったのは「サスライトが取得した特許を武器に“どういったビジネス”を展開していこうと考えているか」である。編集部の取材に関してサスライトは「すでに製品をリリースしているメーカーに対してどのような対応をしていくかは社内で議論している段階」であり、「周辺機器メーカーとの協業を含めて、他社と協調できる方向性を考えていきたい」と答えた。

サスライトでは、SASTIKと同じ仕組みを利用した『SASTIK-LIMO』と呼ばれるアプリケーションを開発しており、今後はそのライセンス販売にも積極的に取り組んでいく意向だとという。すでに、大手周辺機器メーカーの(株)アイ・オー・データ機器が導入を決めており、4月からUSBメモリー“ToteBag”シリーズにSASTIK-LIMOをバンドルして提供する。年間200万台の出荷を予定しているという。

[植松] 今後は、メモリーを持つハードウェアを製造・販売するメーカーにバンドルを呼びかけていきたいと考えています。自動起動を実現するソフトとインターネット上で提供されるサービスをパッケージ化することで、そういった機能を求める製造や販売に長けている企業と、うまく協業できればと考えています。
[高野] LIMOは“Lisensed Identification Management Operating system”の略です。パソコンに詳しくない人でもオンラインアプリケーションを気軽に使えるようにするのが目標です。現状はSASTIKと同等の機能を提供する予定ですが、ビジネスアプリケーションだけではなく、エンターテイメント性の高いコンテンツに向けたサービスの幅を広げていきたいと考えています。

SASTIK-LIMOは、パソコンにUSBメモリーを挿入することで起動し、自動的にサスライトの提供するオンラインストレージサービス“SASTIKセンター”に接続する。SASTIKセンターでは“SASアプリ”と呼ばれるASP機能が提供されており、ウェブメールやファイル保存機能、アドレス帳機能などが利用できる。対応デバイスは現状でUSBメモリーのみとなるが、将来的には、携帯型音楽プレーヤーやデジタルカメラなどへの搭載も視野に入れている。同時に、これらの機器をより便利にするオンラインサービスの追加も視野に入れているという。



企業向けアプリケーションは
ネットごしに利用する時代が到来?

SASTIKという、コンシューマー製品から事業を始めたサスライトだが、最近では企業向けビジネスにも触手をのばしている。そのひとつが、昨年8月に発表されたサーバー向け製品『SASTIK Group Server』である。

これは企業内に設置したマシンをオンラインストレージのサーバーとし、SASTIKを使ってユーザーが簡単にアクセスできるようにした製品だ。企業では、データの不正な持ち出しを防げる“シンクライアント”の導入が進んでいるが、ローカルにファイルを保存せず、サーバー上で作業することで、データの持ち出しを防ぐ発想はSASTIKと共通している。サスライトは“SASTIK”を“モバイルシンクライアント”と名付け、安価なUSBキーデバイスのみで手軽に導入でき、セキュリティーも保てるソリューションであるとアピールしている。

[植松] 「メディアを抜かれた瞬間に見えない世界になる」という話を、よくシステム管理者から聞きます(※1)。SASTIKを企業に導入してもらうことで、“データのオフライン状態を避けたい”というシステム管理者の要望に応えられればと考えています。
※1 ネットワーク上にあるデータであれば、アクセス制限をかけたり、誰がいつアクセスしたかの情報を把握することができるが、データをメモリーカードなどに保存して持ち出されると、そのデータを誰がどのように使ったかがまったく分からなくなるという意味

ネットワークを介してアプリケーションを提供することで、新たなビジネスモデルが実現できると植松氏は考えている。企業で導入されているワープロや表計算といったソフトウェアはパッケージやライセンス単位で販売されているが、これらをネットワーク上のサービスとすれば、従来の売り切りとは異なる新しい価値を提供できるという主張だ。

[植松] これまでのパソコン用ソフトはパッケージで提供されてきました。売り切りですから、会社を維持していくためには、継続的なバージョンアップで買い換え需要を掘り起こす必要がありました。一方で、携帯電話用のサービスでは月額課金を前提にしたサービスがきれいに整いつつあります。月額課金であれば、小さなソフトウェアメーカーでも安定した収益を上げることが可能になるでしょう。ソフトの買い換えやアップデートの手間を考えずに、常に最新で最良のサービスを低料金で利用できれば、ユーザーにとってもメリットになるはずです。

しかし、パッケージ販売されているソフトを月額課金でも提供するとなると市場の混乱を招く可能性がある。その点、SASTIKのような新しいジャンルの製品であれば、「既存製品と市場を取り合うこともなく、スムーズに新しいビジネスモデルに移行できるのではないか」と植松氏は考えている。

[植松] 弊社では、市場のインフラを提供するような立ち回りも考えています。料金徴収の部分を代行してくれる企業があれば、パッケージソフトを持つ企業は少ない投資で新しいビジネスモデルを採用できるはずです。ユーザーとメーカーのそれぞれの利便性を、中央でつなぎ合わせるような形でサスライトも進化できればと考えています。

パソコンがネットワークにつながるのが当たり前になり、その回線もブロードバンド化していく中で、ソフトの利用方法は変わりつつある。ASP化や、セキュリティーを重視したパソコンの登場はそのひとつだ。サスライトは特許技術のUSBデバイスの自動起動とそれを応用したサービス事業によって、地歩を確実に固めつつあるベンチャー企業と言えるだろう。

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