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【INTERVIEW】ペンタックス『K100D』開発陣に聞く(後編)

2006年08月21日 22時04分更新

文● カメラマン 小林伸

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ペンタックスで初めて、光学式手ぶれ補正機構を内蔵一眼レフカメラ『K100D』。前半のインタビューでは、その開発者の生の声をお届けした。後半では、主に商品企画の観点から、K100Dのユーザー層やペンタックスのブランディング戦略などを見ていこう。

開発者
K100Dの開発陣。右手前が商品企画担当の畳家氏、中央がメカニカル設計担当の細川氏、左奥がSR機構設計の上中氏
[――] 今回から“K”シリーズにした経緯について教えてください。外観イメージは、ist Dシリーズと大きくは変わっていないようですし、ようやく浸透してきたブランドをなぜ捨てたのかと疑問に思ったのですが。
[畳家] そうですね──。まず、われわれはK100Dに“Shake Reduction”(SR:光学式手ぶれ補正機構)を搭載したことによって、デジタルカメラとしてはまったく新しい次元に入ることができたと考えています。技術的な流れを見てみると、フィルムカメラの時代に“マニュアル露出”が“自動”になるという大きな革命があって、その次に“ピント合わせが自動化する”というターニングポイントがあった。光学式手ぶれ補正機構の搭載は、それに並ぶ新しいステージの進化だと考えています。

これを製品に搭載する際に、従来のシリーズとの継続感のある製品名にするか、まったく新しい製品名にするかという議論がありました。“*ist D”のブランドは、日本では定着していますが、ペンタックスが得意とするヨーロッパ市場など海外では、必ずしも成功していない面がありました。一方で、一眼レフ機の市場はもはやカメラメーカーだけの世界ではなく、家電メーカーも積極的に参入してくる市場になったことがあります。つまり、一眼レフはいままでの“カメラという枠組み”より、もっと広くポピュラーなものになってくるはずです。そのときに、ペンタックスとしてどのようにアピールしていくかも重要なポイントだと思います。

そこで基本に立ち返って「一眼レフの魅力って何ですか?」とシンプルな疑問を投げかけたとします。その回答は「レンズが交換できて、撮影の幅が広がる」ということでしょう。ペンタックスは“Kマウント”という規格を提唱し、それをずっと継続してきた。それをボディーの名前に採用することで、レンズもKマウント、ボディーの型番もKという、一般にも分かりやすいブランド作りが行なえるのではないかと考えました。

また、カメラ好きの方ならご存じのように、ペンタックスにとって“K”という文字は非常に重要です。歴史的に重要なターニングポイントで採用されてきたからです。そのあたりも総合して、今回は“K100D”という新たなネーミングでいきますよ、ということになったのです。


ペンタックスはコンシューマーのブランドを目指す

畳家氏
畳家氏は、K100Dは利用するユーザー層をかなり明確に設定したと話す
[――] 新ブランドを展開するにあたって、中級機、上級機ではなく、10万円以下のセグメントを狙ってきた。この理由はどこにありますか?
[畳家] 一番重要なのは「市場認知度をどう高めるか」という部分だと思います。確かに、スペック的な魅力では、高級機のほうが看板になりやすいのですが、国内のマーケットは“レンズキットで10万円以下”というセグメントで構成されているんですね。*ist D以来、ペンタックスとしては、一貫して、一般消費者を狙って、ブランドを広く認知させていこうと考えています。その流れの中で、まずは一般消費者にネーミングを認知させたいというのがありました。ただし上級機に関してもまったく考えていないわけではありません。例えば、展示会で参考出品しているモデルなども控えていますので、こちらもご期待ください。
[――] 発売当初から、レンズ付きで9万円以下というのは、驚きの低価格です。手ぶれ補正という新機能まで積んで、ここまで低価格にできた一番の理由は何でしょうか?
[畳家] 一番大きいのは、今年1年間で全世界のマーケットに流通させる量をハッキリと決めたうえで、部材調達を行なっていることが挙げられます。「最初は少なめに作って、ヒットしたら増産していくというアプローチではない」ということです。「最初にきっちりとした数を作って、きっちり売る」。その前提で部材の購入を進めることで、個々の部品の品質を下げず、部品の単価を下げられました。

また、基本仕様は*ist DLシリーズと共通する部分が多く、システム的にとんがっていない面も有利に働いています。これはスペック面でのバランスを価格にうまくフィードバックさせようという狙いもあります。




無意味なスペック競争は、メーカーのエゴになりかねない

[――] ユーザーとしては、コストを意識しなければ、CCDを1000万画素にするなど、大きくスペックアップできたのではないかと思います。後悔はなかったでしょうか?
[細川] それをやると開発期間がより長くなってしまいますね。
[畳家] このあたりは、迷いがなかったですね。1000万画素にすると、それを処理するためのメモリーが必要になるとか、DSPももっと速くないといけないとか、どんどんスペックが肥大化してしまうわけですね。あれもこれもやって「それじゃあ、いつできるの?」というの話ではなくて、割り切ることによって「必要な時期にちゃんとした製品を出しましょう」と考えていました。
基本的な仕様は従来機と共通点が多い
K100Dの分解写真。CCDやシャッター速度など、基本的な部分は従来機と共通点が多い
[――] 画素数などよりも、この時期に手ぶれ補正搭載のカメラを投入することが大前提としてあったということですね。
[畳家] そうです。オーバースペックはメーカーのエゴになってしまう。他社さんを含めて、これまでのデジタルカメラ市場は、ユーザーのターゲットをあまり明確にしてこなかった面があると思います。デジタルカメラの進化の流れの中で「画素は多い方がいい」「連写は速いほうがいい」という流れが支配的でした。“スペックが良ければいいもの”という感じで、値段や利用シーンとのバランスはあまり考慮されてこなかった。

K100Dでは対象のターゲットをかなり明確に設定しました。具体的には30代~40代の男性です。この層は、結婚してすでにお子さまがいるユーザーが大半です。“子供を撮ること”を例にとると、最初は室内で撮影されるのが中心ですから光学3倍ズームでも十分でしょう。これが幼稚園や小学校に上がられるとなると、急に自分の撮影できる距離というものが変わってしまうわけです。ステージの上でイベントがあって、初めて3倍ズームの限界が分かる。また、暗い場所ではノイズが増えてしまうとか、画質への欲求も高まってくる。そんな中から、一眼レフ機なら望遠レンズも使えるし、きれいに撮れそうだという動機付けが生じる。そういうタイミングの方にこのカメラが一番お使いいただけるんじゃないかなと、考えています。

その人は必ずしも1000万画素や1600万画素を求めているわけではない。例えば、ご家庭で普及しているプリンターはほとんどがA4サイズなんです。A3サイズのプリンターを持っている人は相当にマニアックな層になる。そうであれば、A4フルサイズがきれいに出せればいい。お店でプリントする場合でも、Lサイズや2Lサイズが多く、6ツ切り、4ツ切りと大延ばしにされる方はほとんどいない。画像の使い方も後処理を一生懸命するというよりは、基本は“撮って出し”ですよね。

こういった用途なら600万画素で十分なわけです。逆に600万画素のCCDを使えば、従来からのシステムをそのまま使える面がありますので、われわれがずっと培ってきた技術がそのまま生かせるんです。開発期間のコントロールもしやすいですし、製品から出てくる絵も安定したものになる。こういった総合的なメリットを考えて、このモデルの仕様を固めました。それに飽き足らない人は「もう少し待ってください」と明確にターゲットを分けています。


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