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アドビのHD編集などビデオ戦略について、サイモン・ヘイハースト氏に聞く


2006年11月29日
サイモン・ヘイハースト氏
米アドビ システムズ社のダイナミックメディア部門プロダクトマネジメントディレクターのサイモン・ヘイハースト氏

今月15日から17日まで、千葉県幕張の日本コンベンションセンター(幕張メッセ)で開催された業務用放送関連機器の専門展示会“Inter BEE 2006(2006 国際放送機器展)”。これに合わせて来日した、米アドビ システムズ(Adobe Systems)社のダイナミックメディア部門プロダクトマネジメントディレクターのサイモン・ヘイハースト(Simon Hayhurst)氏と、アドビ システムズ(株)のマーケティング本部Web&ビデオ部部長の古村秀幸氏に、同社のビデオ製品の戦略について話を聞いた。

ヘイハースト氏は今年3月にも来日しており、そのときにはHD映像の取り込みから編集、出力までのハードウェア/ソフトウェア仕様を定めた規格“OpenHD”について説明を行なったが、今回はHD編集環境が整い始めた現状と将来の高解像度ビデオ編集を中心に話を聞いた。





OpenHDは将来Open4Kに!?
ヘイハースト氏が注目する3つの市場とは?

[――] 3月に話をうかがった時(関連記事)は、“Adobe OpenHD”についてお聞きしました。その後、何かアップデートはありますか?

[ヘイハースト氏] OpenHDについては、リセラーや顧客の皆さんから大きな反響がありました。OpenHDで「何をやりたいか」がダイレクトに伝わったため、好意的に受け入れられています。ディーラーにしてみれば、コンフィギュレーション(製品仕様)を構築する近道となることで、満足していただいています。

[――] HDより高解像度な“4K”(4096×2160ドット、800万画素クラス)、“2K”(2048×1080ドット、200万画素クラス)は日本でも注目を集めていますが、米国では主流になっていきそうですか?

[ヘイハースト氏] すでに顧客の一部では4Kと2Kが使われています。時間が立てば4K、2Kが主流になるでしょう。米CineForm社のリアルタイム編集製品群が4K、2Kいずれにも対応していますので、将来的には“OpenHD”から“Open4K”と呼称を変えた方がいいかもしれませんね。ですが、現状で最も多い動きは、SDからHDへの移行なのです。この状況を見ていると、4K、2Kが主流になるにはまだ時間がかかると思います。HDはソニーなどで製品を出しており、入出力や編集でも有力なフォーマットになっていますが、2Kが主流になるにはあと2年はかかるでしょう。業界で主流が変わるときには、ユーザーが何を求めるかが重要だと思います。私たちが注目しているのは“視聴者”なのです。

[――] 視聴者のどういったところに注目されているのですか?

携帯電話機を手に説明するヘイハースト氏
ヘイハースト氏が注目している3つの市場のひとつ、携帯電話機

[ヘイハースト氏] 視聴のためのデバイスとして、3つのコミュニティー(市場)に注目しています。 まずひとつは“モバイル(携帯電話)”です。これは解像度レベルがまだSDにも達していませんが、インドや中国の一般ユーザーはパソコンを持っていないケースが多いわけで、モバイルでインターネットでアクセスしている人は(パソコンの利用者と比べても)非常に多いようです。このモバイルデバイスは間違いなく数年以内に映像を楽しむ主流になるでしょう。

次はオンライン(インターネット経由)でのコミュニティーです。これにはSD/HD映像を表示できるデバイスだけでなく、ストレスなく転送できる環境が含まれます。しかし、現状ではADSLを使っても、HDレベルの映像をダウンロードするには8時間もかかってしまいます。そのため、このコミュニティーでの主流はSDクオリティーか、それより低いレベルになっています。“YouTube”は基本的にQCIFですよね。

最後に重要なコミュニティーは光ディスクです。これはすでにHDになりつつあります。過去5年間、話題に上ったのはHDへのトランジションで、今後5年間もHDへのトランジションが話題を集めるでしょう。



米国でのデジタルシネマ、デジタル配信の現状は?

[――] 米国ではデジタルシネマへの移行は進んでいますか? もし難しい状況だとしたら、それがHD普及の足かせになってはいませんか?

[ヘイハースト氏] 映画館での4K、2Kフォーマットへの移行はすでに起こっています。さらに移行が進むには、値段が買いやすくなることが重要です。買いやすい価格の4K対応のデジタルビデオカメラが普及してくれば、急速に4Kへの移行も進むでしょう。そうなれば4Kの投影機が普及するきっかけにもなるでしょうし、その時にはフルデジタルスクリーンでの体験にソニーの“4Kプロジェクター”が重要な役割を果たすと思います。

デジタルシネマの“デジタルディストリビューション”(デジタル配信)が普及するには、セキュリティーを確保するのに時間がかかります。しかし、すでに映画館のオーナーにとっては、導入への大きな動機付けがあります。完全なデジタル・プロジェクターを使えば、例えば週末には最新作を上映し、平日には過去の名画など別の映画をアレンジするといった自由な上映のスタイルが容易に実現できるからです。

また、ハイエンドでは4Kに移るきっかけが増えています。今後、より高解像度な16Kもしくは32Kが出てくるとしても、納得できる費用で導入できるかという経済的な大きな問題があります。しかし、そこには大きなメリットもあります。16Kや32Kを使うと、リアルエステートプレースでズームを使ったりパンを使ったりして、映像に新しい動きが付けられます。つまり、カメラマンの判断が気に入らなかったら、ポストプロダクションの段階で編集時にフレーミングをやり直すこともできるわけです。これは静止画やアニメーションではすでに行なわれている技術です。

4K(対応の撮影機材)が2000ドル(約23万円)〜4000ドル(約46万円)を中心に出荷されるようになれば、ほかのメディア向けにも急速に普及するでしょう。以前は400万画素が上限と言われていましたが、今は2000万画素も可能です。それが出てきたら『Adobe Premiere Pro』も『Adobe After Effects』も対応するでしょうし、ご満足いただけることでしょう。

[――] Open 4Kやモバイルと、いろいろな方向性が打ち出されましたが、アドビとして今、最も力を入れていこうと考えているのはどの分野ですか?

[ヘイハースト氏] アドビとしては“どの分野を選ぶ”ということはありません。アドビのチャレンジは、ハイエンドの世界では“Matrox”や“Cineform”を使ったソリューションで、あらゆる世界で革新を起こすことです。ウェブやモバイルでも革新を起こしていきます。

[――] 以前のインタビューでは、「Blu-rayとHD DVDのどちらが主流になるとは言えない」とのことでしたが、その後何か変化はありましたか?

[ヘイハースト氏] 今のところは将来に向けてどちらにも注力しているところです。



シリアスマジックの買収でビデオソリューションを一気に拡充

[――] 前回、「動画系のウェブサイトで気になるものを教えてほしい」という質問に、ソニーピクチャーズの映画“アンダーワールド”のウェブサイトを教えていただきました。その後、気になるサイトはありましたか?

ヘイハースト氏

[ヘイハースト氏] 我々が言う“将来”というのはすでに身近なところまで来ていますが、まだその“将来”に届いている人はいなません。そのいい例が4Kです。しかし、あれ(今年3月)以来、2つのことが起きています。ひとつは、“アンダーワールド”のようにリッチな体験を提供するところが増えていること。例えば、ABCテレビはオンラインを放送媒体として真剣に検討し始めています。すでにTVドラマの“LOST(ロスト)”や“デスパレードな妻たち”などのオンライン配信を行ない、300万人の視聴者を得ています。オンライン配信の次のステップに向けた動きが起こっているのです。

もうひとつのワクワクするニュースは、ウェブでのナイキの広告です。“アンダーワールド”が公式サイトで見せたリッチさやインタラクティブさをさらに進ませた内容で、クロマキー(合成)ビデオだけでなく、すべての面でインタラクティブな要素があります。

また、Flashの体験がどれほど強烈かを表わしているものとして、YouTubeとMySpace(による動画投稿・配信サービス)があります。1日1億件の視聴(ページビュー)があることは、異論を唱える余地がないと思います。

ひとつの大きな流れとして、ABCテレビの例や“アンダーワールド”“ナイキ”があるわけですが、これらは伝統的な放送に載せられていた番組(映像コンテンツ)を、オンラインというより幅広いメディアにも載せて届けるということです。ところが、これに対立する図式として、Flash Videoを使った小さな範囲のコンシューマーコミュニティーという新メディア(YouTubeやMySpace)があります。ここでも、私たちはハイエンドだけを重視するという選択はせず、コンシューマーにもハイエンドにも両方に技術を提供することで成功しているのです。

[――] そうしたビデオ関連の新しいソリューションにはどんなものがありますか?

[ヘイハースト氏] アドビでは『Flash Media Server』を使ったFlash Videoライブストリーミングによるリアルタイムのライブ放送を実現しています。これはひとつの回答と言えます。Adobe Labsで提供している最新のFlash Videoでは、フルスピード(毎秒30フレーム)のストリーミングビデオを提供しており、これはすべての放送局が求めている機能と言えます。さらにリッチメディアの体験を広げるツールとしてFlash Videoに効果音やBGMを付けられる音楽編集ソフト『Adobe Soundbooth(サウンドブース)』をAdobe Labsで提供しています。米シリアスマジック(SeriousMagic)社の買収によって取得したビデオブログ『Vlog It!』というツールもあります。また、プロのビデオグラファーには、(同じくシリアスマジックの)『DV Rack』や『ULTRA 2』といったツールもあります。

アドビはハリウッドのようなハイエンドからコンシューマの市場まで幅広くカバーしているのです。





Apolloがオンラインビデオ市場に与える影響とは?

[――] 御社では今、“Apollo(アポロ)”が最もホットな話題ですが(関連記事)、ダイナミックメディア部門ではどのようにApolloに関わるのか教えていただけますか?

[ヘイハースト氏] Flashは確実にリッチな体験をユーザーに提供しますが、これはオンラインの体験です。それをさらに広げ、HTMLやPDF、Flashの優れた点を統合するのがApolloです。オンラインからオフラインまでシームレスに動いて、さらにオンラインに戻せる橋渡しとなるわけです。

Flashの開発者にとっては、再生視聴環境をブラウザーにするか、Apolloにするかの選択ができるようになります。セキュリティー面でも基礎技術を提供しており、ダイナミックメディアでは、素材の収集から活用・利用までの技術を幅広く提供します。メディアがどのように使われるかを理解することで、クリエイションも幅広くなります。例えば、ストリーミングとオフラインの両方でリッチメディアが体験できる状況では、メタタグが重要な技術になります。ダイナミックメディアに関しては、クリエイションから活用までつなげて、Apolloで何が提供できるかを考えています。

[――] Apolloを活用することを検討している企業はありますか?

[ヘイハースト氏] (オンラインオークションサイトの)“eBay”のような人たちが、すでにApolloを活用することを話し始めています。Apolloはただのツールではなく、プラットフォームです。ですので、そうした動きがあるのは自然なことだと思います。詳しくはお話できませんが、eBay以外にも動きはあります。例えば、旅行予約や住宅ローンの申請といった使い方がありますし、オフラインでのショッピングとか、eセミナーでのトレーニングなども。

[古村氏] 日本では(株)JストリームがFlash Media Serverを活用して、個人レベルのビデオ配信ができるシステムが出しています。

[ヘイハースト氏] もちろん、放送とリッチメディアの融合にはワクワクしています。より多くの事例をお話できる日が来るのを楽しみにしています。

[――] オンラインでのショッピングが進展した将来においては、動いている映像そのものにインタラクションさせるためのリンクを埋め込むことも実現できるのでしょうか? 具体的に言えば、ドラマの中で女優が着ている服そのものにリンクを埋め込み、それをマウスでクリックすると直接購入できるサイトに移動する、というようなことです。

[ヘイハースト氏] これは現在でもできます。Flash Media ServerとFlashを使う方法です。まず、“Flashキューポイント”で行なうのが自然です。Adobe After Effectsを使えば、映像の一部を簡単に特定し、オブジェクトとして切り出して、インタラクションとして扱うことができます。あとはAdobe After Efectsで関連づけし、XMLやXMPデータにしてサーバーにストアし、データをリンクさせます。

Flash Media Serverはユーザーが求めているインタラクションをサポートし、ホスト側で何を起こすかを決めることができます。さらにApolloではこれがオフラインでできるようになるわけです。アドビはこれまで、ある非常に専門性の高い人だけが実現できていたことを、幅広く多くの人々が安価にできるようにしています。

(千葉英寿)


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