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【INTERVIEW】まずは「絵を出す」という作業が大変なんです――K10Dの開発者に聞く(前編)


2006年12月4日

感度面で不利な1000万画素CCDを搭載する上でのチャレンジ

デジタル一眼レフカメラメーカーの開発者を直撃する本企画。今回は、ペンタックス(株)の『PENTAX K10D』(2006年9月発表)を取り上げる。3月に行なわれた“Photo Imaging Expo 2006”で参考出品された本製品は、ペンタックスとしては久々の中級機。競合ひしめく10万円台前半1000万画素機のカテゴリーに満を持して投入される1台だ。7月に発売された『PENTAX K100D』の上位機となり、今までのようなマイナーチェンジモデルではなく、フルスクラッチの新機種となる。

K10D
K10D

機種ラインアップの上下関係が今ひとつすっきりしなかった“*ist”シリーズに対して、K100Dとのクラス分けを明確に打ち出してきたのも特徴。K100Dが実現していたCCDシフト方式のボディー内手ぶれ補正(SR)はもちろん、ごみ取り機能(DR)や、新開発画像処理エンジン“PRIME”(プライム)を搭載。このクラスとしては破格の22bit A/Dコンバーターを使用し、DDR2メモリーによる高バス帯域化も図るなど、デジタル回路の大幅な強化も行なわれている。ボディーもヘビーデューティーに耐えうる防塵・防水設計とした。

まさに盛りだくさんの機能を備えたK10D。人気機種のK100Dに続くモデルということもあり、その開発にはさまざまなプレッシャーもあったはずである。今回は、K10Dの開発陣にそのあたりの話も聞いてみた。

PENTAX K10Dの開発陣
PENTAX K10Dの開発陣。前列左がイメージングシステム事業本部第一開発部の平井 勇氏、右が第二開発部の森下 茂氏、後列左が堀田 智氏、後列右がマーケティング統括部 製品企画室の畳家 久志氏


まずは「絵を出す」という作業が大変なんです

[――] K10Dでは、撮像素子がようやく1000万画素の大台に乗ったわけですが、新しいCCDを使いつつ、評判の良かった絵作りを継承するのは大変だったのではないですか?

平井氏
CCDハード画質を担当した平井勇氏

[平井] 1画素あたりの受光面積が狭くなっているので、感度は従来のCCDよりひと絞りぶん不利になっています(ISO 100〜1600相当)。これは高感度のノイズに影響してくる部分ですが、K10Dではそのあたりを充分検討したうえで、当社が理想とする“フィルムライクな画質”を目指してきました。確かに、感度を上げていけば徐々にノイズが増えてきますが、そのノイズが自然に見えるように心がけています。特に配慮したのは、画像処理でノイズを不自然に潰した“デジタルライクな絵”にならないようにすることです。作られた印象の絵ではなく、できるだけ自然な絵で撮影できるようにするため、細かなチューニングを行なっています。

[――] K100Dは、*ist DS2やDL2と同じ有効600万画素のCCDを採用していました。スペック競争という点を考えなければ、同じCCDを使い続けたほうが安定した絵が得られるというメリットがあると思います。しかし、今回はまったく新しいCCDです。従来機とはまったく異なるアプローチが必要だったのではないでしょうか?

[畳家] 他社も同様だと思うのですが「こんな状況でスケジュール通りに開発できるのか?」というぐらい、ギリギリまで試行錯誤を行ないます。

[平井] 新規のCCDでは、まず絵を出すところまでが苦しい作業になりますね。基準感度(ISO 100相当)で、ある程度の絵を出すということなら、それほど時間はかかりませんが、そこから感度を2段、3段と上げていくと、ある感度に達したところで、極端に悪い絵が出力されてしまいます。ここからが大変で、何が原因なのかを特定して、例えば、基板を作り変えるといったトライ&エラーの繰り返しになります。ファームウェアはこれと並行して開発されていますので、それぞれの開発グループがいろいろとやりとりしながら、徐々に画質のレベルアップを目指していくのです。この作業が済んで、ようやくチューニングの作業に入れるわけです。




回路基板を作り直した回数は過去最高かもしれない

[――] 画像をチューニングするに当たって苦労されたところはありますか?

CCDモジュール
K10Dに搭載された1000万画素のCCDモジュール。K100Dの600万画素から大幅に高画素化している

[平井] やはりノイズ対策ですね。画面全体に均一に乗るノイズは許容できる場合が多いのですが、部分的にノイズが出てしまったときにどう対処するかは頭の痛い問題です。

[――] 何が原因で、部分的なノイズが出てしまうのでしょう?

[平井] それが分かったら苦労はしません(笑)。当然いろいろな解析をしながら対策を施していくのですが、そのようなノイズが複数出てくるのでひとつひとつつぶしていく作業に時間がかかりました。基板変更も対策のひとつですが、1回2回のレベルではなく、繰り返し作り直さないといけません。

[堀田] 言ってしまっていいものか分からないのですが、回路基板を作り直した回数は過去最高です(笑)。

[平井] 解像度が上がったことで、ノイズに関しては、今まで以上に厳しいユーザーの目にさらされることは分かっていました。センサーの基準感度も下がっていますから、製品にできるレベルまでチューニングするのは非常に大変な作業でした。

[――] ノイズはCCDからA/Dコンバーターまでの経路で混入するケースが多いため、アナログ信号の段階での対策が重要ということでしょうか?



堀田氏
ファームウェアの開発を担当した堀田智氏

[堀田] そうですね。最近の基板は1枚に見えても実は何層にもなっているので、ちょっとした配線の取り回しで、ノイズの出方は大きく変わってきます。

デジタルカメラの中には、高い周波数で動作するDDR2メモリーを始めとして、電波を発生させる部材が多数存在します。パソコン用のビデオカードでも、TVチューナーの部分が厳密にシールドされていますが、あれはデジタル回路とアナログ回路が干渉することを防いでいるんです。デジタル化する前の信号にノイズが混入してしまうと、デジタル画像として出力するときにボロボロの絵になってしまう。

デジタルカメラの場合、感度を上げるためにゲインアップを行なうため、ISO 1600相当(基準感度に対して4段分の増感)になると、ほんの数ミリボルトの電圧変化でも大きな影響が生じてしまうのです。

[――] デジタルカメラの絵は、最終的には“デジタル”の状態で記録されるわけですが、実際は“アナログ”な作業の積み重ねなんですね。

[掘田] ええ、アナログ部分の作業はかなり利いてきます。それがないと後段のチューニングもできないので、できるだけ煮詰めておくことが必要です。日程的には厳しい部分なのですが、全体的なスペックアップにつながるのでおろそかにはできません。

[――] デジタル回路とアナログ回路の干渉という話が出ましたが、両者をうまく分離することが重要になるわけですよね。

[掘田] グラウンドを分けるのも対策のひとつですが、難しいのは単に分ければいいというわけではなく、広く取ったほうがいい結果が出る場合もあります。このあたりも試行錯誤が必要な部分です。




2チャンネル読み出しにはメリットもある

[――] CCDからデータの読み出しは2チャンネルですが、そこが連写速度のボトルネックになっていたりしませんか?

PRIME
新開発映像処理エンジンの“PRIME”。デジタル処理における強化ポイントのひとつ

[堀田] 公称値の毎秒3コマをクリアするためには充分です。バックエンドに関して言えば、バス制御などは余裕をもって設計してあるので、これより速い撮像素子にも対応できます。後段処理に関しては最高速度で動作させているので、今以上のセンサーを使用した場合でも、かなりいいパフォーマンスを出せるはずです。

[――] そう聞くとなおさら、CCDからの信号をより高速に取り出せる“4チャンネル読み出し”に対応すべきだったのではないかと感じるのですが……。2チャンネルでは毎秒3コマ程度が限界だと聞いたことがあります。

[堀田] 確かに、2チャンネルで取り込める最大フレームレートは決まっていますので、それ以上の高速性を求めれば、撮像素子がボトルネックになります。しかし、2チャンネル読み出しには4チャンネル読み出しにはないメリットもあります。ひとつはフロントエンドが2つなので、消費電力の削減が可能になる点です。もうひとつは、解像力を高めやすいということです。



ベイヤー配列
ベイヤー方式のフィルター配列。緑の画素数が2倍になっているのは、人間の目が緑に敏感なため

[――] もう少し具体的に教えていただけますか?

[堀田] ご存じのように、単板型のCCDでは、ベイヤー方式のフィルター配列(赤と緑、緑と青のフィルターが交互に並んだ配列)が採用されています。この情報を4チャンネルで読み出そうとすると、赤(R)、緑(Gr、Gb)、青(B)の情報が、それぞれ別々のチャンネルに分かれて読み込まれる形になります。このとき問題になるのがGr(赤の列にある緑フィルター)とGb(青色の列にある緑フィルター)の誤差です。

4チャンネルでは、それぞれが異なる経路で読み込まれるため、経路の違いによる誤差が生じてしまいます。後段の処理でその誤差を調整しなければならないのですが、この修正が上手くいかないと、解像力を下げなければならなくなったり、縞のようなノイズが発生するといった問題が生じます。一方、2チャンネルの読み出しであれば、片側のチャンネルでRとB、もう一方のチャンネルでGrとGbの信号を読み出すことになるため、GrとGbの信号をハード的に等価に扱えます。スピードだけを求めるのであれば、4チャンネルでもいいのですが、画質も含めた全体的なパフォーマンスの見地からすると、2チャンネルがベストではないかと個人的には考えています。

[――] 今回画像処理エンジンに“PRIME”と名前が付いていますね

[畳家] まったく新しいシステムを開発したので全体のパフォーマンスが向上しました。その中でもキーになっている部分は俗に“画像処理エンジン”と言われている部分です。その部分が新しくなり高いパフォーマンスを発揮しているので、この部分をユーザーにアピールしたいと考え、当社として初めて画像処理エンジンに名前をつけました。当然画像処理エンジンだけでなくA/D変換、DDR2などシステム全体のスペックアップもアピールしています。



DDR2メモリー
高速化のひとつの要因になっているDDR2メモリー。圧倒的なバス速度が採用の理由だという

[――] メモリーにDDR2を採用した理由とは?

[堀田] 圧倒的なバス帯域の広さです。1000万画素の画像を連写することを見込んだとき、従来のメモリー帯域ではストレスのない連写は成り立たちません。これをクリアするためにどの程度の帯域が必要か計算したとき、DDR2が現状で最適だったのです。市場的にも価格がこなれてきており、品質が向上してきたことも理由のひとつです。

[――] バススピードが上がったということですが、それ以外の回路、例えばメインCPUのクロックなども上がっているのでしょうか?

[堀田] 連写関係のスピードアップを目指してDDR2を使用していますが、メディア書き込みのデータバス帯域も従来より上げてあります。

[――] 何倍程度の数字になっているのでしょうか?

[堀田] 従来の2倍以上の数値となっています。書き込みも2倍以上です。ただメディアへの書き込みに関しては当然カード自体の性能にも依存してしまいます。データバスの帯域はそのぐらいは確保したとお考えください。





UMLの採用は組み込み向けでは珍しいもの

[――] ファームウェアに関しては、今回新規のハードが多いので大変ではありませんでしたか?

[堀田] ファームウェアに関しては、画像処理エンジンの“PRIME”も新規に開発したこともあり、一から起こす必要がありました。こちらも今までのカメラとはぜんぜん別物になっています。ファームウェアの質自体も向上させるため、開発には“UML”(Unified Modeling Language)を導入しました。ソフトウェア的にも業界では新しいことをやっています。

[――] “UML”とはなんですか?

[堀田] オブジェクト志向の分析手法で、ファームウェアを作る前の段階から要求分析――つまり“このカメラにはどんな機能が必要であるか”という分析のレベルからの追い込みを行なっています。組み込み関係でUMLを導入しているメーカーはまだまだ少ないと思います。

後半へ続く

(聞き手 小林 伸/撮影 岡田清孝)


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