このページの本文へ

“インターネットコンファレンス'97”で坂本龍一氏が招待講演

1997年12月17日 00時00分更新

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷


 ネットワーク技術者などを対象として、19日まで横浜パシフィコにおいて開かれているセミナー“Internet Week 97”のイベントのひとつ として“インターネットコンファレンス'97”が開催された。

 “Internet Week 97”は、'90年からネットワーク技術者などの勉強会として開かれてきた“IP Meeting”に、今年から“インターネットコンファレンス'97”などを共催するかたちで開催されるようになったイベント。なお、“Internet Week 98”は、'98年12月15日~18日、国立京都国際会館で開催される予定。

 その“インターネットコンファレンス'97”において、招待講演というかたちで、作曲家の坂本龍一氏が、インターネットによるライブ中継の第一人者として“Music on the Internet”と題する基調講演を行なった。

「インターネットによるライブ中継は、'95年11月から行なってきた。今まで5回のライブを行なったが、中でも印象的だったのは、今年1月に行なった“f”というタイトルのツアー。インターネットで見ている人たちにもライブに参加してもらおうと考えて、キーボードの“f”をおすと、会場のスクリーンにfの文字が浮かぶようにした。1秒間に1400ヒットすると、画面が真っ黒になり、それを見てライブ会場の観客が、また興奮するといったかたちで、会場とインターネットが一体感を得たのが印象深かった。

 インターネットで音楽をやるメリットは、低価格で提供できること、時間的な遅延がないこと、リスナーが創作の過程を楽しめることの3点。

 まず、なぜ低価格になるかというと、たとえばCD1枚が売れたとして、そのうち作者に入るのは10パーセント程度で、残りの90パーセントは、製造や運送にかかるコスト。インターネットならば、製造や運送費がごくわずかで済むので、作品を安く提供できる。

 また、作品ができてから、リスナーに提供するまでの時間がかからないので、作曲者としては、とてもハッピーになれる。CDならば作品が完成してから、発売までに3ヵ月はかかり、プロモーションのためにインタビューを受けても、3ヵ月前のことを思い出しながら話さなければならないので、とてもイライラするが、そうしたことがなくなり、作り手とリスナーが感情を共有できるようになる。

 3つめのメリットは、創作の過程を公開し、それをリスナーが楽しめるようになること。楽曲を作ると言うことは、日々変わっていくもので、作り手としてはプロセスを見せる欲求も強く、そうしたことが実現できる。

 インターネット・ライブをビジネスにするための、解決すべき課題として、まず、プラットホームの普及の遅れがある。パソコンが飛躍的に使いやすくならないと、パソコンはこれ以上、普及しないのではないかと思う。個人的には11月に発売されたWebTVは、テレビを見ながらWebも見られるなど、とても簡単なので、パソコンはないがインターネットを見たいという人を対象に、これから広がる予感を感じた。

 しかし、もし仮にパソコンが飛躍的に使いやすくなったとしても、音楽を聴くためのデバイスは依然として劣悪なままで、この点もなんとかしなければならない。

 著作権に関しては、自分のホームページで著作権に関するアンケートを行なっている。なぜこんなことをしているかというと、インターネットでの著作権問題を議論している人たちは、行政やメーカーの人たちばかりで、肝心の創作をしている人たちが議論に加わっていないし、インターネツトで音楽をやっている私に議論に加われというオファーもなく、そうした現状にけっこう頭にきている。

 これまで、800人くらいがアンケートに答えており、これらの人は著作権問題に関する意識が高いほうだと思うが、それでも、80パーセント以上の人が、物の著作権と同じ意識、つまり、“個人で楽しむなら複製もを配っていい”という意見が多く、この点は、今後よく考えなければならない問題だと思う。

 最後に、流通のあり方。ネット上で、電子的に売り買いするにはどうするのか、難しい問題が残されている。また、著作権の問題も絡んでくるが、今までは、JASRAC(日本著作権協会)が仲介するかたちで、著作権料の管理・受領をおこなってきたが、ネットで直接販売できるようになると、仲介自体が必要なくなるのではないかと思う。

 繰り返しになるが、正当な法的保護はどうすれば可能か、あるいは、著作権管理サービスの多様性をどう確保するか。これに関しては、みんなで話す場がなく、一番大きなフラストレーションを感じている」

 インターネット・ライブをビジネスとして成立させるには、著作権をどうするか、という点は避けて通れない大きな問題。いくら、日本で立派な法律を作っても、タックスヘブンならぬコピーライトヘブンでコピーすることも起こりうる事態だろう。

 「すでに起きている暴力(違法コピー)には、銃(コピーさせないための技術)で解決するしかない」と、少しイライラしながら会場からの質問に答えていた坂本氏が印象的だった。(報道局 佐藤和彦)

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン