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MIS、6月末から渋谷などで街角無線インターネットの実証実験

2001年06月07日 22時02分更新

文● 編集部 佐々木千之

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モバイルインターネットサービス(株)(MIS)(※1)は7日、記者発表会を開催し、屋外で移動しながら利用できるハンドオーバー性能を備えた無線インターネット技術を確立、6月末に渋谷など都内数ヵ所で1万人規模の実証実験を行なうと発表した。開催中の“NetWorld+Interop 2001 Tokyo”会場で、デモンストレーションを行なっている。

※1 モバイルインターネットサービスは、(株)有線ブロードネットワークスと、無線通信機器の開発、製造、販売を行なっているルート(株)が共同で4月20日に設立した。資本金は1億円で、出資比率は有線ブロードネットワークスが50%、ルートが49%、(有)ラウンドキューブが1%。本社は東京都文京区、代表取締役はルートの代表取締役でもある真野浩氏が務める。MISは無線インターネットの実証実験を目的とする企画会社という位置づけ。

MISが開発、発表した無線インターネットサービスは、IEEE802.11bベースの無線LAN(通信速度11Mbps)を利用する。従来の無線LANサービスでは、アクセスポイント間を移動した場合に、端末に割り振られているIPアドレスが変わったり、アクセスポイント間のハンドオーバー時に時間がかかるなど、移動しながら継続してインターネットサービスを利用することが難しかったという。また、IEEE802.11bで現在利用されている暗号化方式は、複数のユーザーが同じ暗号鍵を使うなど、セキュリティー面で問題があるという。

MIS方式の無線インターネットサービスの基本的仕組み
MIS方式の無線インターネットサービスの基本的仕組み

これに対して、MIS方式の無線インターネットサービスでは、インターネット上にサーバーを設置してユーザー認証を集中的に行ない、ユーザーがアクセスポイント間を移動したことを、インターネットサービスプロバイダー側に設置するホームエージェントサーバーに通知することで、固定局と同等のインターネットアクセスを可能にしたという。この仕組みによってデータ通信がとぎれず安定して利用できるハンドオーバー性能と、高いセキュリティー性能を備えた。ハンドオーバー性能に関しては、およそ時速60kmで移動してもデータ通信とぎれることがないとしている。セキュリティー性能に関しては、ユーザーごとに別々の鍵を設定し、さらにその鍵がダイナミックに切り替わっていくため、“なりすまし”などが困難であるとしている。

屋内用基地局
屋内用基地局。これと10数センチ四方のアンテナを設置する
屋外用基地局
屋外用基地局。光ファイバーが直接接続できるとしている

MIS方式の無線インターネットサービスに使われている技術は、すべてIPベースのもので、基本的にはインターネット関連技術の標準化を行なうIETFで策定されたオープンなもの。ただし、認証技術の一部は、MISに最高技術責任者として参画予定の、東京工業大学情報理工学研究科講師太田昌孝氏が研究開発したものを使っている。

ユーザーが利用する無線LAN機器は特別なものでなく、IEEE802.11b準拠のものならMISが提供するドライバーソフトを入れるだけでよい。まずWindows 2000/XP/98/Me用のものをリリースし、その後Windows CE用を予定する。基地局はビルの壁面や電柱などに設置し、1局がカバーする距離は屋外で半径100m程度、1局当たり数人から10数人でシェアすることを想定しているという。

MISでは、3月末から4月にかけて福岡の団地で5局程度の基地局を設置して小規模な実証実験を行ない、基本的な技術の検証を終了した。今回は都内の渋谷、三軒茶屋、ビジネス街の3ヵ所に300局程度の基地局を設置し、モニターユーザーを募集して、総勢1万人規模、6ヵ月程度の大規模実証実験を行なうという。渋谷では、喫茶店、店舗などの人が集まってパソコンが利用できる場所にスポット的に基地局を設置、三軒茶屋では移動しながら利用できるように面的な設置を行なう。ビジネス街はまだ具体的な場所は決まっていないが、企業ビル内やオフィスが集まる場所でのテストを予定している。

モニターは公募するとしているが、具体的な条件や募集開始日時など詳細については、別途公表するとして今回は明かしてない。なお、この実証実験には(株)アイ・ピー・コーポレーション、東京めたりっく通信(株)、メトロアクセス(株)、(株)有線ブロードネットワークス、(株)ユーズコミュニケーションズ、ネットイットワークス(株)、(株)朝日ネット、(株)ビックパソコン館、森ビル(株)、コンパックコンピュータ(株)、松下電器産業(株)、サイバーバンクジャパン(株)、シスコシステムズ(株)、アイベックスコーポレーション(株)、九州電力(株)、(株)キューデンインフォコム、(株)アルファシステムズ、(株)トランス・ニュー・テクノロジー、(株)ルート、東京工業大学情報理工学研究科講師の太田昌孝氏、京都大学情報学研究科助手の藤川賢治氏、(財)九州システム情報技術研究所研究員平原正樹氏、慶応大学環境情報学部教授の村井純氏、同理工学部教授の寺岡文男氏が協力する。

モバイルでも高速・低価格・定額サービス

有線ブロードネットワークス代表取締役でMISの取締役でもある宇野康秀氏は「ブロードバンドインターネットにも、固定とモバイルが必要だ。定額、ロープライス、ハイスピードのモバイルサービスを提供する。有線ブロードネットワークスとしては、光ファイバー網、コンテンツ、有線ブロードネットワークスの顧客店舗への基地局の設置など全面的にバックアップしていく」とモバイルブロードバンドサービス参入の理由を述べた。

MIS取締役で有線ブロードネットワークス代表取締役の宇野康秀氏
MIS取締役で有線ブロードネットワークス代表取締役の宇野康秀氏

MIS代表取締役の真野浩氏は、「MISは、インターネットに接続するサービスを提供するのではなく、いつでもどこでもインターネットが使える環境を提供する。プロバイダー事業やASP事業、コンテンツ事業などはいっさい行なうつもりはなく、MIS方式の無線インターネットサービスのために必要なアクセスポイントと認証サーバーを提供する。サービスの展開はこの考えに賛同し、インフラやインターネットサービスを提供してくれるパートナーを通じて行なう」とした。

MIS代表取締役の真野浩氏
MIS代表取締役の真野浩氏

また、MISに技術顧問として参加する慶応大学の村井教授は、「デジタルコミュニケーションの基本は、すべての端末にグローバルIPがついて、どこでも利用できること。今はモバイル通信は過渡期であり、いろいろな技術があるが、最終的にはIPベースになる。MISが行なう汎用のIP技術を使ったモバイルインターネットは、ひょっとすると大化けするかもしれない。これは日本発の技術であり、世界にライバルは北欧にしかいない」と挨拶し、MISのサービスに期待を寄せた。

慶応大学教授で、MIS技術顧問の村井純氏
慶応大学教授で、MIS技術顧問の村井純氏
MIS最高技術責任者に就任予定の東京工業大学助手太田昌孝氏
MIS最高技術責任者に就任予定の東京工業大学助手太田昌孝氏

真野氏によると、MISはインフラやインターネットサービスをパートナーに任せることで、コストを抑えて「かなり低い価格で定額サービスが展開できる。基地局のコストが高いのではないかといわれることが多いが、1局当たり20万円程度であり、コストとしては高くない」としている。実証実験後の本サービスについては「まず東京からということになるが、日本全国そして世界へと考えている。サービス価格同様、時期についても具体的には言えないが、来年ではない」としており、実証実験(約6ヵ月)の終了後まもなく本サービスを開始すると見られる。

無線を利用したインターネットアクセスサービスは、スピードネット(株)やソニー(株)がすでに提供しているが、これらは基本的に無線を有線の替わりに使う固定局向けのもので、移動体向けに無線インターネットサービスを提供するのは、携帯電話を除けば初めて。携帯電話による無線インターネットサービスと比較して、速度の点でも、利用できるインターネットサービスを選ばないという点でもMISのサービスは注目される。移動体向けにはNTTドコモ(株)のFOMAが高速サービスを提供するとしているが、MISはさらに高速で、おそらく通信料金も低い。村井氏の言うように“大化け”する可能性は十分にある。

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