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Winnyの金子氏が技術顧問のP2Pソフト“SkeedCast”は次世代CDN?


2006年8月29日

Winny開発者の金子勇氏を開発顧問に迎え、「セキュアなWinny登場か」と今年3月ごろから話題になっている(株)ドリームボートのP2P技術、“SkeedCast”の詳細が明らかになった。“SkeedCast”とは、端的に言えば、CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)のインフラをP2P技術で効率化したもの。参加が許されたサーバー間はP2Pで接続されるが、ユーザーのパソコンがノードとして参加するWinnyのようなファイル交換ソフトとは、まったく異なる配信インフラだ。

29日に(株)インターネットイニシアティブ(IIJ)とドリームボートは“P2P技術の進化と次世代通信インフラの展望”と題したセミナーを開催し、P2P技術の進化とトラフィックの現状、SkeedCastの仕組みを説明した。

鈴木幸一氏
IIJ代表取締役社長 鈴木幸一(すずきこういち)氏
坂田和敏氏
ドリームボート取締役CTO 坂田和敏(さかたかずとし)氏

圧倒的なP2P関連、動画関連のトラフィック

読者は、ここのところP2Pという言葉をあまり聞かなくなったように感じていないだろうか。昨年来、Winny関連ウイルスによる情報漏洩のニュースが後を絶たないが、それも、逮捕者が出て騒ぎが沈静化した後の、一種の“残り火”といった印象で捉えている人が多いだろう。

Winnyと無縁で生活している多くのネットユーザーの主観とは裏腹に、実際には、今年7月の時点でも約176万ものWinnyユーザーがいて(ACCS調べ)、インターネットを流れるトラフィックの8割以上はWinnyを代表とするP2Pアプリケーションによるものと言われている。かつて上下非対称といわれたエンドユーザーのトラフィックの流れも、今では上下の差が小さくなったとも言われる。

トラフィック分析
赤い部分がP2P関連と推測されるトラフィック。その上の緑がHTTP

IIJネットワークサービス本部の木村和人氏が示したデータが、実に興味深い。ワールドカップサッカーの中継時間帯のネットのトラフィックを見ると、試合の中継中、HTTPトラフィックはガクンと落ちる。インターネットより、テレビを見ている人が多いからだ。ところが、インターネット全体のトラフィックは、もはやそうしたイベントでは、ほとんど影響を受けない。つまり、人間が発生させるのとは違う、マシンが発生させるトラフィックがインターネットのトラフィックの主成分になっているということだ。その犯人はP2Pではないか、というのが木村氏の見立てだ。

グラフ1
ワールドカップサッカー中継時間中のHTTPトラフィックの落ち込みを示すグラフ
グラフ2
同じくワールドカップサッカー中継時間中のネット全体のトラフィック。ほとんど落ち込みはない

いっぽう、P2P以外でトラフィック増大をもたらしているのは、もちろん動画だ。木村氏によると、IIJの日米国際回線を流れるトラフィックの6分の1は、YouTubeのものだという。また、中国では“P2PTV”と呼ばれるP2Pのストリーム配信技術をもちいたIP放送が人気を博し、ワールドカップもP2PTV経由で見た人が多いという。

こうした状況から、IIJの鈴木幸一代表取締役社長は「IPでも条件が整えば、動画のような重たい配信ができるようになってきた。新しいコンテンツ配信のアーキテクチャーを作っていきたい」とし、そのための実験を重ねていくと話す。IIJは2002年にCDN事業を開始し、現在まで事業規模は期待されたほど拡大していないが、P2P技術で、再度コンテンツ配信インフラ構築にチャレンジしたい構えだ。

ユーザーはブラウザーからSkeedCastを利用

IIJと共同で開発を進めるドリームボートは、現在すでにIIJのインフラを使って、デジタルコンテンツ販売サイトの“Network LIVE Japan”を運営している。Network LIVE Japanでは、現在約30台の“SkeedCluster”と呼ばれるサーバー群でP2Pネットワークを構成している。コンテンツ消費者である一般ユーザーは、ブラウザー経由で、これらのサーバーのいずれかにアクセスすることになる。といっても、明示的にサーバーを指定するのではなく、ローカルにインストールした専用アプリケーション、“Skeed Receiver”を経由して透過的にアクセスする。ユーザーはブラウザーでウェブページを開き、そこに埋め込まれたURLをクリックする。すると、バックエンドでSkeed Receiverが作動し、コンテンツを受信する。ユーザーの操作感としては通常の動画配信サイト同様に“ダウンロード”ボタンを押すことに変わりはない。

SkeedCastデモ
SkeedCastのデモンストレーション。右下のタスクトレイにSkeedReceiverが常駐し、コンテンツのダウンロード部分を受け持つ。ブラウザからはSkeedReceiverがローカルで動くHTTPサーバーに見える

SkeedClusterのサーバー同士は、Winny同様にキャッシュを最大限に活用した効率的なネットワークを構成している。第3世代のP2Pソフトと言われるWinnyやFreenetでは、P2Pネットワーク上に分散されたデータのキャッシュがネットワーク利用の効率化やレスポンス高速化のポイントだ。Winnyのキャッシュアルゴリズムは、“自身が高速ノードであれば、検索クエリーを中継するときに一定割合でクエリーに含まれるファイルのオリジナルのコピーをダウンロードしてキャッシュする”というもの。こうすることでP2Pネットワーク全体で、検索される回数の多いファイルのキャッシュが広がっていく。

必要に応じて自律的にデータの重みづけがされるなど、効率はいいが、こうしたP2Pネットワークには弱点もある。データの伝播に時間がかかることと、伝播したデータの消去が難しいことだ。

SkeedCastでは、SkeedClusterを監視するコントロールサーバーを設置することで、これらの問題を解決している。コントロールサーバーは、ノードの状況/コンテンツの拡散状況を把握できるだけでなく、コマンドを発行することで、明示的にコンテンツの拡散や消去ができる。たとえば、キャンペーンに合わせて公開日を指定した動画コンテンツを、前日になってから一気にネットワーク全体に拡散させてアクセスが集中する高負荷にも対応することが可能だ。むしろ「10月ごろには高い負荷がかかるコンテンツを提供したい」(鈴木社長)と、SkeedCastは、その高い実力を証明する日を待っている状況だ。

ユーザー不参加のP2Pネットワーク

SkeedClusterで共有されるコンテンツは、エントリーノードと呼ばれるサーバーから投入されたものだけに限られる。ユーザー側からSkeedCluster側にデータが流れることはないため、情報漏洩や違法ファイルの共有といったことは原理的に起こらないしくみだ。また、コンテンツにはDRMを施すことができ、課金サーバーとの連動も容易だ。

SkeedCastのネットワーク概念図
SkeedCastのネットワーク概念図。P2Pネットワークを構成するのはサーバー群だけでユーザーは受信のみを行なう

ここまでの話を総合して、SkeedCastの意味をもう1度考えてみよう。

まず、コンテンツ提供側から見た場合。コンテンツ提供者から見れば、SkeedCastは、不正流通の心配がなく、きわめて魅力的なインフラだ。これまでのP2Pのダークなイメージを一気に払拭できるコントローラビリティーを備えているばかりでなく、物理的なシステム投資を最小限に抑えられるコストメリットも大きい。SkeedCastは現在30台からなるサーバー群だが、今後は100台程度に増やすとしている。負荷予測や負荷分散の難しいコンテンツ配信で、自前でサーバーを用意せずに済むのは魅力だ。このあたりは従来のCDNでも同じだが、ノードの追加や構成の変更のさいにかかるメンテナンスコストが格段に安くなる。

いっぽう、ユーザー側から見た場合。これは、CDN同様に透過的な存在であるため、特に何か新しいメリットやサービスをもたらすというものではない。高負荷時にファイルを複数サーバーからダウンロードできるため、常に高速なダウンロードが期待できるというメリットはあるが、一般ユーザーにしてみれば、それは言われなければ分からないことだ。

SkeedCastは“ハイブリッド型サーバーサイドP2P”と呼べそうだが、末端ノードのエンド・トゥ・エンドの通信がないという意味で、真のP2Pアプリケーションではない。意地の悪い見方をすれば、これはP2P技術のきわめて限定的使い方だ。コンテンツを提供する側や、インフラを設計・改善していく技術的見地からみればメリットとなることだが、Winnyのような爆発的ポテンシャルといったものは感じられない。

SkeedReceiverが、ローカルにインストールするアプリケーションである点がユーザーには気になるだろう。ActiveXではなく、インストーラーが起動する通常のソフトウェアだ。たとえば、現在Network LIVE Japanが流しているB'zのスペシャルムービーがどうしても見たいというファンであれば、何のギモンもなく専用ソフトを入れるだろうが、そうでなければ“専用ソフトが必要”ということがもたらす心理的障壁は小さくない。Acrobat ReaderやFlashプレーヤーのように、それがなければ始まらないというぐらいデファクト・スタンダードとならない限り、これはマイナス点だろう。ブックマークやメールをはじめ、多くのアプリケーションやサービスのオンライン化(=脱ローカル依存)が進むなか、ローカルでアプリケーションを走らせなくては利用できないウェブサイトというものを、ユーザーとしては億劫に感じるのではないだろうか。

また、YouTubeやWinnyのトラフィックが伸びているのは、有象無象の何かが見つかるという、ある種のいかがわしさがあるからではないだろうか。著作権侵害を是とする気は毛頭ないが、ユーザーがグレーゾーンを楽しんでいることは明白で、そのグレーゾーンを完全に取り払い、クリーンな場を提供した場合に果たして人々は集まるのか。かつてシンガポールや台北といった東南アジア各都市が、外づらをよくするために市街地のクリーンアップ作戦を行ない、かえって露天商の活気が失われて観光客が寄りつかなくなったという話と似たようなことが起こらないだろうか。

いずれ映像系のオンラインコンテンツビジネスが本格的に立ち上がることを疑う人はいないだろうが、人が集まらなければインフラとして確立されないし、インフラとしてデファクト・スタンダードとならなければ利用が億劫となる。そうした鶏と卵のジレンマを突破するような起爆剤が、SkeedCastにはあるだろうか。それは、今年の秋冬以降にSkeedCastに、どんなコンテンツが、どれだけ載ってくるかにかかっているのだろう。

(編集部 西村賢)


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