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【INTERVIEW】ダウンロードと再販――HMV(後編)

2000年09月19日 22時00分更新

文● アスキーWeb企画室 根岸智幸/伊藤咲子

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この夏、年商10億円宣言(※1)をしたHMVジャパン(株)のEコマース事業。今回編集部では、デイビット・テリル(David Terrill)Eコマース本部長に同社のEC事業の概況を訊いた。後半は、音楽のダウンロード販売や再販制度に関する話題を中心にお伝えする。

※1 *2000年度(2000年5月~2001年4月)

デイビット・テリル氏。'96年、本社よりHMVジャパンに異動
[編集部] 音楽のダウンロード販売は伸びると思いますか
[テリル氏] 「伸びていくと思います。ダウンロードがミステリーだと言っている方もいますが、音楽は音楽に変わりありません」

「今後、パッケージ製品よりもダウンロードを好むというユーザーも出てくるでしょう。しかし、それが大半になるかといったら、私は違うと思います。著作権やフォーマットの問題がありますし、ダウンロードの市場自体が確率するまでに、まず3年は必要でしょう。ビジネスとして成功するのは、アルバム全体が瞬間にダウンロードできるようになってから、ブロードバンドが普及してからだと思います」
[編集部] ダウンロード販売の計画があると伺ったのですが、その時期はいつでしょうか
[テリル氏] 「年内スタートの可能性は、50パーセント以上です」
[編集部] レコード会社からデータを卸してもらうといったイメージでよいのでしょうか
[テリル氏] 「パッケージ製品を自社で製造しないように、ホスティングを自社でやるプランはありません。高速リンクになると思います。データの形式もレコード会社に依存することになるでしょう」
[編集部] 1曲の価格はいくらぐらいを予定していますか
[テリル氏] 「今は1曲250~350円程度が、市場の主流になっています。ただし、私個人としては、1曲ごとのダウンロード販売というモデルに疑問を感じます。最もいい販売方法だと思いませんし、ユーザーも満足していないでしょう。例えばレコード店において、一曲単位でしか曲が変えないというのは、あり得ないことです」

「先程申しましたとおり、ブロードバンドが整備されれば、アルバム単位でのダウンロード販売が始まると思います。その時の価格設定がどうなるかわかりませんが、論理的には安くなってもいいと思います。また一方で、電子的な信号と、実際に手にとって聞けるパッケージ製品が同じ値段かというと、それも難しい問題です。音楽の値段はフォーマットに依存せず、音楽自体に付けられるべきものだとは思いますが……」
[編集部] 米国のベンチャー企業が、“一定料金を支払えば好きなだけ音楽をダウンロードできる” というサービスを始めたそうですが、このビジネス手法についてどう思いますか
[テリル氏] 「私は、こういったことは、店舗販売と全く同じモデルになると思います。小売店に行って、予め10万円支払ったので--というビジネスはあり得ない話です」

「ただ、“定期購読”のような形態はあるかもしれません。会員費を支払って、雑誌のように音楽を購読するというイメージです。ジャズやクラシックの限られたレーベルに関してはうまくいくと思います。メインストリームのレーベルには通用しないでしょうが」
[編集部] アーティストの人気で価格が上下することは考えられますか
[テリル氏] 「個人的な意見としては、上下すると思います。レコード業界で一番間違いだと思うのは、商品の価格をレコード会社や小売店が決めていることです。本来は、ユーザーが価格を設定できる権利があるべきだと、私は考えます。商品の値段が高すぎたらユーザーは買わないでしょうし、逆に安すぎたら我々がビジネスチャンスを逃すことになります」
[編集部] ユーザー主導ということでは、『Napster』などのファイル交換システムについて、どのように考えますか
[テリル氏] 「コンセプト自体は素晴らしいのですが、ただ1つ重要な誤りがあります。それは、著作権で保護されている無料ではないモノを、ユーザーが無料で手に入れることができるということです」

「店舗に行ったら10ドル払う商品を、無料で手に入れることができるということは、間違っています。その差は、ボルボのショールームでディーラーから車を買うのか、パーキングに止めてある車を盗むのか、ということと同じです。音楽が無料で手に入るようになったら、結果として誰も音楽を作らなくなるでしょう」
[編集部] ファイル交換システムがパブリシティ的な役割を果たしているという議論もありますが
[テリル氏] 「それはそのとおりだと思います。しかし、原則的な問題として違法行為です」
こちらはiモード版のオンラインショップ。「iモード版の売上は、Eコマース事業全体の20パーセント程度。ある1週間は25パーセントを記録しました」(テリル氏)という

ダウンロード販売が再販を変える?

[編集部] CDは再販制度に支えられていますが、Eコマースを契機に状況が変化することはあり得ますか
[テリル氏] 「すでに米国の多くのウェブサイトが、コストと同じ値段で商品を売っています。ユーザーにとって一見朗報のようですが、利益が上がらなければビジネスを続けることはできませんので、その恩恵は長く続かないかもしれません。音楽業界は非常に複雑で、アーティスト、レコード会社、レコード製造会社、物流会社、小売店--と、ユーザーの手元に音楽が届くまで、とても多くのところを経由します。再販は、全てが利益を出せるという意味に置いて、効果的な方法ではあったと言えます」

「再販がダウンロード販売に適用されるかどうかは疑問ですし、私自身は適用されないだろうと思っています。再販制度自体、変わって行くでしょうし、どういう状況になるか興味深いところです」
[編集部] ダウンロード販売が再販を変える、とは言い切れないのでしょうか
[テリル氏] 「私は、そうなると思いません。なぜなら、ダウンロードが市場全体を優先していくとも考えられないし、第一、ダウンロード市場が確立するまで3年くらい必要です。その3年の間で、再販制度が変化する可能性もあると思います」

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