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東京大学と堀内カラー、史学研究者向け大型絵地図閲覧ソフト『iPallet/Nexus』を開発

2002年02月14日 23時50分更新

文● 編集部 佐々木千之

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東京大学大学院 情報学環 歴史情報論研究室と(株)堀内カラーは13日、東京大学で記者発表会を開催し、デジタル化した大型絵地図史料を高速表示できる研究者向け史料画像閲覧ソフト『iPallet/Nexus(イパレット・ネクサス)』(仮称)を共同で開発したと発表した。年内に無償公開の予定。

『iPallet/Nexus』の閲覧支援ツールで、南葵文庫国絵図を表示したところ。右上の画像の赤い枠で囲まれた部分を左に表示している
『iPallet/Nexus』の閲覧支援ツールで、南葵文庫国絵図を表示したところ。右上の画像の赤い枠で囲まれた部分を左に表示している

iPallet/Nexusは、閲覧支援ツール、分析研究支援ツール、展示支援ツールの3つから構成されるソフトで、プログラムはJava(『Java2 1.3 Runtime Edition』)およびJava Advanced Imaging API(『JAI API 1.1 Runtime Edition』)、『IBM XML Parser for Java』を使用して作成した。Windows NT4.0/2000/XPをサポートし、Linux、Solaris、MacOS Xに対応予定。それぞれのツールは年内に無償公開の予定で、さらに時期は未定ながら、オープンソース化するとしている。Javaを使っているものの、現在のバージョンではスタンドアローンでの利用のみに対応し、ネットワーク、インターネット経由では利用できないため、公開までにネットワーク対応を予定している。

南葵文庫国絵図の1つ。数m四方のサイズがあるため、これまで研究すること自体が難しかったという
南葵文庫国絵図の1つ。数m四方のサイズがあるため、これまで研究すること自体が難しかったという

iPallet/Nexusは“南葵文庫国絵図(なんきぶんこくにえず)”(※1)の閲覧ソフトとして開発したもの。巨大な画像を高速に表示するため、画像を独自に開発した“中分割方式”でとり扱う。中分割方式では、オリジナルの画像ファイルを元に、その4分の1の解像度の画像、さらにその4分の1の画像というように、多解像度多分割(Multi-Resolution and Multi-Tile)画像ファイルとして保持している(画像フォーマットはJPEG)。ビューアーに表示する画像サイズは512×512ピクセル固定となっており、拡大、縮小、90度単位の回転が高速に行なえるとしている。中分割方式によって、CPU負荷を抑えることができ、必要なメモリーも少なくてすむとしている。南葵文庫国絵図は150~200dpiでデジタル化されており、1枚の画像サイズは数GB(数万ピクセル四方)あるが、デモンストレーションでは、2枚の地図を連動してスクロールしたり、回転したりといったことが、ノートパソコン(CPUはPentium III-800MHz、メモリーは256MB)でもスムーズに表示できていた。

※1 江戸幕府の命令で作成され、江戸時代前期にまとめられた諸国の絵地図。全37点。同じ地域でも時代の違うものがある。大きさはさまざまで、2m四方から、最大のものでは長辺が10mにもなる巨大なもの。紀州徳川家が所蔵していたが、大正時代に東京大学図書館に寄贈された。

iPallet/Nexusのシステム構成
iPallet/Nexusのシステム構成
iPallet/Nexusがターゲットとしている分野
iPallet/Nexusがターゲットとしている分野
iPallet/Nexusの電子付箋機能。XMLを利用することで、一般的なデータベースとの連携もしやすいという
iPallet/Nexusの電子付箋機能。XMLを利用することで、一般的なデータベースとの連携もしやすいという

分析研究ツールとしては、2画面の比較連動表示、回転機能のほか、画像の任意の部分に電子付箋(メモ)を添付できる。これまでは、史料をデジタル化しても、分析のためにメモを付けてほかの研究者と共同作業を行なうといったことが難しく、プリントアウトに付箋紙を貼りながら作業し、作業終了後にそれをまたデータベース化するといった手間がかかっていたという。iPallet/Nexusがネットワーク対応すれば、インターネットを通じて遠隔地の研究者との共同作業も行なえることになる。

分析研究支援ツールで、2枚の異なる地図を比較しているところ。絵地図では文字がさまざまな方向に書かれているため、回転も重要な機能の1つとしている
分析研究支援ツールで、2枚の異なる地図を比較しているところ。絵地図では文字がさまざまな方向に書かれているため、回転も重要な機能の1つとしている
東京大学大学院 情報学環 歴史情報論研究室の馬場章助教
東京大学大学院 情報学環 歴史情報論研究室の馬場章助教

発表会でiPallet/Nexusの開発経緯について説明した、東京大学大学院 情報学環 歴史情報論研究室の馬場章助教授によると、史学研究者が絵地図などの史料を研究する際、デジタル化してコンピューターに取り込み、既存の画像閲覧ソフトを利用してきたが、高価なイメージファイルサーバーが必要であったり、閲覧機能に制限があったり、メモを付けるような機能がなかったりするなど、使い勝手に難があった。また、一部の研究者が作成したソフトもあったが、研究者個人やごく限られた分野でしか利用できないものだったという。

展示支援ツールの画面。ユーザーインターフェースをカスタマイズできる
展示支援ツールの画面。ユーザーインターフェースをカスタマイズできる

iPallet/Nexusにおいては、採集した史料を分析・研究し、さらにそれを公開するという史学研究の過程をふまえ、史学研究に必要な機能を備えながら、画像閲覧・展示ソフトとしての汎用性も持たせることを目標に開発したという。実際の開発にあたっては、東京大学内部の史料編纂所、情報学環、文学部などが連携した上、堀内カラーとの産学協同研究という形を取ったが、こうした産学共同作業も人文系学部では珍しいこととしている。

堀内カラー取締役兼アーカイブサポートセンター所長の西野清氏
堀内カラー取締役兼アーカイブサポートセンター所長の西野清氏

発表会で挨拶した堀内カラー取締役兼アーカイブサポートセンター所長の西野清氏によれば、2年前から共同開発してきたもので、史料研究にとどまらず、情報化した高精細画像を必要とする、教育、環境、医療などの分野でも有効に活用できると考えているという。堀内カラーの本業はプロラボ(※2)であるが、iPallet/Nexusを手がける以前から、本社(大阪市)のある関西方面の大学や研究機関と協力して史料を複写記録したりデジタル化する作業を行なってきた実績があるという。西野氏は「こうした取り組みを行なっている企業は、少なくともプロラボではほかにない。今回のような共同研究を通じてデジタル化のノウハウを得て、デジタルアーカイブ事業に生かしたい」としている。

※2 写真スタジオ、出版社、デザイン会社などに向けて、写真フィルムの現像や焼き付け、デジタル化などのサービスを行なう。

なお、iPallet/Nexusの展示ツールを使った南葵文庫国絵図ビューアーは、東京大学総合研究博物館で開催中(2月24日まで)の“デジタルミュージアムIII”に出品中。

iPallet/Nexusの展示支援ツールを使った展示スタンド。中身は普通のパソコンが入っている
iPallet/Nexusの展示支援ツールを使った展示スタンド。中身は普通のパソコンが入っている

大学と一般企業が共同で開発したソフトウェアが、オープンソース化を前提として無償公開されることはあまり例がない。iPallet/Nexusのネットワーク対応後は、南葵文庫国絵図も含めてインターネットで公開するとしており、大学研究機関の新しい試みとして注目される。

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