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日本HP、オープンソースの仮想化エンジン“Xen”の技術説明会を開催――会場は鎌倉の“禅”寺院!

2005年10月29日 14時56分更新

文● 編集部 内田泰仁

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HP研究所 Internet Server&Storage Lab 仮想化プラットフォーム担当主席研究員のトム・クリスティン氏

日本ヒューレット・パッカード(株)は28日、同社の研究機関“HP研究所(HP Labs)”などが参加して進められているオープンソースの仮想化エンジン“Xen(ゼン)”の研究成果やHP研究所の取り組みに関するプレス向けの説明会を、神奈川県鎌倉市の巨福山建長興国禅寺(建長寺)で開催した。日本HPによる“Xen”に関する日本でのプレス向け発表会やセミナーは今回が初めてで、来日したHP研究所 Internet Server&Storage Lab 仮想化プラットフォーム担当主席研究員のトム・クリスティン(Tom Christian)氏が説明を行なった。



会場の巨福山建長興国禅寺。“鎌倉五山”の第1位に位置する、鎌倉時代から続く禅宗寺院説明会場は建長寺の方丈。建物前には同社のItaniumサーバー“Superdome”が設置された日本HP マーケティング統括本部 インフラストラクチュアマーケティング本部 本部長の清水博氏
今回の説明会は、同社の発表会としては異例(IT業界全体を見渡しても異例だが)の“禅寺”での開催となったが、冒頭に登壇した日本HPの清水氏によると、“Xen”の名称の由来は、日本語の“禅”ではなく、ギリシャ語の“Xenon”(異邦人/外の、といった意味)だという

“Xen”は、仮想化プラットフォーム技術のうち“仮想マシンモニター”(Virtual Machine Monitor、VMM)と呼ばれる、“仮想マシン”(Virtual Machine、VM。OSやアプリケーションはこの上で動かす)の“基盤”となるソフトウェア・レイヤー。オープンソースのVMMとして、英ケンブリッジ大学などが開発を進めており、現在のところ、x84プラットフォーム向けのLinux上で動作する。同社は、ソースコードのIA-64化を実施したほか、同社がソースを公開している仮想ネットワーキング、仮想サーバー管理/制御、パフォーマンス測定/監視などの技術が“Xen”に用いられているという。

“Xen”の開発タイムライン。当初次期バージョンの“3.0”“3.1”の登場は2005年半ばを予定していたが、現在のところは早くても年内、場合によっては2006年半ばまでずれ込むとされているという。その分、機能や完成度の面では高いものが登場するだろうとしている

現在の“Xen”は、バージョン“2.0”がリリース(2004年8月発表)されており、2005年末から2006年半ばをめどに次期バージョンの“3.0”および“3.1”をリリースしていくという。現行バージョンでは、物理マシン環境に近いパフォーマンス、リアルタイムでのVMの移行、VM側での物理デバイスドライバー保有、などを実現しているが、次期バージョンでは、64bit CPUのサポート(EM64TおよびAMD64対応CPU、IA-64、PowerPC)、インテルやAMDが進めるハードウェア(CPU)側の仮想化技術への対応、制御/管理ソフトウェア環境の強化、VM間ネットワーキング機能の強化などが図られていくという。

“Xen 1.0”でのドライバーの構造。VMM自身が物理デバイスのドライバーを持ち、VMM上で動くVMでは、“Xen”対応の仮想デバイス用ドライバーにより、VMMのドライバーにアクセスしていた。構造が単純でパフォーマンス面ではボトルネックはないが、ドライバーの修正はVMMレベルからの総入れ替えが必要になってしまう“Xen 2.0”以降のドライバー構造。VMM上でのドライバー動作は不要となり、特権ドメインの仮想サーバー上で物理デバイス用ドライバーを動かす構造になった。ドライバーの修正は以前よりも容易になったが、ゲストドメイン側からのドライバーアクセスが多段階になったため、ボトルネックになる可能性も。ただし、VMマイグレーション時にもドライバーへの接続性が確保可能など、メリットは多いという
“Xen”の進化の歴史の一例、ドライバーの構造
今後の仮想化プラットフォームの基本構造。OS(場合によってはアプリケーションも)からVMMに直接アクセスするための“パラ・バーチャライゼーション”APIの標準化が必要だとしている

クリスティン氏によると、仮想化技術は、“容易なコスト管理”と“容易なリスク管理”の2点を実現可能である点が顧客にとっての大きなメリットになるといい、今後のユーティリティー・コンピューティング(非常に大規模な統合されたリソースの中から、必要に応じて必要な分だけリソースを割り当てて利用する手法)の実現に向けて不可欠な技術だという。そのためには、基盤となるVMMは、機能やサポートするプラットフォーム(プロセッサーやOSなど)の違いによる、ビジネス的な“競合”によって機能や性能などに制限を受けるべきではなく、“ビジネスをコントロールするポイント”ではなく、“アーキテクチャーを制御するポイント”になる必要があるとしている。そのため同社は、VMMは、標準化技術として開発される必要があり、広範なサポートを得られるように、オープンソースあるいは第三者機関により管理されるべきだと考えているといい、“Xen”の開発への参加と協力を行なっているのだという。

VMMとしては“Xen”のほかにも、マイクロソフトやヴイエムウェア(VMware)からも有力なものが登場しているが、それぞれの技術/ソリューションは、基本的には似通ってはいるものの相違点もあり、現在のところは相互運用性(技術/ソリューションを越えたVMのマイグレーション)はなく、クリスティン氏は「完成は間近ではない」と指摘している。また、今後エンタープライズユーザーの信頼を得ていくために、適切な管理が行なわれている物理サーバーと同等の信頼性、セキュリティー、VM上でのソフトウェア動作の堅牢性をより高めていく必要があるとしている。

また、マイクロソフトとはVMMとしては競合関係にあるものの、Windowsが一般的なOSとして確固たる地位を築いている以上、「Windowsの役に立たないのであれば標準にはならない」と述べ、“Xen”上でのWindowsの完璧な動作は必要不可欠な要素であるとしている。



ユーティリティー・コンピューティングのビジネス事例、“ユーティリティ・レンダリング・サービス”。HP研究所は、日本でも話題となった長編CG映画『シュレック2』のレンダリングにリソースを提供したという

クリスティン氏は講演の中で、“Xen”を活用したビジネスとしてユーティリティー・コンピューティングを挙げているが、同社では、ユーティリティー・コンピューティングの事例として、3Dアニメーション作成におけるレンダリング作業をユーティリティー・コンピューティングを利用して行なう“ユーティリティ・レンダリング・サービス”が紹介された。同社では、米DreamWorks社の長編3D CG映画『シュレック2』のレンダリングにリソースを提供しているが、このケースでは、HP研究所とDreamWorks間を専用回線(光ファイバー)で接続し、物理サーバーベースで他のサービス/コンテンツと完全に分離してサービスが提供されたという。

同社では今後、

  • n:1/1:1/1:nの仮想サーバー:物理サーバーのマッピング
  • 動的なリソース割り当てとリソース管理
  • ネットワークの仮想化
  • ストレージの仮想化
  • リソース管理の自動化
  • リアルタイムなリソース監視と制御
  • リアルタイムでのQoS監視と制御

といった機能を備えた“Xen”を用いたユーティリティー・コンピューティング環境を構築し、仮想サーバーやユーティリティー・コンピューティング・サービスといったビジネスを提供していくとしている。

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