アドビ システムズ(株)は14日、東京・大崎のゲートシティ大崎内同社オフィスにプレス関係者を集め、今夏発売予定のRIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)開発環境『Adobe Flex 2.0』の概要と特徴的な機能を紹介する記者説明会を開催した。今日の時点では発売日などの詳細は明らかにされておらず、Flex 2.0の新機能など、基本的な内容のおさらいにとどまった。
マーケティング本部 本部長の伊藤かつら氏 |
説明会には、マーケティング本部 本部長の伊藤かつら氏、プロダクト&セールスエンジニアリング部プロダクトスペシャリストの太田禎一氏、カスタマーケア部プロフェッショナルサービスコンサルタントの上条晃宏氏らが出席し、RIAの必要性やFlex 2.0を構成する開発ツール群の説明などを行なった。
最初に伊藤氏が、RIAについてのおさらいとして、ジョセフ・パイン&ジェームス・ギルモア氏の著書『The Experience Economy:Work Is Theater&Every Business a Stage』の一説「企業は記憶に残るような参加性を実現してはじめて、カスタマーに“経験”を提供したといえるでしょう」を引用し、継続してユーザーに“経験”(リッチなユーザー体験)を与えられる企業こそが生き残っていける、と説明。1990年代後半のインターネットブームでおこった“ネットワークセントリック(ネットワーク経由で配信することを重視)”から“ピープルセントリック(ユーザーの望みをかなえることを重視)”な技術が肝要になるとして、RIAがピープルセントリックなサービス提供に大きな役割を果たすとまとめた。
プロダクト&セールスエンジニアリング部プロダクトスペシャリストの太田禎一氏 | カスタマーケア部プロフェッショナルサービスコンサルタントの上条晃宏氏 |
続いて太田氏と上条氏が、デモンストレーションを交えながら、Flex 2.0の概要や機能紹介などを行なった。Flex 2.0はひとつのパッケージ製品を指すのではなく、
- Eclipse(エクリプス)ベースの開発環境(Flex Builder、および開発用クラスライブラリーなど)
- 既存のデータベースシステムに連携する(Flex Data Service 2.0、およびメッセージング/データマネジメントサービスなど)
の総称のこと。これらの開発ツールで生成したFlashファイルを、ユーザー(クライアント)環境のFlashPlayer(バーチャルマシン)上で実行・表示するため、ユーザーのOSやウェブブラウザー、CPUなどのマシン環境に依存せずにRIAを提供できるというもの。
Adobe Flexの概要 | Adobe Flex 2.0を構成する製品群。このうち青い文字のFlex 2.0 SDKは無償配布される |
Flex 2.0の特徴は、
- 表現力の向上
- 性能の強化
- 開発生産性の向上
- オープンなライセンスモデルの導入
などが挙げられる。表現力の向上については、FlexBuilderの改良によって、Flashベースの各種エフェクト(ベクターアニメーション)を容易に利用できるというもの。性能向上は、実行環境であるFlashPlayer 8.5(Flex 2.0と同時にリリース予定)の改良によって、最高10倍の高速化を実現したという。一方、開発側の性能強化としてメッセージング/データマネジメントサービスを使ったプッシュ型データ配信やコラボレーションが容易に実装できるようになった。
これは、Flex 2.0がJMS(Java Messaging Server)に接続する“アダプター(API)”を標準搭載しており、Flex 2.0で開発したクライアントに接続しているあるユーザーが“パブリッシャー”としてコメントを書き込むと、“サブスクライバー(購読者)”の元に自動的にメッセージとして配信されるというシステムを、通信などの予備知識なしに実装できるという。同様に、ほかのメッセージングサービスを利用している場合も、そこに接続するためのアダプターを開発するだけで利用可能となる。
メッセージングサービスの構成図。データマネージメントサービスも基本的な構造は同様で、Flexにアダプターを追加・開発することで、バックエンドのシステムを制御できる |
データマネジメントサービスでは、バックエンドのデータベースを更新し、その内容を即座にほかの接続中のユーザーにも反映するというもの。同期システムを開発する手間を省いて、その分ユーザー体験(具体的にはデータが更新されたことをグラフィカルに分かりやすく見せる)をリッチにする工夫に時間をかけられる、としている。
開発生産性の向上としては、開発ツール(FlexBuilder)が従来のDreamweaverベースからEclipseベースに全面的に変更され、Javaやほかの開発ツールを使っていたユーザーが容易に開発を始められるようになったことが大きい。これはEclipseと必要なプラグイン、クラスライブラリーなどを含む“スタンドアロン版”と、すでに運用しているEclipse 3.1に追加する“プラグイン版”の2種類で提供される。これら、ベースとなる開発環境(Flex 2.0 SDK)は無償ダウンロード可能で、ユーザーインターフェースのレイアウトやスキン/インタラクションデザイン(ユーザーの反応に応じて変化する仕組み)、およびコーディング/デバッグ支援、プロジェクト管理、コンパイル環境などをまとめた開発ツール『Flex Builder 2.0』は有償提供(販売)される。これ以外にも、数値データの視覚化(グラフ表示)を支援する『Flex Charting Components 2.0』、データ連係ツール『Flex Data Service 2.0』などが販売予定となっている。
Ajaxと対決ではなく、互いのメリットを生かした共存へ
AjaxとFlexの位置づけ |
なお、RIAを提供する仕組みとして現在注目を集めている“Ajax”(エイジャックス、XML+JavaScriptで開発したウェブページで、画面遷移のないユーザーインターフェースの実装などに使われる)についても言及し、「Ajaxの強みはHTMLとJavaScript技術を使って、高機能に拡張したこと」「Flex 2.0は、Flashならではの、処理スピードの早さ、音声・ビデオの統合、プッシュを含むデータ接続サービスなどが挙げられる」と述べ、1000件のデータベースを参照するテストではFlex 2.0ベースで構築したシステムのほうがAjaxより速いことをデモしてみせた。その上で、「すべてをFlexで作ればいい、と言いたいわけじゃありません」と述べて、Ajaxで(簡単に開発)できること、Flexが必要なことと、アプリケーションによってさまざまなので両者のいいところや開発済みの資産を有効活用して開発してほしいと語り、最後にFlexとAjaxを組み合わせたページも紹介した。
AjaxとFlexの得意とする分野、および補完関係。3月にはアドビ システムズから、FlexでAjaxの機能を活用するためのプラグイン“Flex-Ajax Bridge”のサンプルコードが提供されている | AjaxとFlexを組み合わせたRIAのデモ。Flexだけで構築した先ほどのRIAとは異なり、左サイドのメニューをAjaxで、右の製品一覧をFlex(Flash)で構成している |