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三洋電機とイーストマン・コダック、世界初のアクティブマトリクス有機ELフルカラーディスプレイを開発

1999年09月30日 00時00分更新

文● ケイズプロダクション 岡田靖

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契約締結から約半年、異例の開発スピード

三洋電機(株)と米イーストマン・コダック社は、9月30日、アクティブマトリクス(AM)方式の有機EL(o-EL:Organic ElectroLuminessence)フルカラーディスプレイを開発したと発表した。今回初めてo-ELにAM駆動を採用し、LCDに迫る画質を実現している。同時にパッシブマトリクス(PM)方式のエリアカラーo-ELも発表された。なお、今回発表されたディスプレイのサンプルは、エレクトロニクスショーにも展示されるという。

三洋電機取締役・セミコンダクターカンパニー社長 桑野幸徳氏
三洋電機取締役・セミコンダクターカンパニー社長 桑野幸徳氏



イーストマン・コダック副社長・コダック代表取締役社長 掘義和氏
イーストマン・コダック副社長・コダック代表取締役社長 掘義和氏



両社は'99年2月に共同開発・生産・販売の業務提携を発表しているが、実質6ヵ月という異例の早さで、製品に近いレベルまで開発を進めた。関係者でも、「もっと長くかかると思っていた」(コダック・掘義和氏)と驚くほどで、三洋電機の桑野幸徳氏も、「日米合同の開発チームが、休日返上で開発に当たった成果だ」と誇らしげだ。三洋電機は低温Poly-Si TFT LCD(Low Temperture Poly-Si:LTPS)を世界に先駆けて製品化しており、デジカメやビデオカメラなどに広く採用されている。コダックはo-EL用の素材開発を進めていたが、ディスプレイとして製品化するには駆動回路や周辺回路までの技術を持つ日本のLCDメーカーと協力したいところだったろう。両社の共同開発は、非常にうまく進んだものと思われる。ただし、o-ELディスプレイは、中~小型の次世代ディスプレイとしてパイオニアやNEC、出光興産など各社が開発にしのぎを削っており、製品化を急いでいた部分もあるようだ。

o-ELの構造と、LTPSを採用した理由

o-ELは、大きく5層の構造になっている。カソード電極、電子輸送層、発光層、ホール輸送層、そしてアノード電極だ。電子注入層から電子を供給し、ホール輸送層からホール(電子の抜けた状態、正孔ともいう)を供給し、それらが発光層で接触することによって蛍光を発生する。蛍光の色は、発光層に注入されたドーパントで制御される。今回は、ドーパントの組成については明かされなかったが、有機化合物レーザー用のものに近いという。なお、カソード電極には金属膜、アノード電極にはLCDと同じくITO(Indium Tin Oxide)という透明電極を用いている。

AMタイプディスプレイの拡大図。LCDと異なり、かなり画素間が空いている。
AMタイプディスプレイの拡大図。LCDと異なり、かなり画素間が空いている。



AMタイプのサンプル。ビデオカメラのディスプレイを想定した作り。実際にDVからのビデオ画像を流していたが、なかなかの表示能力だ。
AMタイプのサンプル。ビデオカメラのディスプレイを想定した作り。実際にDVからのビデオ画像を流していたが、なかなかの表示能力だ。



PMタイプのサンプル。こちらは携帯電話のディスプレイを想定して作ってある。画面内を部分的に色づけしているので、エリアカラー表示という。
PMタイプのサンプル。こちらは携帯電話のディスプレイを想定して作ってある。画面内を部分的に色づけしているので、エリアカラー表示という。



アクティブ駆動するには、画素ごとにトランジスタを用意し、そのスイッチング機能を使わなくてはならない。LCDでも同じだが、今回のELディスプレイでもTFT(Thin Film Transistor)をガラス基板上に構成したものとなっている。ただし、電子回路として表すならLCDはキャパシタだが、EL素子はダイオードになる。このため、画素トランジスタも電圧駆動型でなく電流駆動型が必要になった。しかし、アモルファスSi(a-Si) TFTでは電流駆動ができない。Poly-Si TFTなら電子移動度が高く、電流が流れやすい。特に、低コストのガラス基板を使えるLTPSは大画面化も可能で、ELディスプレイ用としても最適だということだ。

AMタイプを上から覗き込んだところ。ガラス1枚+αの薄さがよくわかる。表示されている内容がガラスの内部を反射し、側面からも光が漏れている。自発光タイプならではの見え方だ
AMタイプを上から覗き込んだところ。ガラス1枚+αの薄さがよくわかる。表示されている内容がガラスの内部を反射し、側面からも光が漏れている。自発光タイプならではの見え方だ



AMタイプと、三洋電機のLTPSを側面からみる。厚さはこれだけ違う。
AMタイプと、三洋電機のLTPSを側面からみる。厚さはこれだけ違う。



製造は、まずLCDと同じくガラス基板上にTFT(およびキャパシタ)を構成し、ITO電極を設ける。あとはホール輸送層から順に成膜していくのだが、発光層には画素の形のマスクをかけ、その穴を通してドーパントを注入して、各色の画素を作っていく。基本構造ができたら、外部回路を接続するフレキシブルケーブルを取り付けて、電極保護用のメタルカバーで封止し、画面に反射防止加工を施して完成する。材料コストはそれほど高くなく、「バックライトなどを含んだトータルのコストでは、LCDに十分対抗できる」(イーストマン・コダック、David Williams氏)程度という。

イーストマン・コダックOELディスプレイアプライアンス担当ゼネラルマネージャー David Williams氏
イーストマン・コダックOELディスプレイアプライアンス担当ゼネラルマネージャー David Williams氏



製品は2001年に

o-ELディスプレイは、AMタイプで2001年の、PMタイプなら「2000年度内」(桑野氏)の製品化を目指しているという。デジカメやビデオカメラ、携帯電話やPDAなど、比較的小型のディスプレイから採用されると予想されるが、「今までのディスプレイを置き換えるのに、なんの障害もない」(桑野氏)ほどの完成度で、もしかしたらもっと早まるかもしれない。消費電力も、「反射型カラーLCDと同等か、それを下回る」(三洋電機の技術者)ほどで、自発光式というメリットを活かした応用が考えられるだろう。むしろ、反射型カラーLCDでは、開口率(≒反射率)は高まっているが、画質の点ではかなり劣る。

・筆者の下手な写真だけではわかりにくいので、用意された写真を取り込んでおいた。

画面はハメ込み合成だと思われるが、薄さがわかる。 駆動回路をガラス基板上に設けているので、端子は少ない。
画面はハメ込み合成だと思われるが、薄さがわかる。 駆動回路をガラス基板上に設けているので、端子は少ない。



同じくPMタイプ。こちらは駆動回路が外付けなので、XYそれぞれの方向に画素数だけ端子が出ている。
同じくPMタイプ。こちらは駆動回路が外付けなので、XYそれぞれの方向に画素数だけ端子が出ている。



また、駆動回路さえ作れればガラスでなくプラスチック基板でも作れるなど、将来的にもまだまだ発展していく余地がある。今後、LCDとの競争も予感されるといえよう。

サンプル品の仕様

フルカラー表示(無段階階調、RGBデルタ配列)AMタイプ

画面サイズ 対角6.1cm(2.4インチ)
ドット数 852×222
ドットピッチ 0.057×0.165mm
有効表示寸法 48.6×36.6mm

スキャン周波数 15.73kHz
フィールド周波数 60Hz
電源電圧 12V

エリアカラー表示PMタイプ

画面サイズ 対角3.4cm(1.3インチ)
ドット数 120×60ドット
ドットピッチ 0.192×0.416mm
有効表示寸法 23×25mm
駆動方式 連続ラインスキャン方式
デューティサイクル 1/60
色の種類 赤、緑、青、黄、白

・以下、発表資料より

AMタイプの模式図。ELは電子回路ではダイオードに置き換えることができる。AMタイプは、画素1つ1つにあるTFTがXYそれぞれで選択され、発光素子に電流を流す仕組みだ。回路図では省かれているが、実際はこれにキャパシタが加わり、次に選択されるまで発光素子に電流を流し続けるようになっている。光は、ガラス基板や電極を透過して出てくる。TFTやキャパシタの部分は光を通さないので、明るさを向上させるためにこれらの部分を小さくする工夫が必要になるかもしれない。
AMタイプの模式図。ELは電子回路ではダイオードに置き換えることができる。AMタイプは、画素1つ1つにあるTFTがXYそれぞれで選択され、発光素子に電流を流す仕組みだ。回路図では省かれているが、実際はこれにキャパシタが加わり、次に選択されるまで発光素子に電流を流し続けるようになっている。光は、ガラス基板や電極を透過して出てくる。TFTやキャパシタの部分は光を通さないので、明るさを向上させるためにこれらの部分を小さくする工夫が必要になるかもしれない。



PMタイプの模式図。直交したアノード、カソード電極から1つだけ選択して電圧をかけると、交わった部分だけに電流が流れる構造だ。
PMタイプの模式図。直交したアノード、カソード電極から1つだけ選択して電圧をかけると、交わった部分だけに電流が流れる構造だ。



現行のLTPSと、今回開発されたo-ELディスプレイの構造を比較している。ガラス2枚+バックライトが必要なLTPSと比べると、ガラス1枚だけで、カバーがつくだけのo-ELは非常に薄い。なお、o-ELにも本来必要のない偏光板がついているが、これは反射防止用とのこと。
現行のLTPSと、今回開発されたo-ELディスプレイの構造を比較している。ガラス2枚+バックライトが必要なLTPSと比べると、ガラス1枚だけで、カバーがつくだけのo-ELは非常に薄い。なお、o-ELにも本来必要のない偏光板がついているが、これは反射防止用とのこと。

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