このページの本文へ

【IDF Fall 2001 Vol.3】モバイルPentium 4登場近い、その先には“Banias”

2001年08月31日 00時29分更新

文● 塩田紳二

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

すでにノート用の『Pentium III』は1GHzに到達している。また、そのコアも、0.13μmプロセスルールで作られる“Tualatin(テュアラティン)”に移行しつつある。これで多少の余裕はでるものの、そろそろ、Pentium IIIはクロックの上限である。これを突破するためには、もはやPentium 4アーキテクチャーの採用しかない。

Pentium 4にEnchanced SpeedStepやDeep Sleepが加わりモバイルPentium 4となる
Pentium 4にEnchanced SpeedStepやDeep Sleepが加わりモバイルPentium 4となる

今回のデモでは、『モバイルPentium 4』を2GHzで動作させた。その登場は、来年2002年の上半期である。当初はデスクトップ版Pentium 4と同じ1.5GHzで登場し、年末までには2GHzに到達するという。だいたいデスクトップの1年半遅れぐらいのペースである。なお、チップセットはIntel 845MPが用意される。

来年前半には、0.13μmプロセスが本格的に立ち上がり、大量供給が可能になる。このため、モバイル領域でもPentium 4を大きく展開できるようだ
来年前半には、0.13μmプロセスが本格的に立ち上がり、大量供給が可能になる。このため、モバイル領域でもPentium 4を大きく展開できるようだ
モバイルPentium 4を使ったプロトタイプ基板
モバイルPentium 4を使ったプロトタイプ基板

(日本でいう)サブノート以下の領域に対しては、低電圧版および超低電圧版のPentium III(Tualatin)が残るが、フルサイズノートとその下の軽量ノート分野は、すべてモバイルPentium 4となる。

生粋のノート向けCPU“Banias”登場

今回のIDFでは、モバイル専用プロセッサーである“Banias(バニアス)”をインテルが初めて正式に公開した。とはいっても、このCPUは2003年に登場予定で、まだ実物はない。ちなみにBaniasとは、イスラエルにある川の名前。設計チームは、ロードマップから消えた統合型CPU“Timna(ティムナ)”を設計していたチームだ。

2002年のモバイルCPUとチップセットのロードマップ。来年はモバイルもPentium 4が中心になる
2002年のモバイルCPUとチップセットのロードマップ。来年はモバイルもPentium 4が中心になる

現在、ノートブック用には、モバイルPentium III、モバイルCeleronといったCPUが使われている。これらは、あくまでもデスクトップ用のプロセッサーを、低電圧で動作させるなどしてモバイル用にしているもの。基本的な設計はデスクトップ用のものである。過去にも『Intel386SL』といったノート用プロセッサーはあったが、こちらもデスクトップ向けの『Intel386SX』をベースにしたものであった。

しかし、Baniasは、最初からモバイル用として設計される、初めてのIA-32プロセッサーとなる。Pentium 4が、高クロックを実現すべく設計されたように、Baniasは、低消費電力を目的として設計されるプロセッサーなのである。このBaniasには、3つの技術が使われ、これにより低消費電力を実現する。その3つとは、

  • Aggressive Clock Gating
  • Special Sizing Techniques
  • Micro Ops Fusion

である。

“Aggressive Clock Gating”とは、CPUを機能ごとにブロックに分割。ある時点で使っていないブロックへのクロック供給を止めて動作を停止させ、消費電力を抑える手法だ。簡単にいえば、家の中で人のいないところの明かりを切って電気料金を抑えるのと似ている。いままでもこうした手法はあったのだが、Baniasでは、これをより積極的(Aggressive)に行なっているためにこの名称がある。

“Aggressive Clock Gating”動作しているブロックにのみクロックを供給することで、全体の消費電力や待機時の消費電力を抑えることができる
“Aggressive Clock Gating”動作しているブロックにのみクロックを供給することで、全体の消費電力や待機時の消費電力を抑えることができる

“Special Sizing Techniques”は、設計段階で、すべての回路の最適化を行なうものだ。従来のCPUでは、高クロック化が至上命令であったため、回路の一部は、実際のCPUクロックにくらべて高機能になっていた部分がある。これを必要な性能を実現できる程度に最適化し、サイズを小さくする。詳細は不明だが、どうもそういう最適化を行なうソフトウェアを使って、デザインを自動的にチェックしているらしい。

“Special Sizing Techniques”回路設計をブロックごとに最適化する設計を用いることで、リーク電流の低減や動作時電流を減らすことができる
“Special Sizing Techniques”回路設計をブロックごとに最適化する設計を用いることで、リーク電流の低減や動作時電流を減らすことができる

インテルの資料では、これを「ポルシェでもマツダでも、高速道路の上限速度は同じで、どちらも目的地に着く時間は同じ。ならば、マツダにしたほうが燃費がいい」というような表現をしている。

“Micro Ops Fusion”2つのマイクロ命令をつなげて実行することで実行効率を向上させる
“Micro Ops Fusion”2つのマイクロ命令をつなげて実行することで実行効率を向上させる

“Micro Ops Fusion”は、命令実行の効率化を、x86命令をデコードしたあとのマイクロ命令レベルで行なうもの。従来のアーキテクチャーでは、x86命令レベルでの効率化(たとえば命令の並列実行とか)をしていたが、Baniasでは、実際に実行するマイクロ命令2つをつなげて1つにしてしまう。これを実行ユニットで実行すると、実行するマイクロ命令の数を減らすことができるため、実行効率が上がるのである。Pentiumでは、2つの命令を同時に実行することができたが、命令の組み合わせによっては単独で実行しなければならないこともあった。というのは、論理上同時実行が不可能な命令の組み合わせがあったことと、片方の実行ユニットの機能が一部省略されていたからである。

このような命令セットレベルでの並列実行は、組み合わせ問題が発生しやすい。命令の機能が大きいからである。これをより小さな機能に分解されたマイクロ命令レベルで並列実行させることで、より効率が上がるわけである。この技術も詳細はまだ、不明。インテルの資料では「サンタクララ(インテルの本社があるところ)からサンフランシスコに行くとき、速度を上げるか、短い道を選ぶ方法のどちらかで到着時間を短くできる。前者はクロックを上げることに相当し、Micro Ops Fusionは後者にあたる」としているが、これから推測するに命令の実行パスを短くするという手法と思われる。

AMDは考え中?

Vol.1の記事に書いた、IDF期間中にAMDからブリーフィングを受ける件だが、インテルの人もしっかりとASCII24を見ていたようで「塩田さんAMDどうでした?」と言われる始末。だが、Pentium 4-2GHzの登場した今、AMDは実際の対策に頭を痛めているというところのようだ。

現時点でのAMDからのメッセージは「Athlonのほうがクロックあたりの命令実行数が大きい、だから、クロックが低くても速度が遅いわけではない」ということなのだが、昨年AMD自身が「ユーザーは、結局クロック周波数でCPUを選択するのでスペックとして周波数が低いのはダメ」と主張していた。また、かつて行なっていた“P-Rating”というベンチマークを使った、インテルとの比較も今後は行なわないとしていた。

しかし、上記のようなAMDの主張は、説明文書を読めば納得もするが、例えば、店頭で2つのパソコンを比較するときなどには簡単に理解できるような内容ではない。また、クロック周波数が速度の指標と思っているユーザーの考えを簡単に変えることも難しい。それで実際に対策として何をするのかという点については、はっきりした回答を聞くことはできなかった。

だが、まったく収穫がなかったわけではない。“Hyper Transport”について、いろいろ話を聞いた感じでは、昨日書いたように、“3GIO”との平和な共存を望んでいるという印象を受けた。AMDとしては種類の違うもので、さまざまな応用は歓迎する(関連デバイスのコストダウンにつながる)が、3GIOと真っ向から勝負する気はないという感じなのである。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン