技術研究組合 新情報処理開発機構(RWCP)は3日、東京・有明の東京ファッションタウンで、10年間にわたる次世代情報処理技術開発研究“RWCプロジェクト”の展示発表会を開催した。独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研、AIST)が共催し、5日まで、討論会や講演、技術展示が行なわれる。
記念講演を行なった、東京大学大学院情報理工学系研究科教授で経済産業省次世代情報処理基盤技術開発推進委員会委員長の田中英彦氏 |
RWC(Real World Computing)プロジェクトは、21世紀初頭に必要とされる新しい情報処理技術を開発するために、通産省(当時:現経済産業省)によって'92年から10ヵ年計画で実施された研究開発プロジェクト。このプロジェクトは国内企業と海外4ヵ国の研究機関(※1)が組合員として参加するRWCPと、電子技術総合研究所(電総研)(当時:現AIST)、および国内外の大学による、国際的な産学官の共同研究体制で進められた。予算総額は500億円で、のべ450名の研究者が携わったという。
※1 (株)フジクラ、富士通(株)、古川電気工業(株)、(株)日立製作所、松下電器産業(株)、三菱電機(株)、(株)三菱総合研究所、日本電気(株)、日本板硝子(株)、日本電信電話(株)、沖電気工業(株)、三洋電機(株)、シャープ(株)、住友電気工業(株)、住友金属工業(株)、(株)東芝、シンガポールのKent Ridge Digital Laboratories社、ドイツのFraunhofer社、オランダのStiching Neurale Netwerken社、スウェーデンのSwedish Institune of Computer Science。RWCプロジェクトで研究が進められたのは以下の2つの分野。
- 実世界知能(Real World Intelligence)技術分野
- 現実世界の多様で曖昧な大量の情報を、そのままの形で受け取り、環境や状況を認識/推測して自立的に応答できるような、情報統合・学習型情報処理能力(実世界知能)を、従来の情報処理技術に付加するための基盤技術開発
- 並列分散コンピューティング(Parallel and Distributed Computing)技術分野
- 多様で大量な計算処理需要に応えるため、分散システム上に存在する異機種の計算資源を動的に構成し、最適な並列処理能力を提供する次世代並列分散処理環境(シームレス並列分散コンピューティング環境)に必要な基盤技術開発
さらにこれらの研究分野の下、目的ごとに細分化された開発分野を設定している。
実世界知能技術
- マルチモーダル機能
- ジェスチャーや表情、音声などを統合したヒューマンインターフェースなどの開発
- 自立学習機能
- 自立的に移動し、情報を集めて学習するロボットなどの開発
- 自己組織化情報ベース機能
- 動画、静止画、音声、テキストなどマルチモーダル情報の統合検索ソフトウェアなどの開発
- 理論・アルゴリズム基盤
- 曖昧、不完全な情報を適切に処理する理論・アルゴリズムの開発
- 実世界適応デバイス
- 問題に応じて適切な機能に再構成/進化をしていくハードウェアの開発
並列分散コンピューティング技術
- シームレス分散コンピューティング
- 複数のパソコンをネットワーク接続したクラスターシステムで超高速計算を行なうための開発
- 光インターコネクション
- 大容量情報を高速に転送するための光デバイス、相互接続技術の開発
- 並列アプリケーション
- ナノテク分野のシミュレーションや大規模データ解析を効率的に行なう並列分散処理ソフトウェアの開発
今後のITの発展に貢献できる技術を多数開発
経済産業省商務情報政策局長の太田信一郎氏 |
展示発表会で挨拶した、経済産業省商務情報政策局長の太田信一郎氏は「RWCは、10年前に21世紀初頭にどのような技術が必要になるのか、それに準備しておこうと始めたが、まさに現在のITの発展を予期したかのような、どんぴしゃりのプロジェクトとなった」と、同省の10年前の決断が正しかったとアピールした。そして日本が今後も技術立国として発展を目指す上で、「単に技術を開発するだけでなく、それを製品に活用され、世界のITのスタンダードとなるよう、“技術開発の構造改革”も必要だ」と述べ、国としても政策面などでサポートしていく考えを示した。
続いて、RWCプロジェクトの成果概要についてRWCP常務理事 研究所長の島田潤一氏と、AISTフェローでRWI 研究班長の大津展之氏が紹介した。
RWCP常務理事 研究所長の島田潤一氏 |
島田氏が示したRWCプロジェクト成果の実用化予測グラフ。5年後には9割が実用化されると見込んでいる(濃い茶色が実用化された技術を示す) |
島田氏は「プロジェクトの運営に当たっては、世界にトレンドを先取りして発信することを目指して“情報統合(Information Integration)”や“シームレスシステム(Seamless Systems)”を選んだが、今日これらの言葉は世界の研究者にも受け入れられ各種の論文などにも使われるようになった。またもう1つの方針として、“技術にはユーザーを付ける”ことを徹底した。技術は生ものであり使ってこそ価値が生じるもの。そういう意味で研究成果が外からよくわかるよう、必ず成果に名前を付けてもらうようにした。現在50の技術開発テーマのうち、およそ20テーマが実用化されている。こうした国家レベルのプロジェクトが、終了する前に実用化されていることは非常に誇るべき成果だ」と述べ、成果の応用が進んでいることを強調した。
AISTフェローでRWI 研究班長の大津展之氏 |
最後に東京大学大学院情報理工学系研究科教授で経済産業省次世代情報処理基盤技術開発推進委員会委員長の田中英彦氏が“「世界に先駆けたRWCプロジェクト」─今後明らかになるその先進性─”と題した記念講演を行なった。
田中教授が講演で示した、今後の情報化社会で求められる基礎技術 |
田中氏はRWCプロジェクトの10年間の流れを追いながら、研究成果のうちパソコンによるクラスターシステム“SCore Cluster System(エスコア クラスター システム)”や光インターコネクションシステム、マルチメディア情報の索引なし検索システム“CrossMediator(クロスメディエーター)”などの成果を紹介した。また、米欧アジア各国の情報化政策を示して、それらと比較してRWCプロジェクトの先進性は誇るべきものだと述べた。そして、プロジェクトは多くの着実な成果を生んだが、「これを今後の世界共通の基盤技術として大切に育てていくことが必要」という。そのうえで「日本が、頼り切って使える情報基盤を世界に提供し、あらゆる人に使いやすいシステムを開発して来るべき情報世界に邁進するための先駆けとなった」と評価した。