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凸版印刷、電子ペーパーの主要部材量産ラインを年内に立ち上げ――米イー・インクに追加出資も


2002年2月4日

凸版印刷(株)と米イー・インク社は4日、都内で記者発表会を開催し、凸版印刷が米イー・インクに2500万ドル(約33億3000万円)を追加出資するとともに提携を強化し、同社が“E Ink(イーインク)”ディスプレーの主要構成部材である前面板の量産ラインを2002年後半に立ち上げると発表した。前面板の商用出荷は2003年春の予定で、2005年には8インチパネル換算で月産150万枚まで生産能力を強化するとしている。

『E Inkディスプレー』(モノクロ)
E Inkディスプレーを持つモノクロ電子書籍リーダーを想定したモックアップだが、表示部分は実際にE Inkディスプレーが表示している

凸版印刷は2001年5月に米イー・インクに対して500万ドル(約6億7000万ドル)を出資し、E Inkのカラー化の共同開発に関して提携を発表しており、今回でが2回目の出資となる。今回の提携では、凸版印刷がE Inkディスプレーの前面板を独占的に生産するほか、世界シェアの60%を持つ液晶ディスプレー用カラーフィルターの販路を生かして、日本企業/日系企業に販売するとしている。次世代製品の共同開発も引き続いて行なう。

(左から)米イー・インク社長兼CEOのイウリアーノ氏、米イー・インク/MITのジェイコブソン氏、凸版印刷専務取締役の島袋徹氏、凸版印刷取締役の河合英明氏
(左から)米イー・インク社長兼CEOのイウリアーノ氏、米イー・インク/MITのジェイコブスン氏、凸版印刷専務取締役の島袋徹氏、凸版印刷取締役の河合英明氏

E Inkディスプレーは、米イー・インクが開発した電子ペーパー(※1)技術。直径が50〜70μmのマイクロカプセルに、帯電させた白と黒の粒子を封じ込んだ電子インクである“E Ink”と、厚さが10分の1mmのオーダーの柔軟なトランジスターパネルを組み合わせている。マイクロカプセル内の白黒の粒子は、前面板にある透明電極と、背面基板にある電極間に電圧をかけることで、カプセルの一方に凝集する。電圧の向きを制御することにより、任意の表示が可能となる。凸版印刷が量産する前面板とは、透明な電極を持つ薄いプラスチックフィルムの片面にE Inkを塗布したもので、E Inkディスプレーの前半分になる部材。前面板の後ろ(E Ink塗布側)に電圧を加えるためのスイッチ(TFT回路)を貼り合わせるとE Inkディスプレーとなる。

※1 電子ペーパーは現在の印刷された紙に替わる、薄く、軽く、視認しやすいといった特徴を持ち、その表示内容を電気的に変化させることができるディスプレーという概念を指す言葉。電子ペーパーでの表示に使われるインクを電子インクと呼ぶ。

E Inkディスプレーの表示原理。マイクロカプセルの中に黒白の粒子と透明の液体を封入してある。黒粒子はマイナス、白粒子はプラスに帯電させてあり、電圧をかけるとそれぞれ逆方向に移動する
E Inkディスプレーの表示原理。マイクロカプセルの中に黒白の粒子と透明の液体を封入してある。黒粒子はマイナス、白粒子はプラスに帯電させてあり、電圧をかけるとそれぞれ逆方向に移動する仕組み。マイクロカプセルに入れたことで“印刷”が可能になった
E Inkディスプレーの構造と前面板の位置
E Inkディスプレーの構造と前面板の位置
ジェイコブソン氏が示した、未来の電子新聞コンセプト“RadioPaper”。無線で外部と通信し、常に最新の情報が取り出せるといったイメージ
ジェイコブソン氏が示した、未来の電子新聞コンセプト“RadioPaper”。無線で外部と通信し、常に最新の情報が取り出せるといったイメージ

発表会に出席した米イー・インクの創設者の1人で、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教授のジョセフ・ジェイコブソン(Joseph Jacobson)氏は「5年前にMITで、紙のようなディスプレーを持つ本を作ってみたいというコンセプトのもとで電子ペーパーに関するプロジェクトが始まった」と E Ink開発の背景を紹介した。またジェイコブソン氏は、通常の紙の上にE Inkを印刷(塗布)して文字を表示させているビデオを世界で初めて公開し、順調に開発が進んでいるとした。

E Inkを(実際の)紙に印刷し、ディスプレーとしてロゴを表示したところ。ジェイコブソン氏が披露したビデオの映像だが、一般に公開するのは初めてだという
E Inkを(実際の)紙に印刷し、ディスプレーとしてロゴを表示したところ。ジェイコブソン氏が披露したビデオの映像だが、一般に公開するのは初めてだという
米イー・インクが製造した“柔軟な”トランジスター電極。前面パネルと組み合わせると柔らかなE Inkディスプレーとなる
米イー・インクが製造した“柔軟な”トランジスター電極。前面パネルと組み合わせると柔らかなE Inkディスプレーとなる
E Inkディスプレーのプロトタイプ。このスライドでは厚みが0.48mmとなっているが、これは2001年7月のもので、現在は0.3mmまで薄くなっているという
E Inkディスプレーのプロトタイプ。このスライドでは厚みが0.48mmとなっているが、これは2001年7月のもので、現在は0.3mmまで薄くなっているという

続いて米イー・インク社長兼CEOのジェイムズ・イウリアーノ(James Iuliano)氏が挨拶した。イウリアーノ氏は「世界の(印刷された)紙の市場は4000億ドル(約53兆円)、電子ディスプレー市場は500億ドル(約6兆7000億円)ある。イー・インクはこれら2つの市場を組み合わせた新しい市場を創造することを目指している。まず2月15日には店頭POP広告用モノクロE Inkディスプレー『Ink-in-motion』を発売、2003年にはモノクロE Inkディスプレー、2004年初めには凸版印刷と共同開発したカラーE Inkディスプレーを搭載した携帯情報端末が登場予定だ」と述べた。

凸版印刷のカラーフィルターを使って試作した、カラーE Inkディスプレーのプロトタイプ。カラー化の原理は液晶ディスプレーパネルと同じ
凸版印刷のカラーフィルターを使って試作した、カラーE Inkディスプレーのプロトタイプ。カラー化の原理は液晶ディスプレーパネルと同じ

さらに、「ワイヤレス通信環境が広まり、CPUの処理能力が高まってさまざまな携帯端末が登場しているが、ディスプレーが弱点となっている。当社はE Inkディスプレーの、非常に低消費電力で視認性が高いという特長を生かした、読むためのアプリケーションを提供できる。多数のディスプレーメーカーと、初期段階から協力して開発を進めている」と述べ、E Inkがさまざまな携帯端末のディスプレーとして採用されることをにおわせた。

イウリアーノ氏が挙げたE Inkディスプレーのメリット
イウリアーノ氏が挙げたE Inkディスプレーのメリット

凸版印刷との関係については「さまざまな企業からこれまで130億円の資金を調達してきたが、これまでのどの関係よりも今日の凸版印刷との提携は重要で広範囲に渡っている。両社は互いに補完しあう理想的な関係にある」と述べた。凸版印刷が独占的に前面板を生産できる期間は“ある期間”として明かさなかったが、「契約の延長もあり得る」(イウリアーノ氏)としている。

E Inkディスプレーの製品化ロードマップ
E Inkディスプレーの製品化ロードマップ

凸版印刷取締役の河合英明氏は、前面板の生産設備について「初期投資として数十億円を考えているが、どこに工場を建設するかは未定。3〜5年は年間数十億円の投資を続ける」という。前面板の年間の売り上げ額については「市場の状況にも左右されるが、年間数百億円程度」とした。

凸版印刷が示した、E Inkディスプレービジネスにおける凸版印刷の狙いと役割
凸版印刷が示した、E Inkディスプレービジネスにおける凸版印刷の狙いと役割

記者会見で明らかになったE Inkディスプレーの特徴を以下に示す。

  • E Inkのマイクロカプセルの直径は50〜70μm
  • マイクロカプセル内の黒粒子はカーボンブラック、白粒子は酸化チタン
  • いったん表示させると、その状態は電源を切っても保持する。保持する期間は、マイクロカプセルの設計によるが、長期型では数ヵ月以上
  • 書き換えるためには1平方インチあたりμA(マイクロアンペア)レベルの電流が必要。これは電源を切ってもその状態を保持する層安定型ディスプレーとしては最も低い値。液晶ディスプレーの100分の1以下の消費電力。MITの実験室レベルではさらに10分の1程度の電流ですむものもできている
  • 現時点でのフレキシブルなE Inkディスプレーの厚みは0.3mm程度
  • コントラスト比は10:1以上(新聞紙面よりも高いコントラスト)。可読範囲(視野角)はほぼ180度
  • E Inkディスプレーの解像度は、マイクロカプセルのサイズではなく、電圧をかける電極のサイズに依存する。基本的にはTFT液晶ディスプレーと同じ回路を用いているので、解像度もTFT液晶ディスプレーと同程度
  • 表示書き換え速度は150m秒(電圧15Vの場合)
  • プラスチックシート状なので、落としても割れない、表面を押しても液晶のように色が変わらない、平面でないディスプレーにも加工できる
  • E InkディスプレーのコストはSTN液晶ディスプレーとTFT液晶ディスプレーの中間程度のコスト

E Inkディスプレーを拡大したところ。1つのマイクロカプセルの中でも、白黒の表示が混在する場合もあることが分かる
E Inkディスプレーを拡大したところ。1つのマイクロカプセルの中でも、白黒の表示が混在する場合もあることが分かる
E Inkディスプレーのカラー化の仕組み
E Inkディスプレーのカラー化の仕組み

紙のように薄くて軽く、印刷された活字のように読みやすく、しかも内容を書き換えることができるという電子ペーパーは、将来の電子新聞や電子雑誌のための“夢のディスプレー技術”として、米イー・インクのほかにも、米IBM社、米ゼロックス社、キヤノン(株)など各社が研究している。しかし、これまではまだ電子ペーパーの商用製品の生産や販売といった話はなかった。そういった意味で、今回の米イー・インクと凸版印刷の発表は、ついに電子ペーパーが実用化レベルに達し、大量生産のレベルに入ったことを示すものだ。

会場で展示していた、携帯電話に接続して使用する外部ディスプレー(表示は実際にE Inkディスプレーによるもの)
会場で展示していた、携帯電話に接続して使用する外部ディスプレー(表示は実際にE Inkディスプレーによるもの)
クレジットカードサイズのカードに搭載するE Inkディスプレーのプロトタイプ
クレジットカードサイズのカードに搭載するE Inkディスプレーのプロトタイプ。厚みもクレジットカード程度しかない

当初はモノクロディスプレーから生産するということだが、発表会で披露されたサンプルディスプレーはコントラストも高く、かなり読みやすいもので、電子書籍や携帯情報端末向けディスプレーとして十分に引合いがあると思わせるものになっていた。今日はモノクロディスプレーのみの展示だったが、昨年、ディスプレー関連のイベントなどで展示したカラーディスプレーは、すでに反射型カラー液晶ディスプレーを上回る視認性を持っており、これについても凸版印刷が継続して開発協力をしていくことで、早期の実用化が期待できる。書き換え速度が遅い(現時点では150ms)ため動画表示などには向かないが、“読む”ための製品にはぴったりだ。今回の発表によって、電子ペーパー搭載製品が市場に出てくるまでは秒読み段階になったと言える。

単3電池2本で動作していた、表示が変化するネームプレートを横から見たところ。ディスプレー部分が非常に薄いことが分かる
単3電池2本で動作していた、表示が変化するネームプレートを横から見たところ。ディスプレー部分が非常に薄いことが分かる
このE Inkディスプレーは2001年7月に表示させたあとは通電していないという。コントラストは徐々に落ちるとのことで、白い部分が少し灰色になってきているが、6ヵ月放置しても、まだ十分な表示を保っている
このE Inkディスプレーは2001年7月に表示させたあとは通電していないという。コントラストは徐々に落ちるとのことで、白い部分が少し灰色になってきているが、6ヵ月放置しても、まだ十分な表示を保っている

(編集部 佐々木千之)


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