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日立、自動車のドアハンドルに内蔵できる指静脈認証技術を発表――東京モーターショーにて出展

2005年10月17日 15時53分更新

文● 編集部 小西利明

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日立が開発した、“グリップ型指静脈認証技術”のデモ機。右が自動車ドアハンドルを模した装置で、左のWindowsパソコンで認証処理を行なう ドアを開ける時のようにグリップを握ると、ドア側に内蔵されたカメラで指の甲側の静脈を見て判別する
日立が開発した、“グリップ型指静脈認証技術”のデモ機。右が自動車ドアハンドルを模した装置で、左のWindowsパソコンで認証処理を行なうドアを開ける時のようにグリップを握ると、ドア側に内蔵されたカメラで指の甲側の静脈を見て判別する

(株)日立製作所は17日、自動車のドアハンドルに内蔵可能な生体認証技術、“グリップ型の指静脈認証技術”の開発に成功したと発表した。自動車の鍵をドアハンドル内の指静脈認証装置で代用することで、高いセキュリティーレベルと使いやすさを両立するとしている。この技術は、幕張メッセにて19日から開催される“第39回 東京モーターショー”(一般公開は22日から)の、同社展示ブースにて公開される予定。

同社では指の静脈パターンを利用した生体認証技術の開発・実用化に積極的に取り組んでおり、入退出管理用の指静脈認証装置やパソコン用の指静脈認証装置については、2004年に国内トップシェアを達成しているという。

“グリップ型の指静脈認証技術”について説明する日立製作所 中央研究所 知能システム研究部 主任研究員の長坂晃郎氏
“グリップ型の指静脈認証技術”について説明する日立製作所 中央研究所 知能システム研究部 主任研究員の長坂晃郎氏

今回発表されたグリップ型の指静脈認証技術では、自動車のドアハンドルに静脈撮像装置をいかにして組み込むかがポイントとなっている。グリップを握るという自然な動作の中に静脈撮像・認識の操作を組み込むには、グリップを握った状態の指の静脈を鮮明に撮影する必要がある。しかし既存の静脈認証装置のように、指の腹部分の静脈を利用しようとすると、グリップを握ぎるために指を曲げた状態では、静脈パターンが潰れて不鮮明になり、十分な精度が実現できないという。また指の腹を撮影するには、さして大きくもないグリップ側に撮影用のカメラを組み込む必要があり、グリップの大型化や機構の複雑化、それにともなうコストの増大が避けられない。そこで同社の知能システム研究部では、指の腹ではなく指の甲側の静脈を利用することで解決を目指した。



指の腹を見る方式では、グリップを握った状態では静脈パターンがつぶれて、認証に適さない。グリップにカメラを組み込む必要もあり、コスト増につながる そこで日立では、指の甲側の静脈パターンを利用する方法に着目。指を曲げるとパターンが鮮明になる特徴を利用した
指の腹を見る方式では、グリップを握った状態では静脈パターンがつぶれて、認証に適さない。グリップにカメラを組み込む必要もあり、コスト増につながるそこで日立では、指の甲側の静脈パターンを利用する方法に着目。指を曲げるとパターンが鮮明になる特徴を利用した

指の甲の静脈パターンも、指の腹のそれと同様に個人個人で異なり、認証に適用することは可能だという。さらに指の甲の静脈は、指が伸びているときには皮膚のたるみで不鮮明になるが、指を曲げたとき(つまりグリップを握ったとき)に鮮明になるという。そこでグリップ側に光源を内蔵し、パターンを撮影するカメラはドア側に内蔵することで、甲側の静脈パターンを撮影する方式を開発した。さらにこの方式では、グリップ内の光源と指が密着するため、光源から出る光を高効率で利用可能になり、鮮明な画質による安定した認証が可能になるという。グリップ側には光源を仕込んでいるだけなので、カメラを内蔵するのに比べればコストも安くすむ。またグリップ側に指を自然に置きやすくするためのくぼんだ形状を持たせ、さらに画像処理による正規化補正技術も組み合わせて、安定した認証を可能にしているという。認識率についてはデータ不足の点もあり公表されていないが、同社内での実験では、指紋認証よりも高い認識率を実現しているという。

開発されたグリップ型の指静脈認証装置の構造図 試作装置のドアハンドル周辺の仕組み
開発されたグリップ型の指静脈認証装置の構造図試作装置のドアハンドル周辺の仕組み
試作装置のハンドルまわり。ドア側の黒く四角い部分がカメラ。認証に成功すると、ハンドル右下の鍵穴状の部品が点灯する
試作装置のハンドルまわり。ドア側の黒く四角い部分がカメラ。認証に成功すると、ハンドル右下の鍵穴状の部品が点灯する

認識にかかる時間も非常に短く、実演ではグリップを握るとすぐに認証の可否が判明していた。認証に要する時間は0.2秒程度とのことで、ドアを開ける自然な動作の中に組み込んでも、違和感なく使えそうに思えた。指の静脈を光学的に観測する以上、当然だが手袋などで静脈パターンが見えない状態では使用できない。また指に怪我などをしていてパターンが不鮮明になった場合も、認識はできない可能性がある。その場合は複数の指(たとえば右手と左手)を登録しておくことで、正常に読みとれる方の指を使うといった運用上の工夫でカバーできるとしている。

試作装置では認識処理をWindowsパソコンで行なっていた。登録された指でグリップを握ると、このようになる 同じ人物でも登録されていない指で開けようとすると、このように認証は通らない
試作装置では認識処理をWindowsパソコンで行なっていた。登録された指でグリップを握ると、このようになる同じ人物でも登録されていない指で開けようとすると、このように認証は通らない

今回発表された技術は自動車のドアハンドルだけでなく、住宅の玄関ドアにも応用できるとしている。また自動車に応用した場合でも単なるキーレスのドアロックだけでなく、個人認証と組み合わせてシートを個人に合わせた位置に設定したり、好みの音楽や空調をかけるといったパーソナライズにも応用可能としている。具体的な製品化の目処はこれからということだが、高級乗用車のドアへの採用などに期待が持てそうだ。前述のように、東京モーターショーの同社ブースでは、自動車のドアに組み込んだシステムを展示するとのこと。興味のある方は、モーターショー会場で試してみてはいかがだろうか。

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