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ブラザー工業など、次世代のコンテンツ配信技術を発表──グリッドシステムを利用して大規模になるほど低コストなシステムを

2005年12月12日 19時10分更新

文● 編集部 小林久

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ブラザー工業(株)は12日、グリッド技術を応用することで、低コストでスケーラビリティーの高いコンテンツ配信システム“CDG(Contents Delivery by Grid)システム”の技術発表を行なった。

石川茂樹氏
ブラザー工業取締役 常務執行役員の石川茂樹(いしかわしげき)氏。CDGシステムの開発は「独自の技術開発に注力し、傑出した固有技術によって立つモノ創り企業を実現する」という理念のもと、同社のNID開発部が担当したという

早稲田大学の村岡洋一(むらおか よういち)研究室、独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)、ブラザー子会社の(株)エクシングとともに開発した。早稲田大学の学生の働きかけのもと、研究者が集い、産総研で実験を重ねたものだという。

複数のコンピューターをネットワークで結び、仮想的に高性能なシステムを実現する“グリッド”技術は、学術研究からスタートし、現在では企業システムでも導入が進んでいる。今回ブラザーが開発したCDGシステムは、このグリッドをオンデマンドのコンテンツ配信システムに応用するもの。

映像や音楽の配信システムには、クライアント/サーバーシステムを利用するのが一般的だ。しかし、複数のユーザーから一度に、サーバーの処理能力を上回る大容量のコンテンツがリクエストされる場合には、処理の遅延が起こったり、最悪の場合にはシステムがダウンすることも多い。その対策としてはより処理能力の高いサーバーを導入し、回線も増強する必要がある。しかし、これには莫大な運営コストが必要なほか、現在の技術水準では数万人からのリクエストを一度に処理できるような、大規模な動画配信サーバーを作ることは事実上不可能であるという。ブラザー工業は、CDGシステムはこういったクライアント/サーバーシステムの限界を根本的に乗り越えられる新しいシステムになると説明する。

CDGシステムでは、配信されるコンテンツをデータセンター内に置かれたサーバーではなく、ネットワークに接続したノード(パソコンなど)のキャッシュから相互に融通し合う仕組みを採用した。コンテンツの視聴時に、データの一部をHDDにキャッシュしておき、ネットワーク内にある別のノードが同じコンテンツを再生する際には、近くにあるマシン(パケットが通過するホストの数、転送速度、応答速度などから判断)のキャッシュを利用するようにすることで、データセンターに置かれたサーバーにアクセスする頻度を大幅に減らすことができ、回線やサーバーのコストを低減できるというふれこみだ。

どのノードがどのコンテンツをキャッシュしているかの情報は、照会サーバーなどで一元管理するのではなく、TCP/IPのルーティングのように道筋の一部だけを知ったノードをたどりながら、自律的に見つけられる仕組みになっている。CDGの特徴は、分散ハッシュテーブル(DHT)を利用して、ネットワーク的に一番近い端末を選択し、そのコンテンツを自律的に取り出せる点だ。

コンテンツのキャッシュは基本的に、そのコンテンツを再生したノード(と途中で経由したノード)で行なわれる。つまり、リクエストの多いコンテンツほど、キャッシュされている確率が増えることになり、配信数が増えれば増えるほど、負荷が効率よく分散していく。そのため、動画配信の参加ノードが数千、音楽配信の場合は数万を超えるような場合では、クライアント/サーバーシステムを下回るコストで運用できるようになるという。

また、コンテンツをキャッシュしたノードがネットワークから消えたり、途中の回線に障害が起こった際に別のノードや経路を自律的に選択する仕組みも持つ。また、キャッシュしたデータは暗号化され、かつ分割された不完全な状態で保存されているため、その内容を解析することはできない。既存の著作権保護技術と組み合わせることもできる。

ブラザー工業では、今後アライアンス先を見つけながら、CDGシステムの商業利用を目指していくという。インターネットを利用したオンデマンド放送やネットワークゲームのほか、企業のeラーニングや、チェーン店などに設置されたキオスク端末への動画配信、カラオケボックスなどへの配信なども視野に入れている。



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