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アセロスコミュニケーションズ、IEEE 802.11n規格対応の無線LANチップセット――最大300Mbpsの転送速度に対応

2006年02月16日 14時53分更新

文● 編集部 小林久

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アセロス・コミュニケーションズ(株)は16日、都内で記者会見を開き、1月にドラフト仕様が承認された無線LAN規格“IEEE 802.11n”に準拠した無線LANチップセット『AR5008』を発表した。米国では1月24日に発表されており、すでに国内でのサンプル出荷を開始している。サンプル価格などは未公開。

Mr.Barrat
アクセスポイントやルーター向けのリファレンスデザインを手にする、米アセロスCEOのクレイグ・バラット氏

アセロスでは、IEEE 802.11n向けの製品群を“XSPAN”(エックススパン)と総称している。AR5008は、同社が従来から販売しているIEEE 802.11a/b/g対応製品との相互接続性を確保しており、最大300Mbpsの転送速度を実現できる。これは物理レイヤーにおけるリンク速度の理論値で、実際の通信にはTCPヘッダーなどが加わるため、実効速度(TCPスループット)はこれよりも60%程度の数字になる。ただし、11nでは「既存の11g規格(40%程度)に加えて、より効率よくTCP関連の処理が行なえるため、11gと比べて8~9倍のスループットが実現できる可能性が高い」という。

XSPANのロゴ
XSPANのロゴ

IEEE 802.11nには、2本以上のアンテナを用いて転送速度を向上させる“MIMO”(Multiple Input Multiple Output)の技術が盛り込まれている。2.4GHzと5GHzのデュアルバンドに対応し、周波数帯域もIEEE 802.11aの2倍となる40MHzをサポート。いくつかのMACフレームをまとめて送信する“フレームアグリゲーション”の技術なども用いられている。転送速度は、40MHzの帯域を利用して4つのデータストリームを流した場合、最大600Mbpsとなるが、AR5008では、3本のアンテナを用いて2つのデータストリームを流すため、最大300Mbpsとなる。なお、国内では40MHzの帯域の認可が下りていないため、20MHzの帯域を利用することになり、転送速度も半分程度(最大150Mbps)となる。

AR5008は、RF部分(AR5133またはAR2133)とMAC/ベースバンド部分(AR5416またはAR5418)の2つのチップによって構成されている。AR5133とAR2133の違いは対応する周波数帯で、AR5133は2.4GHzと5GHzのデュアルバンド対応、AR2133は2.4GHzのみの対応となる。AR5416はPCI接続、AR5418はPCI Express接続をそれぞれサポートする。

転送速度 コスト
2×2システムに比べて、離れた位置での転送速度が高速(左)なほか、4×4システムに比べてコスト性能が高い(右)

RF部分のAR5133とAR2133は、3本のアンテナで3つの電波を同時に送受信する“3×3”(スリー・バイ・スリー)の通信が可能。複数のアンテナをスイッチで切り替えて利用する他社の既存製品に比べて高速化できるほか、データを2重に送信することで、通信の安定性を高める“Signal-Sustain Technology”(SST)にも対応し、マルチパスの処理や合成ダイバーシティー(MRC)に利用している。これらの技術を組み合わせることで、特にアクセスポイントから離れた際の通信速度が向上しており、2×2の方式を用いたシステムとの比較で、15m離れた状態で44%以上(266Mbps)、30m離れた状態では51%(136Mbps)、45m離れた状態で62%(89Mbps)の物理速度が得られるという。

一方、コスト面では2×2のシステムとほぼ横並びであり、現状の実装技術では倍のコストが必要なうえに、パフォーマンスの伸びはそれほど期待できない4×4のシステムに比べてコスト性能の面で有利となる。

チップ拡大
チップの拡大図。2つあるチップのうち小さい方(左上)がRF、大きい方(右下)がベースバンド/MAC

会見には米国本社から社長兼代表経営責任者のクレイグ・バラット(Dr. Craig H. Barratt)氏が出席。1月に米国で開催された2006 International CESで行なわれた3つのHDTVストリームを同時に送受信するデモなどに触れながら、データのほかに、ビデオ/音楽、VoIPなどをやりとりするトリプルプレイが家庭でも簡単に実現できるようになると説明した。

また、「3つのアンテナを利用することで消費電力は高まるが、データレートが高まることで、スリープ時間を長く確保することが可能となり、結果的に搭載機器のバッテリー寿命は長くなる」とコメント。2007年7月に批准される見込みのIEEE 802.11nとの互換性に関しては、IEEE 802.11gの先例を引き合いに出しながら、「ドラフトから正式版に大きな変更はないはず」「11nのドラフト仕様が正式仕様になる際にも互換性を確保できる」という観測を示した。同氏の説明では、仮に正式版に修正が加わったとしても、開発には柔軟性を持たせており、ドライバーソフトやファームウェアなどの変更で対応可能であるという。

なお、国内では法制上、40MHz帯域の利用ができないため、IEEE 802.11n接続時のパフォーマンスに制限があるが、これに関して日本法人代表取締役の大澤智喜(おおさわ ともき)氏は「5GHz帯よりはポジティブな印象があるが、これまでの動きを見てみると、11nの方向性がハッキリと決まってから1年ぐらいの猶予は必要。しかしながら、楽観的な印象を持っており、5GHz帯のときよりも迅速な対応が期待できるのではないか」と説明した。

リファレンスデザイン
PCカード用のリファレンスデザイン(左)とExpressCard用のリファレンスデザイン(右)

AR5008のサンプルは、アクセスポイントやルーター向けの『AP72』、CardBus対応のPCカード向けの『CB72』、ExpressCard向けの『XB72』などのリファレンスデザインとともに提供中。具体的な製品は、今年の第2四半期までに登場する予定で、2006年中にはIEEE 802.11n対応のノートパソコンや企業向け製品も登場する。価格面では、当初は既存製品に対して若干割高となるが、製造コスト面での差は少ないため、量産化が行なわれれば現状と同水準の価格を実現できる見込みだという。

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