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夏休み特別企画:セガDreamcast特集 Vol.1―「プレステのほうがいいよな」なんて言っていいのか? 「いいのだ!」―

1998年08月12日 00時00分更新

文● 報道局 桑本美鈴、西川ゆずこ:取材、報道局 河村康文:企画・構成

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illustration:Kaori Akiya

 今日から3日間連続で「夏休み特別企画:セガDreamcast特集」をお届けする。第1回の今日は、そのいささか衝撃的というか開き直りともとれる新聞・TVコマーシャルに見られるユニークなプロモーション戦略に焦点を当ててみた。

あの「湯川専務」インタビュー
―ぶっちゃけた話、今はプレステに負けてますわ―


 深夜にオンエアされている(株)セガ・エンタープライゼスの企業広告“湯川専務シリーズ”を見て仰天したという人は少なくないと思う。見てない人のために紹介すると、こんな感じだ。

TVコマーシャルダイジェスト
第1作「とある街の声編」


車に乗り込もうとする湯川専務 。
ナレーション「その日セガ・エンタープライゼス専務湯川英一は驚くべき街の声を耳にした」



小学生A「セガなんてだっせえよな!」
小学生B「プレステの方がおもしろいよな!」
呆然となる湯川専務。



ヤケを起こしてバッティングセンターでバットを大振り。
「ウォ~」



ヤケ酒飲んで酔っぱらって歩いてたらチンピラに殴られた。
ナレーション「立つんだ湯川専務!」


 これに出演しているのは実在の同社渉外・流通担当専務取締役である湯川英一氏だ。「セガはいったい何考えてんだ?」というのでASCII24は湯川専務に会うためにセガ本社へ飛んだ。湯川専務はわれわれ取材陣の顔を見るなり「セガも大変だけど、アスキーさんも大変ですな」。ドキッ。このところ、いろいろお世話になっております。これからも仲良くまぜてくださいね。

 さっそくインタビューへ…行く前に、最近のセガの広告の暴走ぶりをおさらいしておこう。まず5月21日の新聞に“セガは倒れたままなのか?”という戦国武将の討ち死場面のようなショッキングな全面広告を掲載され、当日午後、「Dreamcast」(http://www.sega.co.jp/dreamcast/)が発表(発売は11月20日)。そして翌5月22日の新聞には、“11月X日 逆襲へ、Dreamcast”というコピーとともに、討ち死にしたと思われた武士たちが一斉に立ち上がるという全面広告が続けて掲載された。

 そして今回のコマーシャルである。6月19日に、シリーズ第1作“とある街の声”編を放映開始。現在は第2作“夢編”が放映中。続けて第3作が予定されていて8月下旬に放映予定だ。では、「湯川さん、何考えてんですか?」(以下は湯川専務との一問一答)

●衝撃コマーシャル、実現までの経緯

セガ・エンタープライゼスの湯川英一専務。手にしているのはDreamcastのモックアップモデル。
セガ・エンタープライゼスの湯川英一専務。手にしているのはDreamcastのモックアップモデル。



――新聞の全面広告もそうでしたが、今回のTVコマーシャルも衝撃的ですね。具体的に企画されたのは広告代理店等だと思いますが、セガ社内では、この企画はすんなり通ったのですか。

 そうですね。企業広告のやり方はいろいろあるわけですが、プレイステーションとサターンというのはこれだけシェアが開いたわけですから、それを有りのままの姿で、誠意をもってコマーシャルなどで公表していくということが、企業広告のあり方のひとつではないかと思いましてね。もちろん社内では賛否両論いろいろありましたが。

――競合他社製品の商品名がはっきり出て、そっちのほうがいいとまで言ってしまうCMというのはちょっと従来なかったのではないですか。

 ちょっとやりすぎかもしれませんが、まあ面白いじゃないかという話になったのです。そもそもセガというのは、今までプロモーションは場当たり的に一貫性を持たないでやってきたのですね。それが今回、Dreamcastという商品を掲げて、最後の挑戦をしていくことになり、それに対してプロモーションも、今までのやり方ではなく一貫性を持って行なった方がいいだろうということで、昨年の秋ぐらいから、秋元康さんといろいろお話をしてきたのです。

――秋元康さんは、いまセガの社外役員ですね。

 はい。そういう関係もありまして、今回正式に社外取締役に就任していただいたわけです。新聞広告やテレビコマーシャルなども関連させて、総合的な形で出して行こうという戦略のもとに、全面的に秋元さんにプロデュースをお願いしたのです。秋元さんから見たら、ありきたりのコマーシャルでは、(プレステとサターンのシェアが)ここまで差がついたものをこちらに目を向けさせることは難しい。よほどインパクトのあるコマーシャルでないと、なかなかプロモーション効果が狙えないだろうということでした。賛否両論ありましたが、やはりそれだけ話題になったということですからね。ああして自社の商品を、いってみたらけなしてるわけですが、逆にそれが、今度のこのDreamcastに確実に自信を持っているというひとつの現れでもあるわけです。

●本当は入交社長が出演する予定だった

 もともとあのコマーシャルは、社長の入交が登場する予定だったんですよ。役者を使おうという意見もあったのですが、秋元さんの考えでは、たぶんこういうコマーシャルが出れば、やはり衝撃的な話ですから、いろいろ取材が来る。その場合、役者のところに行くよりも、取材先が社員、役員であったほうが、そこでまたPRができる。コマーシャル一粒で2度3度おいしい広告になるわけです。そんなわけで、社員でやるほうがいいだろうということになったのですが、そこで誰がインパクトがあるかというとやはり社長ですから、当初は入交を出そうと言っていたのですが、スケジュールの都合がつかなかったので、結果的に私の方に回ってきたのです。

――その一粒で2度おいしいプロモーション戦略にまんまとはまっているのがわれわれですが。湯川専務に白羽の矢が立ったのは、以前『ロボピッチャー』*のコマーシャルに出演されたからだと伺いましたが。

 あれはね、CSKがセガを買収したときに、当時私はCSKの取締役だったのですが、セガに常務として来たのです。その当時、セガはゲームセンターしかやっていなくて、今度テレビゲームやおもちゃといったコンシューマの商売を始めようとしていました。コンシューマ商売というのは、問屋さんがあって小売り店さんがあるわけですから、流通の経路を開拓していかなければならない。そこでセガの商品を売ってもらう際に、何か話題性を出したほうがいいだろうと思いましてね。ちょうどロボピッチャーというおもちゃがありまして、これのコマーシャルに私が出たほうが話題になっていいじゃないかと考えたのです。百貨店のおもちゃ売り場に行って店員さんに、『セガのロボピッチャーのコマーシャル見てもらえましたか? 私が出てるんです』と話題が作れるでしょ? そう思って、すすんで手を上げてコマーシャルに出たのです。そういう経緯がありまして、今回入交が出られなくなったので、じゃあ以前湯川が出てるから湯川にやらせようというわけで、こっちに回ってきたんですね。

――今回のコマーシャル撮影中のエピソードを。

 裏話というのはあまりないですが、私はこういう大阪弁ですから(編集部注:湯川専務は大阪府出身)、標準語でしゃべってくださいって言われましてね。第1作で、子供たちの声を聞いて会社に帰って「そうなのか」て聞くシーンがありますが、(専務)『そうなのか』、(監督)『ちょっとイントネーションが違いますね』とか言われてね。「ここで止めてくれ、ひとりになりたいんだ」というシーンなどは、コマーシャルを聞いていて、「ああ、大阪弁でしゃべってるなあ」って。そういうことで監督さんに何回かNGで迷惑をかけましたね。地でやってますから。標準語でしゃべらなければならないと思ったら、演技とせりふとがちょっとアンバランスになってくるんです。ぎこちなくなるんですよね。

――コマーシャルは今後どんなストーリーになっていくのですか。

 まだあまり明かせませんが、3作か4作ぐらいまでシリーズ化しようと考えています。Dreamcast自体が11月に発売しますから、9月ぐらいになってきたら、ハードはもちろん、ソフトの発表もしていかなければならないので、その辺りから徐々に私の部分はフェードアウトしていくような形になります。ですから、3作目、4作目あたりで『がんばるぞ!』と立ち上がっていくという形になると思います。まあ、ぼちぼち立ってくれないと、いつまでもかっこ悪いシーンばかりではねえ。秋元さんに、もうちょっとかっこいい役をやらしてくださいよって言ってるんです。

コマーシャルダイジェスト
第2作「夢編」

 


「ぼくたちが間違っていたよ」「これからはセガで遊ぶよ」という子供たち。
「そうか、わかってくれたか」 微笑む湯川専務。


 


「うそだよーん」「セガなんかやらないよ」形相ががらり変わって「プレステやろうぜ」と去って行く子どもたち。
「おおーい、待ってくれー」。それを追いかける湯川専務の足元が地割れして転落しそうに…。
ちなみにこの山の上のシーンの撮影場所は那須高原だとか。

 


奈落の底へ落ちていく湯川専務。
「うわー!」
ふと気がつくと会社の自分の席。

 


秘書らしき女性が心配そうに覗き込んでいる。「専務、大丈夫ですか」
われにかえる湯川専務。
夢オチか!「爪が割れた」


●3、4年ほどで3000万台売る!

 (Dreamcastのうずまき型のマークを指して)このうずまきいいでしょ。

――このうずまきには意味があると伺ったのですが。

 宇宙の広がりとか、人間の愛とか、そういうものが外に向かって広がっているわけですよ。Dreamcastという名前を絵に表すとこういう形になるだろうということです。夢を広く知らしめるというような感じですね。

――Dreamcastはモデムを標準搭載していますが、マルチプレイヤーネットワークゲームとかすぐに思いつくわけですが、ほかにモデムを利用したサービスはどんなことを考えていらっしゃいますか。

 インターネットなどにもアクセスできますし、ネットワーク対戦ゲームもできますし、チャットもできます。サードパーティーさんなどが、それらをうまく使った新しい遊びをいろいろ創造していただければと思っています。従来のようにゲームだけしかできないというのではなく、ゲーム&コミュニケーションツールと位置付けた商品ですので、そういう意味で、新たな遊びが出てくるだろうと思います。

 ビジュアルメモリーも入っていて、すでに『あつめてゴジラ』をゴジラの映画館で先行販売し、7月末からはおもちゃ屋さんでも発売しました。セガの強みは、コンシューマ製品だけではなくゲームセンターもやっているところですから、ゲームセンターにビジュアルメモリーがつながる端末のようなものが置かれていて、そこでデータ交換したりということも、ぜひ考えていきたいと思っています。

――日本の場合、通信コストが高いという問題があると思うのですが、その辺はネックにならないでしょうか。

 これはもう電話代の方がこれからどんどん下がっていくのではないですか。多少時間はかかるかもわかりませんが、これは何もゲームだけの問題ではなく、携帯電話から何からにしても関わってきますから。

――本体価格はどれくらいを予定されていますか。

 まだ最終結論は出ていません。トップシークレットになっていまして、まだ検討中です。以前入交が言いましたように、2万円から3万円の間くらいになると思います。

――これだけのプロセッサーが載っていて、メモリーも16MB載っていて、33.6Kbpsモデムもついている。普通に考えると、価格が2万円や3万円では、マシン単体では利益は出そうにないですが。

 (急に厳しい表情になって)まさに、当たらずとも遠からずで、やはり3年から4年ぐらいのレンジで商売として考えていく形態です。3、4年ほどで3000万台くらい売っていきたいというくらいの商品ですから、ソフトとサービスでお金を儲けるということになりますね。

――今回お話を伺っていると、Dreamcastはいわゆるゲームコンソールには違いないのですが、もっと広がりのあるメディアとなりうる可能性を感じさせるマシンですね。

 もちろん映像や音などは、従来以上に性能アップしていますが、それ以外の部分でも、今回のDreamcastは、大きな意味で、私はひとつの国策商品じゃないかと思うのです。日立さんのSH-4という最速のCPUが載ってますし、それから3Dグラフィックに関してはNECさんのPowerVRを搭載していまし、サウンドはヤマハさんのデジタルサウンドチップを載んでいます。OSはWindows CEを搭載していますので、ゲームソフトの開発も非常にやりやすくなっていますし、PCとの互換性も出てくるわけですからね。そういう意味では、いろいろなメーカーさんの英知を集めた商品ですから、それだけ面白い、大きく言えば、世の中のこの沈滞した経済を活性化するひとつの商品でもありうるだろうと思うのです。

――日本のデフレ状況を救うと。

 そうですよ。元ホンダにいた社長の入交に聞きますと、自動車1台開発するのに500億円くらいかかるそうですが、Dreamcastもやはりそれくらいかかっているのです。例えば日立さんにしても、SH-4を作るのに150人、200人の技術者の方が関わっておられるわけです。そういうものが集まってできているのです。また、車はユーザーさんに売ってしまえば終わりですが、Dreamcastは本体を売った後もずっと継続してソフトを作っていかなくてはならない。ですから500億以上ぐらいの需要を喚起するような商品であるわけです。

<収録>
7月22日(水)、セガ本社にて

【*】 ロボピッチャー:以前セガが発売していた野球やテニスなどのボールを自動で投げるロボット。ピッチングマシーンのようなもの。マンガ『セクシーコマンドー外伝すごいよ!マサルさん』(集英社)に機械投手として登場したらしい。

●インタビューを終えて

 大阪弁でざっくばらんにインタビューに答えてくださった湯川専務。現在セガの“タレント”として活躍している氏を前にして、すっかりミーハーと化してしまったインタビュアー(私、桑本です)は、「道を歩いていて“サインください”とか言われませんか?」「ギャラは?」とまで聞く始末。だが氏は、無礼な質問の数々にも笑いながら答えてくださった。ちなみに、出演料は「もちろんノーギャラ」で、「なにせ大川会長がケチなので。いやこれは冗談ですが(笑)」とのこと。

●「SONIC Adventure 制作発表会」を開催

 セガのソニックチームが、4年ぶりの新作となるDreamcast対応ソフト『SONIC Adventure』の計画を明らかにした。発売に先立ち、『SONIC Adventure 制作発表会』を、東京国際フォーラム“ホールA”で8月22日に開催する。第1回が10:00開場11:00開演、第2回が13:30開場、14:30開演。イベント内容は2回ともまったく同一のもの。入場は無料(チケット不要)。
 
 プロデューサーの中氏によるデモプレーでゲーム画面を初公開するほか、サウンドチームによるメインテーマ曲ライブ、また、せがた三四郎こと藤岡弘氏指揮による、会場の来場者の声を収録するイベント“ソニックコール”などが行なわれる。ソニックコールで収録した声はゲーム内で使用される予定。

 来場者には、オリジナルデザインTシャツ(非売品)、書き下ろしポストカード(各キャラクター分)、プレスシートの3点をおみやげとしてプレゼントする。また、Tシャツ(おみやげとは異なるバージョン)、クリアファイル、ピンズセット、B2サイズポスター、パンフレットの5点を当日会場で販売する。

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