ソニー(株)は8日、“ソニーが提案する3Dマルチユーザー空間技術”と題するセミナーを開催し、現在同社が行なっているネットワークを利用した仮想空間コミュニケーションサービス『PAW(Personal Agent World)』を説明、同社が目指すネットワークコミュニケーションのあり方を紹介した。
VRMLの歴史について
PSDセンターUI開発部主任研究員の本田康晃(ほんだやすあき)氏は、“VRMLとWeb3Dの標準化動向”という題目でVRMLの歴史や、今後の発展について説明した。本田康晃(ほんだやすあき)氏 |
‘94年5月にVRML1.0が発表されたのち、VRMLの研究開発は続き、‘96年に音や動きが表現できるようになったVRML2.0が発表され、ISOにより標準化された。同年12月、VRMLの研究開発を目的とした“VRML
コンソーシアム”が設立され、ソニーやマイクロソフト、IBM、オラクルといった企業がメンバーとして名を連ねた。そして、‘97年、VRML2.0にマイナーな変更を加えたVRML97が発表され、標準的に人間のオブジェクトを表示できる仕様を搭載するなど、インタラクティブな3Dモデル/ワールドが表現できるようになった。
そういった流れの中、今年8月、VRML コンソーシアムは“Web3D
コンソーシアム”と、その名前を変更した。これは、3Dオブジェクトだけではなく、マイクロソフト社の『Chromeffects』で表現されるような2Dと3Dの融合や、XMLを使用した3D記述、米インテル社と米MetaCreations社の『MetaStream』にみられるプログレッシブななポリゴンの表示(粗い画像から徐々に鮮明な画像を表示する)といった、幅広い技術とVRMLの融合を図ったものである。
VRMLの研究は現在も進んでおり、VRML2.0以降に発生したさまざまな新規要求や問題点を解決する“VRML
Next Generation”が、既に動き出している。これは、2000年を目標に規格化が目指されている。
PAWの利用客は女性が多い
PSDセンターUI開発部、シニア・プロダクトプランナー岡正明(おかまさあき)氏は“『PAW(Personal Agent World)』紹介と運用事例”として、Web上で複数のユーザーがアクセスでき、アバターと呼ばれる仮想的な姿で他のユーザーとチャットなどのコミュニケーションを行なえるソフトの紹介と説明を行なった。
PAWは、‘98年5月よりソニーが同社の運営するプロバイダーの“So-net”をベースとして展開している無料のサービスで、ユーザー1人に、犬型の“エージェント”と呼ばれる仮想のペットが付いて、最大1000人まで同時にアクセスできる仮想空間内でコミュニケーションを行なうソフトウェア。同社の提供する無償のブラウザー『Community
Place』上で動作する。
もともとは、同社の提供するオーサリングツールやサーバーソフトウェアのサービスの実験として始められたもので、9月末日に終了する予定だったが、予想以上のユーザーからの反響があったため、今後もサービスを続けていく方針に切り替えた。このサービスの登録ユーザー数は20857人(5日現在)で、そのうちの54パーセントが女性という。同社では女性比率の高さの理由について、二頭身のかわいい犬というキャラクターと、平和な世界感が関係しているのではないかと分析している。
会場では実際に、岡氏がアバターを操作し、バーチャルスペース内を歩き回るデモを行なった。偶然バーチャルスペース内にアクセスしてきている人物に挨拶をしたが逃げられ、笑いがおこるという一幕もあった。
PAWの背後にあるもの
“ソニーの提案する仮想3Dマルチユーザー空間技術”としてPSDセンターUI開発部の主任研究員・課長、松田晃一(まつだこういち)氏が説明を行なった。
3Dでチャットを行なうだけではユーザーは集まらない。ダイナミックに変化する世界を作ることが、ユーザーの心を引きつけるというコンセプトのもとで、PAWは制作されている。仮想空間内では、3時間ほどで1日が経過し、1週間で季節が変わるように設定されている。これは、PAWを週末に利用するユーザーが多いことを考慮したためだ。ユーザーはアクセスするたびに前回とは違う季節を経験できる。さらに、季節ごとに、花火や紅葉ひろい(宝くじ)と言ったイベントが発生するなど、ユーザーに飽きさせないような工夫が施してある。
仮想空間でのユーザー同士の情報共有(同期)には独自の専用プロコトル“VSCP(Visual
Society Server/Client Procotol)”が使用されており、そのプロコトルでサーバーと接続することにより、複数のユーザーと同時に仮想世界内の動きを共有できる仕組みになっている。さらに、サーバーとは別に、共有されるイベントを管理するプログラム“AO(Application
Object)”があり、これがペットの動きや季節ごとに発生するイベントの管理を行なっている。AOがサーバーと独立して存在するため、イベントの追加、変更の自由度が高い。これを利用すると、仮想空間内で他の企業などの広告を入れたり、イベントを行なったりできる。しかし、AOの開発には高級言語が使用されておらず、一般でこれを制作するのは非常に厄介なため、仮想空間でのイベントの構築を容易に行なえるミドルウェアの開発を行なっていく予定。
必要なものはキャラクタービジネス
(株)ソニー・クリエイティブ・プロダクツ宣伝部次長の近藤紳一(こんどうしんいち)氏はPAWで使用されているキャラクターのイメージをはじめ同社が所有するさまざまなキャラクターの紹介を行なった。
PAWで使用されている犬のキャラクターをはじめ、POST PETのキャラクターや、ピングー、機関車トーマス、パッティダック、ペンギンのペンちゃん、バイキン君、バラッドオブプリズンといった、ソニーのキャラクターをスクリーン上で紹介した。
キャラクタービジネスは数年前までは子供のものだという認識があった。しかし、子供のときに慣れ親しんだキャラクターを、大人になってなってから求める層の増加で、現在では主力の商品となっている。20代のOLを中心とする女性層が特に大きな力を持っていると分析している。
現代はキャラクターそのものだけでなく、キャラクターの持っている独特の雰囲気や世界感などがヒットする要因になっている。POST
PETのキャラクタービジネスの成功はメールを運ぶという付加価値が有ったからこそだと近藤氏は述べている。
ソニーの目指すもの
プラットフォームソフトウェア開発センターユーザーインターフェイス開発部の秦勝重(はたかつしげ)氏は“Community Placesでソニーの目指すもの”として説明を行なった。
秦氏は仮想社会を意味する“The Virtual Society”の実現に向けて必要なものは、大規模な仮想社会の実現と、表現であると言う。そして、今後のソニーの目指すものは以下の四つであるとまとめた。
・仮想オブジェクトと実オブジャクト仮想座標と実座標の接点に着目した技術開発
・デジタル配信、通信インフラの発展を見越した技術開発
・アトラクティブなコンテンツ実現のための技術開発、特にオーディオとリンクした動作、制御
・コンテンツ作成のためのミドルウェアの提供