15日から18日にかけ、“ListenからLoveへ NEWオーディオ製品大集合! 音と映像の新しい愛し方を探す4日間”をキャッチフレーズに、「オーディオエキスポ'98」が開催された。前回まで、「オーディオフェア」という名で開催されていたものが、「オーディオエキスポ」という名に改名され、場所もサンシャインシティから東京ビックサイトに変更し、94社が出展した。
入口ゲート |
今回の注目株は、“DVDオーディオ”と“スーパーオーディオCD(SACD)”の両次世代デジタルオーディオ技術である。DVDオーディオは、東芝、松下などが採用した規格、SACDは、ソニー、フィリップスが共同開発したものだ。どちらも'99年春の発売を目指している。いやおうなしに、VHSとベータという過去の規格の衝突を連想してしまう。しかし、今回もどちらが生き残るか、はたまた共存の道を歩むのかは、まだ、誰にも解らない。
表1.両規格の採用企業 | ||||||
|
||||||
*WG4=DVDワーキンググループ |
さて、この2つの規格の特色だが、現行のオーディオCDがサンプリング周波数44.1kHz、ビットレートが16bitであるのに対し、DVDオーディオは、6チャンネルでは最大サンプリング周波数が96kHz、2チャンネルでは最大サンプリング周波数が192kHz、ビットレートは最大24bitでの収録が可能。また、静止画や動画といった画像データも保存できる。詳細は表を参考にして欲しい。
表2.DVD-Audio、DVD-Video、Audio CDとの比較 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
参考:DVDワーキンググループパンフレット |
対するSACDは、従来のオーディオCDの4倍の情報量を持つダイレクト・ストリーム・デジタル(DSD)方式を採用する。従来のオーディオCDで使用されているPCM方式は、録音の際、アナログ信号をデルタ・シグマ変換器を通し、1ビットのデジタル信号に変換した後、ダウン・サンプリング・フィルターを通してPCM符号にに変換させていた。DSD方式では、このダウン・サンプリング・フィルター部分を排除して、2.822MHzサンプリングのオリジナル1ビットパルス信号をアナログローパスフィルタを通して記録している。その結果、PCM符号への変換過程に発生する、量子化誤差によるロスや音質の劣化を解決し、100kHzの再生周波数帯域と120dBのダイナミックレンジでの音の再生を可能にしている。
SACDは、既存のCDプレーヤーでも読み込み可能なCD層と、SACD専用のデータを格納できるHD層の二層構造になっている。CD層とHD層に同じ曲を保存したハイブリッド版のタイトルであれば、SACDに対応していないCDプレーヤーでも曲を聞ける。また、SACDには曲の歌詞やタイトル、著作権情報などのデータも記録できるほか、2種類のデジタル透かし認証を使用してCDに著作権情報を書き込むことができる。
透かし認証には“ビジブルウォーターマーク”と“インヴィジブルウォーターマーク”がある。前者は、ディスクの表面に紙幣と同じように文字や絵柄の透かし模様を描くことにより、視覚的な著作権表示を行ないう。後者は、プレーヤーにしか識別できない透かし記号をディスクに記録するもので、違法に複製したディスクをプレーヤーに装填しても再生できないようになっている。
日本コロムビアは両規格に対応
日本コロムビア(株)のブースでは、DVDとSACD両対応のマルチプレーヤー『DVD-5000-N』(価格27万円)の紹介とデモを行なっていた。将来、DVD、SACDのどちらの規格が生き残っても柔軟に対処できる事を狙っての開発だそうだ。『DVD-5000-N』今回の出展社の中では唯一、DVDオーディオとSACD両対応のプレーヤーを出展していた |
ソニーは周辺機器とSACDプレーヤーを展示
ソニー(株)のブースには、SACDプレーヤーが参考出展されていた。また、I-Link(IEEE 1394)ケーブルのみで、パソコンとCD、MDドライブを接続し、曲データの転送、編集・再生を行なえる『I-Link AUDIO』システム。MD用の曲データをリミックスすることのできるデジタルディスクレコーダー/プレーヤー『MDS-DRE1』などが展示されていた。IEEE 1394を使用する『I-Link AUDIO』 |
奇抜なデザインの『MDS-DRE1』 |
参考出展されていたソニーのSACDプレーヤー |
SACDプレーヤーでは認証の入っていないディスクを入れるとエラーメッセージが表示され再生できない |
DVDオーディオワーキンググループ
DVDオーディオワーキングブースでは、ワーキンググループWG-4から8社(日本ビクター、ケンウッド、松下電器、日本コロムビア、オンキョー、パイオニア、タイム・ワーナー、東芝)が共同出展を行なっていた。ここで最も目を引いたものは、今回、出展していない東芝の、DVDビデオの再生も可能な、コンポ型DVDオーディオプレーヤー『DVD Universal Player』だった。
東芝『DVD Universal Player』左から、DVDオーディオプレーヤー、インジケーター、アンプで重ねるとミニコンポのような形状になる |
松下のDVDオーディオプレーヤー |
パイオニアのDVDオーディオプレーヤー |
SACDグループ
SACDグループのブースでは、マルチメディアを意識した、斬新なデザインのプレーヤーの展示が目についた。オンキョーのSACDプレーヤー |
アイワのSACDプレーヤー |
ソニーの携帯型SACDプレーヤー。本体は約1cm強程度の厚さ。ヘッドフォンはマルチチャンネルに対応 |
ソニーのマルチチャンネルオーディオシステム |
松下はプログレッシブDVDビデオプレーヤーを展示
DVDオーディオ、SACD以外の展示では、松下電器産業(株)のブースで、『プログレッシブDVDビデオプレイヤー』が参考出されていた。これは、時間毎の再生フレーム数を倍以上に上げ、その間のフレームを補間して表示する“プログレッシブスキャン方式”を使用したもので、再生にはプレーヤーの外に、ハイビジョンTVか、色差入力付きの512P(512ラインプログレッシブ)TVが必要となる。画像は大変きめ細かく、美しかったのだが、CPTWG(コピープロテクトワーキンググループ)における規格認定の問題が解決できず、商品化の目処はまったくたっていないという。プログレッシブDVDプレーヤーは発売できるのか |
シャープは1ビットデジタルアンプを展示
シャープ(株)のブースには、来春発売予定の“1ビットデジタルアンプ”と、“SACDプレーヤー”が参考出展されていた。1ビットデジタルアンプは、入力アナログ信号に7次デルタ・シグマ変換を施し、出力される1ビットデジタル信号自体を制御信号として、低電圧電源をスイッチングすることで電力増進を行ない、ローパスフィルタを通してアナログ信号を出力するシステム。ブースでは、高周波成分を多く含む“鈴”を使用したデモが行なわれていた。ハードディスクレコーディングした鈴の音と、元の鈴の音がほとんど見分けがつかなかった。1ビットデジタルアンプ(上)とSACDプレーヤー(下) |
デモで聴きくらべ
DVDオーディオと、SACDの音を各社ブースでのデモにて聞きくらべることにした。しかし、どこのブースでも、会場の雑音が入ってしまい、比較的まともに聞けたのはソニーブースでのSACDのデモだけであった。従って、音の優劣についてはどちらがどうとは言えない。各企業、どこのブースでも必ずと言って良いほど、ピアノやギターといった弦楽器の速いテンポの曲を再生していた。どちらの規格でも、弦を引っかく時のかすれた音や、ほんの一瞬入り込む、弦と金属のぶつかるノイズを非常に良く聞き取ることができた。感覚的には、中程度のホールでマイクを使用して演奏する生バンドの雰囲気、存在感が再現されていた。現在のCDとは確かに比較的にならない音質の向上を感じることができた。
ただし、DVDはDVDオーディオよりもDVDビデオの紹介に力を入れているメーカーが多かった。音楽ではSACD、DVDは映像寄りという、暗黙の了解が出来上がりつつあるのではないだろうか。