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インターネット社会からリーダーシップや自己責任の問題に及んだ“SHOBI World Forum”

1998年11月06日 00時00分更新

文● 田原佳代子

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 4日、学校法人尚美学園主催の“SHOBI World Forum 第2回カンファランス”(以下ではコンファレンスとする)が有楽町朝日ホールで開催された。今回は“都市化するインターネット~情報ハイウェイによる新しい生活のトポロジー”をテーマに、“政策的な立場から情報ハイウェイを実際に作り出した側と、その中で多様な方向性を模索し独自の都市機能を構築するユーザー代表”を迎え、講演、パネルディスカッションを行なった。会場には600人近い参加者が集まった。

 冒頭、赤松憲樹尚美学園理事長が、“世界的規模での情報化がインターネットによってますます広がっていく中で、グローバル化の問題にどう対応していくか、それに伴う文化や多様性の問題”という問題意識を披露した。不透明な時代にどのように考えたらいいのか、“丁々発止”の議論を期待しているとの挨拶した。続いてコンファレンスのコーディネーターを務める西和彦尚美学園短期大学教授が、「インターネットは空間を飛び越える大きな道具」でありこのインターネットの機能をどのように使っていくか考えていきたいと述べた。

「生活の中で培った知恵もデジタル空間の中で処理されていくのか、こういった文化の問題も是非考えていただきたい」と赤松氏
「生活の中で培った知恵もデジタル空間の中で処理されていくのか、こういった文化の問題も是非考えていただきたい」と赤松氏



「インターネットの機能を使えば学校にいかなくても勉強ができ、会社に行かなくても仕事ができる。リゾート地でも仕事や勉強ができるようになる」と西氏
「インターネットの機能を使えば学校にいかなくても勉強ができ、会社に行かなくても仕事ができる。リゾート地でも仕事や勉強ができるようになる」と西氏



足りないのはビジョンでなくリーダーシップ

 基調講演では、3名の方が演壇に立った。情報ハイウェーの政策にかかわった経験を持つ人など多彩な面々である。最初に演壇に立ったマサチューセッツ工科大学客員教授、中村伊知哉氏(元郵政省総務課長補佐)の講演の要旨は、次のとおりである。同氏は郵政省で日本の情報ハイウェーのシナリオにかかわっていた。

「情報ハイウェーはその名のとおり道路であって、問題は私たちがどこに行きたいと思っているのか、何を運びたいと思っているのかです。そういうことを情報ハイウェーを作る側ではなく、使う側からその意味を問い直す場面にきているのだと思います。情報ハイウェーの意味が、現実の方向に近付いてくる場面で、どうも少しずつ小さくなってきているような気がします。夢をどこかに追いやっているのではないでしょうか」

「近代からの価値観が立ちいかなくなってきた現在、近代を問い直すのはデジタルであり、その手段が情報ハイウェーではないかと思います。例えば、サイバー空間では新しい活動領域であるコミュニティーを獲得できます。そういうところに人類は差しかかっているのでしょう。また、デジタルというものは表現や認識を塗り変えていってくれます。つまり、新しい映像でものを考えて、映像で表す手段を、ここにきてようやく人類は手に入れたわけです」

「日本は情報通信分野に関してビジョンがないといわれますが、私は逆だと思います。ビジョンはたくさんあります。足りないのは政治的なリーダーシップではないでしょうか。そこに日本の情報ハイウェーがあいまいになっていることの核心があります」

西氏に官僚を辞められた感想を求められ、「すっとします」と応える場面も
西氏に官僚を辞められた感想を求められ、「すっとします」と応える場面も



自己責任を伴うインターネット都市

 次に演壇に立ったのは、元米ゴア福大統領の国内政策担当首席補佐官だったグレゴリー・サイモン氏。現在、サイモン・ストラテジーズ社長である。講演の要旨は、次のとおりである。同氏はクリントン政権が情報スーパーハイウェー構想を打ち出す以前からこの構想に関係していた。

「メトロネットという概念があります。インターネットにおける新しい都市、新しいメトロポリスという意味です。メトロネットのコミュニティー、社会についてお話しします」
「教育でメトロネットを使うことで、子供も教師も大人も生涯学習し、新しい形で世界が経験できます。単にコンピューターを利用するのではなく、コンピューターを通して世界を見ることができます。子供たちがコンピューターを使ってどのような完璧なことができるのかという質問に対しては、私はまったく想像がつきません。しかし、このチャンスを子供たちに与えないということも想像がつきません」

「メトロネットは個人に対してどう影響するのでしょうか。人々が新しいパワフルなツールを使いはじめると、インターネットが個人に対して大きな機会を提供することもできますが、同時に危険も伴います。世界中のことを学び、世界を経験することができます。一方で、誤った情報や悪意のある情報も、貴重な情報と同じ環境でインターネットから送られてきます。新しいメトロネットのもとでは、人々は単にインターネットで世界の情報をみるだけでは足りません。見た情報から価値のある情報と、価値のない情報とを区別をすることを学ばなければなりません」

「メトロネットでは人々はあるコミュニティー、社会に対して意見を述べ、みずからその社会が作れるように、自分達で判断できる必要があります。そのためにはプライバシー、表現の自由が必要となってきます」

1860年代のアメリカの南北戦争の時期に、ペンシルバニアとバージニア両州に住んでいた全市民の生活をえがくwebサイト、バレーオブザジャドーについて熱心に語る グレゴリー・サイモン氏
1860年代のアメリカの南北戦争の時期に、ペンシルバニアとバージニア両州に住んでいた全市民の生活をえがくwebサイト、バレーオブザジャドーについて熱心に語る グレゴリー・サイモン氏



都市の物理的属性は意味を失う

基調講演の最後は、東京大学教授の月尾嘉男氏。講演の要旨は、次のとおりである。

「私は、都市という環境がどのように変わる可能性があるかということをお話しします。都市という環境を変える力がなぜインターネットにあるのでしょうか」

「インターネットをふんだんに使う社会の中では、距離、時間、位置、面積という概念がもはやたいした意味を持ちません。そういう時代が来るということです。私たちがこれまで生活してきた都市というのは、地理空間の中にあったわけです。これからまったく違う概念を持ったサイバースペースへ移行します。都市というものを恐らく大きく変えるでしょう」

「多くの市民、国民がいったい自分達は何をやるかと考えるとき、インターネットが力になります。従来、公共がカバーしていった分野を逆にカバーしていくような仕組みを作っていくことが、新しいインターネット社会での発展につながると思います」

「日本政府がやろうとしている、もしくは世界全体で動き始めている、分権や規制緩和の動きはほとんど、インターネットの社会の中では容易にできるでしょう。インターネットというものを単に便利なコミュニケーション手段として考えるのは一面的です。社会を本当に変えていくという力として認識して、それをうまく利用していくことが重要ではないでしょうか」

「様々な問題があるにしても、私たちはインターネットが提供する仮想都市、新しい都市の形態というものに進んでいかなくてはいけないんだ」と月尾氏
「様々な問題があるにしても、私たちはインターネットが提供する仮想都市、新しい都市の形態というものに進んでいかなくてはいけないんだ」と月尾氏



 基調講演の後、具体的な事例のプレゼンテーションがなされた。サテライトビジネスの研究者である定平誠氏(尚美学園短期大学講師)など5名の方によるものである。後半のパネルディスカッションでは会場からの質問もいくつか出され、活発な議論が繰り広げられた。ディスカッションの時間が足りなかったことが参加者にとっては残念であった。

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