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「光は本当に速いのか」後藤滋樹教授が語る次世代インターネット−−日本社会情報学会定例研究会から Vol.2


1999年7月19日

9日、日本社会情報学会(同名の学会が2つある。こちらは日本都市情報学会だった方)は、“社会情報理論の課題と次世代への展望”と題して、第70回定例研究会を実施した。

最初に、早稲田大学理工学部情報学科の後藤滋樹教授が“次世代インターネットの研究課題”と題して講演した。次に、“社会情報理論と政策評価”と題して、リレープレゼンテーションを実施した。パネリストは、電気通信大学大学の太田敏澄教授、聖徳大学の五藤寿樹助教授、同志社大学の新川達郎教授、群馬大学の富山慶典教授、中央大学の宮野勝教授。司会は、東京工業大学の遠藤薫・助教授である。本稿では、Vol.2として、後藤教授の講演について報告する。

“平等主義からの決別”と“QoS”
後藤氏は、インターネットの現状について概説した後、パケットの優先順位付けの問題、次世代インターネットに関する各国の取り組み、インターネットに関する各種決定における“ガバナンス”の問題、米国主導による検討の利点と欠点、日本がこうした検討に関与する際の課題、商標とドメインとの関係などについて述べた。また、トップレベルドメインの決定などにおいて、検討主体がNICからICANNに移っていきつつあることにも触れた。

日本で最初にWWWを立ち上げた4グループの1つに関わった早稲田大学の後藤滋樹教授
日本で最初にWWWを立ち上げた4グループの1つに関わった早稲田大学の後藤滋樹教授



後藤氏はまず、WWW(ワールドワイドウェブ)サーバーが'93年9月に日本ではじめて立ち上がってから('93年秋に日本に4台しかWWWサーバーがなかったとき、その1台は後藤氏らが設けたものだった)、現在まで爆発的に増加していること、'99年の早い時期に日本のホスト数が約170万台だったこと(複数の計測手段で、大体同じ数値が出ている)、当初から安全性、確実性については自助努力が原則だったインターネットでは、最近までセキュリティーについて深く意識していなかったこと、日本ではセキュリティー関係が特に弱く、米国では日本をターゲットにしてクラッキングの手ほどきをする“教本”まで出ていること−−などについて述べた。

・Distribution by Top-Level Domain Name by Host Count 
 http://www.nw.com/zone/WWW/dist-bynum.html

次に、表裏一体の2つのキーワードとして、“平等主義からの決別”と“QoS=Quality of Service”とを挙げた。リアルタイムの音声のように途切れると支障のあるものでも、電子メールのテキストのように多少の遅延を気にしないものでも、インターネットでは、一度デジタルデータのパケットになると、基本的には差別されない。これではいけない、優先順位を付けようという動きは、過去に何度かあり、規約として存在はしているが、グローバルに統一して使われているかというとそうではない。

また、利用者と管理者との区別がほとんどない。これがセキュリティーホールの存在を許す要因の1つとなっている。セキュリティーホールを付く各種手法の組み合わせにより、何百、何千という手口が生まれている。

インターネット、次の飛躍へ
論題は、この後、次世代インターネットを巡る動向に移った。次世代インターネット論議が活発な裏には、インターネットの“らせん”の次の周回に入ろうという、皆の意図がある。誕生から現在まで、インターネットでは、ボランティアで始まり、公的資金が注ぎ込まれ、商業資本が入ってきて、市場原理で提供者も利用者も激増−−というプロセスを経た。これが、らせんの1周である。後述のように、ボランティアで提唱して、公的組織を巻き込んだ運動に拡大させ、“らせん”の次の周回に入ろうというのである。

次世代インターネットに関する構想や組織として、(1)米国政府の色の強いNGI(Next Generation Internet)、(2)NSF(全米科学財団)主導のVBNS、(3)大学連合ともいえるUCAIDのInternet2、(4)カナダを中心としたCAnet、(5)欧州を中心としたTEN-34、(6)アジア中心のAPAN−−などがある。

NGIは、'96年にクリントン政権が幼稚園までネットワークにつなぐといった構想をぶち上げたことに端を発した計画で、政治色が強い。初等、中等教育における荒廃の激しい米国では、“ネットワークを初等教育に導入”といったスローガンを掲げると、票が集まりやすいのである。VBNSは、スーパーコンピューターセンター同士をつなごうというもので、現在、91台まで接続されている。

・Next Generation Internet Initiative
 http://www.ngi.gov/
・The Center for Next Generation Internet
 http://www.ngi.org/
・vBNS
 http://www.vbns.org/

UCAIDは、全米情報関連大学連合といった性格の組織である。初期のインターネットにおいて、大学をつなぐという役割が大きかったが、インターネット全体のユーザーが増えたことで、大学に割いているリソースの割合が減った。これに対して、もう一度、大学をきっちりつなぎ直そうというのが、Internet2の1つの側面である。米DOEの予算なども流れており、社会的政策の1つになっている。

・UCAID (University Corporation of AdvancedDevelopment)
 http://www.internet2.edu/
・CA net
 http://www.canarie.ca/

欧州のTEN-34では、現在、TEN-155にしようかという声が出ている。物理的には、ドイツを第1のハブにして、英国も主要な役割といった構成になっている。現在、フランスとオーストリアのカバーが薄くなっている。

・TEN-34
 http://www.dante.net/ten-34/
・TEN-155
 http://www.dante.net/ten-155/

戦闘機対竹槍
アジアのAPANでは、東京、ソウル、シンガポールが、ハブの役割を果たしている。オーストラリアを引き込み、また、中国と台湾とを同時に誘うといった手を打っている。

APANでは日本が主導的役割を果たさざるを得ないし、また、アジアの地位を守るためにも、日本ががんばらねばならない。ただ、日本の体制の弱さは否めない。米国では、たとえば、大学連合のような組織が始まると、あっという間に、社長役や事務長役の第1線バリバリの専任スタッフが付く。これに対して、日本では、大企業の研究人や大学人の個人ボランティアに近い活動形態で対応することになる。国際連携会議における投票権は平等だが、米国主導で米国に便利なところに決まったりすることが多い。予算の付きにくい、日本の関係者にとって、旅費を払って会議に出ること自身が大きな負担になる。

・APAN (Asia-Pacific Advanced Network)
 http://www.apan.net/

「光は本当に速いのか」
後藤教授は、次世代インターネットおよび今後のインターネット周辺の政策で、2つの大きな問題が浮上していると指摘する。1つは技術的なもので、伝達したい相手が遠方になると、超高速化が困難になるという通信の根源に近い問題、もう1つは、ドメイン名と商標との関係に典型的に現れてきたインターネットのガバナンス(制御、統治)の問題である。

第1の問題について。データ通信は、その性格により、2種類に分けられる。1つは、電子メールに代表されるような、相手先でエラーすることなく、パケットを再統合して元のデータが再現できればよいもの。もう1つは、音声や動画のように、先に発したデータが相手先で先に再生され、しかも後に発したデータが途切れなく続くべきものである。

東京と関西との間を450km、光ファイバー内の光の速度を、1ms(sは秒)当たり180kmとする。東京から関西宛てにパケットを送り、それを受けた関西側がエラーがないかチェックして、“きちんとデータを受け取った”という“ACK”という記号を返すことになる。ACKが返ってきて、次のデータが送れるようになるまで、最低でも5ms掛かる。パケットの大きさを64KBとすると、伝送速度は、64KB×8bit/B/5msで、102.4Mbpsになる。これが、東京とシンガポールとの間になると、距離が5940kmで、遅延時間が片道33msになるので、伝送速度は、パケットの大きさが64KBのとき、7.76Mbpsになる。

パケットを大きくする手や、相手先からACKが返ってこなくても次を送出してしまう手など、手はある。しかし、多数のユーザーが超高速回線を同時に使うという前提が崩れたり、相手先から「エラーがあったからパケットを再送せよ」と言われたときのために保持しておくべきデータ量が膨大になったり、問題が出てくる。

ドメイン名と商標との関係の問題は難しい
第2の問題である、ドメイン名と商標との関係について。インターネットには、どこにも中央制御者がいないとよく言われるが、日本のccTLD(カントリー・コード・トップ・レベル・ドメイン)が“jp”であることや、早稲田大学のIPアドレスや、WWWのポートが原則80であることは、結局誰かが決めたことである。世界に同じアドレスが2つないように、制御されている。中央の絶対的権威者がいなくても、自発的な動きとその承認によって、誰が決めるか、どうやって決めるかが決まっていく、インターネットのガバナンス(管理、制御)の仕組みは、社会学、政治学などからも注目されている。

日本の官庁では、ドメイン名は住所表記と同じであり、商標と独立であるとするところと、ドメイン名と商標とはリンクして考えるべきである(著名商標と無関係の者が、著名商標を想起させるドメイン名を、早い者勝ちで取れるのはおかしい)とするところとが分かれている。ただ、商標の場合、業務分野が異なれば、同じものが存在してもかまわないが、ドメイン名の場合、同じものが複数存在することはできないという、根本的な要件の違いがある。

従来、IPアドレスの振り分けなどについて、IANA(Integrated Assigned Numbers Authority)という組織が対応していた。これは、米国防省の資金で動いていた組織である。最近、その組織の実力者が亡くなった。それもあって、この役割が、ICANNという組織に移りつつある。ICANNは米国ロサンゼルスに登記したNPOである。著名、周知商標とccTLDの問題などから、手を付けることになる。基本的に、誰でも参加できる組織である。

・ICANN (The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)
 http://www.icann.org/
・IANA (Internet Assigned Numbers Authority)
 http://www.iana.org/
・APTLD (Asia-Pacific Top Level Domain Forum)
 http://www.aptld.org/

(編集部 中野潔)


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